全国的に産婦人科医や助産師の不足が問題となる中、西南女学院大(北九州市小倉北区)は今年度、新たに「助産別科」を開設した。北九州市内では02年に国立小倉病院(当時)が閉じて以来の助産師養成コースで、地域の期待も大きい。第1期生たちはこの夏、市内の産婦人科医院で実習を始め、命の誕生に立ち会う喜びと厳しさをかみしめている。【長谷川容子】
ゴム手袋にキャップをつけた学生が分娩(ぶんべん)台に向かって「頑張りましょうね。赤ちゃんも頑張ってますよ」と声をかける。産道から出ようとする“胎児”を支えて取り上げ、慎重に“母親”のおなかに乗せた。「おめでとうございます」
同大での演習の一こまだ。母子が人形であることを除けば、本番さながらの緊迫した雰囲気。「お母さんの顔色や出血状態をよく見てね」。教官の声が飛ぶ。
別科長の浅生慶子教授(74)によると、妊娠経過が順調なお産なら、助産師は医師の手を借りずに出産を助けることができる。実習室には、自宅分娩を想定した畳のスペースもあり、天井からは陣痛中につかまるためのひもが下がっている。ニーズに対応できるよう学生たちはさまざまなスタイルの分娩介助を身につける。
県内では現在、大学や病院など5カ所に助産師養成機関があるが、北九州市では02年3月以降、ゼロ。危機感を抱いた市や北九州産婦人科医会の要望を受け、同大は社会人が入学できる1年課程の「助産別科」を新設。既に看護師として働いている人に門戸を開く一方、市内の産婦人科医院を支えるため、そこで働く看護師を対象に社会人推薦枠も設けた。「卒業後はそれぞれの職場に戻り、助産師として活動してほしい」という願いからだ。初年度の倍率は約3倍。20人の定員のうち6人が推薦枠で入学した。
助産師の受験資格を得るには、実際に赤ちゃんを取り上げる「直接分娩介助」体験が10例必要だ。学生は7月から、地域の産婦人科医院や診療所で実習に励む。
2例の直接分娩介助をした伊古野(いこの)智子さん(23)は「ずいぶん練習して臨んだが、実際に立ち会うと重みが違う。『頑張りましょうね』という声かけも、激しく痛がる産婦さんには軽々しいような気がして言葉をのみ込み、もっと寄り添える言葉がないかを考えたりしました」。祖母2人が助産師という川嶋菜美さん(23)は「感動し興奮し、同時に、助産師の使命はとにかく安全に出産を終わらせることだと、責任の重さを実感しました」と話す。
学生4人を引き受けた「足立クリニック」(小倉北区)の松崎徹院長(48)は「自分たちも学ぶことが多かった」と言う。学生たちはお産係としてマンツーマンで妊婦につき、腰をさすったり、声をかけたり、細やかな心遣いをした。「安心感を持って出産してもらえた」と松崎院長は評価する。
現在、同大の実習受け入れ施設は6カ所。「医療事故や苦情への不安から『助産師は欲しいが実習は受け入れられない』という施設もある。より多くを育てるため、広く理解を求めていきたい」と浅生教授。分娩介助だけでなく、子育て支援や性教育、更年期や高齢者の性の問題など、生涯にわたる女性の健康について対応できる人材を育てるのが目標という。20日と27日には学内で「助産学生によるパパママクラス」も開催。パパの妊婦体操、人形を使ってのもく浴などを紹介する予定だ。
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■ことば
学べるのは看護師資格のある(取得見込み含む)女性20人。1年間、助産学や母子の心理、生命倫理などの座学と病院での実習を積み、助産師国家試験の受験資格を得る。
〔福岡都市圏版〕
毎日新聞 2008年9月5日 地方版