パキスタンの新大統領に故ブット元首相の夫、ザルダリ氏が選ばれた。イスラム過激派によるテロの脅威や危機的な国内経済などの難局を、実業家出身で政治経験も少ない同氏は乗り越えられるか。
今回の大統領選は、軍事政権による独裁を敷いてきたムシャラフ前大統領が辞任したのを受けて行われた。二月の総選挙で第一党になった故ブット元首相の人民党と、第二党のシャリフ元首相派、ムシャラフ前大統領派が候補者を立て三つどもえとなった。
ムシャラフ政権打倒で手を組んだ人民党とシャリフ派の連立政権は、退陣に追い込んでわずか一週間で崩壊した。候補者選びでも、強大な大統領権限をどう縮小するか話し合いがつかず、決別した。
上下両院と国内四つの州議会での投票では、人民党を率いるザルダリ氏が約七割を獲得して圧勝した。一億六千万人の国民を抱え、イスラム国家として唯一の核保有国のかじ取りをすることになったザルダリ氏だが、国内外で指導力を疑問視する声は強い。
不動産業や建設業を営む実業家出身で、昨年十二月に妻であるブット元首相が暗殺されたため急きょ人民党のトップに立たされた。政治手腕は未知数であり、核兵器管理やテロ組織掃討の鍵を握る軍部とのパイプはない。
国内経済の立て直しも急務だ。外貨準備高は六十億ドルしかないのに、急騰する石油や食料の輸入に毎月二十億ドルが消えていく危機に陥っている。
ムシャラフ政権と同様、米国の支援が頼みになる。対テロ戦争の前線基地として米軍に協力しつつ、国民に根強い反米感情をどう抑えるか。強力なリーダーシップを発揮したムシャラフ氏さえ失敗した課題である。
ザルダリ氏には汚職疑惑もつきまとう。ブット政権時代には事業費の10%をわいろに受け取り「ミスター10%」と呼ばれた。収賄などに問われ八年間服役した経歴もある。現地紙が「挑戦すべき最大課題は彼自身だ」と個人的な資質に懸念を表明するほどだ。
領土紛争を抱える東の隣国インドに、米国が原子炉や核燃料を供与することを、日本など四十五カ国の原子力供給国グループが承認した。西の隣国アフガニスタンでは反政府武装組織タリバンが息を吹き返しつつある。
パキスタンを含めアジアの不安定化要素が相次ぐ。日本も支援国として注意深く見守りたい。
この記事を印刷する