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社説:拉致調査延期 日朝合意を空文化させるな

 北朝鮮が拉致問題を再調査するための調査委員会の設置を延期すると日本側に伝えてきた。福田康夫首相の辞任表明を受けてのことだ。再調査延期の口実を与えてしまった福田首相の責任は重大だが、だからといって再調査を遅らせる北朝鮮の態度を認めるわけにはいかない。

 北朝鮮から連絡があったのは4日のことだ。福田首相の辞任表明後、日本側が調査委員会の早期設置を求めたのに対し回答した。

 高村正彦外相によると、その内容は「日本側の事情にかんがみて、新政権が合意履行についてどういう考えか見極めるまで調査委員会の立ち上げを差し控える」というものだ。

 8月中旬の日朝実務者協議では、北朝鮮が権限を持った調査委員会を設置し、可能な限り今年の秋に結果をまとめることになっていた。一方、日本側は調査委設置と同時に、対北朝鮮制裁のうち人的往来と航空チャーター便の規制を解除することを約束していた。

 調査結果を出す時期を「今秋」としたからには、北朝鮮は8月中にも調査委を設置し早期に調査開始に踏み切るべきだった。そうでなければ、秋までに日本側が納得できる結果を出すのはそもそも難しかったのではないか。

 北朝鮮は延期の理由を「日本側の事情」としているが、そのまま受け入れるわけにはいかない。確かに、突然政権を放り投げ「権力の空白」状況をつくってしまった福田首相の無責任さは否定しようがない。

 だが、実効ある再調査は日本が再三求めてきたことである。その都度、北朝鮮は拉致被害者に関する不自然な安否情報を出したり、「拉致問題は解決済み」と突っぱねてきた。

 それがようやく8月の協議で合意に達したのだ。北朝鮮は合意事項を履行する立場だとも伝えてきているという。そうであるなら、日朝合意を空文化させてはならない。

 北朝鮮は、米国がテロ支援国家の指定を解除しないことを理由に核施設の無能力化を中断し、原状回復を図る動きを見せている。北朝鮮の交渉戦術に振り回されないよう、日本は米国、韓国、中国などとの緊密な連携を崩してはならない。

 それにしても、外交課題山積の折、福田首相の突然の辞任表明の影響は大きい。21日に神戸市で予定されていた日中韓首脳会談が延期されたのがその一例だ。東アジアの3カ国首脳が集まり、連携と協調を深めるためのチャンスをみすみすつぶしてしまったのは残念である。

 ポスト福田の新政権が発足しても早期に衆院解散・総選挙があれば、重要な外交政策の決定を行いにくい状況が続くかもしれない。しかし、北朝鮮に対してはその間も、核問題と拉致問題の早期解決を強く迫るメッセージを発信し続けていく必要がある。

毎日新聞 2008年9月8日 東京朝刊

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