「生きることは愛すること。世の中をよくするとか、戦争をしないとか、その根底には愛がある。それを書くのが小説と思う」。
瀬戸内寂聴さんが文化勲章を受章した際に語った言葉だ。内に情熱を秘め、魂に突き動かされるようにエネルギッシュに生きてきた。作家生活五十周年を記念し、寂聴さんの歩みと生き方をたどる「瀬戸内寂聴展」が岡山市の天満屋岡山店で開催中だ。
ライフワークとして心血を注いだ「源氏物語」の現代語訳。直筆原稿には何度も推敲(すいこう)した跡がみられ、創作の熱意がほとばしる。三百冊を超える著書の一覧は壮観だ。谷崎潤一郎の机を模した文机やペンなどで書斎も再現されている。
出家したのは五十一歳の時。「自分の文学の背骨になるような思想がほしかった」のが理由という。出家を告げる遠藤周作あての手紙、三島由紀夫、川端康成、宇野千代らからの私信も公開され、幅広い交友関係がうかがい知れる。
住職を務めた岩手県の天台寺や京都市に構える寂庵での法話などを通して、多くの人々に生きる勇気と喜びを伝えてきた。その一方で、常に「行動すること」も自らに厳しく課してきた。
昨年は世阿弥の晩年の謎に迫る長編小説「秘花」を著した寂聴さん。八十六歳の今も、書くことへの執着は衰えを見せないようだ。