闘争は楽しく 〜シチズン精密・本社前1日行動
午前7時14分、西武新宿線の田無駅前に到着すると、すでにシチズン精密の仲間たちが待っていた。
これまでは昼休みの時間帯だけだった本社前行動だが、今日は朝の出勤時間帯から夕方の退社時間帯まで、まる1日の行動だ。
集合時刻の7時30分、日本側の2人の支援者も到着。さっそく場所を移動する。
宣伝戦の場所は田無駅北口から200メートルほどのところにある四丁目の都営アパート前の路上。
通りかかるシチズン社員をはじめ通勤する人々にチラシを配ろうというわけだ。
開始前に日本語のおさらいをする。
「よろしくお願いします」「よろしっく、おねがいします」
上出来だ。
「おはようございます」「おあよごじゃいます」
これはちょっと難しいらしい。
さっそく通勤を急ぐ人々にチラシ配りを始める。
シチズン社員と思われる人は、まず受け取らないが、それでも頑張って配る。
早朝とはいえ、日差しは強い。汗をにじませながら、ひたすら配り続ける。
チラシを受け取ってくれた人には「ありがとうございます」と丁寧にお礼を言う。
故郷には社会人の息子2人がいるというアジュンマ(おばさん)は、どうもうまく日本語の発音ができない。
だから心を込めて韓国語で丁寧に声をかけ、頭を下げ、笑みをたやさずチラシを渡す。
結局、このアジュンマが一番たくさんチラシを配った。
セミが鳴き始め、陽射しはジリジリと強くなる。午前9時、シチズン本社前に移動する。
移動の途中には、「JAM シチズン労働組合」という看板をかけた建物がある。
いろんな事情があるんだ。シチズン精密の仲間もそれはわかっている。
だけど、つい「シチズン労働組合」の看板に目が行ってしまう。
もし、もしも、ここで中から「がんばれ」と声をかけてもらえたら、いや、せめてこっそり手を振ってくれたなら、みんなどれほど嬉しいだろう。
どれほど力が出るだろう。
本社の前に到着すると、すでに警備員は配置についていた。アパートの前に、情報を受け取った警備員が偵察に来ていたそうだ。
いつもは、社員らしき人がビデオカメラでこちらのようすを撮影しているのだが、今日は2台、三脚を立ててカメラを回しっぱなしにしている。
反対側の歩道の上で水を飲み、30分ほどの休憩を取って本社前行動に入る。
まずはシュプレヒコールだ。もう何度も叫んだ日本語のシュプレヒコール。
なぜか、最後に「ヨォーシ!」という掛け声が入る。
ちょっと違うんだけど、おもしろいからいいか。
シュプレヒコールが終わると、元気に歌を歌いはじめる。
1時間ほどの行動の後、30分ほど休み、11時からまた行動を開始する。
今日は、昼休みの30分前に早めの昼食を取る。
いつもと違って、今日は朝早くから朝食の用意をしなければならなかったので、昼食の用意ができなかった。
近所のコンビニで買ってきた弁当が今日の昼食だ。
12時になる10分ほど前に片付けて、チラシ配りの準備をする。
ハンドマイクで呼び掛けながら、みんなで手分けしてチラシを配る。
受け取ってくれなくても、無視されても、心の底から「おねがいします」
「チラシをうけとってください」「チラシをよんでください」と声をかけ、
受け取りやすいように4つに小さくたたんだチラシを差し出す。
いつもは、まず受け取ってもらえない。たまに1人、2人ぐらい、受け取ってくれることもある。
ところが、今日は、10人近くチラシを受け取ってくれたという。
ある人は、あちこちで配っているチラシを何枚も持っていた。
「さっき、『がんばれ』って言ってくれる人がいたよ!」
1人の仲間が目を輝かせてみんなに報告する。
「やっぱり、いるんだ」「よかったね」
昼食後は、30分休んで30分行動というパターンで行動を進めることにする。
9月になったとはいえ、今日は暑い。とっくに気温は30度を超えているだろう。
真昼の陽射しでアスファルトはフライパンのように熱い。
陽に焼かれ、汗を流し、しかしみんな元気良くシュプレヒコールをあげ、大声で歌い、全身で踊る。
シチズン精密の仲間たちは、これまで日本に来た韓国の仲間とちがって、いわゆる「労働歌謡」ばかりでなく、コッタジのような民衆歌謡も歌う。
…と思ってたら、トロット(演歌)も飛び出す。もう、のど自慢大会だ。
そして太鼓を叩き、鉄柵を揺らし、リズムを取りながら大声で歌う。
あまり激しく鉄柵を揺らすものだから、見かねた警備員が「揺らしてはいけません」「ダメ」と言う。
だが、そんなことを言われて引き下がるはずもない。
「ダメ」と言われるたびにかえって力を入れてガタガタと鉄柵を揺するものだから、警備のおじさんもあきらめ顔だ。
鉄柵を固定しているクランプがゆるんでいないかを確かめて、「言うだけは言ったからね」といった表情で持ち場に戻る。
一日行動ということもあり、通行人からの質問も多かった。
多くは、「事情はよくわかった。シチズンは悪い。頑張れ」というもの。
「絶対応援する。がんばれよ」という声もあった。
「会社が話をしてくれないんです」と言うと、「よし、それじゃ、オレが言ってやる」と警備員にかけあってくれたお年寄りもいた。
ところが警備員に完全に無視され、「本当だ。全然話をしようともしねえ。ひどいやつらだな」と言っていた。
警備のおじさん、地域のお年寄りの声を無視しちゃいけません。
近隣住民の代表という中年の女性が来て「騒がしいので何をしているのか知りたい」という。
事情を説明すると、「事情はわかった。そういうことなら仕方がない」とのこと。
確に騒がしいと思う。申し訳ない。でも、事情を理解してくれて本当にありがとう。
われわれも早く解決して、これ以上、第三者に騒々しい思いをさせたくないと思う。
暑さの中でも、シチズン精密の仲間たちの志気は高い。
「闘争は楽しくやらなきゃ」
と言いながら休憩時間も歩道上で太鼓を叩き、歌を歌い、律動も披露する。
門前のガードマンも珍しそうな表情でこちらを見ている。
日本の支援者から、クッキー、栗、氷などの差し入れが入る。
クッキーに「わぁ、おいしそう」と歓声があがる。
栗は、近くに住む支援者からの差し入れだ。
この付近の栗林で今朝取れた栗だという。
チラシ配りの名人アジュンマが、「栗は大好き。さっそく今晩食べる」と言いながら、生の栗をかじって「ほんとうにいい栗だ。食べてごらん。胃にいいんだよ」と言う。
生の栗をかじるのははじめてだったのだが、…シ、シブい!!
「おいしいでしょ!」というアジュンマの言葉に、あはははは、と答えるのが精一杯だった。
陽射しが西に傾き、4時から4時半まで、最後の行動。
韓国に帰る仲間を空港に送りにいっていたウさんも戻ってきて演歌を歌う。
シュプレヒコールと歌、太鼓、そして踊り。
すっかり日に焼けて、みんな顔や腕が赤くなっている。
一日中、鉢巻を巻いていた仲間が鉢巻を解くと、鉢巻のところが白く残っていたのでみんな「モシッタ〜!(かっこいい!)」と大喜び。彼と並んでみんな記念(証拠?)写真を撮る。
4時半に本社前を撤収し、今日最後の行動は、5時前からの田無駅前宣伝戦。
ミスタードーナツの前でチラシを配る。
今日は思ったよりも多くチラシがはけたので、チラシの残りが少ない。
「みんな、ポケットのチラシを出して」、「他に余っているチラシはない?」と、残ったチラシを掻き集めてチラシを配りはじめる。
それでも、30分ほどで最後のチラシを配りきってしまった。
「まあ、みんなも疲れているから、今日はこれぐらいにしようか」ということで、5時半に解散・撤収。
田無駅で帰りの電車を待っている間、「今日は疲れたでしょう」と尋ねると、「ぜーんぜん!」「もう一度、闘争しようか?」という答えが返ってきた。
そういえば、これまで日本に遠征闘争に来た韓国の労働組合の人たちもそうだった。
特に、外部の人物に対しては絶対に「疲れた」「もうダメだ」なんて弱音を吐かない。
クタクタになっても、「まだいくらでも頑張れる」と言う。
韓国人気質もあるのだろう。でも、本当に元気そうなのは、闘争を心から楽しんでいるからかもしれない。
昼過ぎの休憩の時、みんながちょっと疲れたような顔で座り込んだとき、今日のリーダーのソさんが「闘争は楽しくやらなきゃ」と言うと、「そうだ、そうだ」とみんなが歌い始めた。
みんなが一斉に「よし楽しもう!」と言いながら、手拍子を取り、体を揺らして歌い始めたのを見たとき、これがシチズン精密の仲間たちの「元気の素」だと思った。
これはつらい闘争なんかじゃない。
楽しい闘争なんだ。
疲れてなんていない。
だって楽しいんだから。
何度だってできる。
だって楽しいんだもの。
笑いながら闘おう。
そうすれば、きっと勝てる。
頑張れ、シチズン精密の仲間たち!
文責、撮影、編集: 安田(ゆ)
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