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事故調シンポ「患者と医療者が手をつなぐには」(中)

 「医療の良心を守る市民の会」が開いた「中立公正な医療事故調査機関」の設立を求めるシンポジウム。秋の臨時国会での死因究明制度の法制化は見送られる公算が強い中、制度の中身を充実させるため、さらに議論すべきとの意見が上がった。特に医療者が自律機能や自浄作用をどう発揮していくかが、国民の信頼につながり、制度の行く末を左右するとの意見が多数を占めた。(熊田梨恵)

【今回のシンポジウム】
事故調シンポ「患者と医療者が手をつなぐには」(上)

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医療者の自律機能発揮が国民からの信頼に
安福謙二弁護士

■刑事裁判は真実追究の場ではない

 大野病院事件の判決が出たことを受け、医療事故調査委員会について考えることを話す。「大野病院医療事故調査委員会報告書」では、事故の要因として▽癒着胎盤の無理な剥離(はくり)▽対応する医師の不足▽輸血対応の遅れ―が挙げられ、被告だった医師に行政処分が科せられた。だが、裁判で証拠申請はなされず、証拠調べは当然なく、事実認定に全くかかわらなかった報告書だ。裁判では、癒着胎盤の無理な剥離があったというところが理由として起訴されたが、輸血問題については取り上げられなかったということが、刑事裁判の性質を考える上で、極めて大事だ。
 判決は、過失なき診療行為をもってしても避けられなかった結果であるとして無罪とした。刑事裁判は、検察構図との闘いだ。検察官が理解する「医療事故の事実関係」に基づき、「これなら有罪に持ち込める」と考えた範囲に限った主張での訴状が出され、証拠が取り上げられる。立証責任は検察官にあり、弁護側は検察構図をただ崩すだけの役割しかなく、無罪を立証する責任は法律的にはない。医学鑑定人についても、弁護側は2人の産科医を選定したが、検察側が選定したのはほとんど出産にかかわったことも、胎盤をさわったこともない2人の産婦人科医。ここに、裁判所における鑑定人選任システムがある民事との違いがある。検察側が彼らの判断能力を理解できたのか、最後まで疑問だった。そもそも、医学上の判断を医の素人である裁判所に委ねるのはおかしくないかと思う。ただ、医療側が自ら責任を正してこなかったため、患者側が司法というものに答えを求めようとしたのは当然の結果だ。患者側代理人として医療過誤訴訟を経験してきたが、原告代理人の持っている調査能力には限界があると思われる。刑事事件ではその限界が露呈した。

■きちんとした事実調査だったか
 医療事故調査委員会の目的は何か。真相究明と責任追及の両方が可能か、その両方をねだって両方を失うということはないか。裁判を通じてご遺族が一番不満に思われたのは、きちんとした事実調査がどこまで行われたかということだと思う。3つの問題のうち起訴されたのは1つだが、あとは「過失がなかった」と検事が判断したということなのか。調査した範囲はそれで十分だったか。いつも思うことだが、解剖がないような状態で、どうしてまともな検証ができるのか。解剖だけでも足りない。カルテがどこまで正確か、手術経過のビデオ記録を義務付けるのも当たり前であり、解剖を義務付けるという法律改正がないことの方が理解できない。できる限り多くの専門家の意見を聞いても、「これが正しい」という意見を得ることが何と難しいことか。例えば産婦人科といっても、さまざまな専門家がいる状況の中で、専門的な検証ができる制度づくりができるだろうか。その制度がどこまで公正か。そのためには手続きの透明化や、専門医以外の専門家の意見が聞ける調査システムが要る。
 関係者に対する事情聴取だが、聞かれる当事者が刑事責任を問われると思っていたら、どこまでまともに本当のことを答えるか。仲間が逮捕されると思ったら協力できるか。そのことは十分に検証されなければ事故究明を考える上で大きな障害だ。科学的な原因究明と、刑事責任を受けるような責任追及とは、制度も思想も目的も異なるからだ。

■「先端科学の消費現場」に過失概念はそぐわない
 しかし、医療事故に学ばねばならない。医療事故を検証すれば、学ぶものの宝庫を手にする。患者や遺族が納得する事実もあるだろう。医療事故は過失がなければそれでよしとする問題ではない。優れた医療であっても、改善すべき点がないわけがない。医療は常に発展せねばならない。学問であり、先端科学の消費現場でもある。そこを改善する努力を考えず、医療だけに視野を持っていては、まともな事故検証も再発防止もできない。その意味で、いつまでも過失概念に取りつかれた事故検証は時代遅れだ。追及すべきは追及するが、それにとどまらない検証が求められている。それが最終的に患者や国民が納得し安心する、「医療事故の実態に近づく」ということではないか。

■「信頼」得るため、自律機能を持つべき
 そのためには、医療者が患者に理解されるようにならなければならない。実際に医療の専門的な部分を調査・検証し、語ることができるのは医療者。いくら自分のスキルを高めても、国民や患者から納得してもらうためには、「信頼」を得なければならない。医療は今までスキルの向上には熱心だったが、「信用」されているだけでは足りない。信頼されるには、スキルではなく、人格として優れた人でなければならない。プロフェッショナルはそういう責務を負っている。モンスターペイシェントという言葉で非常に不安を持たれている(医療者がいる)が、同時にドクターハランスメントや、とんでもない医者も存在している。そういう人たちを臨床現場に残していることが不信や怒りを招き、信頼を失う。「スキルややり方は正しい」と言っても、「うそをつけ」ということになる。医者が自ら、自律機能を果たしてほしい。少なくとも臨床にいる医者は、自律機能を持ってほしい。しかし、医師会も医学会も任意団体。わたしはあえて言いたい。臨床現場に働く医師は、立法措置をもって強制加入の団体に加入させる。その中で自律的に懲罰権を与えて、処罰すること、業務を停止させること、退場を命ずることもさせるべきだ。弁護士会が行っているような機能を一つの参考としていただければ、大きな道が生まれてくる。医師が自律してほしい。信頼を得てほしい。そこから本当の医療事故調が機能してくると思う。



医療界が引っ張らねば機能しない
国立がんセンターがん対策情報センターがん情報・統計部、渡邊清高室長

 市民の立場で、厚生労働省案と民主党案の二者択一ではなく、医療の安全と信頼の向上を目指すという視点から医療事故調をどう位置付けるかという提案をしたい。
 医療における安全の向上は終わりのないテーマ。医療事故のない医療は、安全で安心な医療とはイコールではないので、医療事故があるということを前提に、どう対処するかを考える。医療事故が有害事象であると同定され、事実関係の確認がされ、当事者に説明や情報提供され、調査・分析がなされ、患者・家族に謝罪や補償がされて、納得がなされ、医療の質の向上に結び付くものでないといけない。刑事責任追及には限界があり、再発防止にはつながらない。真相の断片を知ることはできるかもしれないが、犯人探しの視点では、問題が発生する。個人に責任が集約されてしまい、他の事象が見られなくなってしまい、患者側と医療者側の紛争の発生となったり、「ああならないように気を付けましょうね」という声掛けにとどまったりしてしまい、医療現場で教訓として残らない。

 大野病院事件が残した課題については、本当に医療側だけに有利な判決と言えるだろうか。検察側が自白調書重視、鑑定書重視の方針を取ることで、逆に原告側に有利となる医学的な知見や鑑定が集めにくくなってしまったのではないか。これには、医療界の専門職集団が責任を持って、自律的組織としてやっていくしか解決方法はないと思う。

■届け出判断の負担を現場に負わせない
 透明性や分かりやすさを考えれば、疑わしきはすべて届け出るということを基本的スタンスとすべきと思う。医療不信の一翼を、情報の非対称性やコミュニケーション不足が負っているなら、過誤の有無にかかわらず、一般の人が予期しない死亡はすべて届ける。それが医療の不確実性や限界について共に考える機会として、医療安全やリスクの共有につながる最も近道ではないかと思う。また、届けるか否かの判断の負担を現場に負わせないことが必要。オーストラリアのある州では、医療における有害事象について、起こった結果と起こりやすいかどうかを当てはめることで、報告基準が分かるようにしている例もある。なぜ起こったのかを明らかにすべく、初期対応と原因究明がスムーズに進んで再発防止に生かされることや、患者・家族や医療者自身も立ち直るためのサポートも必要。協調関係を維持しながら、さまざまな立場で必要な方策を実現していく。公開すべき医療事故の基準や、長期的に見てこのような(医療事故調査機関の)制度が患者の満足度を高め、医療の質を向上させていくのかという視点の検討も併せて必要。

■現状のままなら厚労案、自律組織あるなら民主案
 届け出から評価・分析までを一つの流れとして示す厚労省案と、処分と再発防止プロセスは分けて扱うという民主党案。それぞれまだ議論すべきことはある。
 この制度を国民のコンセンサスの下で医療界が率先して引っ張っていかねば、十分に機能しない。透明性・公平性を担保するため、(制度の)入り口はなるべく広くする。中身については、医療界の自律的な組織ができる方向性のめどがあるならば、民主党案の方がいいかもしれない。現状のままなら厚労省案のように、届け出に縛りを掛ける方向にせざるを得ない。出口については、規律と処分の関係を示した厚労省案と、医療界の自律を促す制度の余地を残した民主党案。それぞれ具体的になった部分と課題が残った部分があるので、制度設計の議論を進め、検証しながら実践に軸足を移すべき時期にあると思う。

 いろんな立場の人の合意の上で制度をつくることが大事。そうしないと実効性や効果に不満を残す。「被害者寄り」とか「医療者側に譲歩」という考えでは合意形成は不可能。その意味で市民やメディアも責任あるプレーヤー。オープンな実りある議論をしていけば、初めは完全なものでなくても、こうした議論が医療の将来を明るくしていくものになるのでは。



厚労・民主案、制度目的の違いが最大の相違点
医療問題弁護団・木下正一郎弁護士

 大綱案・第三次試案と民主党案の相違点について述べる。個々について小さな違いはあるが、制度の目的が大きく違っているということが根本的な違いだ。個々の論点について同じ運用でも、制度の目的が違えば今後の運用は違ってくるので、立法化していくにも目標をしっかりと立てることが大事。
 第三次試案の目的は、医療死亡事故の原因究明・再発防止、医療の安全の確保。大綱案では、「医療事故死等の原因を究明するための調査を的確に行わせるための医療安全調査地方委員会を、医療の安全の確保のため講ずべき措置について勧告等を行わせるため医療安全調査中央委員会を設置し、もって医療事故の防止に資すること」が目的。民主党案の目的は、原因究明制度案では、「患者・家族(遺族を含む)の意志や思いを最大限度尊重しつつ最も効果的に死因・経過を究明する制度」となっており、患者支援法案では、「患者・家族の納得と原因究明」で、再発防止については、日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業が担い、事故調査組織は行わないとしている。

■民主案、すべてが届け出対象
 届け出範囲については、大綱案は死亡例を届けるとしており、第三次試案には一定の届け出範囲があり、そこについて届け出義務がある。民主党案は、死亡事例に限らず、高度障害が残った場合なども含めてすべてが届け出範囲で、「患者・家族が院内事故調査委員会の報告に納得できない場合、または医療機関が必要と判断した場合」に届け出ができるとされており、義務や義務違反はない。一方、大綱案と第三次試案では、届け出義務違反については、医療機関の管理者に対し、行政処分として「届け出るべき事例が適切に届け出られる体制を整備することなどを命じることができる」。また、医療機関の管理者が「医療事故死等に該当すると認めたとき」に届け出義務を負うことになっており、「医師の専門的な知見に基づき届け出不要と判断した場合、届け出義務違反に問われない」となっている。

■「業務上過失致死罪改正、自律的処罰制度の進ちょくで」―民主
 刑事捜査との関係については、大綱案では警察への通知について記載されており、▽故意による場合▽標準的な医療から著しく逸脱した医療に起因する死亡等の疑いがある場合▽関係物件の隠滅、偽造、変造▽類似の医療事故を過失により繰り返し発生させた疑いがある場合―などとしている。民主党案では、調査組織である「医療安全支援センター」が警察に通知することはないとしている。ただ、民主党の原因究明制度案では、「医療者による自律的処罰制度の進ちょく状況などを勘案しつつ、刑法における故意罪と過失罪の在り方や業務上過失致死傷罪などについて諸外国の法制度などを参考に検討し、必要があれば見直す」としている。これについて少し分かりやすくなるかと思い、足立信也民主党参院議員のコメントを付けるが、「現時点では、業務上過失致死罪を定めた刑法211条の改正は考えていない。患者支援法の枠組みで取り組んで、医療に対する国民の不信感を払しょくし、医療者による自律的処分制度の進ちょく状況などを勘案しながら、検討すべきだろう」。従って、民主党案は医師法21条を削除するとしているため、21条に基づく届け出は不要となるが、それ以外の刑事捜査との関係は現在と変わらないと考えられる。



誠意を示してほしい
医療の良心を守る市民の会・永井裕之代表

 「患者中心の医療」と言うときの一番の問題は、医療者は目の前の人に対して、リスクや不慮の事故の可能性について、自分の親や子どもに対して説明するように分かりやすく説明しているだろうか。それがなされていない。患者側の話をまず聞いて、説明相手に分かりやすく順序立てて説明していくということが必要。患者や親族が納得して自己決定し、手術をして、不慮の事故が発生したとしても、説明を聞いて納得できていながら、裁判を起こしたという人をわたしは一人も知らない。

■説明が事実と違う時に、溝が深まり始める
 医療事故が起こった時に、患者側が一番悩むのは、今まで説明されてきたことや、自分が経験したことと全く違うことを医療者側が言い始めることだ。実経過と全く違い、「そんな話じゃなかったじゃないか」となると、医療者側と患者側の溝が深まり始める。患者側が「うそを言っている」と、医療者側を責めるようになると、「クレーマー」と言われたり、門戸を閉じてしまったりして、話もしてもらえなくなる。だから真実を知りたくなり、仕方なく裁判をする。そういう被害者を「クレーマー」と言う著名な医師もいるが、もうちょっと被害者の声を聞いてほしい。被害者側の思いは、突然の死について、「何が起こったか真相を知りたい。本当のことを教えてほしい。心から謝ってほしい。二度と同じような事故を起こさないでほしい」ということだ。
 医療事故が起こった時に一番大事なのは、誠意を示すということ。誠意とは、▽隠さない▽ごまかさない、うそをつかない▽逃げない―ということ。特に当事者である医療者は逃げないでほしい。当事者をどこかに逃がしてしまって、院長や事務方に説明されても、「あなたたちには関係ない」と言いたくなる。そして事実と違うことを言われては、誠意を示されているとは思えない。

■納得できる問題の方が多いはず
 院内事故調査には第三者は絶対に必要だ。事故調査では、患者への報告を優先し、話をよく聞くようにしなければ透明にならない。そうして院内事故調査から再発防止策を立て、徹底させるようになれば、納得できる問題の方が多いと思う。
 医療の質の向上は国民の願い。再発防止について真剣に取り組んでもらい、情報開示していってほしい。院内の自浄性や透明性を高めていくために、航空機事故のボイスレコーダーのようなものをどう確保していくかということも大事。医療機関の密室性や隠ぺい性がないようにしていくことだ。中立・公正な事故調査の第三者機関をつくってみんなで育て上げること、歩みだすということが必要だ。


事故調シンポ「患者と医療者が手をつなぐには」(上)


更新:2008/09/09 17:29   キャリアブレイン


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