|
 |
5人のパネリストが自給伝道とこれからの宣教の形を語り合った。左から、渡辺氏、鄭氏、笹岡氏、臼井氏、飯沼氏
|
自給・自活伝道連絡協議会主催による講演とパネルディスカッション「日本宣教のこれから」が、8月25日、東京・文京区の上富坂教会で開催された。牧会や伝道をしながら社会のさまざまな場で働き、生活の糧を得るとともに、職場や生活の中で福音を伝える意義などが多彩に語られた。
自給・自活伝道連絡協議会は今年3月に発足した。一般的な職業を持ちつつ牧会や伝道をする教職者たちの交流と情報交換が目的。
今回は3月31日の発足式以来の会合。午前に講演、午後はパネルディスカッションが行われた。講演は斉藤篤美氏(衣笠中央教会前牧師)と山口勝政氏(八郷キリスト教会牧師)。両氏は自給伝道の歴史と課題についてさまざまに分析、特にパウロが行った「テントメイキング・ミニストリー」(天幕伝道)の意味を読み直す視座から現代の自給伝道を模索し、再評価していく必要を訴えた。午後は5人のパネリストが壇上に並び、それぞれ自給伝道の経験などを述べ合った。
保健師の働きが信用に
渡辺純子氏(石岡シオンキリスト教会牧師/保健師)
「40年前、茨城県石岡市に私たち牧師夫婦が派遣され、借家を拠点に出発しました。当初は市民会館を借りて礼拝を行い、そこの館長さんが私に保健師の資格があることを知り、要請されて無試験で市の職員となったのです。給料の半分は生活のため、半分は会堂建設のために積み立てました。銀行は教会を信用せず、会堂建設の借金を認めません。しかし私の公務員の肩書きに目を留めると、奥さんになら貸してもよい、と私名義で会堂が建つことになりました。
自給伝道で分かったことは、まず、職場は宣教の拠点となるということ。私がかつて机を並べた青年は、彼の奥さんともども救われ、今は教会の良き働き手です。次に、働きを通して社会的信用を得られるということ。28年間フルタイムで勤務し、数少ない女性管理職にもなりました。仕事を通して数々の表彰を受け、皇居にも招かれました。地域の名誉として新聞やラジオで報道され、教会への信用につながりました。市民と直接触れ合う保健師として働いた結果、見えにくい教会の働きを、私を通して見ていただきました。こうして得た社会的信用のおかげで、退職後も声がかかり、看護学校講師など現在も自給自活で教会に仕えています。信徒の土俵に立ち、信仰生活の規範を示すこともできました。公務員として休日出勤もある中、どうしたら日曜礼拝を守り祈祷会に出られるか、自ら示してきました。牧師夫人が閉塞感の中で精神的に追い詰められることもあるようですが、外で働くことでエネルギーを注がれることが多いのです」
牧師を辞めて信仰成長
笹岡靖氏(ARKクリスチャンフェローシップ牧師/翻訳家)
「牧師として12年間働いて辞任の道を選びました。きっかけは長男が不登校になり、ホームスクーリングを始めたことが周囲に理解されなかったこと。突然の決断で貯金はない、収入のあてもないという状態でした。現在は医学論文など翻訳の仕事をしながら千葉で家の教会を開いています。ここでお証したいのは、自給伝道に入ってから、神様が本当に生きて働いているということを実感できたこと。仕事が途切れれば家族が干上がってしまうという状況の中、改めて信仰が問われました。ある月に収入の不足があっても、別のところで足りない分が補われるという不思議もありました。神様は見ていて支えてくださるんだということを体験させるために、あえてこういう道に導かれたのだと感じています。
私は有給フルタイムの牧師を辞めて信仰が成長しました。かつて高いところから語っていた教えは、実は頭だけのものだったと気づかされた。以前の私の信仰は主へのものではなく、目に見える教会という組織だったのかもしれない。教会でお金がかかるのは牧師給と会堂。しかし考えてみれば初代教会ではどちらもなかった。彼らは民家で礼拝した。牧師給と会堂の問題を取り払えば、ずっと動きやすくなる。高いところから牧師が一方的に語るというスタイルも、あるいは成長の可能性を狭めているのではないか。説教は私がする、というところに牧師のおごりも起きやすい。私は聖書解読を中心に家の教会をやっているが、説教よりもそこで分かち合われることのほうがはるかに恵まれます。一人の牧師の神学的知識では思い及ばない発言が出、そこに聖霊が働いて聖書の新しい発見があるのです」
このほか、平塚聖契キリスト教会伝道師で理容師の臼井勲氏は、自分の理容店で平日夜の集いを始め、未信の同業者までもが集まり始めているという働きを証した。UBF宣教師で東京韓国学校数学教師の鄭ダニエル氏からは、牧師の肩書きでは入国できないイスラム圏や社会主義国への宣教のために専門の技能と職業を備え、それを生かして働きをしていく具体例が紹介された。また元朝日新聞記者の飯沼和正氏は、オランダの宗教学者ヘンドリック・クレーマーが1960年に来日して語った「日本には説教中心の直接伝道よりも信徒の生活による間接伝道が特に必要」の言葉を紹介した。
運営委員長の矢島徹郎氏(ふじみ野キリスト教会牧師)は「自給自活牧師の多くがそれを不名誉とし、教会から給料をもらう立場を目指すが、その意識を変えると新しい境地が開ける。自給伝道の意義と備えについて神学校で学べる機会があってもいい」と語った。 |