08年版の防衛白書が5日の閣議了承を経て公表された。最大の特徴は、安全保障環境や防衛政策については、3部構成で07年版の構成を踏襲しながら、新たに「防衛省改革」を第4部として追加した点だ。大きな項目を立てて一連の不祥事と組織改編を含めた対策を説明するのは、極めて異例である。
防衛白書は、防衛省の防衛政策や自衛隊の国内外の活動、近隣諸国・地域の軍事動向や安全保障情勢などを体系的に解説する年次資料である。防衛にかかわる政府の重点方針や国際情勢・安保環境の認識を知ることができる。
たとえば、昨年版白書では、「庁」から「省」に昇格後初の白書であったことから、省移行と国際平和協力業務などの「本来任務」化について詳説し、国際情勢で、軍事費を増額させる中国の分析に紙数を割いて警戒感を示した。また、一昨年版は、在日米軍を含めた米軍再編の動きを受けて日米安保体制の強化に力点を置いた。
しかし今回は、グルジア紛争や「新冷戦」と呼ばれる米露対立、東アジア安保における米中接近の最近の動きなどについて言及はなく、日本を取り巻く安保情勢の分析、防衛政策に特筆すべき記述はほとんど見あたらない。代わって不祥事に絡む項目が前面に押し出された。そこに、今の防衛省が置かれている厳しい立場が映し出されている。
林芳正防衛相の白書の巻頭言は、守屋武昌前防衛事務次官の収賄事件や、米軍に提供した給油量取り違え問題、イージス艦情報の漏えいやイージス艦「あたご」の漁船衝突事故などを挙げ、不祥事のおわびと再発防止、改革の決意表明に終始している。
省改革の項目は、政府の「防衛省改革会議」が7月15日にまとめた報告書をベースにしている。法改正を伴う内容もあり本格的取り組みは今後の課題だ。白書が、防衛力の機能発揮には「国民の強い信頼」が必須であると強調し、そのための「組織の再生」を誓ったのは当然である。
防衛省は来年末、安全保障政策の基本方針を定めた「防衛計画の大綱」の抜本改定を予定しているほか、次期の中期防衛力整備計画(10~14年度)改定も行う。こうした新たな防衛の基本方針の策定にあたっては、国民の信頼回復が前提になるのは言うまでもない。
福田康夫首相は1日、突然、辞任を表明した。そして、今月下旬には福田首相に代わる新しい自衛隊の最高の指揮監督権者が誕生する。同時に、白書にちりばめられた福田首相の写真は、公表から1カ月もたたないうちに「過去」のものとなる。しかし、白書に込められた「不祥事を二度と起こさない」との決意は過去のものにしてはならない。省幹部のみならず全自衛官が深く胸に刻み込んでおいてもらいたい。
毎日新聞 2008年9月8日 東京朝刊