■モラル低下に不安の声も
17人が死傷した東京・秋葉原の歩行者天国(ホコ天)で起きた無差別殺傷事件から8日で3カ月。事件以降、中止されたホコ天を存続するか否かについて、産経新聞が秋葉原で男女100人にアンケートを行ったところ、約9割が復活を望んでいた。一方、地元住民からは反対の声が多かった。サブカルチャーの発信地としても世界的に知られる「アキバ」のあり方が問われている。(松田麻希、石井那納子、五十嵐一)
≪復活ののろし≫
8月27日、千代田区役所でホコ天の今後について検討する「道路などの公共空間活用検討会」の初会合が開かれた。
地元住民を代表する町内会関係者からは、「再開するにしても、新しいルール作りが必要だ」と、条件付きで認める意見もあったが「歩道だけで十分だ」「過激パフォーマーもいなくなり、街が落ちついた。悪くなった点は少ない」などの意見が目立った。
これに対し、電気店でつくる秋葉原電気街振興会は即時再開を求めた。ある経営者は「売り上げが店によっては5〜20%は落ちた。ホコ天があったころは、パフォーマンス目当てで来た人が衝動買いをするケースが多かったのに…」と話した。
≪パフォーマンスに賛否≫
実際に秋葉原を訪れる人たちはどう考えるのか。8月31日と9月5日の2日間、路上で100人にホコ天復活の是非について聞いたところ、反対はわずか8人にすぎず、92人が復活を望んでいた。
「秋葉原にホコ天は欠かせない。パフォーマンスで流行を発信してきた」(34歳会社員)と完全に肯定する意見もあったが、「街ににぎわいが出るので賛成だが、過激パフォーマンスは子供の教育上よくない。規制すべき」(39歳会社員)と「総論賛成、各論反対」の意見も多かった。
これに対し、反対派は「ホコ天はパフォーマンスの場所ではない。住民の生活権が侵された」(34歳男性)「パフォーマーのモラルは絶対によくならない」(32歳会社員)のように手厳しかった。
事件とホコ天との因果関係については、賛成派も反対派もほとんど指摘しなかった。
≪再生にむけて≫
秋葉原の歩行者天国がスタートしたのは昭和48年。人と車を分離し、散策やショッピングを楽しんでもらうことが目的だったが、平成17年につくばエクスプレスが開通、秋葉原をテーマにしたテレビドラマや映画などで「オタクの聖地」としてとりあげられたことなどから、コスプレ姿の若者たちが集まり過激化していった。特に今年になり、カメラを持った若者らがミニスカートなど露出が多い女性パフォーマーを取り囲み、歩行を妨害したり、都迷惑防止条例違反で逮捕者がでたことから地元住民と警察がパトロールを実施、事件前からホコ天の是非の議論が続いていた。
ホコ天休止から3カ月。「一杯が安価な牛丼は、数が出ることが第一。人通りが多い方がいいに決まっている」(吉野家)など、売り上げに影響がある飲食店や電化製品店は集客力があるホコ天復活を望む。一方、メイド喫茶店経営者(25)は「固定客がいるので客足に影響はない。逆にホコ天が過激になり、従来の客が来づらくなっていた」と話す。
検討会は10月に第2回の会議を催し意見の集約を目指す。ある区の幹部は「今年度中に方向性を出す方針だが、折り合いがつかなければ復活は望めない」と明かす。
事件はまちに大きな傷跡を残した。安全に「アキバらしさ」を残すにはどうすればよいのか。「新生アキバ」にむけて模索している。
◇
■オタク文化に詳しい経済アナリストの森永卓郎氏の話
「秋葉原は懐の深いまち。闇市から始まり、家電、オーディオ、アニメ、漫画、ゲーム、メイドなどいろいろなものを受け入れ、ここまで活発に独自の文化を発展させてきたことを思い出すべきだ。過激なパフォーマンスは従来のアキバ系と違う人たちがしたことで、警察官やパトロール隊もない中でのホコ天復活を望む」
【関連記事】
・
アキバのホコ天再開賛否両論 区の検討会で
・
秋葉原事件で祇園祭のホコ天厳戒態勢 京都府警
・
メイド減り警官だらけ…萌えられない厳戒のアキバ
・
【秋葉原通り魔事件】サイトに「ホコ天に突っ込み…」殺意を持って実行か
・
【秋葉原通り魔事件】「見せる警戒」「想定外」…どうする「ホコ天」安全対策