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いっちゃん先生
「新生児仮死」の項で、貴重なコメントをありがとうございました。
何故、我々産科医は、経膣分娩にこだわるのでしょう。
小児科の先生の立場から見たら、児にとって安全確実な帝王切開を選択してほしい、
というのは、当然の意見です。
また、産婦さんご自身に懇願されることもあります。
妊娠中は自然分娩に憧れていた方でも、いざ陣痛が始まると、
その想像だにしなかった猛烈な痛さに耐えられなくなり、
「お願いです、もう無理、帝王切開にして。お願いお願いお願い~~」
なんてことも、日常茶飯事。
我々産科医だって、そんな産婦さんや、場合によってはご家族までなだめて励まして、
時間をかけてお産になるのを待つより、早く帝王切開にした方が楽なことだって、ままあります。
理由は、こんなところでしょうか。
1 産科医だから
2 侵襲的なことは避けたいから
3 産婦さんの心に寄り添いたいから
1 産科医だから
「vaginalist(ヴァギナリスト)」という、業界用語(?)があります。
主として年配の周産期専門の先生に多い、経膣分娩にこだわる産科医たちのことです。
つまり、如何に帝王切開にせず経膣分娩でお産にするかということにこだわり、
自らの技術と労力、ひいては存在意義をかけている人たちです。
この世代の先生方に育てられた我々もまた、本来はvaginalistです。
私自身も、年間の帝王切開率が3%という、今考えれば驚異的な病院で育ちました。
そこでは決して教科書では学べない、職人芸鮮やかな経膣分娩を、何件も見ました。
産婦さんも、頑張って頑張ってようやく自然分娩になったことに喜びと達成感をかみしめ、
感謝してくれました。
あれから十余年、医療を取り巻く環境は、すっかり変わり果てました。
夜を徹して産婦さんを励ましながら、
簡単には身につけられないような技術を駆使して経膣分娩にしても、
少しでも結果が悪いと、即訴訟です。
「心血注いで経膣分娩にしても、誰も喜ばないから」。
そんな空気が蔓延しています。
帝王切開率が20%を超える時代が、間もなくやって来るでしょう。
2 侵襲的なことは避けたいから
女性の身体に創をつける、というのは、本来とんでもないことです。
だから簡単にやりたくない。
単純なことです。
また、帝王切開自体はそれ程難易度の高い手術ではありませんが、
それでも思わぬところで大出血をしたり、
なかなか赤ちゃんが出なかったり、
気づかないうちに尿管や膀胱を損傷したりということだって、あり得ます。
だからなるべくやりたくないという、これもまた、単純なことです。
3 産婦さんの心に寄り添いたいから
長引く陣痛に耐えかねて、帝王切開を懇願した産婦さんでも、
お産が終わって我に返ると
「どうして自分は普通に産んであげられなかったんだろう・・・」
と、悩んでしまうことが、よくあります。
まして、何らかの理由で最初から帝王切開にしなくてはならなかった産婦さんは、なおさらです。
普通に産むことも、大切な営みです。
ですが、望む望まないに関わらず、帝王切開でお産をしたことを密かに悩んでいる女性たちも、大勢います。
そんな女性たちに、メッセージを。
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陣痛は赤ちゃんにとって、ストレスになります。
もちろん耐え得るストレスだからこそ、人間の自然な営みとして、そう創られているのでしょう。
でも、陣痛も場合によっては、赤ちゃんにとって過度のストレスになることもあります。
帝王切開は、赤ちゃんにかかるストレスを、一手にお母さんが引き受けるお産でもあります。
女性がお腹に創を作ってまで、赤ちゃんを守るのですから、
これも立派なお産であって、なんら引け目を感じる必要はありません。
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しかし上記どれも、もちろん赤ちゃんが無事であることが大前提です。
経膣か帝王切開か。
この見極めこそ、職人芸といえるのかも知れません。
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コメント
コメント一覧
私は生まれたとき、4キロを超えていたそうです。
母のガンの看病の時に、そのお腹の傷を見るたびに、私はここから生まれたんだなと感謝の気持ちで一杯でした。
でも最終的には、腹膜に散らばっていたガンが、その傷から体外へ出てきました。その日の事は今でも、目に焼きついて離れません。
1 産科医だから
2 侵襲的なことは避けたいから
3 産婦さんの心に寄り添いたいから
を実践してくれたのです。そして私も出来る限り自然分娩にこだわったのでした。
なな先生今日は当直かしら。現役の先生は年末も年始も関係ないですからきっとお忙しいことでしょう。どこかで少し一息つけると良いですね。年末年始大きな出来事がなくよいお産が続きますように!!
早速のお返事有難うございます。確かに帝王切開の母体負担は大きく、出来る限り出産を帝王切開に。というのは小児科のエゴなのかもしれません。
問題は仮死などのハイリスクをどうやって見極めるかだと思います。産科医個人個人による判断の違いをどうにか統一できてくれれば、不運な患児を我々が診る機会も減ると思うのですが。
帝王切開でも経腟でもリスクはあります。帝王切開だったらと我々小児科医は思ってしまいますが、そこにいたるまでの問題点をお互いに検討する必要はあるのかもしれません。
また産科医の観点から先生のご意見お聞かせください。
……つらい思いをされましたね。
視覚に残り、頭に浮かぶとまた、筆舌に尽くせない思いをされているのではないでしょうか。
バリ島さんのメッセージと、皮膚転移の患者さんたちのことを併せ思うと、
言葉もありません。
いいお産をさましたね。素敵!
私もかおかおはは先生のお友達役にまわったことがありますが、
こちらにとってもまた、一生ものの思い出です。
その時取り上げた子が、かわいくて仕方ありません(この場合、何バカと言うのでしょう?笑)
>なな先生今日は当直かしら。
普段誰にも甘やかしてもらえませんので、目上の産婦人科女医先生のお心遣いが、しみます(/_:)
そうなんです、30, 31と当直でした。
非常勤で行っている病院のドクターがまた一人、休職してしまいました。
当面、一番元気な私がうめることになったため、今月は当直13回です。
「なな先生は丈夫でえらいね〜」と褒められても、あんまり嬉しくありませんが(笑)、
少しでも多くの患者さんに接すること即是修行と、positiveに考えるようにしています。
本年もよろしくお願い致します。
先生のブログを拝読致しました。
開業されて、ご自分の理想とする医療を実践していらっしゃる先輩ドクターの姿に襟を正す思いです。
その一方で、「ノロ歌」総集編、爆笑しました。
新年会でやっちゃってもいいですか?(笑)
>問題は仮死などのハイリスクをどうやって見極めるかだと思います。産科医個人個人による判断の違いをどうにか統一できてくれれば、不運な患児を我々が診る機会も減ると思うのですが。
これに尽きると思います。
現状では、NST主体に産科医個人の力量で判断するしかありません。
私もせいぜいvaginalistですので、他の産科医の先生はまた、
ちがった意見を持っていると思います。
しかし、いい医療を提供したい、という思いは、みんな同じと思います。
諸科の先生方と、また、患者さんたちと、
お話して行きたいと思います。
本年もよろしくお願い致します。
当直13回。。先生のお体が心配です。私たちは影から応援しています。
それから、最初のコメントに追加です。
>散らばっていたガンが、その傷から体外へ出てきました
というのは、よく考えると、帝王切開の他にも、胃ガンの手術跡の傷と何度も同じ部分に傷があるので、その為かもしれないと素人考えで思っています。
変なコメントをして、申し訳ありませんでした。
変なコメントなんかじゃありません、こちらはハッとしています。
前コメントにあるように、お腹の表皮から癌が出て来てしまった患者さんを、
何人か見てきました。
これ以上広がらないといいな、壊死しないといいな。
そこまでが限界で、お腹の癌を見た患者さんのご家族の気持ちまで、
思いを巡らすことができませんでした。
猛省しています。
患者さんのご家族にしかわからない、
まっすぐな視点から見たコメントを頂戴し、
ベッドサイドに臨む際の心構えを、新たにしています。
この場でバリ島さんが下さった率直なメッセージ、
必ず現場で活かします。
本年もよろしくお願い致します。
なな
新年おめでとうございます。
厳しい風が一向に止む気配の無い医療界ではありますが、
先生が今年も誇りを持って仕事に向かうことが出来ますよう
お祈りしております。
>経腟分娩にこだわる理由、
なな先生のような心持ちの先生がいてくださること、
女性として大変嬉しく思います。
一方、いっちゃん先生の仰ることもその通りですね。
何事も無く、ただただ普通にお産ができた私はとても幸せな
人間なんだと改めて実感します。
当たり前の、ただただ普通の幸せが、たくさんの方に訪れますように・・・
と願わずにはいられません。
先生のブログ、ちょっと前より拝見させて頂いていました。
読んでいるうちに思わず涙が止まらなくなってしまって、机から離れたことも何度となくありました。先生、ありがとうございます。いつも勇気を頂いています。
自分の信念に迷いが生じることも、周りの状況で自分が切なくなることもいっぱいあるように感じます。この世にいるすべての産婦人科医に、この世の風潮に一言。お産が好きで好きで、それだけで産婦人科をやりたいと思っている自分を生きさせてください。
そんなことを常日頃思っています。それを発信する手だてもない自分が寂しいです。なので先生のブログ、すごく嬉しかったです。これからも応援しています。頑張ってください!!
私は今回自宅出産をする予定です。自宅出産などは危険と言われる方もいらっしゃいますが、論点は「ハイリスクをちゃんと見抜ける先生か」ってことだと考えたのです。今の主治助産師(?)の先生は最初から即自宅分娩OKですとは言わず、その時期その時期に丁寧に観察して、最終的に自宅出産OKが出ました。
また、今の先生はできるだけ自然分娩ができるように、妊娠期間たっぷりのアドバイスと励ましをくださいます。そのことが一番心の支えになっています。今となっては、ここまで頑張って帝王切開になったら仕方ないと思っています。
なな先生はおそらく、妊娠期間をも含めて妊婦さんが健やかにすごすことを目指しておられる気がしました。診察をしてもらうとき、先生も一緒に楽しみにしてくれていると感じられる瞬間があれば、妊婦はそれで落ち着きます。
なな先生が大好きなお産はきっと妊婦さんを幸せにしてくれていると思います。
これからも頑張ってください。
いつも素敵なコメントをありがとうございます。
そうですね、piroさんが普通に順調にお産なさったのも、もちろん素晴しいことだし、
元気で生活しているほとんどの人が、本来命がけであるお産を、
無事生き延びた人たちなわけです。
多くの人に、穏やかな幸せが訪れる一年でありますように。
産婦人科を選んじゃったんですね(笑)
10年前は「産婦人科はいいよ、うちの科においで」と言えていたのに、
今は言えなくなったことを、日頃から嘆いていますが、
それでもこの道に来ちゃった同士がいると、妙に嬉しくなります。
こんな世の中になってしまいましたが、
私自身は産婦人科を選んだことを後悔していませんし、
もう一度生まれ変わっても、産婦人科医になりたいと思っています。
ひとまず本年末になる頃にも、同じ考えでいられることを祈っていますが。
今後ともよろしくお願いします。
医者友達同士で、「理想のお産とは」という話をしたことがあります。
人によって多少意見は違いましたが、大筋をまとめると
「自宅で、家族に見守られながら、信頼できる助産師と産婦人科医の立ち会いのもとでするお産。
そして隣室には、もう一人の産婦人科医、小児科医、麻酔科医がお茶を飲みながら談笑して、待機している状態。」
というような内容でした。
もちろん、この全部を実践できる人はいませんが、。
大切なのは、ご本人が納得して選んだ方法だということと思います。
いいお産をされますように。
落ち着いたら、ここに来て下さいね。
今年も先生の素敵なブログ楽しみにしています。
主人の実家(長野)に半月近くも滞在してしまい、その間パソコンもなくブログを拝読できずさみしかったです(涙)
私のお産も二回とも帝王切開ですから経膣分娩には特別な思いがあります。人から「子供も親も楽なお産だったわね」と言われると傷ついたりします。一人目は確かに楽だったけど二人目は大変なopeになってしまったし…。でもいちいち説明することでもないし。
先生の帝王切開した方へのメッセ、前に同じようなコメントいただきましたよね。あの時もあったかい涙が頬を伝わりました。
先生は人としてたくさんの引出しを持っていて悩める人たちを救済してくれています。
やさしい気持ちにしてくれます。
いつもいつも本当にありがとうございます。
先生にとって今年が素敵な年でありますように(^_-)
>やさしい気持ちにしてくれます。
こう言って頂けることが、私にとっては何よりです。
もっともっと患者さんの笑顔が見たいな、という気持ちになります。
心のこもった言葉は、素敵な贈り物です。
こちらこそいつも、素敵な贈り物とやる気の素を、ありがとうございます。
私は、日本では放射線科医ですが、現在妊娠36週で主人の仕事の都合でアメリカ在住です。2人目がもうすぐ生まれます。1回目はアメリカで出産しています。途中で回旋異常があり、手で回旋を直してもらい、何とか経膣分娩しました。なな先生のようなお心使いの先生のおかげでした。息子は胎便が出てしまいましたが、Apgar6・8で合併症もなく生まれよかった!!という経験があります。
これからも日本の産科医療を取り巻く環境は厳しいと思いますが、どうぞ先生の温かい心を忘れずにお体に気をつけてお過ごしください。
(私のくだらないBlogですが、アメリカの産科事情につき、Trackbackさせていただきました。)
こちらへ書き込みをしてから数時間後に陣痛が始まり、1月6日に元気な女の子を出産しました。
自宅での陣痛は夫、母と過ごし、リラックスして痛かったけど楽しい時間でした。助産師さんが来てくれつきっきりでのお産。本当に贅沢と感じました。しかし…
子宮口が全開になってから2時間。赤ちゃんが骨盤につかえて出てこれず、助産院の提携先の第3次救急の大病院へ行くことになりました。
助産師さんたちは、陣痛は持続しており、胎児心拍も問題なし。吸引すれば下から産めると主張されたのですが、病院の先生の判断は、分娩停止、帝王切開でした。
病院に来てしまった以上は病院の方針に従うということで、
陣痛が来る中、手術台にのぼり帝王切開で出産しました。
今回は、私の骨盤が少しだけ小さかったこと、赤ちゃんの頭がちょっとだけ斜めだったこと、赤ちゃんが私の体に対して少しだけ大きかったことなど…どれもがグレーゾーン。
誰もが赤ちゃんと私の無事を思い決めた判断です。
それはわかっているんですが、産んだあとは、私に産む力がなかったから…と多少落ち込みました。
夫は「手術をすることに同意してサインしたのは俺や。手術をするって決めたのは俺だから、お前は悪くない。」と言ってくれ、私は救われました。
助産師さんも下から産ませてあげれなかったことは悔しいけど、でも赤ちゃんの心拍が落ちる前に病院へ連れて行ったことは正解だったとおっしゃっていました。本当にそれは正解だったと思います。
今は赤ちゃんも私も元気にすごしています。
自宅出産から帝王切開まで、出産フルコースとなってしまいましたが、これからは娘と夫とともに育児をがんばっていこうと思います。
先生の理想のお産、最高に素敵ですね。私もそのお産、いつか実現できる世の中になればいいなと思います。
(長くなってすみません。)
そろそろ37週に入った頃でしょうか。ドキドキですね。
「回旋異常を手で回す」、これをアメリカでもやっているとお聞きして、ちょっと驚いています。
先生のブログ、拝読しました。
その中に、先生が奈良の搬送受け入れ不能の話をそちらの病院で話したら、「アメリカではそんなことはない」という返事が返ってきた、というのも、びっくりです。
いったいどんなシステムがあるんでしょう。
興味深々です。
無事ご出産されて、落ち着いたら、
是非レポートして下さい。
また拝読させて頂きます。
お産、大変でしたね。
陣痛だけでも大変なのに、その上帝王切開、しかも緊急で、行ったこともない大病院に搬送されて、ちょっと立ち止まって考える間もなかったのではないでしょうか。
よく耐えたと思います。
大いばりする資格があります(笑)。
どれもグレーゾーン、確かにそんな気がするかも知れませんね。
でも、一度しかない、その子の出生の時。
パパとママが一生懸命考えて選んだ方法で、
しかもお2人が正解と思っているのですから、
これは間違いなく正解です。
これからも大変と思います。
頑張り過ぎずに、たまにはご自分を甘やかして、
幸せな日々を過ごせますよう。
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