政府は、刑務所や少年院からの出所者の社会復帰を実現するための総合支援策を固めた。障害者や高齢者など自立困難な受刑者に入居施設をあっせんするなど、「司法から福祉への移行」を推進するのが特徴で、各都道府県に専門の「支援センター」を設置する。再犯を減らす狙いもあり、法務・厚生労働両省は来年度の予算化をめざす。
支援策によると、自立困難な受刑者については、法務省の保護観察所が「調整担当官」を各刑務所に派遣し、受刑中から相談に乗る。厚労省が各地に設置する支援センターは、福祉施設など住居の確保や福祉サービスを受けるのに必要な療育手帳の取得を社会福祉法人やNPO(非営利組織)に委託する。出所後の障害者らの孤立を防ぐため、入所中から調整担当官がセンター側と繰り返し協議する。
自立可能な受刑者については、刑務所などにいる間の職業訓練や、出所者を受け入れて就職を支援する国営施設の整備・運営を盛り込んだ。具体的には、刑務所に就労支援の専門スタッフを配置するほか、出所後の居住地で就職できるよう各県ごとに「協力雇用主」を増やす。
また今年度中に、仮釈放者を受け入れて協力雇用主にあっせんする国営の「自立更生促進センター」を福島市と北九州市に、刑期満了者らに農林業の訓練などを行う「就業支援センター」(仮称)を茨城県ひたちなか市に設置する方針。【石川淳一、川名壮志】
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■解説
刑期を終えたものの、生活苦から再び刑務所暮らしを選ぶ。政府が受刑者の総合支援策をまとめた背景には、こうした傾向を食い止めるには刑事司法の厳罰化だけでは困難で、福祉的な施策を強化する必要があるという認識がある。
昨年の犯罪白書によると、件数でみた場合、犯罪の約57%は再犯者が起こしており、障害者や高齢者も少なくない。仮釈放後の保護観察期間中の再犯率をみると、有職者は約8%だが、無職者は約40%にも及ぶ。知的障害の疑いがある受刑者の約70%が再犯者だという調査もある。社会で行き場のない人たちが刑務所に流入する現状がうかがえる。
今回の支援策は、自立可能な受刑者には就労機会を提供し、障害者などは迅速に福祉サービスに橋渡しする枠組みを打ち出した。近年、欧州を中心に犯罪者などを排除せず、政策的に参加の機会を与えて社会に内包していこうという理念が浸透しつつあるが、この流れとも重なる。
支援策が効果をあげるには、居場所となる就労先や福祉施設をいかに確保・育成するかが重要になる。元受刑者の受け入れは経済的コストや地域との摩擦を生みやすい。国営の「自立更生促進センター」ですら、各地で強い反対運動がある。国は財政面も含め、最終的に受け入れる現場への手厚い補助も怠ってはならない。【坂本高志】
毎日新聞 2008年8月28日 東京夕刊