連載
ロサンゼルスMBA留学日記:
同人CD販売は? カラオケのコーラスは?――初音ミク「許諾の限界」を探る
データを入力すれば、まるで人間の女の子が歌っているように再生できる音声合成ソフト「初音ミク」。初音ミクに歌わせた曲を「着うた」として販売したり、オリジナルの楽曲を歌わせてMP3をダウンロード販売したりすることは、法律上許されるのか?
[新崎幸夫,Business Media 誠]
著者プロフィール:新崎幸夫
南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。
前回、初音ミクの著作隣接権上の可能性について言及したが、その際ソフトウェアの使用許諾条件については簡単な断り書きを記載するにとどめた。今回はこの点について、もう少し深く掘り下げてみよう。
UGC(User Generated Contents)クリエイターにとって、初音ミクを利用して制作した会心の楽曲(=音声コンテンツ)を商用展開しても問題ないかどうかは気になるところ。実際、ニコニコ動画ではよく秀逸なコンテンツに対して「mp3でくれ」「CD販売されたら買う」などのコメントが付いているのを見かける。もしもクリエイターが初音ミクに“歌わせた”mp3データをダウンロード販売したり、コミックマーケット会場で同人CD販売に踏み切ったら、果たして問題になるのだろうか?
オリジナル音源のダウンロード販売は「基本OK」
意外に思われるかもしれないが、初音ミクが採用している音声合成エンジンである「VOCALOID2」の使用許諾条件によれば、基本的にユーザーが制作した音源は商用を含めて自由に利用できることになっている。
実際、本稿執筆にあたり初音ミクを販売しているクリプトン・フューチャー・メディア側に確認した限りでは、音声コンテンツの公開(ネット上へのアップロード含む)やCD販売/ダウンロード販売はいずれも“基本的には”許諾されているとの回答を得た。ただし、当然ながらここには一定の条件が付く。
まず1つ目の条件は、楽曲が公序良俗に反する歌詞を含まないこと。ひわいな歌詞や、「○○氏は最低の人間」といったフレーズを初音ミクに歌わせると、アウトとなる。また、商用カラオケのバックコーラスとしての利用もNG。さらに、着うた/着メロも条件付きでNGとなる。
着うた/着メロの場合、ポイントとなるのは「他の楽器や音楽作品中の音との組合せ」があるかどうかということ。つまり、初音ミクの音声だけで着うた/着メロを作り、ダウンロード販売してしまうとNGとなる。だが、他の楽器も組み合わせた上でオリジナルの音源を作り、これを着うた/着メロとしてダウンロード販売するぶんには問題がない。この点も確認がとれている。
もう1つの条件は、ことさらに「初音ミク」を前面に押し出さないことだ。実はこれが、商用展開を考えた場合にソフトウェア使用許諾上最も重要な部分になりそうだ。
つまり、ユーザーAがオリジナルの音源を作り、「ユーザーAのオリジナル曲」として販売した場合は問題ない。しかしユーザーAがオリジナル音源を作り、「初音ミクの新曲登場!」とキャッチコピーを付けて販売すると許諾違反となる。「歌手:初音ミク」などの文言を大きく記載したり、「VOCALOID」と記載したりしてもNG。つまりクリプトン側と相談の上、別途の使用許諾契約が必要となるので、このあたりは注意したい。
繰り返すが、オリジナル音源の公開/販売は認められている。ただし別途の使用許諾がない状況で、そこに初音ミク及びVOCALOIDのクレジットがあってはならない。「ツインテールのロボット」といった楽曲タイトルだった場合は微妙なところだが、初音ミクを連想させるに足る――と判断されれば許諾違反となる可能性は高い。
商用展開でない場合は、どうだろうか? これについては、本稿では踏み込んだ議論を避ける。というのは、常に「クリプトン側が黙認しうる」という条件が発生するためだ。初音ミクのイラストでも何でもそうだが、「厳密には著作権侵害だが、親告罪の観点から見逃してもらってセーフになる」という状況が起こりうる。これまでクリプトン側はユーザーに対してあまりに厳しすぎる対応はとっていない。しかしクリプトン側が何もかも見逃すかというと、当然ながら答えはNOだ。悪質な業者が著作権侵害を繰り返せば、法的手段に出ることも考えられるだろうし、それは当然だ。
商用展開でなければ、「初音ミクがオレの歌を歌ってくれました」と記載して初音ミクのイラストをつけてアップロードしても、大して問題にならないケースもあるだろう。だが商用展開を考えた場合、初音ミクを前面に打ち出すのは認められていない――これが現状で確実に言えることだ。
とはいえ逆に言えば、初音ミクの存在を完全に“消した”のであれば、たとえCD販売であろうとダウンロード販売であろうと問題がないことになる。個人的には、これは結構寛大な対応のようにも思われる。初音ミクのアイドル的人気に頼らずに、歌詞も「ネギ」などの初音ミク的キーワードから離れたものにして、オリジナル楽曲を歌わせて勝負することは許されているわけだ。
楽曲自体の著作権は問題ないか?
もう1つ、注意したいのが初音ミクが歌う楽曲の「曲側の」著作権は問題ないかどうかだ。前述のとおりオリジナル音源であり、作詞・作曲の権利がアップロード本人に帰属するなら全く問題ないが、音源が他のCDからの流用だったり、歌詞が特定の曲とそっくり同じだったなら、これは著作権侵害となる。これは初音ミクとは別個の問題だ。
前回の原稿で触れたように、業者がJASRACと契約を結んだ上で売上の一定割合を収めた場合はどうなるか。クリプトン側に確認してみたが、これは特に問題がないようだ。よく高速道路のパーキングエリアなどで「カバーカセット」が販売されているが、初音ミクに曲をカバーしてもらって比較的廉価に販売しても合法ということになる。もちろん、JASRACとの契約と、初音ミクの存在を隠すことが条件となるが。
下記に、これまで説明した内容を図でまとめた(あくまで本稿の内容を簡略化したもの)。初音ミクを利用したコンテンツを販売してみたい、というユーザーは参考にしてほしい。また先ほども述べたとおり、ニコニコ動画などで見られる商用目的でないコンテンツについては、クリプトン側が容認(積極的ではないにせよ)をする可能性があることも覚えておきたい。クリプトンとしても、ネット上のクリエイターたちに過度に萎縮してもらうことは、望んでいないように見受けられる。
今後、ネット業界の動向次第ではここで書いた内容が変化する場合も出てくるかもしれない。つまり、新たな条件が付け加えられる可能性もある。そんなときは、初音ミクがもたらす変化に対して使用許諾が柔軟に、そして適切に対応していくことを期待したい。
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