カビ毒 アフラトキシン

畑の便り  05-25 2005年6月7日小針店で印刷・配布したものに加筆

 6月2日、厚生労働省はトルコ産と米国産乾燥いちじくを全輸入ロットで、アフラトキシンの検査命令を出しました。
アフラトキシンはカビ毒の一種です。日本の輸入検疫では、付着しているものは、輸出元に積み戻されるか廃棄されます。2005年、本年に入って6月までに、乾燥いちじくは138件648トンの輸入が届けられ、3件16トンが積戻しなどの処分されています。
 後で述べますが、日本にはアフラトキシン産出のカビは棲息していません。国内産では、ほとんど心配が入りません。輸入農産物の問題です。輸入落花生、ピスタチオナッツ、ブラジルナッツ、ジャイアントコーン、アーモンド、クルミ、チリペッパー、レットペッパー、ナツメグ及びハトムギには検査命令が出され全輸入ロットで検査されています。家畜に直接給与される配合飼料に指導基準値を定めて、飼料用トウモロコシは国が監視検査を行っています。輸入米も検査されています。

  1. アフラトキシンの毒性

  2. わが国にはアフラトキシン産出のカビは棲息していません。

  3. 食品での規制

  4. BSE牛肉と同根の問題

アフラトキシンの毒性

 アフラトキシンは紫外線を照射すると青色や緑色に光ります。B1、B2、G1、G2、M1などの14種類ほどあり、なかでもアフラトキシンB1の毒性は最も強いことが知られています。M1はBIの代謝中間産物でB1の10分の一程度の毒性ですが、乳、牛乳や母乳に含まれ、乳は子供に影響があるから注意が払われています。 →アフラトキシンB1
 この5月半ばにケニアでアフラトキシンにより汚染されたトウモロコシを食べて9名が死亡。同じ地区で昨年には121名以上が死亡しています。アフラトキシンは細胞への酸素の取り込みや様々な酵素の働きを阻害し、エネルギー不足にして細胞を殺してしまう急性毒性があります。
 また慢性的な毒性は、肝臓で代謝され、それでできた中間体が遺伝子に結合して異常を起こしたり、異常細胞の増殖を招きます。疫学調査では、肝ガン発生率とアフラトキシン摂取量との間に関連性があるとの結果が報告され、日常的に1日3〜4μg以上のアフラトキシン(B1)を摂取し続けている地域住民の肝臓癌発生率について有意な増加が示唆されています。またB型肝炎ウイルスに感染していると、アフラトキシン摂取で発ガンが30倍は高まるとされています。
 さて日常的にどれ位摂取すると慢性毒性が現れ危険なのでしょうか。日本では、1971年に全食品で0.01ppm(アフラトキシンB1)という基準値が設けられています。他国には、わが国の5分の1位の国もあり見直しが言われています。
 ただ突然変異物質(発ガン物質)の判定法に広く使われているエームズテストは、ラットの肝臓をすりつぶして作った上澄み液と化学物質を混ぜ合わせ、サルモネラ菌に作用させて、突然変異の発生を調べます。ラットの肝臓ではなくヒトの肝臓を使うとアフラトキシンでは結果がちがいます。ラットでは77000、ヒトでは513とヒトの方が明らかに鈍い、強いのです。こうしたことから、動物実験を基にして決められる一日許容摂取量は国際的にも決められていません。

わが国にはアフラトキシン産出のカビは棲息していません。

  このカビ毒を産出するのは、おもに熱帯および亜熱帯地域に土壌中に生息するカビのアスペルギルス・フラバス、アスペルギルス・パラジチカス菌、その中の特定菌株です。アスペルギルス・フラバスの産生した毒(トキシン)ということでアフラトキシンと言われます。
 実際のところ、アスペルギラス菌の仲間は全世界の土壌中や空気中に普通に存在しています。アフラトキシン毒素を産出する特定菌株は、熱帯および亜熱帯地域に棲息して、国内では沖縄県が北限なのですが国産農産物で検出や中毒はおきたことがありません。監視の眼ももっぱら輸入品に向けられています。地球温暖化が進むと、これらの菌株の生息域も北上してくることになります。菌が土壌中普遍的に分布、棲息すれば、収穫物への生産菌の自然汚染を完全に防止する事は出来ません。
 この菌は炭水化物に富むトウモロコシ、ナッツ類、香辛料、綿実など多種類の農産物に感染して増殖します。自然汚染は、ピーナッツ、トウモロコシ、ブラジルナッツ、棉実に多く、大豆、小麦、大麦、燕麦、ソルガムは少ない。
 これらのカビの発生(=アフラトキシンの発生)には、これらの水分含量が一般的には14〜16%以上、温度が最低25℃、そして若干の通気性(酸素供給)が必要だと云われています
 収穫前の畑で、高温、長引いた旱魃、病害虫による被害などのストレスに会うとこの菌が感染し易くなります。特に収穫時期の長雨は問題を起こしやすいのです。また、収穫後の貯蔵−流通−保管−消費の過程では高温多湿、或いは、不十分な種子の乾燥などが多発要因に挙げられますが、十分に乾燥していても、菌の自然汚染で収穫物全体に分散して存在している胞子は、その周囲に偶然飛散した水滴あるいは燻蒸処理によって死んだ虫体の水分を利用して増殖し、アフラトキシンを産生する事が知られています。即ち、アフラトキシンのみならずカビ毒一般に、その汚染はしばしば収穫物全体が均一汚染するというよりは極所点状型になります。落花生、ピスタチオ、トウモロコシのような大粒・中粒農産物にあっては粒別に汚染することが多いのです。
 輸入米では、産出するカビが生えているものが年に数例見つかっています。飼料用輸入トウモロコシ・アメリカ産では、年間10〜20%前後は検出されています。米国産でも南部産が多い。飼料用とうもろこしで20ppbを超えた場合は、個別に注意喚起を行い、ほかの原料と混ぜて配合飼料全体で、指導基準値を超過しないよう指導されます。米国のとうもろこしでの指針値は、肥育牛は300ppb、肥育豚は200ppb、繁殖用肉牛、繁殖豚、成鶏には100ppb、乳牛などこれ以外の家畜飼料には20ppbです。日本に比べゆるい数値になっています。
 アフラトキシンB1を添加した飼料を用いた飼養試験で@ 鶏卵、鶏肉及び豚肉等からアフラトキシンが検出されなかったことA 牛肉、牛乳についてはアフラトキシンM1(アフラトキシンB1の代謝産物)が検出されています。それでほ乳期の子牛、子豚、ひよこ用の飼料と乳用牛用飼料では、0.01ppm、それ以外は0.02ppmが指導基準値です。

食品での規制

  人間が直接食べる食品での規制値は、日本ではBIで0.01ppm=10ppb(ppbは10億分の一)ですが、牛乳の国際的な基準は、アフラトキシンM1で0.5ppb、乳幼児用のミルクで0.25ppbです。アフラトキシンが生まれた子供が14歳までにがんになる主たる原因という研究があり、この研究自体は追試験中で結論は出ていませんが、乳幼児を護る観点から厳しくなっています。
 2002年の調査では、日本の市販乳はこれ以下のレベルです。しかし、飼料が全て国産ならアフラトキシン産出カビで汚染されませんから、原理的にはゼロにできます。日本の飼料生産の現状から100%国産は無理ですが、なるべく国産飼料を食べたている牛の牛乳の方が少なくなります。
カビ毒(マイコトキシン)は,現在までに300種類以見つかっています。気候にって発生するカビが違いますから地域性が見られ、日本など温帯から寒帯にかけては、アカカビなどのによるトリコテセン類汚染が米、麦、穀類、飼料用トウモロコシなどで問題になっています。インド、タイ、アフリカ、北米南部など熱帯や亜熱帯地方を中心とした地域では、アフラトキシンが問題です。

食品衛生法で残留基準値(暫定)が設定されているカビ毒(マイコトキシン 2004年9月現在)

マイコトキシン 産生菌 主な対象食品 規制年 残留基準値
アフラトキシン
(アフラトキシンB1)
アスペルギルスフラバス 穀類、豆類、種実類および
香辛料類
1971 10ppb
 (μg/kg)
デオキシニバレノール(DON) フザリウム属 小麦 2002 1.1ppm
 (μg/g)
パツリン ペニシリウム属 りんご加工品
 (りんごジュース)
2003 50ppb
 (μg/kg)

 

BSE牛肉と同根の問題

  菌が普遍的に分布、棲息する地域では、収穫物への生産菌の自然汚染を完全に防止する事は出来ません。例えば、熱帯や亜熱帯地方では食品のアフラトキシン汚染が避けられません。肝癌などの危険性は明らかですが、それぞれの地域における食品の有用性と有害性の総合評価して規制値=社会的実質安全量が定められることになります。日本では 10ppb ですが、EUは6ppb、米国では15ppbです。米国は南部諸州での汚染が避けられませんが、日本やEUは国内産地での汚染はありません。そうした事情が数値に表れています。
 FAO/WHO は 30ppbを提案しています。提案であって、まだ正式な数字ではありません。仮に30ppbになると、WTO世界貿易機関の仕組みでは各国は国内の規制値をこれに合わせる事が強制されます。日本やEUは より汚染の酷い物の輸入が強制されます。インド、タイ、アフリカなど熱帯や亜熱帯地方では、現在国内市場に出回っている食品の少なからぬ量の廃棄をしなくてはならなくなります。
 各国、各地域の固有の食習慣があり、それに基づく各種規制は地域性を持っています。それを貿易促進を名目に、一律化しようとするWTO体制の無理がここにも現れています。
 防カビ剤は、極所点状に発生したカビが収穫物全体にひろがり汚染されることを防ぐには効果がありますが、極所点状の発生にはあまり効かない。カビ毒は、通常の調理や加工の温度(100℃から210℃)や時間(60 分以内)では、完全に分解することはできません。ゆでる、炒める、炊飯などのごく一般的な調理方法でカビ毒は、50%から80%は残存します。カビが発生したものはむろん、虫食いや変色したものの汚染率が高いので、選別除去が有効です。今のところ機械による選別より、人の目で除去する方が効果がある事が確認されています。

2005年6月7日印刷・小針店で配布したものに加筆
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更新日 : 2006/07/10 .