ロシア出身力士の一連の大麻事件で、日本相撲協会の北の湖理事長が引責辞任した。抜き打ち検査で陽性となり、兄の露鵬とともに解雇処分となった白露山の師匠として責任を取った形だが、昨年来、トラブル続きだった相撲界の最高責任者としては、むしろ決断が遅すぎたくらいだ。
ここ1、2年の間、相撲界は屋台骨が崩れるのではと思われるほどの激震に見舞われ続けた。週刊誌による八百長報道や、時津風部屋の若い力士の暴行死事件、横綱朝青龍のサッカー騒動など土俵外のトラブルが相次いだ。
8月には間垣部屋のロシア出身力士、若ノ鵬の大麻所持事件が発覚、緊急に実施した抜き打ち検査では新たに2力士から大麻使用の痕跡が出て、これが理事長辞任の決め手になった。
トラブルが起きるたび、北の湖前理事長は「警察の捜査に任せる」「弟子の指導は師匠の責任」と、協会トップとしての責任を回避し続けた。事態を深刻に受け止め、きちんと対応していれば相撲界がこれほど世間から冷たい視線を浴びることもなかっただろう。
北の湖前理事長は現役時代、大相撲の最年少記録を次々と塗り替えるスピード出世で横綱に昇進、幕内優勝24回の大横綱だった。引退後も若くして「将来の理事長候補」と引き立てられ、6年前、48歳の若さで理事長に就任した。
長期政権で相撲界の諸懸案を解決してほしいという周囲の期待は大きかった。しかし、現役時代の番付と実績がものをいう相撲界にあっては、過去の偉大な実績が近寄りがたい雰囲気を作ってしまったのかもしれない。理事長に正面から意見できる人材がなく、ワンマン体制の弊害ばかりが出てしまった。
新たに就任した武蔵川理事長は、まず、協会内を自由に意見交換できる風通しの良い組織に変える必要がある。文部科学省から指導されている「外部からの理事」招へいは、信頼回復に向け早急に手をつけなければならない課題だ。
相撲界を内向きで閉鎖的な社会にしないためには、外部理事のほかにも他のプロスポーツ関係者との意見交換やファンの声を吸い上げる場を作ってはどうか。
大麻汚染の3力士を「解雇」の厳罰にしたのは当然だが、抜き打ち検査で違反者が判明した以上、対象を幕下以下の若い力士にも広げ、継続して検査を実施する必要があるだろう。
少子化が進み、新弟子の数は先細りしている。急増する外国人力士には正しい日本文化の伝承という難問もある。地方場所の空席が目立つ人気低迷の対策も待ったなしだ。
「ファンあっての大相撲」という原点に立ち戻り、一から改革する気構えで取り組んでもらいたい。理事長交代は、新たなスタートを切る好機でもある。
毎日新聞 2008年9月9日 東京朝刊