大阪府の橋下徹知事は、廃止方針を打ち出している府立国際児童文学館(吹田市)の館内の様子を調べるため、職員に内緒で2日間にわたってビデオ撮影したことを明らかにした。橋下知事は「なんの努力の形跡もうかがわれない」と映像を見た感想を述べた。「隠し撮り」について「民間だったら当たり前のリサーチ」と話したが、その手法は議論を呼びそうだ。【長谷川豊、田中博子】
橋下知事の私設秘書が8月に撮影した。知事は「(来館者を増やす)取り組みは一切感じられなかった」と酷評。子どもたちが漫画ばかり読んでいたとして「実際は漫画図書館」と不満を表した。映像は府議会などでの公表を検討する。
文学館の北田彰常務理事は「びっくりした。府民サービスを心がけ、いつ誰が来てもきちんと対応している」と困惑気味に話した。6月から書庫などの見学ツアーを始め、50回で延べ約500人が参加したといい「7月の来館者は昨年の4割増、8月は5割増になった」と反論。さらに「『漫画ばかり』と言われるが、70万点の資料のうち14%に過ぎない」と話した。
府は財政再建案で、文学館を来年度中に廃止し、機能を中央図書館(東大阪市)に移す方針を示している。橋下知事は「行政は予算を付けても執行の管理ができていない。本当にやっているのか、チェックするのが僕のやり方」と話し、廃止を検討する他の施設についても府職員らに「隠し撮り」させる方針を示した。
「隠し撮り」について、ジャーナリストの大谷昭宏さんは「橋下知事は就任後、『職員を信用しなければ何も始まらない』と話していたので意外だ」といい、「知事を支持する職員でさえ疑心暗鬼になる。部下から正確な情報が上がってくるまで待つべきだった」と指摘した。
廃止対象となった府立女性総合センター(ドーンセンター)の存続を目指す活動をしてきた「好きやねんドーンセンターの会」元世話人、越堂(こえどう)静子さんは「まるでCIA。情報開示してみんなで議論しようと言う裏で、姑息(こそく)な行動だ。そんな手段を基に政策が左右されるなんて民主主義とは思えない」と憤った。
橋下知事は7日、全国学力テストの市町村別結果の公表を巡り、「公表するかどうかで補助に差をつけなければならない」と発言した。35人学級など教育に関する府から市町村への補助額を、それぞれの市町村がテスト結果を公表するかどうかで差をつける意向だ。
府が箕面市の丘陵地で開発中の住宅地「箕面森町(しんまち)」で開かれたイベントに出席後、報道陣に語った。府教育長にも発言の内容をメールで伝えたことも明らかにした。イベント中の地元FM局の公開生放送でも、学力テストの結果公表の必要性を聴衆に力説。「くそ教育委員会のメンバーが発表しないと言う。府教委に任せていては立ち行かない」と、教育委員会に「くそ」を付けて持論を訴える場面もあった。
橋下知事はまた、携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」の教育現場での活用を検討していることも明らかにしたうえで、この事業についても、テスト結果を公表するかどうかで差をつけることを示唆。「圧力にならないか」と報道陣から問われると、「市町村の自由は認めるが責任もお願いする。脅しではない」と反論した。【長谷川豊】
毎日新聞 2008年9月8日 西部朝刊