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ノミネート

作品詳細

08.生写し編 〜戯れの34号文書〜 (PN:金森人浩)
 
生写し編 〜戯れの34号文書〜
「今日もみんなで和気あーいあい。お猿さんのあいあいなのですよ」
 教室に心地よい風が飛び込む。夏を旅する爽やかな風。そのまま教室に留まり、輝いた季節を教えてほしい。少なくとも私はそう思った。
 だけどほかのみんなは、私と異なる印象をその風に感じたのかもしれない。だって、一様に身震いをしているから。
「みー……なにかありましたのですか?」
 私は周りの仲間に問う。
 部活メンバーの島にいるのは、魅音に詩音、圭一、レナ。沙都子は今日遅刻している。そして、ちょこんと座る女の子。
 あれ? この娘――。
 唐突な空想。いまは夏服の彼女に、巫女装束を着てもらう。
 ……似合い過ぎる! オヤシロさまの生まれ変わりとも呼称される私と同じくらい、似合う!
 彼女は、オヤシロさま? 私の分身のような存在?……でも、それはあり得ないこと。私古出梨花の目の前に■■がいるなんて、認められるわけがない。そもそも彼女の姿は、みんなに見えているのだろうか?
 そうだ。ここは教室だ。その女の子が記憶のどこかに引っ掛かっても当然。クラスメイトなのだから。そして、私が名を忘れてしまった生徒がいたって不思議ではない。
 圭一が絞り出すように言葉を発した。
「みーって……梨花ちゃん? どうしたっていうんだよ」
「みー?」
「かかか……かぁいいかぁいいよぅ! お持ち帰りぃいいぃいー!!」
「レナ、ストップ! いまはそういう状況じゃないだろ!」
「そうだね。ごめん。雛見沢御三家の一角が大変なことになってるんだものね」
 レナのかぁいいモードは原則無敵だ。病原菌から核兵器まで、蝉の声が響く小さなコロニーから膨張する宇宙まで、原子から思想まで、ありとあらゆるものをなぎ倒し屈伏させるといわれる。
 それなのに。
 いくら圭一と言えども、そのかぁいいモードをいとも簡単に打破するなんて! それほどなにか切迫した状況だというのか。
「魅音もしくは詩音。これを説明できるか?」
「け、圭ちゃん私に振らないでください。知りませんよ。お姉ぇ!」
「わからないよ! 私、なにもわからないよ!」
 通常時は自分を「おじさん」と呼ぶ魅音。今回は「私」を使った。激レアとまではいかないが、ここに動揺を読み取ることもできる。
 冗談だとしたら不愉快極まりないのです――鈴のような声で、巫女姿が似合いそうな女の子が呟く。
 どうやら、私だけが状況を理解していなかった。
 ――雛見沢に歪ななにかが起きている。この古手梨花が気付かない間に。
「ボクの顔に、なにかついてますですか?」
「梨花ちゃんがどうしてお婆ちゃんなんだよ?!」
 不意で不躾で不思議な問い掛けが投げられたのに、唖然や憤怒や疑問の表情ではなく、思わず大人びた微笑が浮かぶ。ふっ。圭一はなにを言ってくれた?
 私が百年の時を過ごしたお婆ちゃんになったとでも言うつもり?
 
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井戸の中でずっと、自分は暗闇だと思っていた。
ある日太陽が差し込み、自分は蛙だと気づいた。

暗闇と蛙とではどっちが自由なのだろう?
暗闇と蛙とではどっちが強靭なのだろう?

太陽は過ぎ去り、再び暗闇が支配する長い長い時間。
でも蛙は、自分が蛙だとすでに知っている。

そこに、問い掛けが届く。

あなたは本当に蛙?
何の根拠があってそう信じ込んでいるの?
次に太陽が差し込んだら別の答えが現れるかもしれないのに?
あなたの依拠する物語は、そんなに安定している?

眠りなさい。
その物語を一度閉じれば、きっとあなたはあなたに戻れる。
ちょっとした、だけど消えることのない傷跡を残して。

           Frederica Bernkastel


生写し編 〜戯れの34号文書〜
 
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 鷹野三四はやれやれという表情を隠さない。入江診療所にひぐらしの鳴き声が届く。
「お役所がなんとかしてくれるって考えるのは、甘いんでしょうね」
「あまあまなのですよ。おはぎのもち米の部分が餡子になっているより甘いのです。時間がないと言っているのです」
「なぜ? 興宮の生活相談所に相談するのは、どうして駄目なのかしら」
「相談所なんて……ふん。受刑者みたいに法や手続きに雁字搦めで、負傷したゾウガメより動きが遅い。なにを期待しろと言うのか」
「……」
 私はついぞんざいな口調を投げてしまう。駄目だ、そんな言い方をするべきではない。
「ゾウガメさんはのろのろなのです。そのぶん、ボクよりずっと長寿なのです」
 鷹野は、私では思いつかない突破口を持っているはずだ。――親友の北条沙都子を、叔父・鉄平の魔手から救い出すための突破口。
「ねえ梨花ちゃん。具体的に聞くわよ。私たちはなにをすればいいの? つまり――北条鉄平をこの世から消せということかしら」
 鷹野はくすくすと笑いながら恐ろしいことを口にする。
 だがもちろん――私はそれも選択肢として考えていた。そして、それを自分からは言い出さなかった。鷹野が提案してくれるのを期待していたのかもしれない。
 なんて卑怯なのだ! 自分で自分を罵った。さっきの口調だってそうだった。私は鷹野に対してもっと誠実になるべきだ。
 大体これで鷹野が手を汚せば――鉄平を殺せば、私だってきっと楽にはなれない。それはイコール仲間にとっても最善手ではない。私はそれをこれまでの経験で学んでいる。
『梨花は卑怯なんかじゃないのです。これまで頑張ってきた梨花を、いまも頑張っている梨花を、僕は知っているのです』
 巫女装束の羽入が励ましてくれる。
 私以外のほかの人間がこの羽入の姿を見ることはできない。そしてその声は、私以外に届かない。だから彼女は私を大切な相棒だと思ってくれるし、私も彼女が大好きだ。
 ありがとう。でも今回は明らかに私が卑怯だったわ。だから下手な慰めはやめて。
『あぅあぅ……梨花が意地悪いのです』
 私は羽入を無視して鷹野の問いに答える。
「鷹野、変なことを口にさせてしまってすみませんなのです。確かにそれは考えられるひとつの手段です。でもそれは駄目なのですよ。任せることはできません。そんなことしたら――」
「確かにそんなことしたら、もうその世界から抜け出せなくなるかもしれないわね。うふふふふ……実はたったいま、ひとつのアイデアが浮かんだわ」
「え」
「くすくすくす。理想は、あなたの良心がいたまなくて、こちらとしても査問委員会からよけいな調査を受けないこと。つまり、沙都子ちゃんの叔父様を殺すのではなくて、ただただ爾後沙都子ちゃんに暴力を振るえないようにする。使うのは、大がかりでも組織的でもない手段。そう考えると――あら、思ったよりナイスアイデアだわ」
「あの、それはどんな方法なのですか?」
「うーん……企業秘密。たとえば梨花ちゃんをお婆ちゃんに変えることもできるような、そんな秘術を使うの。詳しいことは内緒。それでも、とりあえず任せちゃうっていうのはどうかしら?」
「それは――まったく強行的ではなくて、誰も傷つかない方法なのですか?」
 そんな方法などあるのだろうか? 楽観的過ぎる質問者になっていないか?
「私に頼んだ時点で、強行的は避けられないと思うわよ。うふふ。でもね、本当に驚くほど平和的な話よ。非人道的だけど」
『矛盾しているのです。鷹野はおかしなことばかり言うのです。オヤシロさまのことだって――』
 羽入、黙って!
「なにをすれば良いのですか? ボクはなにを――」
「そうね。じゃあ、どうやって北条鉄平をこの診療所に連れてくるのか――梨花ちゃんはそれだけを考えて。彼が来院したことを誰かに見られても、大きな支障にはならないと思う。最終的に腹を裂いて腸を引き出すわけじゃないし。でも、極力目立たないようにね。あと、書類を作る時間が欲しいから、早くても実行は三時間後でお願いします」

 どうして鷹野は、まるで見返りのない仕事を引き受けてくれたのだろうか。胡散臭さを感じてしまう。
 どうして引き受けてくれたのだと思う?
『梨花に恩を売りたいのではないでしょうか。たとえば、鷹野は祭具殿に興味を持っていましたのです』
 なるほどね。
 もし鷹野がそれを望んできたなら、見学させてあげよう。
 ごめんね、羽入。あなたがそれを望まないのはわかっているのだけど。
『あぅ。鷹野は悪いことを言うに違いないのです。禿鷹鷹野なのです、野次馬鷹野なのです、出歯亀鷹野なのです……あの減らず口を聞きたくなんてないのです』
 羽入は地団太を踏む。可愛い。
 可愛い地団太を見たら、特製キムチで苛めたくなったじゃないか。本当に悪いと思ったから、エンジェルモートの限定ケーキを買ってあげようと思っていたのに。
 ……鷹野の行動原理は、表層的には好奇心が前面に出ているように見える。だから、祭具殿見学に向けての貸し作りという羽入の指摘も、ひとつの正解なのだと思う。
 それで私が思い至ったのは――鉄平をなんらかの実験に使うということだ。鷹野の研究者としての好奇心。
 非人道的なにおいがぷんぷんする。鷹野自身だってそう言っていた。あれは冗談ではないのだ。
 とはいえ、結局、鷹野を信じるしかない。駄目だったら、ほかの手を考えれば良い。
 やってみなくてはわからない出来事。それは不謹慎ながらも、同じような世界を繰り返してきた私にとって、少しだけ甘美な希望だ。

 鉄平を入江診療所に呼び寄せるだけだったら話はそう難しくない気がした。だが、その前に重要なステップがある。
 沙都子が自分自身で呪縛を解き放つこと。
 方法は単純。原点に戻って、正攻法でいく。ただし鉄平との直接対話は無理。理屈が通用する相手ではないし、私の力ではねじ伏せることができない。
 私はゆっくり呼吸をする。緊張している。これから沙都子の実家に忍び込むのだ。
『沙都子はいま、2階にいるのです。梨花、気をつけて』
 家の角にある柱をよじ登る。蟹股で、まるで蛙。一階と二階の間に乗っかった庇のような屋根部分に移る。足場としては心許ない。大して幅があるわけではない。
 ふう。これからが本番なのに、だいぶ体力を使ってしまった。
 沙都子がいる部屋まで移動する。ここで落下したら、すべてご破算。なんて危ない橋。
 そして、ひとつの部屋に辿り着く。窓をノックする。
「こんこん。狐さんなのです。こんこん」
 窓越しに沙都子と目が合った。目を見開いた沙都子が見える。沙都子がなにを考えているのか予想する。
 梨花そんなところにいて――足を踏み外したら危ないですわよ! 
 梨花そんなところにいて――叔父さまに見つかったらどうするんですの!
 沙都子はどっちに重きを置いているのだろうか? 確認するのは少し怖い気がした。
 窓が開く。
「……なにしているんですの?」
「アポなし突撃なのですよ」
「梨花そんなところにいて――」
 言わせない。
「失礼しますです」
 靴を手に持ち窓枠を越え、部屋に着地する。窓枠に靴を置き、部屋のなかを見渡す。――ここは沙都子の部屋だったろうか。ずいぶん殺風景だった。
 私は立ったまま沙都子の目をじっと見る。三秒後に沙都子が目を逸らした。
「きょ、今日はこの部屋で待ち合わせしていましたっけ?」
「沙都子、ボクが真面目な話をしたら、ちゃんと聞いてくれますですか?」
「もしかすると、私があまり聞きたくない話じゃありませんこと?」
「ちゃんと聞いてくれますですか?」
「……ねえ梨花、私は私の方法で頑張っていますのよ。馬鹿らしいとは言わないでほしいですわ。それを挫こうとするなら――」
「それを挫こうとしているのよ。なぜなら、馬鹿らしいから」
「――私は! に……」
 大声を出してしまった自分を咎めるためか、沙都子は唇を噛む。それとも私に対する怒りを示しているのだろうか。
 私は沙都子を抱く。ぎゅっと抱く。
「……私は大丈夫ですから、放っておいてくださいませ」
 沙都子が震えている。身体全体で緊張を示している。大丈夫なわけないじゃないか。……いまの震えと緊張は、私のせいでもあるだろうけど。
『沙都子……あなたが大切なものはなんですか』
 羽入の声は私以外に届かない。でも一生懸命沙都子に呼びかける。
 羽入の身体は誰にも触れない。でも――沙都子を抱く。
 私は正面から、羽入は背後から。沙都子をサンドイッチの具にする。羽入のその所作は、少なくとも私を励ましてくれていた。
「沙都子の大切なものはなんですか」
 ……羽入の真似をしたみたいだな。
「守りたいものはなんですか。ひとつのやり方に執着して、沙都子はそれを自分から壊そうとしていますのです。馬鹿らしいとは思いません。ただ、やり方が間違っているのですよ。沙都子は十分強くなりました。悟史も認めてくれますです。いまが贖罪のつもりなら、そんなの誰が望むのですか? 悟史だってそんなことして欲しいとは思っていないのですよ」
『沙都子が悟史の行動や思いを大切にする気持ちは誰にも否定できません。それが犯罪と呼ばれるような結果を招いていても。でも、大切に思うと同時に、沙都子は思ったはずなのです。どうしてにーにーは私を置いてどこかに行ってしまったのかと。それと同じ気持ちを、仲間や戻って来た悟史に味わわせていいはずがありません。みんなの元に戻るべきなのです。自分自身を生贄になんてしないで、自分自身を取り戻すべきなのです。悟史の部屋も重要ですが、沙都子自身がもっともっと重要なのです。誰にとっても』
 沙都子は答えない。相変わらず震えている。
 嗚咽を始めた沙都子をさらに強く抱く。私に、私たちにできるのはこれくらい。無力。
 とはいえ――私の声を沙都子に届けることはできた。ここまで本意を伝えられたのは初めてかもしれない。
 ほかの場所でこんなことをすれば、沙都子は大声を出して拒絶する。でもこの家にいる限り、大声は鉄平を呼び寄せることに繋がる。だから拒絶が控えめになる。身体の密着により、目を逸らす手間もなくなるし、鼓動を共有できる。おかげで声が届く。
 ――十分くらい沙都子を抱いていた。沙都子の嗚咽は治まってきている。
 ところで羽入、あなたまで泣かないでくれる? 沙都子だけで十分なの。
『あぅ……えぐぅ。そういう梨花こそ、泣いているのです』
 え。ああ本当だ。駄目だな私。
 さらに自分が貶められるのをわかっていながら、羽入に八つ当たりをしてみる。
 私の真似をするなってことよ。私が先に泣いたんだからね。
「……でも、私はどうすれば良いんですの?」
 だから泣くっていう真似っこなんて不愉快極まりないことしないで――え?
 いま答えたのは、羽入じゃない!
「沙都子! 沙都子はただ、手を伸ばしてくれれば良いのです。ボクたちがそれを掴みます。絶対良いようにしますです」
 沙都子が言葉を返してくれた!
 沙都子はさらに、身体を密着させたまま、私の手を握る。羽入もその上から手を重ねる。
 緊張が伝わる。震えが治まるのを待つ。
 沙都子が自分で檻から出てくれた。これで十分。このまま沙都子を詩音の家に連れて行こう。元々そういう作戦だった。
 ところが――。
「ではいまから、叔父さまに挨拶してきますわ」
 いま沙都子はなんて言ったの? 意味がわからなかった。状況をわかっているのか?
『大丈夫ですよ。沙都子は正しい場所に気付きました』
 その後の沙都子は痛快だった。「ダラズ? それはレディーって意味ですの?」「トラップ解除のヒント1。カギとなる二桁の数字は、『兄』を別の表現に言い換えたうえで、それを数字化したものですわよ」「トラップはレディーの嗜みですの」「ヒント2。切るべき銅線は、カリフラワーの色。……だったと思いますわ」「そのうち快感になりますわよ。いわゆるトラップ&トリップというやつですわね」「をーほっほ。自分の世話は自分でなさいませ。トラップ処理も普段の生活も」「トラップは愛情。左様なら叔父さま」などと声を掛け、沙都子に近づこうとする鉄平を数々の即席トラップで撃沈。家の中はさながら戦場だった。
 ……この辺を巧みに描写できるようになれば、私も小説だか漫画だかのコンテストで見た記憶がある「ギャグ・コメディ部門」の受賞を目指せるのにな、と思う。でも、私には、百年経っても無理だ。
「鉄平、失礼しましたです。ぺこり」
 ――沙都子を立ち上がらせることには成功した。後は、鷹野の策に賭けるしかない。いや、それは不正確。もし鷹野が駄目だったら、部活メンバーと一緒にほかの作戦を考えればいい。
 絶対沙都子を救える。沙都子が自分の手で呪縛を打ち破った時点で、世界は良い方向に進んでいるはずだ。
 沙都子は前の世界やその前の世界を薄っすら覚えているのだと思う。だからあんな下手なネゴシエーションに説得されてくれた。当然のことを再認識――沙都子は、閉鎖された空間を打ち破るという考えを、ずっとずっとそれこそ何十年も前から持っていたのだ。

 ――間宮律子という女の遺体が入江診療所に運び込まれた。リンチを受けた跡がある。ただ、所持品のなかに大金が詰め込まれたバッグがあった。これの引き取り先がわからなくて困った。そんなとき、バッグのポケットに、連絡先が書かれたメモを発見。その番号に電話したところあなたが出た。
 穴の少なくないストーリーかもしれない。ただ、これで鉄平を呼び寄せることができると思った。鉄平は金にはめっぽう弱い。
 ところが、沙都子の予定外のあの騒ぎがあった後だ。そのタイミングでそんな電話を受けたら、罠を感じてしまうのではないだろうか? 大イベントが続けて二回起こると不自然さを感じるものだろう。それぞれが関係のない事象であったならなおさら。
 だからストーリーを変えた。
 ――沙都子が事故に遭った。とはいえ足を捻った程度。それなのに今日はここに泊めてくれと五月蝿い。沙都子には内緒で引き取りに来てくれないか。
 シンプルが一番。普段なら絶対迎えに来ないが、今回は必ず来る。もし引き取りに来なければ警察に相談するとか訳のわからない駄目押しもしておこう。
 実際、鷹野に電話を掛けてもらったら、鉄平はバイクで飛んで来た。
 
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 ふうん。北条鉄平ってこんな男だったのね。
 粗暴で無能でいつまでも大人になれない。田舎の輩そのまま。純粋混じり気なしのチンピラ。……でも、結構かわいいかも。
 ――鷹野は余裕をかましながら鉄平と対峙していた。
「沙都子はどこね?」
「北条さん……鉄平さん。お茶でも飲まれます?」
「ええから沙都子どこぉおるんね」
「ねえ、鉄平さんは入江先生のこと、どう思います?」
「んぁ? なんのことね? こっちぁあ気ぃ立っとるんよ。あほったるいこと抜かしとると――」
「入江先生は鉄平さんより頭も良くて顔も良い。お金も持っているし清潔感がある」
「黙って聞いとりゃ――」
「でもね! 入江先生には男らしさを感じられないの。鉄平さん、あなたにはそれがある」
「おどれ……おまえ、もしかして」
 鷹野は看護帽を外して白衣を脱ぎ、それらをベッドの下に仕舞う。鉄平が伸ばしてきた手を制する。
「待って。待ちなさい。これから準備をするから」
 病室の電気を薄暗くする。お香を焚く。次いでベッドの脇に蝋燭を立てる。
 そして、鷹野は赤いロープを持って鉄平に迫る。
「なんね?」
「くすくす。鉄平さんとあろう方が、こういう世界を知らないのかしら?」
「知っとっても、興味ないんね。すまんの。趣味に合わんかもしれんが無理矢理いかせてもらうわ」
「待ちなさい! いい? あなたは、いまからベッドに横になる。そして、私が愛を教える。私のことが好きになる。これは決定事項なの。私はあなたに対して絶対嘘をつかないわ」
「……めんどうじゃの。断るのもめんどうでならんわ。ええかね? わしはめんどうが嫌で言うこと聞くだけじゃからの」
「うふふ。本当は興味あるくせに」
 鉄平が横になる。鷹野は彼の両手両足をベッドに縛り付ける。
 鷹野は残りの服を脱ぎ下着姿になる。鉄平が薄目でそれを見ている。脱いだものをベッドの下に押し込む。
 そして、鷹野は新たな衣装に着替える。
「あん? なに始めるね?」
 それは怪しげな黒装束――ではなく、ジーパンにタートルネックの冬物セーター。そして、エプロン。エプロンには、ひよこのキャラクターとなにやらアルファベットが印字されている。
 鷹野は髪を括り後ろをゴムで止める。
「いまから愛を教えるわね……自分で言ってて少し照れくさいのだけど。うふふ。じゃあ、目を瞑って」
「目を……なにかいの……」
「いいから。そう。怖い? なら百から一までゆっくり数えて。心が落ち着くはずだから。さて、楽しいプレイの始まり始まり。くすくすくす」
 鷹野はベッドサイドに腰掛ける。ほとんど聞こえないような声で呟く。鉄平の太ももを撫でながら。
 
続く・・・・
 
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※今回の大賞の一般選考は3社連動でおこなっております。このページにある作品は、最終選考候補作の1/3となります。
ジャンルに関係なく、1作品、これだ!と思う作品にご投稿いただければと思います。

※投稿してくださった方には壁紙を差し上げます。

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(C)竜騎士07/07th Expantion