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にぎやかな自民党総裁選をよそに、民主党代表選は無投票で小沢代表の3選が決まった。
本来なら、複数の候補者が政見を競い、民主党政権の姿をアピールする格好の舞台になるはずだった。だが、衆院の解散・総選挙が目の前に迫る以上、小沢氏のもとで結束して事にあたるべしということなのだろう。
小沢氏が自民党を飛び出してから15年。いまの民主党が旗揚げして10年。挫折と再起を繰り返しつつ、小沢氏と民主党は本格的な政権交代をめざしてきた。その目標がかなうかどうか、正念場がやってくる。
小沢民主党の歩みを三段跳びにたとえれば、「ホップ」にあたるのは2年前、偽メール騒動で地に落ちた党の信頼を立て直した小沢氏の手腕だった。
「ステップ」は参院選での圧勝だ。小沢氏は全国を行脚して政権交代へのうねりを作りだした。
その後、民主党の主役は与野党の逆転状況をフル活用して政府与党を追いつめた長妻昭氏ら政策通の議員たちに移る。消えた年金、道路特定財源の無軌道な使途、居酒屋タクシー……。野党第1党の存在感を発揮した。
肝心の小沢氏はといえば、福田首相と語らって大連立に走ろうとして失敗し、いったんは辞意を表明するところまで追い込まれた。国会論戦にも熱心でなく、影の薄さは否めなかった。
さて、最後の「ジャンプ」である。小沢氏は記者会見で本格的な選挙態勢入りを宣言したが、そのカギを握るのはなんといっても政策だ。
自民党政権への不満はあっても、では民主党でいいのか。民主党政権で大丈夫なのか。国民の不安に応えられる現実的で説得力のある政策と、それを実現させる覚悟を示せるかどうかだ。
その意味で、小沢氏が発表した政策案は期待はずれだった。農業者や漁業者への所得補償など多額の財政支出を伴う政策を並べたのに、相変わらずその財源の輪郭さえはっきりしない。
政治と行政の仕組みそのものをつくり替えれば、財源は十分あると小沢氏はいう。だが、それでは有権者に白紙委任を求めるのに等しい。きちんと全体像を描き、政権についたあと2〜3年間に何をどう実現していくのか、工程表くらいは示すべきだ。
本番は総選挙のマニフェストづくりであり、たたき台に過ぎないということかもしれない。ここは再び政策通の議員たちの出番だ。小沢氏ひとりに任せず、党の総力をあげてマニフェストを練り上げる必要がある。
代表選への立候補を断念した野田佳彦氏をはじめ、小沢氏の政策を批判してきた前原誠司前代表らはこの作業に積極的に加わるべきだ。無投票で形だけの結束を演出しても、有権者の信頼は得られまい。
カビ毒や農薬で汚染された有害米が食用に転売されていた問題の波紋が広がっている。この米を使っていた焼酎メーカーは回収に動かざるをえなくなった。一方で、農林水産省は昨年初めに転用の情報を得たのに、事実を突き止められなかったことがわかった。
問題の米は政府が輸入したが、毒性のあるカビや基準値を超す農薬成分が検出され、工業用のりの原料などにしか使えないとされた「事故米」だ。仕入れた大阪の米販売会社「三笠フーズ」が食用と偽って転売していた。その結果、焼酎などとなって、何も知らない消費者の口に入ってしまった。
安い事故米と食用米の価格差は大きい。三笠フーズの社長は、その利ざやを稼ぐために、何年も前から転売を続けていたことを認めた。
不正は社長が指示し、発覚を防ぐため二重帳簿も作っていた。おまけに取引先にばれないよう正規米に混ぜて売っていたらしい。食べものを扱う業者としては、信じがたい背信行為だ。
九州の焼酎メーカー数社が、この米を仕入れて焼酎にしていたことを公表したり、出荷停止や自主回収の措置を取ったりした。
また、三笠フーズは事故米を政府からだけでなく、商社からも買いつけていた。それも食用として不正に流れていたという。
さらに今回、浮き彫りになったのは、農水省の対応のお粗末さだ。食の安全を揺るがす事件が相次ぎ、食品業界への監視を強めていたはずなのに、健康被害を及ぼしかねない不正を長く見過ごしていた。
昨年1月に三笠フーズの不正を指摘する情報が農水省に寄せられたときには、立ち入り調査までしていたにもかかわらず、転用の事実をつかめなかった。取引台帳を確かめたというが、販売先の業者を調べていれば、食用に転売していることがわかったはずだ。
農水省は今後、事故米に色をつけて見分けられるようにしたり、廃棄したりするなどを含め、売却方法を見直すことにした。当然のことで、対策は遅すぎたぐらいだ。
事故米の販売を続けるなら、抜き打ちで調査をするなどのチェック態勢を強める必要もある。
三笠フーズについて、農水省は食品衛生法違反の疑いで警察に告発する方針だ。「健康に影響はない」というだけでは、消費者に不安が残る。せめて流通経路の解明と出回った商品の回収も、徹底して進めてもらいたい。
政府から事故米を買っていたのは、三笠フーズのほかに16社ある。不正がほかの業者にも広がっていなかったか、その確認も急いでもらいたい。
こんな事件がいつまでも絶えなければ、政府が掲げる「安全・安心」のかけ声が何ともむなしい。