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ノミネート

作品詳細

09.積崩し (PN:ノミ人間)
積崩し
 わたしは子どもたちに飴玉をあげると言いました。
 ひとりめは欲しかったので欲しいと言いました。
 ふたりめは欲しかったけど要らないと言いました。
 三人めはどちらでもよかったので要らないと言いました。
 最後に泣くのは誰?

 Frederica Bernkastel
 
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1.
 いまより少し昔のお話です。
 とある山間の村にある神社の、神主夫妻のもとに、リカという名の女の子が生まれました。
 リカは未熟児で、生まれてから何週間ものあいだ、とても危険な状態が続きました。
 その後、どうにか命は取り留めたものの、リカの頭には後遺症が残ってしまいました。
 リカの目から見える世界はどこまでも広く、同時にどこにも焦点が合っていませんでした。なので、周りの人々と、うまく合わせて生きることができませんでした。それはリカと同じぐらいの歳の子や、お父さんとお母さんに対してでも例外ではありませんでした。
 リカの見ている世界は、いつも誰にもどうしても、理解されることがありませんでした。
 そうして、捉えどころのぼけた世界の中を歩み続けたリカは、自然とひとりで遊ぶことが多くなっていったのです。
 リカが僕に初めて話しかけてきたのは、ちょうどそのころのことでした。

 この小さな村には、保育所のような場所がなかったので、リカは日中、両親が仕事をしているうちは、よく神社の境内でひとり、いろいろななにかを使って遊んでいました。
 とてもよく晴れた、空気の綺麗な日のことです。その前日に四歳のお誕生日むかえたリカが、プレゼントに貰った積み木を使って本殿の賽銭箱の裏でいつものようにひとり遊んでいるのを、僕もまたいつものように陰から眺めていました。すると、しばらくしてなにかに気がついたように、彼女がこちらへ歩いてきたのです。
 そして、僕のすぐ目の前までやってきて、
「これね、こうやってならべるの。これがかくかくで、こっちはころころ」
 と、両手いっぱいに持った積み木を目で示して言ったのでした。
 僕はぼんやりとその様子を眺めていましたが、しばらくするとまた、今度は僕の目をまっすぐ見て、言ったのです。
「これはね、こうやるとね、まわるんだよ」
 紫色の球体の積み木を転がしながら、きゃっきゃと笑うその姿を見て、ようやく僕は、どうやらリカが自分に向けて話しかけているのだと気がつきました。
 いままで僕は、こんなふうに誰かに見てもらえるような存在ではなかったので、リカが話しかけてくれたとき、とても驚き、同時にとても嬉しかったのです。だから僕は、リカが積み木で遊ぶのをずっと近くで見ていました。すると、リカもそれまで見たことのないほどよく笑いました。
 僕とリカは驚くほどすぐにうち解け、そしてその日から、いつもいっしょに遊ぶようになりました。

 ある日、リカが言いました。
「じんじゃのそとにいこうよ」
 僕は少し躊躇いながら、首を横にふりました。その返答にリカは少し不満を持ったようでしたが、すぐに、
「じゃあ、ここであそぼ」
 と言ってくれました。
 僕が神社から出られないのにはわけがありました。
 僕には、そのように外を自由に歩く足が、なかったのです。

 リカには僕の姿は見えているようでしたが、声までは届かないようでした。だから僕は、リカと話すときは、いつも首をふって肯定か否定なのかを伝えるようになっていました。
 ……そしてやはり、僕はリカ以外の人には見えませんでした。だから、リカは僕と遊んでいるとたびたび、「誰とお話ししているの」と、両親や村人に訊かれていました。
 でも、僕のそういった不可解なところをリカはとくに気にしないようでした。
 リカにとっては僕が確かにここにいて、そして自分と疎通している。それだけでよかったらしいのです。
 それでも、僕の姿がリカ以外に見えないのは、やはりよくありませんでした。リカの周りの人たちからしてみれば、いつも独り言を話しながら境内でしか遊ぼうとしないリカは、とても奇妙にうつったようなのです。僕はやはり、これ以上リカといっしょにいるべきではないと思いました。
 そうはいっても、僕にはこの境内から出る足がなかったので、どこかに隠れたとしても、
「あ。ここにいた。ね、きょうはこれであそぼ」
 と、すぐに見つかってしまうのでした。
 それはリカが小学校に通うようになっても、少しも変わりませんでした。僕は観念して、リカから逃げるようなまねをやめました。
 ……いえ、本当は僕もいっしょに遊んでいたかったのです。だからこそ、本気では隠れられなかったのでしょう。
 リカと僕は、リカが学校に行っているとき以外はいつもいっしょにいました。
 しかし、そんな僕らにとって楽しい日々は、ある日を境に壊れはじめていくのでした。

 それから数年後の、良くない空気の漂う晩のこと。
 リカの両親が、共に突然死んでしまったのでした。
 両親のいなくなってしまったリカは、村長の家に引き取られることになりました。
 リカは口にこそ出しませんでしたが、新しい家での生活は、なかなか冷ややかなものであったようでした。新しい家でも相変わらず、人と合わせることがうまくできなかったリカは、やはり孤立してしまったのでしょう。それからたびたび、こっそりと抜け出しては、本来の住居であった神社へと逃げるように遊びにくるようになっていきました。
 僕は神社から出ることができなかったので、普段リカがどのような生活をしているのかを知ることができませんでした。しかし、僕の前にいるときのリカは、いつも笑顔を絶やさなかったので、僕も黙って笑っていることにしました。
 リカは毎日、学校が終わると家へは帰らず、その足ですぐに僕に会いに来るようでした。教科書の入っているのかわからない軽そうなランドセルを背負ったまま、心配した村長がむかえにやってくるまで、ずっとふたりで遊んでいました。毎日毎日。お休みの日もそうでない日も。
 僕とリカはできる限りの時間を、ともに過ごしました。

 そうして、リカの両親がいなくなってからちょうど二年が経った日。
 相変わらず周りの喧噪とは関わろうとしなかったリカは、夜になって社務所にいた村長が引き連れにやって来ると、いつものように僕とお別れをしたのでした。
 その夜更け。
 眠っていた僕は、神社の中を漂う良くない空気が、濃くなっていることに気づいて目覚めました。
 僕はどこからこの空気が漏れだしているのかを探しました。そして、ひと際強い異臭を放つ拝殿の前まで来て、僕は体から力が抜けるのを感じました。
 一寸先も見えないほどの暗夜。なのにそこだけ、はさみで切り取ったように月明かりに照らされた拝殿の床の上に、なにか見慣れた、……いえ、見慣れない、なにかが転がっていたのです。
 それはリカの、変わり果てた姿でした。
 僕は急いで近くまで様子を見に行きました。
 リカは全裸にされ、お腹を裂かれて中のものをばらまかれてしまっていました。
 僕は絶望しました。その目の前にある光景が信じられなくて、何度もリカの名を叫び続けました。
 すると、リカはうっすらと目を開け、
「ハウ?」
 と、リカが勝手に付けた僕の愛称を、口にしたのでした。
 僕はどう考えてももう助からないのがわかっていながら、泣きながら必死になって「死なないで」と、とどかない声で叫び続けました。
 声は聞こえなくとも、僕がなにか叫んでいるのは、リカもわかったようでした。
「なにを、そんなに泣いているの。……そうだ。これ、使っていいから、教えて」
 そう言ったリカは、僕の目をじっと見たまま、信じられない行動にでました。
 なぜかリカは、自身の舌を根本から噛み切り、そしてそれを手の上に乗せ、ゆらゆらと僕の目の前へ差し出してきたのです。
 僕はその壮絶な姿に、一瞬凍り付いたように動けなくなってしまいました。そして、なぜそんなことをしたのかと問いただそうとして、声がとどいていないことを思い出しました。
 リカの体は、もう半分以上が死んでしまっていて、その範囲は開いたお腹からじわじわと拡がっていくようでした。
 それでもリカは舌を僕の方へつきだしたまま、目を逸らそうとしませんでした。
 僕は戸惑いながら、その舌を受け取ると、自分の口から体に受け入れました。
 舌が自分のものになったのを感じると、鉄の味が、口いっぱいに広がりました。そしてそれはいま、リカが感じている味なのだと思うと、いてもたってもいられず、いま得たばかりの舌を使って、あらんかぎりの声で叫びました。
 なにを言ったかは夢中だったので、よく覚えていません。ただただ、リカに生きてほしいという願いだけで、この身を裂く気で叫んだのです。
 するとリカは、なぜか僕のことばを聞いて、満足そうに笑ったのでした。
 そして、
『ねえ、ハウ。わかんないの。私の足、くっついてる?』
 と、ただの吐息のように、唇だけをかすかに動かし、言いました。
 僕はそれに肯定し、景気づけにもならないような励ましをして、それでもなんでもいいからリカが死ななくて済むように叫び続けました。
 するとリカは、
『そっか。じゃあそれもあげる。よかった。これでハウも、お外にでられる……』
 わけのわからない戯言を残して、いままで僕から離さなかった目に、すっとまぶたをかぶせたのでした。
 
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2.
 私が眠りから覚めると、そこは自家の敷地内にある蔵の中だった。
 こんな板の間の上で寝ていたにしては、体には痛みもなく、寝起き特有の鈍さも感じられなかったが、今までと少しだけ自分の様子が違っていることに気がついた。
 ――私の体には、足が欠けてしまっていた。
 それを見て私はほっとした。だってこれはきっと、彼女へうまく足をあげられたという意味なのだろうと思ったから。もし私が眠るのがもうちょっと早かったら、あげるのに間に合わなかったかもしれないと思ったのだ。
 私は、動きづらかったが、とりあえず這って外へ出てみようと思った。ここから出て本殿の方へ行けば、きっと彼女はいるだろうと思ったからだ。
 しかしそれは叶わなかった。
 前の半分ほどになってしまった、いまの私の身の丈では、出口の取っ手にさえ手が届かなかった。それに第一、この蔵はいつも外からカンヌキで閉じられていたはずだと思い出した。
 私はあきらめ、仕方ないのでとりあえずなにか時間をつぶせるようなものがないか、あたりを見てみることにした。そして、蔵の中央にぽつんと、周りに置かれているものと場違いな、なにかがあることに気がついた。それは私が四歳になった記念に父がくれた、そして、彼女と初めて会ったときに遊んでいた、古ぼけた様々な色の木のかけらでできたおもちゃだった。
 どこかへやったと思っていたが、こんなところに置いてあったのか。
 私はそれに手を添えて、小さいころ遊んでいたのと同じように、かけらとかけらを合わせ並べていろいろな模様をつくって遊んでみた。
 ――どのくらいの時間をそうしていたのかはよくわからない。
 いつもいっしょだった親友の彼女が近くにいず、こうして初めて彼女に出会ったときと同じおもちゃで遊んでいるうちに、私は段々となんだか悲しい気持ちになってきた。
 そのときだった。私の背後に、なにかがどすんと降ってきたのは。
 私がそれにふり向くと、鏡に向かい合うようにぴったりと、幼い女の子と目が合った。
 最初、私はそれが本当に鏡であると錯覚した。だって、目の前の女の子の姿は、まだうちの両親が生きていたころに、家の姿見で見た自分自身と、まったくの瓜ふたつだったから。
 しかしそれが鏡ではなく、確かにここにいる、私とは別の誰かだと知らされたのは、
「だ、だれですか? ここは、かってにはいっちゃいけないところなのですよ!」
 鏡の向こうの「私」が、ひとりでに、あわてふためきながら叫んだからであった。
 私は誰かに話しかけられると、条件反射のように微笑むくせがあった。そうしているのが一番怒られることが少ないと、これまでの経験から学んでいたためだった。だから今回もまた、いつもの調子で、目の前の少し年下の女の子に向かって微笑んでみせたのだ。すると、彼女は少し驚いたような表情をしてから、
「えっと、ごめんなさい。ほんとうはボクも、かってにはいってきちゃったのでした」
 と、観念したような口調で言った。
「いま、かくれんぼをしていたのです。ぜったいにみつからないように、きにのぼったら、うっかりあそこから、なかにおちちゃったのですよ」
 さらには、蔵の天井近くにある、小さな窓を指さして、こんな言いわけまでしてきた。
 私がなにも言わず、相変わらず微笑んでいたので、それで女の子は安心したのか、表情から緊張を解くと、私の手元を覗き込んできた。
 そしてそこにあった、木のかけらをながめながら言った。
「なんなのですか? それ」
 それで私はいつもやるようにふたつかけらを並べ合わせてから、つっと彼女の方へと差し出した。
「ちがうのです」
 すると女の子は、私が差し出したかけらを引き離し、片方を持ち上げるともう一方の上に積んでみせたのだった。
「つみきは、こうやってあそぶのですよ」
 そして初めて私に、にぱーっと誇らしげに笑顔を向けた。
 ……それは私の偽の微笑みとは違う、本当の笑顔だった。
「ああ。そうです。こんなことしてちゃだめなのでした!」
 はたとなにかに気づいて、女の子はまたあわてだす。
「ここにはいっているのをみられたら、おとうさまにしかられちゃうのです。あんたもはやくでたほうがいいのですよ」
 そう言うと女の子は私の手を取り、ぐっとひっぱった。それに私はつんのめってしまう。
 それで気がついた女の子は、いままでの、どの表情とも違う、眉根を寄せた青い顔になった。
「どうしたのですか? そのあし」
 私は訊かれて困ってしまった。
 まさかこの子がここから私を出そうとしてくれるとは思わなかったし、こんなふうに誰かからものを尋ねられた経験がなかったものだから、こういうときにどう対応していいものなのか、わからなかったのだ。
 それでもなにかを答えなくちゃいけないと思って、口を開いてみたが、やっぱりなにも答えられなかった。
 そうか。このように足がないのと同じように、いまの私は、舌も彼女にあげてしまって、付いていなかったのだった。
 私がなにも答えられず、話そうという素振りだけ見せていると、女の子は気づいたようで、さらに青ざめた顔をして、
「おくちがきけないのですか?」
 と、心配そうにしゃがんで、私に目線を併せてきた。
 私はその態度に微笑むのを忘れ、思わずまじまじと、私とそっくりな女の子の顔を見つめた。
 ……だってさっきから、初めて見るものだらけだったから。
 私がこの女の子と同じくらいだったころ、こんなふうに誰かを心配することなどなかったし、あわてることもなかったし、まして、このように……そう、驚愕する、なんていうことは、できたことがなかったからである。だから、このような自分の表情や反応を見るのは、私自身、初めてであったのだ。
 鏡を見れば、いつでも目にしていたはずのそれであるというのに。
「あ……、ごめんなさい、なのです」
 私のそんな視線に堪えられなくなってしまったのか、女の子は視線を逸らすと、また私の見たことのない表情でそう言った。
「まっていてください。だれか、よんできますです」
 女の子はそう言うと、蔵の中に置かれていたよくわからない道具を、さっきの「つみき」のように器用に積んで段をつくりながら、落ちてきたという窓まで上がっていった。そして、窓にとどくところまでたどり着くと、さんに手をついてぴょんと飛び移り、一度こっちにふり向いてから外へと出ていった。
 女の子がいなくなってしまったので、私はまたさっきの遊びを再開することにした。
 そういえば、私はこのおもちゃの遊び方を間違っていたらしい。
 私は今度こそ、正しいやり方で、つみき遊びをしてみることにした。

 その後、いくらか時間が経ってから、女の子はまた窓から戻ってきた。そして、なにやら怒ったような口調で、よくわからないことを言った。
「あ、いました! きのうはどこにいっていたのですか? おかげでボクはおとうさまにひとりでしかられることになっちゃったのですよ」
 尋ねられて、私は困ってしまった。
 だって私はずっとここにいて、動くことすらままならなかったから。
 私がぎこちなく微笑むと、女の子はさらに不機嫌そうな顔をした。
「おとうさまに、おくらのかんぬきをあけてもらっておむかえにきたときは、いなかったじゃないですか」
 わからなかった。だって、私はずっとここにいたのに、カンヌキを開けて誰かが入ってくることなんてなかったから。
 女の子の言葉に、私は自分にいままで感じたことのない、なにかもやもやとしたもので、心を埋め尽くされていくのを感じた。
「うそをつくリカはわるいこだって、いっぱいおしりをぶたれちゃったのですよ!」
 そして、自身を指して彼女が言った名を聞いたその瞬間、そのもやもやは、ぽっと火が灯った。
 私はリカと言ったその子の袖をひっぱった。そして、首を横にふりながら、声無くわんわんと泣いた。
 どうしたというのか。なにを否定したかったのか、なにに納得がいかなかったのか、それを考えられるならよかった。でもこの時の私にはそれだけの知恵がなかったから、ただ目の前の、「リカ」と言った少女になにかをぶつけるように、泣いた。

 こうして私は、リカと出会った。

 このとき以来、どういったわけなのか、リカは私のもとへたびたびやってくるようになった。そして、ろくにものを知らなかった私に、リカはいろいろなことを教えてくれた。私がその中で、ひと際興味を示したのは、初めからここに置いてあった、「積み木」というおもちゃだった。なぜ私がこのおもちゃに興味をもったのか。それは、これまでただでさえ誰かになにかを指摘されることが少なかった私が、いまの自分より歳がいくらか下の、この子に指摘されたことが、不思議だったからだった。
「きょうはなにをしてあそびましょう」
 そうして今日も、リカは私のもとへやってきて、新しく覚えたなにかを披露してくれた。

 リカは誰かの頭を撫でるのが好きなようだった。初めて出会った日も、
「だいじょうぶです。こわくないのですよ。ほら、わらいましょう。にぱー」
 と、自分の袖を引っ張りながら泣いていた私の頭を撫でて、ずっと慰めてくれていた。
 それからも、リカが教えてくれたことを私がその通りにできると、同じように頭を撫でて褒めてくれた。また、仮に失敗したとしても、やはり、
「おしかったのです。もういっかいやりましょうです」
 と私の頭を撫でた。
 それに私は、これまでは感じることのなかった喜びを、だんだんと見出すようになっていったのだった。

 ある日、リカが泣きながら私のもとへやってきた。なんでも昨夜、突然両親が、共に死んでしまったのだという。
 しゃくりあげながらリカは言った。
「どうして、いなくなっちゃったのでしょう……。ボクのせいなのでしょうか……。ボクがよい子にしていなかったので、お父さまとお母さまはいなくなっちゃったのでしょうか」
 私はまた、困ってしまった。
 きっとそうなのだろうと思っていたからだ。
 だが、こういったときに首を縦にふってはいけないことを私は経験として知ってもいた。だから、どう応えるのがこの子にとってふさわしいのかがわからず、困ってしまったのだった。
 自分の意見として首肯するのがいいのか、それとも、怒られないように否定するのがいいのか。
「あしたから、きみよしのおうちに住まわせてもらうことになったのです」
 きみよしとはこの村の、村長家の姓だと記憶していた。リカは神社の神主夫婦のひとり娘だったので、他には身寄りがなかったのだろう。だから、村長が死んだ親の代わりに育ててくれることになったようだった。
「きみよしのおうちからここまではけっこうとおいのですよ。だから、これからはあまり来られなくなってしまうかもしれませんのです」
 私が考えもしなかった、新しい家での環境の変化について、リカはすでにいろいろと気がついていたようで、涙を拭きながらそう言った。
 それを聞いた私は、口をつぐんだまま、ようやく首を縦にふり、いつもそうしてもらっているように、リカの頭を撫でたのだった。

 リカがここへ来られない日や、いないとき、私は積み木遊びをして過ごすようになっていた。もともとなにかに熱中すると周りが見えなくなってしまう性分だった私は、今日も、
「またやっているのですか」
 と、自分のすぐ背後までリカがやってきて声をかけてくれるまで、積み木を崩してまた組み立ててを繰り返し続けていた。
「そんなに毎日、同じおもちゃで遊んでたらあきちゃいますですよ」
 リカはそう言うと、スカートのポケットに手をつっこんで、紙に包まれたなにかを取り出し、私に見せてきた。
「学校でもらったので、ひとつあげますのです」
 いったいそれがなんなのかよくわからず、私はぽかんと口を開け、じっとそれを眺めた。
「ち、違うのです。これは、みぃが勝手にくれたのです。ボクが欲しいと言ったわけではないのですよ」
 なにをあわてて取りつくろう必要があったのだろう。よくわからなかったが、「ミイ」という聞き慣れない単語に私は首をかしげた。
「みぃは学校の委員長さんなのです。ボクよりちょっとお姉さんで、とても優しくしてくれますのですよ」
 そう言うリカは、なんだか照れくさそうな嬉しそうな、不思議な顔つきになった。
 リカが私に差し出した紙の中身はおはぎだった。
 この蔵で目覚めて以来、食べ物を見るのは、これが初めてだった。
 どうしてなのか、私のおなかは食べ物を欲しがることを忘れてしまったようで、なにかを食べなくても平気になっていたのだ。
 でも、せっかくリカがもらってきてくれたものをいらないというのも忍びなかった。もしかしたら、私がなにも食べていないことを、この子なりに気づかってくれたのかもしれない。
 そう思うと、余計にいらないなどといえるはずがなかった。
 それでまずひと口かじってみた。でも、なんの味もしなかった。そうか。舌がないからだ。
 そうと知らないリカは、私が飲み込んだのを見届けてから、
「おいしいですか?」
 と、のぞき込むようにして言った。
 私はそれにうなずいた。
 それは本当ではなかったけど、嘘でもなかった。
 味は確かにわからなかった。でも、そのにおいは、とても暖かかったのだ。だから、これはおいしいといってもいいのだろうと思った。
 私の答えにリカは、とても満足したようで、まるで自分がほめられたかのように、にぱーっと満面の笑みを浮かべた。
 以来、リカはこの場所にいろいろなものを持ち込むようになった。それは食べ物だけでなく、おもちゃや、本や、なんだか私にはどう使うのかよくわからないものまで、本当にいろいろだった。そしてそれらは、学校の友達に借りたりもらったりしたものだと言った。
 おかげで、よくわからない道具しか置いてなかったこの場所は、ずいぶんと楽しく、にぎやかなものに囲まれてしまったのであった。

 こうやってここにいる時間が長くなればなるほど、私はその確信を強めていった。共に同じように立ち、しかし全く違ったその在り方が、それを証明せんとしているのだろうと思えた。
 私がリカと出会ってから、どれくらいの時間が流れたのだろうか。私にとって彼女の在り方はうらやましく、それはねたましくもあり、しかしそれ以上にとても愛おしかった。彼女がみせる表情や仕草、話すこと、すべてが私にとってまぶしく、そして持ち得なかったものだったのだ。
 だからいまさらこのような負け惜しみを続けているのだろうか。
 私は今日も積み木遊びに興じていた。そのさまはまるで、リカが私の行動に機嫌をそこねたときみせる、意固地のようだと思った。
 ……あるいは、私はそうやって、ただ待っているだけなのかもしれない。彼女がこの先どうなって、救われることがあるのかを……。
 
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「明日はお祭りですね。ボクも頑張らなくっちゃいけないのです」
 明日がお祭り、ということは、リカの両親が亡くなってから、明日で丸二年経つことになるのか。
「今年のお祭りは、ボクが巫女さんになって演舞をやることになったのですよ」
 リカがそう言ったのは、おおむねひと月ほど前のことになるのだろうか。
 お祭りとは、この地方で毎年六月に神社で催される、わたながしという名の夏祭りのことである。
 彼女が言う演舞とはその中で行われる、奉納のための舞で、神社の跡取りとして今年からそれをやることになったと言ったのだった。
 リカは初めて神主の娘として仕事をやれることを、とても喜んでいた。そして、その日からは毎日ここへ通うようになった。
「演舞の練習をお友達に見られるのは恥ずかしいのです」
 と、人が寄りつくことのないここで練習に励んでいたのだ。
 私はその様子をずっと不思議そうに眺めていた。それでリカはたびたび、
「いまの、なにかおかしいところがありましたですか?」
 と訊いてきた。
 私はそのたびに首を横にふって目を逸らしたが、しばらくすると、またどうしてもその様子を、さも不思議そうに覗いてしまうのだった。
 そうやって私が不思議そうに見るのは、ここができない、とか、こんなの無理だ、とか、リカが文句を言いながら練習をしていたからだった。
 やりたくてやっていることであるはずなのに、どうして文句を言うのか、私にはわからなかったのだ。
 それでも、リカは頑張って練習していたので、ひと月経ったいまでは、ほぼ完璧に演舞を行えるようになっていた。
 そしてまた同時に、私の中での確信はひとつ、深まっていったのだった。

 リカのいないとき、私は相変わらず積み木遊びに興じている。
 リカがここへ来なくなって、今日でどれくらいになったのだろう。
 祭りの前日にここへ来て以後、リカは一度も姿を見せなくなってしまった。思えば、時の流れを私に伝えてくれていたのもリカだったので、彼女が来なくなってしまったら、私にはそれを知るすべがなかった。それでも、こんなに長い時間、リカが来なかったことは、いままでならなかったのだが。
 でもそれならば、なぜ来ないのだろうか。
 私にしては珍しいことに、自分に問いかける、なんてことをしてみた。そしてその中に簡単な答えがひとつあった。
 ここに来ていたリカもまた、あの晩に、死んでしまったのであろう――と。
 どうして、なぜ、そう思うのか。そんなことはわからない。もともとわからなかったのだから、いまになって知ったとしても、そんな理屈、わかるものでもないと思う。
 あのリカは、私だった。
 私がここで目覚める以前の、足も舌も父も母も在ったころの、私。
 ……いや、正確には「私」とは違ったのだと思う。
 リカは私に、ただ自然に接してくれていた。私があの、親友の彼女に、あるがままに接していたのと同じように。
 でも、あのリカの普通と、私の普通とは、いつもどこかに開きがあった。
 私があるがままに振る舞えば、リカとは常になにかがずれてしまっていた。ちょうどあの、積み木遊びのときのように。
 リカはここへ来るたびに、私にいろいろなことを教えてくれた。
 それは、いかに私が普通でなくて、私がどれだけ欠けているものなのか、思い知らせてくれているかのようだった。
 まるで彼女が、見本の先生であるように。
 あの「鏡の中の私」は、私の知らない表情をし、私がなんの疑問も持たずに遊んでいたいろいろなものを正しく使ってみせ、私が書けない文字を当たり前に書き、誰かのために一生懸命になり、私の前で演舞を最後までやり遂げてみせてくれた。
 それらはもちろん、リカが悪意のもと、私に見せていたわけではない。話せず動けない私の前で、ただ自然に、子どもらしく振る舞っていただけなのだ。あのリカには学校にも友達がいて、それと同等に私も扱ってくれていただけのことだ。
 だけど、それは私にとって毒だったらしい。
 だってそれは、他ならぬ「自分自身」が、私よりもずっとまともな振る舞いをするのを、丁寧に何度も何度も見せつけてくれていたのと同じことだったから。
 それはまるで、自分自身がいかになにも考えず、そのことに疑問を持てず、これまで生きてきたかという「罪」を思い知らされているかのようだと感じたのだ。
 そんなものを見続けていたのなら、いくら馬鹿な私でも、さすがにそれには気づくことができた。
 この自家の蔵によく似た場所がどういうところなのか、なんのために、あのリカはここへ来てくれていたのか、自然と確信が持てるようになっていったのだ。
 初めて聞いたその声で、彼女は私に「死なないで」と言った。だから、きっと私は、あのとき死んだのだ。
 人が死んでから行く場所。私の一番見たくなかった、知りたくなかったことを教えてくれる場所。
 ――ここはきっと、私の地獄なのだろうと思った。
 
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 やはりいつまで経ってもリカは来ない。誰も来ない。そうしてずいぶんと長い時を経た。
 時折、リカがここへ入るときに使っていた窓を見上げてみたりもするが、やはり彼女はおろか、虫一匹やってくることはなかった。
 そもそも、あれは風通しだけするための窓であるらしく、ガラスではなく木の板で閉じられていたので、灯りさえも入ってこなかった。だからいまが昼か夜かもわからない。どれくらいのあいだ、ずっとこうしているのかも。
 だが、けっこうな時をここで過ごしているというのに、私の体は歳をとることがなかった。
 最近考えることがある。
 ここに来ていたリカは、果たして、あの私の親友の彼女――“ハウ”とは出会っていたのだろうか。
 私が、舌と足をあげた、私の唯一の親友である、あの子。
 あのときの私にはなんの疑問も抱くことはできなかったが、いまになって思えば、彼女こそ、一番の不可解だった。私と違って、ハウは足がなくとも、境内の中なら自由に動き回ることができていたし、私以外の人には姿が見えないようだった。それに、私がここに来る直前の、あのとき。その瞬間には気づけなかったが、私が噛み切って手渡した舌を、あっさりと自分の体に取り込んでみせた。
 いや、そもそも「手渡す」なんてことができたのは、あのときだけだった。それ以前は、彼女には触れることさえできなかったはずなのだ。
 ハウの存在は、ここへ来ていたときにリカが教えてくれた、幽霊とかお化けのようだと思った。
 そうならそれでもよかった。死んでしまった私も、彼女と同じになれたはずだから。
 でも、だから不可解だった。
 なぜ、ハウは一度もここへ来てくれないのだろう。
 また随分と長い時間、積み木を崩しては積み上げてを繰り返してから、ふとリカが話してくれたお話の中に、こんなのがあったのを思い出した。
 親よりもさきに死んだ子どもは、天国へは行けず、三途の河原で石積みを永遠に続けさせられて、それをさぼったりやめたりすると、鬼がやってきて棒でぶってまた始めからやらせるのだと。
 私はそれを罰当たりな者には、分不相応な安楽を与えてはいけないという意味だと思った。それなら、立場は違っても、私だって罰当たりなはずだ。だから、私もやめてみることにした。
 そうすればもしかして、誰かがやって来るかもしれないと思ったから。
 
続く・・・・
 
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※今回の大賞の一般選考は3社連動でおこなっております。このページにある作品は、最終選考候補作の1/3となります。
ジャンルに関係なく、1作品、これだ!と思う作品にご投稿いただければと思います。

※投稿してくださった方には壁紙を差し上げます。

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