半世紀近く前、胎児に重大な障害を引き起こして販売中止されたサリドマイドが抗がん剤として復活する。国内での販売・投与は厳格な管理のもとで行い、新たな被害者を一例も出してはならない。
年配の世代ならば、サリドマイド(商品名・イソミン)と聞けば、服用によってもたらせられた悲惨な薬害を思い出す。そのサリドマイドが年内にも再び医薬品として再承認されようとしている。
旧西ドイツで開発され、一九五〇年代から六〇年代にかけ世界十数カ国で睡眠・鎮静剤として発売され、妊娠初期に服用した女性から手足の一部が欠損した重度障害児が生まれた。
障害児は世界全体で六千人近いといわれ、わが国でも三百九人が認定されている。六二年に国内での販売は中止された。
サリドマイドが再び注目されたのは、有効な治療薬のない血液がんの一種・多発性骨髄腫の進行を遅らせ、症状を改善することが分かってきたからだ。既に米国など十数カ国で承認されている。
未承認薬でも患者や医師が海外から「個人輸入」すれば使用できる。国内に約一万人いるとされる多発性骨髄腫の患者の一部はこの方法でしのいできた。しかし、未承認ゆえに製薬企業からの情報提供は一切なく、安定供給や品質も保証されないなど問題が多い。
患者らは厚生労働省に国内での製造・販売を求めてきた。五年前にサリドマイド被害者の組織「いしずえ」も「二度と薬害を起こさない」ことを条件に容認したことで再承認の機運が高まった。
患者らの要請で「藤本製薬」(大阪府松原市)が一昨年、厚労省へ製造・販売承認の申請をし、同省の薬事・食品衛生審議会の部会は先月、安全管理の徹底などを条件に承認する方向性を示した。
同社は厚労省や患者、被害者からの意見を取り入れた「安全管理基準書(案)」をつくり、厚労省の検討会で最後の詰めに入った。処方する医療機関や医師、薬剤師の登録、患者の登録や教育、未服用薬の回収など考えられる限りの方策を盛り込んだ。第三者評価機関も設け、管理体制の順守状況をチェックする。総じて医療用麻薬以上に厳しい管理である。薬害を振り返れば当然だろう。
とはいえ過去に例のない厳格な再発防止策だけに、実際の運用ではさまざまな問題に直面することが考えられる。適時改善し、患者と被害者双方が納得できる基準書を目指してほしい。
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