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NIKKEI NET

社説1 理解に苦しむ対印原子力協力の解禁(9/8)

 インドの核実験を契機につくられた原子力機材の輸出規制が、よりによって同国に対し無条件で解禁されるとは理解に苦しむ。核拡散防止の固い決意は、30年も過ぎれば薄らいでしまうのだろうか。

 原子力供給国グループ(NSG)は米国が提案したインドへの原子力協力を全会一致で承認した。インドを特別扱いすることへの慎重論もあったのに、結果は新たな条件を課すこともない承認だ。核拡散防止体制の揺らぎを懸念せざるを得ない。

 承認の決め手になったのはインドの外相が出した「核実験凍結」の声明だという。同国は核拡散防止条約(NPT)にも加わらず、核兵器を保有している。今回のNSG総会では、インドへの輸出解禁だから条件をつけるべきだとの意見が出ていたが、慎重派の国も外相声明を受け無条件解禁になびいたという。米国が承認を強く求めたとはいえ、各国がこれで十分としたのは不可解だ。

 インドは1998年の核実験後に実験凍結を宣言した。だから外相声明は過去の方針の繰り返しでしかない。同国は民生用原子炉で国際原子力機関(IAEA)の査察を受けるが、提供される技術が核兵器開発に転用されない保証はない。NSGはインドに対し、NPTや包括的核実験禁止条約(CTBT)への加盟、ウラン濃縮や核燃料再処理といった微妙な要素のある技術の移転禁止など、条件をつけるべきだった。

 国際社会はNPTに加盟しながら核開発が疑われるイランを制裁の対象にしている。その一方でNPT非加盟で核兵器を保有するインドに甘くては、「二重基準」のそしりを免れまい。パキスタンやイスラエル、核開発を完全に放棄しない北朝鮮にも、時間がたてばいずれ核保有国として認知され、原子力協力が得られると勘違いさせてしまう。

 地球温暖化防止の観点では、インドが増え続けるエネルギー需要を化石燃料でなく原子力で賄うのは意味がある。その文脈で対インド原子力協力の意義を語る関係者もいる。原子力協力は温暖化ガスの排出削減義務をインドに受け入れさせる誘い水になるとの考え方もあるようだ。

 だが、核拡散防止の原則は崩してはなるまい。インドが先進国から原発の機材や資金の支援を受けたいのならまず核放棄するのが筋だ。

 NSGの承認で対印原子力ビジネスは活発化するだろう。日印原子力協定を結ぶ議論も起きるだろうが、唯一の被爆国として核廃絶を訴える日本まで、無条件でインドに甘い姿勢を示すのは問題である。

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