またしても食の安全、安心への信頼が損なわれる事態だ。大阪市にある中堅の米粉加工業「三笠フーズ」が、カビ毒アフラトキシンや殺虫剤メタミドホスが残留し「非食用」とされた中国などからの輸入米を「食用」として焼酎などの原料に不正転売していたことが、農林水産省の調査で明らかになった。
農水省は、三笠フーズを食品衛生法違反容疑で大阪府警と福岡県警に告発する準備を進めている。刑事責任追及は当然だろう。不正の実態を徹底的に洗い出す必要がある。
農水省と福岡県は、三笠フーズや関係団体に自主回収を指示した。問題のコメは、三笠フーズの福岡県内の倉庫から出荷され、鹿児島と熊本の焼酎メーカー四社、大阪、京都などの米穀店や仲介業者などが購入したとされる。西日本一帯で流通している可能性もある。さらに米菓などに加工されていた恐れも出ている。流通ルートの解明を急がねばならない。
アフラトキシンは、最も強い天然の発がん性の有毒物質といわれ、日本では食品から検出されてはならないとされている。中国製ギョーザによる中毒事件で知られる有機リン系殺虫剤のメタミドホスも、毒性が強いため日本での使用は禁止されている。
焼酎の原料となったアフラトキシン含有のコメについて三笠フーズは、カビを取り除いて販売したと説明し、農水省は健康被害につながるレベルではないとの見方だ。メタミドホスも検出量では人体への影響はほとんどないとしている。
汚染され食用にできないコメは「事故米」と呼ばれ、のりの原料など工業用に限って国が安価で民間業者に販売する。三笠フーズは二〇〇三年度から購入していたという。
会見した冬木三男社長は、コメは一キロ十数円で仕入れ、食用として三十五円から五十円ぐらいで販売したと説明。まさにぬれ手にあわだ。動機は「厳しい経営状況を打開するため」と話し、不正転売を指示したことも認めた。発覚しないよう二重帳簿を作成し隠ぺい工作を行っていたことも判明した。消費者の安全をないがしろにし、悪質極まりない。食品業者としてのモラルが厳しく問われよう。
不正転売発覚の端緒は、九州農政局への通報だった。農水省は事故米を業者に売却した後、工業用として利用されているか定期的に監視していなかったのか。チェック態勢の甘さも問題だ。食への信頼回復のために、業界の自浄努力と行政の監視・指導体制強化が欠かせない。
東京株式市場は五日、主力株中心に幅広い銘柄が売られ、日経平均株価は終値で前日比三四五円安の一万二二一二円と五カ月半ぶりの安値となった。
米国の株式市場も五日はやや持ち直したものの、このところ大幅に下落している。アジアや欧州株も軒並み安く、同時株安といえる状況だ。世界経済の減速懸念が拡大しつつある。
原油をはじめとする資源高や穀物価格の上昇が、これまで景気の下押し要因に挙げられていた。だが、ニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場は、七月中旬につけた最高値から二カ月弱で四〇ドル以上も下落している。他の資源や穀物の相場も下がってきた。
しかし、株価は上がらない。世界の投資家が、経済の先行きを悲観的にみているためではないか。原油などの相場下落は景気が今後さらに冷え込み、需要が伸び悩むと読んだ結果とみることもできなくはない。
日本は輸出が頼りだが、米国では金融システムの動揺が収まり切らず、景気は危うさを増している。大統領選のため当面は対処策も期待薄だ。欧州でもユーロ圏十五カ国の四―六月期の実質国内総生産(GDP)が前期比マイナス成長となった。中国も五輪後の景気失速が現実味を帯びつつある。日本はこうした世界経済の動向を、一層注視していく必要があろう。
国内でも財務省の法人企業統計で四―六月の設備投資が前年同期比6・5%減となった。国内企業の輸出見込みや設備投資に関しても当局のきめ細かい状況把握が欠かせない。
日本は福田康夫首相の突然の退陣表明で政局が混迷し、株安の一因になっている。政治空白を最小限に抑え、内外の経済情勢の分析を基に有効な経済対策を実行しなければならない。
(2008年9月7日掲載)