事故調シンポ「患者と医療者が手をつなぐには」(上)
「患者と医療者が手をつなぐためにすべきことは何か」―。「医療の良心を守る市民の会」(永井裕之代表)は9月6日、「中立公正な医療事故調査機関の早期設立を望む」と題したシンポジウムを東京都内で開いた。厚生労働省が創設を検討している「死因究明制度」について、秋の臨時国会での法制化を後押しすることを目的とした開催だったが、福田康夫首相の辞任表明により、今後の見通しは不透明になっている。こうした中、シンポジウムでは医療者や医療事故被害者の遺族、国会議員、厚生労働省の担当者などのさまざまな立場から、さらに議論を深め、制度の中身を充実させようとする意見が上がった。シンポジウムで出された発言を、3回にわたってお届けする。(熊田梨恵)
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シンポジウムではまず、開催に寄せた舛添要一厚労相のメッセージが読み上げられた。 8月27日に、「医療の良心を守る市民の会」と患者・家族の皆さんのお話を聞かせていただき、「中立・公正な医療事故調査機関の早期設立を望む要望書」を頂いた。各方面の意見を聞いた上で、このような機関を設ける必要があると考えている。厚労省は、4月に医療事故の原因究明と再発防止を目的とした「医療安全調査委員会」(医療安全調)に関する第三次の試案を、6月にはそれを法律案化したイメージに当たる大綱案を発表し、現在国民の皆様からご意見をいただいている。その機関の目的は、医療事故の原因究明をし、事故原因の分析情報を開示し、ほかの医療機関がその情報を活用し、同じような事故が二度と発生しないように努め、医療の質と安全の向上を目指すこと。この新しい仕組みの構築は、医療の透明性の確保や医療に対する国民の信頼回復につながるとともに、医師などが委縮することなく医療を行える環境の整備に資するものと考える。また、起こってしまった医療事故に対して医療機関は「患者中心」を忘れずに、事故発生時の十分な説明・対話など「誠意ある初期対応」をしっかり行うことも大切。そのために医療界・医療者自らが自律性と透明性をより高めることも必要と思う。その機関が設立されたとしても、その運用において、多岐にわたる困難が予想される。医療界・医療者、患者・家族、市民、行政が協力してより充実した立派な仕組みに育て上げていくことが必要ではないか。
次に、各パネリストが登壇。それぞれの立場から主張を展開した。
■医療界が中心的役割担う制度に
佐原康之・厚労省医政局総務課医療安全推進室長
医療事故を調査する機関が必要ということにはどなたも異議はないと思う。一定のコンセンサスを得られるものではないかとして、4月に第三次試案を、6月には「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」(以下、大綱案)を発表した。第三次試案を現実化する際に、法で対応するといいもの、政令や予算で対応するもの、医療法や医師法を直せばいいものなどがある。第三次試案は51のパラグラフがあり、そのうち法で対応する事項を抽出して条文化したものが大綱案だ。
行政処分については、調査結果を出すまでは医療安全調が担い、その後は別の組織が担う。個人の責任追及ではなくて医療安全の向上を目的として実施する。医療機関に対しては、システムエラーの改善の観点から、院内の医療安全体制を見直してもらう。個人に対して処分する必要がある事例については、再教育を重視する。刑事処分については、行政処分の実施状況を踏まえて対応する。
捜査機関との関係については、医療安全調が専門家の視点から、著しく悪質と判断した事例について警察に通知する。警察は医療安全調の判断を踏まえて刑事手続きを進める。
医療事故の原因究明・再発防止を図るこの制度については、医療界が中心的役割を担い、医療の透明性や信頼性を高めるという仕組みにする。医療関係者の責任については、医療関係者が中心となった医療安全調の判断を尊重する仕組みの構築を提案している。ただし、新しい仕組みがうまく機能するか否かは、医療安全調が医療者や患者・家族を含め広く社会から信頼される組織であることが重要。良い制度とするために、まだまだ国民的な議論が必要かもしれないと思うので、よろしくお願いしたい。
■捜査機関との関係「国会内の答弁に拘束力」
古川俊治・自民党参院議員
第三次試案に対する意見で挙げられた主な問題点については、次のように対応できる。医師法21条の改正については、「ただし書き」の形で医療安全調への届け出と重複しないよう法令に明文化する。捜査機関との関係の明文化について、法律を拘束する判断趣旨については、国会内の答弁は拘束力があるので、こちらでこれから対応できる。所管省庁については、厚労省の中に置くのはよくないという意見があるので、公務員削減政策で大幅に人数を増やせない状況でもあるが、内閣府も考慮する。
主に医療界から出ている引き続き検討すべき課題としては、次のように考えられる。「標準的な医療行為から著しく逸脱した医療」などの定義が不明確ということについては、具体的な臨床に即して医療者の作業部会で具体的な基準を作成する。調査結果が行政処分や民事・刑事訴訟に利用されることについては、調査資料をすべて公開するのではなく、調査した部分と医療安全調からの提言部分に分け、提言部分だけを使えるよう利用可能部分を限定することが考えられる。遺族からの告訴権が残っているため、委縮医療が進むと指摘されていることについては、医療安全調を前置するよう、今捜査機関とのやりとりが進んでいる。医療安全調への非医療者の参加を疑問視する声があるが、透明性や説明責任という観点から、当然入らなければいけないと考える。医療過誤の刑事免責については、引き続き検討していかなければならない。
また、大綱案にある報告や届け出義務違反に対する処分では、(1)病院勤務医等の病院等管理者への報告義務違反(2)管理者である勤務医等の委員会への届け出義務違反(3)病院等管理者の委員会への届け出義務違反―があるが、(1)と(2)は1度目の違反で刑事罰となり、(3)は1度目の違反は行政処分、それでも従わない場合に刑事罰になる。(2)と(3)では立場が違うだけで同じ管理者なのに処分が違うというのは均衡が崩れている。また、(1)と(3)では(3)の方が法益侵害が大きいと考えられるため、(1)と(2)が軽い方が法の趣旨に合っていると思われる。
■臨時国会での法制化「ほとんど可能性ない」
鈴木寛・民主党参院議員
超党派議連の幹事長という立場で発言する。医療事故調査機関の問題については、臨時国会ということで舛添厚労相や尾辻秀久議連会長と協力して進めてきた。残念ながら率直に申し上げると、福田首相の内閣総辞職で、臨時国会で質疑が行われる可能性はほとんどなくなった。舛添厚労相は医療界や患者側からも議論が沸騰したこの問題について、果敢に解決しようとした積極的な大臣で、議連の立場としてやっていってほしいと会長に声が掛かっていた。舛添厚労相の留任がなければ、政治状況としては変わってしまうだろう。
原点に立ち返ってみると、医療に関する患者や家族の願いは「救命率や治癒率を上げてほしい」ということ。この問題については、社会保障費2200億円の削減はあるが、医師増でプラス約1500億円となったので、小泉政権以来続いた医療費を切り詰めていく流れは、一回底を打ったと考えていいのでは。これが今後V字カーブとなるか、低位安定になるかは、国民が今後世論をどう盛り上げて、税金の使い方を議論していくかということになる。
医療事故の問題については、事故発生防止のため、医師増や教育の充実、ガバナンスを徹底して、医療事故が起こらないようにしていくことが大事。また、重要な問題として、病院側の隠ぺい体質もある。公立病院のガバナンスは相当に事なかれ主義だ。(福島)県立大野病院、都立広尾病院などもすべて公立。病院長か都・県庁の担当者か、誰が責任を取るかが不透明なので、ここに注目すべき。こうした状況が患者や家族を追い詰めてきたのは事実だ。
医療事故調査機関の設立については、医療者側と患者側の思いは対峙(たいじ)するものではない。だが、「福島県立大野病院事件」や、厚労省の第二、三次試案などをめぐって、本来パートナーであるべき医療者と患者側の関係が分断されているようなイメージが先行していることを危惧(きぐ)すべき。お互いにいろんな誤解があると思うので、それを解いていかなければならず、医療者と患者の関係の再構築が急務。大野事件から浮き彫りになったのは、刑事裁判だけでは患者や家族は救われないということだ。患者・家族の支援の枠組み(づくり)が急務。医療界は自浄能力を発揮する姿勢を示してほしい。
また、刑事訴訟法239条1項に告発の権利が保障されている。告発権を縛れるかどうかということは、法治国家として重要なこと。国会の質疑応答や行政上の取り決めで、刑訴法に定められている患者の権利を制限できない。それが法に照らして正しいかどうかということも、立法府として考えねばならない。
更新:2008/09/08 19:55 キャリアブレイン
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