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< 疲弊した産婦人科医の一面(・・ではないか... | メイン | 産科勤務医が減る理由を掘り下げて(1) >
2006.10.09 04:36 |  診療  |  なな  | 推薦数 : 7

あのママと赤ちゃんを思うと

私は、ごく普通の家庭で育ちました。
あいさつは大きい声で、みんな仲良く、食べ物は大事に、と育てられました。
兄弟でおやつの取りっこをし、
欲しいものを買うためにお小遣いをため、
たまに風邪でもひいて学校を休むと、ちょっと嬉しかったりしました。
なので、サンタクロースはいると思っていたし、
神様もいると思っていました。

でも、産婦人科医になってから、神様はいない、と思うようになりました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大学病院にいた時に出会った、優子さん(仮名)。
遅い結婚をされて間もなく、赤ちゃんを授かりました。
落ち着いた、素敵なご夫婦です。

妊娠後期になって、超音波検査で赤ちゃんの心臓の異常が疑われて、
詳しい検査のため入院されました。
外来でやる簡単な超音波検査だけではなく、
小児循環器専門医による、詳しい超音波検査などがなされました。
その結果、赤ちゃんの心臓に、致命的な異常が見つかりました。
生まれて数時間で心不全になってしまう、重篤な病気です。
非常に残念なことに、現代の医学では、なす術がありません。

産婦人科医、小児科医、小児循環器外科医、各科ナースたちを交えて、
ご夫婦に詳細な説明がなさました。
「生まれて数時間で、赤ちゃんは亡くなります」
そんな内容の説明でしたが、
ご夫婦は涙を流しながら、静かに聞かれていました。

数日後、優子さんの陣痛が始まりました。
胎内での検査は間違いであってほしい、という、一縷の望みもあって、
分娩室には、産婦人科のスタッフに加えて
小児科医、小児循環器外科医も待機していました。
娩出直前に心音が落ちたので、迷わず急速遂娩したら
多めの羊水が、ザバッと出ました。
生まれてきたのは、ちょっとちっちゃくて、かわいい赤ちゃんです。
すぐに小児科の先生たちの手に渡り、検査がなされましたが、
やはり、お腹の中にいた時と、診断は同じでした。

産後の処置が終わると同時に、赤ちゃんは優子さんの胸に抱かれました。
優子さんはこぼれるような笑顔で、赤ちゃんに夢中です。
「かわいいかわいい、かわいいっ!」
ナース達は、涙ぐんでいました。

ご夫婦と赤ちゃんを残して、スタッフは全員外に出ましたが、
たまに様子を見に入りました。
「ちっちゃくって、かわいいわあ。
陣痛も短かったし、ママ思いで、いい子ね」
微笑む優子さんと赤ちゃんを、ご主人が何枚もカメラにおさめています。
お産で乱れた優子さんの髪を、ポケットにあった櫛でそっと整えると
「わあっ、先生、ありがとう。
あなたもほら、先生ありがとうね〜」
赤ちゃんのちいさい手を取って、ふって見せてくれました。

でも、その時は来ました。
赤ちゃんの顔色が、少しずつ紫色になってきました。
モニターをつけると、血中酸素濃度は落ち、心拍数も低下しつつあります。
「ありがとう。生まれて来てくれて、ありがとう……」
笑顔のままの優子さんの胸の中で、
赤ちゃんは、動かなくなりました。
小児科の先生が診察をして、言いました。
「小さな身体で、よく頑張りましたね」。

生まれて、7時間後のことでした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「神様はいない」と思ってしまうのです。


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コメント

コメント一覧

お母さんに会うためだけに純粋に生まれたbabyちゃん。
命と引き換えに会いに来てくれたことを、お母さんは
永遠に忘れないでしょうね。
本当に生きていて欲しい命が零れ落ちて行き、
生きることに疲れた弱者が命を投げ捨てる、昨今。

捨てられた命が拾えるものだったら、拾ってその子に
あげたくなる心境になります。
written by 来夢 / 2006.10.09 23:11
子を持つ母として涙が止まりませんでした。健康な身体で生まれてきてくれた我が子たちを眺め、あたりまえのように過ごしてきた日々に感謝しなければと。。。その後、ご夫婦に赤ちゃんとの出会いがあったのか、とても気になりました。どんな形にしろ今が幸せでありますように、、、
written by mizuho / 2006.10.10 01:54
なな先生。
思わず涙が出そうになりました。
ご夫婦の気持ちを考えると・・・
僕も臨床で働いているとき、特に小児の悪性腫瘍を治療しているときには無力さに苛まれる事がありました。
何故?何故?
結局答えは出ません。
神様はいないと思います。
しかし、いて欲しいと思う気持ちが本音です。
written by メタボ / 2006.10.10 11:56
そうですな、左心低形成でしょうか?あれほど酷な病気はないですね。しかし先天奇形や先天性心疾患で亡くなられたご両親とその後も接する事はありますが、彼らの死は決して無駄にはしていないように思われます。

彼らにとっての幸せは微塵もないのかもしれませんが、両親にとって授かった命というのはなんらかの力を授けてくれている気がします。
written by いっちゃん / 2006.10.10 14:33
出逢えたのに すぐにお別れだったのですね。
 
私の姉の話です。
妊娠中に羊水が多いといわれ、ドクターから「検査の結果、赤ちゃんに奇形があります。どうしますか?ぎりぎりのところです。」と。
姉は生きてきた中で一番つらい決断を迫られました。
いろんな事をイメージしたと思います。
でも、もしかして答えは最初から決まっていたのかも・・・

「産みます。」

帝王切開の予定が決まりました。
その日を待つ姉の表情はとても穏やかでした。
しかし突然の出血。
すぐに手術。

取り出した瞬間に赤ちゃんは天国に旅立ちました。

姉の仕事は助産師でした。すぐに仕事に戻りました。
以前にもまして妊婦さんの痛みのわかるやさしい助産師になっています。

赤ちゃんが運んできた大いなる使命。
尊敬の念、命の尊さ、感謝の気持ちやいろんな気付き。・。・。・ご夫婦の絆はより深まったと感じます。

written by ぴょん / 2006.10.11 08:42
初めまして。湯沢と申します。
いつも楽しくブログを拝見しております。
是非相互リンクをして頂きたくコメントさせていただきました。
勝手ながら当方のブログにはリンクを貼らせて頂きました。
湯沢勝信の医院経営最前線ブログ: http://yuzawacom.blog55.fc2.com/
お忙しいところ申し訳ありませんが
宜しくお願い致しますm(_ _;)m
written by 湯沢 / 2006.10.13 14:04
本文よりよほど豊かで深遠なコメントの数々に、感激しています。

来夢さんの、このお母さんと赤ちゃんに対するやさしい気持ちに、
「神様はいなくても、天使はいるのかも」と思いました。
羊水の中って、多分とっても気持ちいいのではないかと思うのです。
お母さんに会うためだけに生まれてきた赤ちゃん、
10ヶ月間は、温かい快感に包まれ続けていたことと、信じています。
written by なな / 2006.10.14 18:53
mizuhoさんのお子さんは、きっと幸せでやさしいお子さんでしょう。

あたり前のようだけれど素晴らしい、健常であることに、きちんと感謝し、
他人のことを思いやれるお母さんを持ったお子さんたちですから。
written by なな / 2006.10.14 18:55
メタボ先生、コメントありがとうございます。

小児悪性腫瘍を担当されていたのですか。
婦人科悪性腫瘍でも、重さに耐えがたい思いでしたのに、
患者さんが小児なんて・・・脱帽です。

>神様はいないと思います。
>しかし、いて欲しいと思う気持ちが本音です。

これは、心ある医療をした経験者の方でないと
容易に理解できないと思います。
written by なな / 2006.10.14 18:58
いっちゃん先生、小児科の先生ならではの貴重なコメントをありがとうございます。

あのご両親にとって、赤ちゃんの生命は意味があったものと、私も確信しています。
悲嘆にくれるお母さんに、赤ちゃんに手紙を書くことを提案したら、
かわいらしい便箋に何通も書いてらしたのが印象的でした。
あの子は、私の心の中ですら今でもこれだけ生きているのですから、
ご両親のお心の中では、ずっと生き生きと生き続けることと思います。

本文に書いた、小児科の先生の死亡確認の言葉も、今でも忘れられません。
written by なな / 2006.10.14 19:08
ぴょん先生、心に残るエピソードをありがとうございます。

お姉様のお気持ち、察するに余りあります。
すぐにお仕事にお戻りになったということに、
却ってご心痛の深さを感じます。
ぴょん先生もおっしゃるように、患者さんの心に寄り添ったケアができる、
素晴らしい助産師さんでいらっしゃるのでしょう。

やっぱり神様、いないのでしょうか・・・
written by なな / 2006.10.14 19:15
湯沢先生、相互リンクありがとうございます。
ブログ拝読しました。
様々な角度から医療について考察できそうで、
ああ、またやることが増えてしまった、と
ほくそえんでいます(笑)。

ところで、ネット痴でお恥ずかしい限りですが、
私の方で何かやるべき登録などはありますでしょうか(恥っ)?
written by なな / 2006.10.14 19:20
ありがとうございます、早速読ませて頂きました。

私とは違う形の話でも、小さな命が消えていく様は私の腕の中にはまだ残っていることもあって、我が身を切り裂いてでも救えるのなら救って欲しいという想いがこみ上げてきます。
天使ちゃんのご両親に出会うのはとっても辛いことなんですが、「やっと出会えた」という安心感とでも言いましょうか、お互いを想う気持ちもあって、戦友というような仲にあります。

なな先生や一緒にきちんと立ち会ってくれる医療従事者の方には、一緒に戦ってくれると感じることが出来たり、また、温かく見守ってくれると知ったり、とても大きな存在なんだとおもうばかりです。

非常に感謝しております。
忘れないでいてくれることに、感謝しております。
written by 琴子の母 / 2007.11.03 23:11
琴子の母さん、この記事を読んで下さって、ありがとうございます。

> 我が身を切り裂いてでも救えるのなら救ってほしい

何度かこの言葉を実際耳にしたことがあります。
「先生、私はいいから、赤ちゃんを助けて・・・」
もう赤ちゃんは亡くなっているのに、
お母さんは大出血しているのに、
そう言われたことがあります。
ただ、圧倒されるばかりでした。

忘れることなんて、できません。
written by なな / 2007.11.06 14:47

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