衆院選の足音が迫る中の3選である。民主党代表選が8日告示され、小沢一郎氏の無投票による続投が決まった。乱立模様を呈する自民党総裁選と対照的に民主党は党内融和を優先した。対立候補は出ず、小沢氏を党の顔として政権交代を懸けた決戦にのぞむことが確定した。
与党では新政権発足後速やかに衆院を解散し、11月に衆院選を行う動きが有力となっている。無投票となったため政策論争の機会は失われたが、小沢氏は衆院選で国民に掲げるマニフェスト(政権公約)で政策をより深化させ、自公政権との違いを具体的に説明する必要がある。組織重視の内向きな戦術で、民意の強い共感は得られぬ。小沢氏の「発信力」が問われる。
3選決定を受け記者会見した小沢氏は「我々に課せられた使命、責任は重い」と政権奪取への決意を強調した。対立候補が結局名乗りを上げなかったのは、党内にしこりを残すことは得策でない、との意見が大勢となったためだ。結束を維持し衆院解散に持ち込めば政権への道は開ける--。そんな思いが小沢氏の求心力を強めたのだろう。
しかし、福田康夫首相の退陣表明後、自民党の総裁選びが注目を浴びるにつれ、民主党の存在感が埋もれたまま選挙に突入しかねない、との危機感が党内には広がっている。自民総裁選には確かにメディアの関心集めの演出的においがつきまとうが、それでも国民に見える形で支持を得ようとする発想は前向きだ。政権担当能力をアピールする好機を自ら失った点で、内向きな無投票選出となったことは残念である。
では、どう「小沢・民主」を国民に訴えるか。政権構想を地道に、明確に示すほか、やはり道はあるまい。21日の党大会で小沢氏はなぜ政権交代が必要か、率直に語りかける必要がある。民主党政権樹立の際は自らが首相となる決意も、改めて公式に宣言すべきだ。
そのうえで重要なのはマニフェストだ。小沢氏は年金、医療制度の一元化など生活重視を掲げた基本政策を発表、記者会見では自公政権との違いとして官僚主導の打破を強調した。各種政策の財源について消費税を増税しなくても政府の無駄一掃で捻出(ねんしゅつ)は可能と改めて説明した。ならば、どんな政治主導の統治機構をイメージしているのか。必要な財源規模と積算根拠をどう見積もっているのか。より具体的で説得力のある説明を欠いたままでは、政権担当能力の証明には不十分だ。
通常国会の際に民主党の支持率が自民党を上回ったのは、国会の論戦を通じ政府の無駄遣いを暴くなど、国民の目に見える活動が評価された結果でもある。小沢氏自身の政治生命も懸ける次期衆院選の帰すうを決めるのは、結局は政党の国民への発信力の強さ、そして政策の中身である。
毎日新聞 2008年9月9日 東京朝刊