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< 新生児仮死 | メイン | 電話の向こうの、自宅分娩か。 >
2006.12.17 11:00 |  診療  |  医療制度 / 行政  |  なな  | 推薦数 : 7

日本各地の産科事情の一側面

1 東京近郊で

周産期がご専門の先生が、東京に隣接する県の中核病院にご栄転されました。

ご自宅は都内ですので、当初は通勤される予定だったそうですが、

とても立ち行かないので、病院の近くにアパートをお借りになりました。

いったんそうなると、まったくご自宅にお帰りにならなくなってしまって、

結局ご家族と別々に暮らす、単身赴任の状態です。

それどころか、そのアパートに帰ることすらままならなくなって、

月のうち半分以上は病院で寝泊りしている上、

たまにアパートに帰っても、ope着のまま寝ています(いつ呼ばれてもいいように、です)。

大学医局に、何とか人を送ってもらえないかと交渉しても、

医局の人不足も甚だしく、「冷たい返事」しか返ってこないのだそうです。

「春までに人が増えなかったら、産科を閉めるしかないね」。

20年以上、その道のエキスパートとしてやってきた先生の、

重い言葉です。

 

 

2 地方病院で

医局の先輩である真由美先生(仮名)が、

ある日突然、書置きを残して、行方不明になってしまったことがあります。

元々都会育ちの真由美先生は、初めての地方生活を、

赴任される前からご不安に思っていたようでした。

独身の真由美先生は、踏み入れたこともなかったその土地に一人で引越し、

地方の中核病院にありがちな無茶苦茶な労働環境で、しばらく頑張っていらっしゃいました。

それがある日、ふっつりと切れてしまったのでしょう。

その日の外来も、ope予定の患者さんも、医師としての信頼も全て放り投げて、

文字通り逃散してしまったのです。

 

しばらく静養した真由美先生にお会いする機会があり、

当時のことを言葉少なに、話してくれました。

朝は8:30から病棟処置、その後外来かope。

お昼ご飯を食べられることはまずなく、午後はそのまま外来かope。

18時頃から、体外受精。

それが終わると病棟を回診し、さらにその後毎日検討会・勉強会があって、

午前0時に身が開放されたことは、数える程しかなかったのだそうです。

 

決して正しい逃散のやり方とは言えませんが、

それでもそうしてしまった真由美先生の心情は、

ご本人にしか、理解できないものと思います。

 

 

3 また、別の地方で

妊婦さんの陽子さん(仮名)。

妊婦健診は私の病院で受けて、お産が近くなると故郷に帰って健診・分娩をする、里帰り出産の予定の方です。

順調に経過して、33週を迎えました。

最後の健診にいらっしゃった時に、里帰り先の病院宛ての紹介状をお渡ししました。

宛先の病院名をお聞きすると、際立って産科医療の崩壊が進行している地方の病院です。

えっ、と思って一瞬間を置き、

「今、そちらの地方は大変でしょう」 と言うと

「そうなんです。何かあったら、車で3時間かかる病院に搬送することになるから、そのつもりでいて下さい、って言われました」 という返事が返ってきました。

 

(このままうちで産みませんか・・・?)

それが隠さざる本音ですが、陽子さんご自身が望んでお決めになったことです。

精一杯支持するのが、私の役目。

「むこうでも、是非このまま摂生して下さい。これまで順調だから、きっと大丈夫。」

祈りにも似た言葉でした。

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[産科廃絶]今サラナニガ深刻?
 さんざん、福島、横浜、奈良&hellip;と叩いておいて何でしょうかねぇ?マスコミさんたちは事態の進行が飲み込めてないようだし、我々からしてみると「マッチポンプですか?」って感じで、国民を不安に陥... [続きを読む]
posted from 東京日和@元勤務医の日々 2006.12.17 13:50

コメント

コメント一覧

こんばんは、なな先生。
私、なな先生方、産科医の諸先生が可哀相で可哀相で
たまりません。

いったい、産科医が何をしたっていうのでしょう?
黙々と小さくて重い命をこの世に迎える手助けを
して褒められこそすれ、叩かれたり、虐げられることなど
決してないのに。。。
何か方法はないのでしょうか、歯がゆくてなりません。
written by 来夢 / 2006.12.19 23:42
17日には、この内容を拝見したのですが、愕然とし、いろいろな気持ちが交錯してしまい、なんとコメントしていいかわからなくなっていました。

来夢さんのコメントと同じで、何か方法はないのでしょうか?今年も産科医の希望者が減ったと記事を読みました。
ますます、状況は悲しい方向へ進むばかりだと、暗い気持ちになってしまいます。
written by バリ島 / 2006.12.20 22:39
産科医の先生達はなんという環境で働いているのでしょう・・・。
3つめのお話は、身近にある良く聞くお話ですし、本当に何か方法はないものなのでしょうか・・・。

とりあえず、現状を一人でも多くの人に知ってもらいたいです。
マスコミは、言葉は悪いですが、ミスばっかり取り上げて不安を煽ってばかりで、実際の現場がどのような状態にあるか、それを正確に伝えようとはしていないような気がします。
私もなな先生のこのDoctors Blogを知らなかったら、ワイドショーなどで知る情報のみを鵜呑みにしていたかもしれません。
恐ろしいことです。
医療を受ける側も、自分達のためにも、現実を知るべきではないかと思います。
またまた生意気言ってすみません。。。
written by はね / 2006.12.20 23:59
Sky Team先生、TBありがとうございます。
本来は先生のブログでお礼を申し上げたいのですが、
先生の人気ブログは混んでいるようですので、
この場でお礼を言わせて頂きました。
他科の先生方に我々の窮状をご理解頂けることも、
また格別のエネルギーになります。
written by なな / 2006.12.21 21:24
来夢さん、とても心のこもったコメントを、ありがとうございます。
産科医療の窮状を理解し、共感してくれる女性がいる。
これだけで、どんなに救われることでしょう。

「医療崩壊の途にある医師として、世の中に向けて発信できることはあるのか」という質問に対する、某先生のお言葉です。
「わかってもらえるまで、説明するしかない。医療バッシングをする人は、
医療に興味のある人なのだから」。
written by なな / 2006.12.21 21:30
バリ島さん、素直で深遠なコメントを、ありがとうございます。
確かに現場では、心荒むような場面もありますが、
ひとつひとつの事柄に、精魂込めて丁寧に対応するしか、ないと思います。

ともあれ、体調は如何でしょうか。
素敵なクリスマス、年末年始を。
written by なな / 2006.12.21 21:39
はねさん、忌憚ないコメントを、ありがとうございます。
マスコミの報道ではない、
真実に耳を傾けようという姿勢こそが、
現状打開の第一歩になり得るものと思っています。

そもそも、地方の医療崩壊は、
都市部に何もかも集中させてしまったことが原因ではないかと思います。
地方と都市部とで格差があるのは、
医療だけではないはずです。
written by なな / 2006.12.21 21:46

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