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ノミネート

作品詳細

05.告別の日〜bye-bye hinamizawa syndrome〜 (PN:海砂)
 
<0>
 どうせ僕は救われない。

 ずっとずっと罪を背負ってきた。

 昔も今もこれからも。

 僕は化け物。この世にいてはならない存在。

 罪を僕に、僕に死を。僕は決して許されない。

 許されたいと願うのは罪。

 でも願わくば、誰か僕の罪を背負ってください。
 
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<1>
 昭和59年初夏――まだ太陽光が猛威を振るっていない頃、梨花が惨劇を打ち破ってから一年ほど経ったある日。
 僕は梨花たち皆と教室にて、放課後の部活を楽しんでいた。今回の部活のゲームはトランプの大貧民だ。
 日はまだ高く、外は明るい。まだ十分遊んでいられる時間帯だ。
 教室には部活メンバーしかいない。隅のほうで机を囲み、圭一から時計回りにレナ・沙都子・梨花・僕がいた。
 圭一がカードを切って皆に配る。部長らしくキレのある素早いカードさばきだった。
 そういえば、圭一が部活のリーダーになってからという意味でも一年ぐらい経つことになる。
 部長が変わったのは魅音と詩音が卒業して高校に行ってしまった時。
 最初は正直、せっかく一緒に学校に通えるようになったのに……と二人が分校を去ってしまったことに寂しさや不満があった。でもたまに放課後に来ては一緒に部活をやるので、僕も皆も寂しくはなかった。
 だから、僕は今の生活に十分満足していた。
 終わらない昭和58年を抜け出したことが、皆が笑顔でいられる世界を迎えたことが、本当に嬉しかった。
「羽入、どうしたの? いつになく間抜けな顔して」
 梨花がトランプで口元を隠しながら小声で言ってくる。
 いつの間にか笑っていたらしい。でも人の顔を指して間抜けとは梨花も酷いやつである。
「あぅ失礼なのですよ梨花っ」
「それで、どうしたのよ?」
 僕が怒っても梨花は気にしない。
 まったく昔はこんな子じゃなかった。どこでどう間違ったのか。
 まあ、聖人のような梨花なんていたら怖いのだけど。
「なんでもないのですよ。平和だなって思っただけです」 
「そうね、平和っていいわね」
 お互いに顔を見合わせ、微笑んだ。

 部活は圭一の連敗が続く。Jバックをすれば途端に3で流され、取って置きのAは誰かの持つ2に蹂躙され、渾身の力で革命をしては他の皆に革命返しをされる始末。
 ついていないといえばその通りなのだが、運も実力のうちとされる部活の部長に弱音は許されない。
 とはいえ、最近では不慣れだった部活の進行も圭一は余裕でこなしており、部長としてはよくやっている。
 部長時の圭一は本当にかっこいい。
「な、なぜだぁぁあああ!」
 ……ま、負けているときは心底見苦しいのですが。
 負けた圭一に皆で罰ゲームを執行していると、魅音と詩音が教室にやってくる。
「「圭ちゃん何それ! あっはっはっはっはっはっは!」」
 魅音と詩音も圭一の姿を見て笑っている。
 圭一の罰ゲームはいつものコスプレ。
 連敗のため今の圭一はスク水の上からメイド服を着て、猫耳・首輪・しっぽ装備+αという凶悪なスペックを誇っていた。
「うわ、魅音! 詩音も! 後生だ、見ないでくれぇ!」
「そんなこと言われても…ねぇ詩音?」
 魅音が詩音に同意を求める。
「ですよねお姉、ぷっくっく」
「「あっはっはっはっは!」」
 皆の笑い声が教室に響き渡った。
 幸せだった。この幸せがいつまでも続くことを願った。
 けれど……幸せは長くは続かないものだと、楽しいパーティーもいつかは終わってしまうものだと、僕は再び知ることとなった。
 
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<2>
 次の日のこと。
 朝、バタバタと慌しい周囲の様子に僕は目を覚ます。掛け布団から顔を出すと梨花たちは既に起きており、忙しそうにしている姿が見えた。まだ寝足りないのを我慢して、かけ布団を自分の体から無理矢理剥がすと訊ねた。
「あぅ、何かあったのです? まだ遅刻する時間じゃないのですよ」
 僕は時計などなくても時間が正確に分かるが、念のため床に置かれている沙都子の目覚まし時計を確認する。やはり、まだ普段家を出る時刻より一時間も早かった。
「あら、羽入おはよ」
「羽入さん、おはようございますですわ」
「おはようなのです、あぅあぅ」
 朝の挨拶を済ませた後、梨花たちに再び訊ねた。
 梨花は朝食を用意しながら教えてくれた。フライパンの上で焼けるたまごの匂いが食欲をそそる。
 制服に着替えながら、梨花の話を聞く。
 どうやら、入江から診療所に来てくれという電話連絡があったようだ。
 呼ばれたのは梨花と沙都子の二人で、途中診療所に寄るから早めに家を出るとのことだった。
 ご飯は梨花たちに合わせて一緒に食べたが、梨花たちは先に家を出ていってしまった。
 まだ学校に行く時間には早かったので、三人分の食器を洗ってから僕は一人学校に行くことにした。
 この時の僕は何も知らずに、いつもの幸せな一日が来ると信じていた。

 いつもの時間に家を出て、学校に到着した。教室を見回したが、まだ梨花たちは来ていないようだ。
 梨花たちが少し遅れるかもしれないことを知恵に伝えるため、職員室に行く。
 事情を軽く説明して職員室を出た。
 途中廊下で、登校してきた圭一とレナの姿を見つけた。二人と目が合った。
「お、おはよう羽入」
「おはよ、羽入ちゃん」
「おはようなのです」
 職員室から出てきたのを不思議に思ったのだろう。圭一は聞いた。
「知恵先生になんか用事あったのか?」
「あぅあぅ、梨花と沙都子が診療所に寄るので遅れるかもということなのです」
「診療所? なんだろ、だろ?」
 レナと圭一は首を傾げた。そういえば僕も理由は聞いていない。何のために診療所に行ったのだろうか。
 それを考えようとした直後、丁度チャイムがなったので、圭一たちと共に急いで教室に入って授業を受けた。
 
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<3>
 二時間目の休み時間に、梨花と沙都子はとてもにこやかな笑顔で教室に入ってきた。
 沙都子から離れた梨花に、なぜ嬉しそうにしているのかを訊く。
 梨花は話すのをためらった振りをして少し意地悪をしたが、実は彼女も早く言いたいようだった。
 僕は梨花に先を促した。
「あぅあぅ、もったいぶらず教えるのです♪」
「ふふ、しょうがないわねぇ」
 梨花は昭和58年の惨劇を打ち破った時のような最高の笑顔で答えた。つられて笑顔になる。
 でも、聞かされた内容は決して楽しい内容ではなく、僕を打ちのめした。

「実はね、羽入。入江が雛見沢症候群の特効薬を完成させたのよ。これで沙都子が治るの!」

 梨花の言葉に僕は凍りついた。
 ダッテ、特効薬ノ完成ハマダマダ先ダト思ッテイタカラ。
「悟史も目を覚ますのよ!」
 ――ダッテ、ダッテ、マダ僕は生キタイノニ。
「これで雛見沢からあの忌々しい病気がなくなるのよ!」
 梨花ハ何デソンナニ嬉シソウナノダロウ。
「あぅ……」
 この時、僕はやっぱり許されてなかったことを知った。
 僕こそが雛見沢症候群の正体、元凶、親玉なのだ。故に雛見沢症候群が根絶されると僕も消える。
 そういう運命だ。
 雛見沢症候群は罪の象徴。僕の背負うべき罪。だから雛見沢症候群が消える時、共に消えなくてはならないのだ。
「羽入……どうしたの?」
 雛見沢症候群が無くなったら僕は死ぬ。
 正確には、雛見沢症候群ウィルスの女王が僕の命の根源。梨花が女王感染者でなくなれば僕は死ぬ。
 本当なら突然女王がいなくなった場合、他の古手の血を持つ別の者に女王は移る。けれど、もう古手は梨花以外誰もいない。
 梨花が僕の命そのものだった。
 だから僕は梨花の前に姿を現した。梨花に世界を移動する手段を与え、彼女を生かした。
 それこそが梨花を守ることになったきっかけだったことを思い出す。
 僕は梨花のことを深く知りすぎてしまった。
 彼女が未来を欲っしており、その願いが叶うことを僕も望んでしまった。
 その時だった。僕が死を覚悟したのは。
 そう、鷹野の銃弾で死ぬべきだった。僕は惨劇が決着した時にこの舞台から退場すべきだった。
 やはり罪は誰かが償わなくてはいけなかった、僕は死ななければいけなかった。どうせ許されはしないのだから。
 だけど梨花に助けられ、僕は幸せを知った。今の僕は死ぬのが嫌だと感じている。
 雛見沢症候群がなくなる日は、入江の治療薬研究によって一歩一歩確実に近づいていることは知っていた。それがたまらなく怖かったが、よもやこんな早くその運命の日が来るとは思っていなかった。
 特効薬の投与は今日から全村民に対し行われていくようだ。予定では一週間後を最後に、女王の駆除をすると聞かされた。
 沙都子や悟史、他の村民に特効薬を使用するのは構わない。でも梨花に使われれば、おしまいだ。
 今回は鷹野の時のような裏切り行為ではなく、国の歴とした措置だから打ち破るなど不可能。それが僕にもう一度、諦めという覚悟をさせた。
 それに、僕がいるせいで皆が苦しんでいる。誰にも相談などできるはずもない。
 正確には雛見沢症候群のウィルスのせいだが、どちらにしろ今まで皆を苦しめてきた病がなくなる頃に言える筈がなかった。
 なにより、梨花のこの笑顔を壊したくない。梨花の残念そうな顔はもう見たくなかった。
 だから僕は言わない。
「ねえ、どうしたのよ? 羽入も喜びなさいよ」 
 僕の心中を判るはずもなく、梨花は興奮して話している。
 世界が歪み、反転する。
 梨花の声が、よく聞き取れない。
 貧血で倒れる前のような心の不安定さが今の僕にはあった。
「それはよかったのです」
 なんとかぎこちなく笑顔で答える。梨花にばれるぎりぎりって所だろうか。
「これで皆、元通りなのですね」
 僕が消えて皆が元通りになる。そう、それが自然なのだ。
 そのために僕は身を引こう。
 たぶん、皆悲しんでくれる。きっと梨花が一番悲しんでくれるだろう。
 梨花は泣いて、なんで僕がいなくなったのかと嘆いてくれる。それだけで十分ではないか。
 梨花も何年か経てば僕を忘れて、皆と楽しく生きるのでしょう。それは悲しいことだけど、それが普通の世界なのだ。
 どこの世界に神と一緒に住む人間がいるというのか。
 ――――……僕は間違いだった。
 だから消える。空気のようにすぅっと消える。
 それでも……少しでも皆に覚えていて欲しいと思ってしまうのは、なんてわがまま。なんて自分勝手なのだろう。
 自己嫌悪に陥り、気分が悪くなった。だから僕は早退することにした。
「ちょっと気分が悪いので、僕は早退するのです」
「羽入、ちょっと、なんで?」
「気分が悪いのに理由はないのですよ。それとも梨花は僕がいないと授業も受けられないのですか?」
「え?」
 梨花は僕の悪意のこもった言葉に目を丸くした。
 言ってからまた自己嫌悪。
 梨花に当たっていいわけない。たとえ梨花が僕を不快にさせても彼女には悪気がないのだから。彼女は知らないのだから。
「あ、ごめんなさい。気分が悪くてイライラしてたのですよ。大丈夫、明日には元気になってますですよ」
 謝ると教室を出る。
「あ、羽入! 待ちなさい!」
 梨花の声が後ろからするが無視だ。
 僕は一週間後に死ぬ。
 予定された死の時刻、それは梨花がいつも感じていた恐怖。
 今、初めて僕は彼女の痛みを知った。
 とてつもなく怖い。僕は梨花のように強くないのだと今更ながら思う。
 梨花の後ろをついて歩いた木々の生い茂った通学路を僕は駆けた。
 
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<4>
「待って! 羽入待って!」
 後ろから梨花の声がする。
 振り向くと梨花が追ってきていた。心配してくれたみたいだ。
 あの梨花が、僕を……ううん、梨花はいつもは意地悪だけど、本当は優しい子だ。
 数多くの痛みを知った彼女は誰よりも痛みに敏感なのだ。僕の異変を感じ取ったのだろう。
 でも足を止めることなどできはしない。
「付いて来ないでください!」
 梨花を拒絶する。
 僕と梨花の追いかけっこ。気づくと、古手神社の階段のところまで来ていた。
 いつもなら梨花が軽快に階段を上がる姿を見て、僕が彼女の後を追っていく。
 でもいつも僕は階段の途中で疲れてしまって、もう少しゆっくり上りましょうと梨花にお願いする。
 梨花はいつも『いやよ、先に帰ってるわ』と言いますが、結局、階段の上のところで待っていてくれた。
 それが昨日まで当たり前のことだったのに、なぜか懐かしく思える。
「羽入、止まりなさい! 何を隠しているのよ!」
 今日はいつもと逆だった。梨花が僕を追いかけてくる。
「何もないのですよ! 僕のことはほっといて欲しいのです!」
 階段を駆け上がりながら叫んだ。
 僕はすぐ消える。だからかまわないで欲しい。
「嘘よ!」
 僕が思ってもないことを言っていることは梨花にすぐ見破られた。
 そう、嘘だった。放って置いて欲しいなら静かに教室を出るべきだった。でもそれができなかった。助けて欲しかった。
 それでも無理なのは分かっているから梨花から逃げた。
 こんな時でも癖というのは残ってるもので、僕は祭具殿のほうに向かってしまっていた。
 壁をすり抜けて祭具殿の中に入る。
「僕の……好きな場所、僕の家……」
 力なく呟く。
 ここは一週間後誰のものでもなくなり、オヤシロさまは形だけのものとなる。
 それでも雛見沢の皆は僕を崇めてくれるのだろうか。
 梨花が祭具殿の扉を激しく叩く。
「羽入! 出てきて! お願い! お願いだから……出てきてよ……!」
「嫌なのです、梨花はどっか行くのです!」
「だったら理由を説明して、納得したら私はここから消えるから……!」
「うるさいのです!」
 梨花の声を聞きたくなかった。聞きたくないので両手で耳を塞いだ。それでも梨花の声は聞こえた。
 彼女は静かに、でも大きな声で言った。
「羽入、聞いて。……私はあなたに本当に感謝してるの。いくつもの世界で挫折した。諦めようと思った。でも、あなたはいつも後ろ向きだったけど生きろと言ってくれた。最後には私と共に戦ってくれたよね?」
 それは当たり前のこと。僕は梨花が好きだから。梨花と楽しく暮らしたいから。
 なのに、どうしてこんなことになったのだろう。
 神は自らの命を絶つことはできない。だから梨花の奇跡によって生かされた時、僕もそれでいい、皆とのお別れはまだ先にしようと思っていた。なのに、この仕打ちはあんまりだ。
 どうせこんな苦しい思いをするのなら、皆との楽しい暮らしなど知らずに死ねばよかった。
 でも今となっては手遅れで、この苦しみは死ぬまで消えない。もう幸せな日々が続いて欲しいと願ってしまっているのだから……。
 なんで僕が、どうして今?
 これが堂々巡りにはまるというのだろう。
 同じことを何度も考えて、なんでこうなんだって思うが、そのなんでがよく分からなくてまたそれを考える。不毛な自問自答。
 僕の返事がなくても梨花は話し続けた。
「あなたがもし私を後押ししてくれなかったら、私は皆に相談なんてできなかった。だから今度は私が、あなたの相談に乗りたいと思ってる」
「あぅ……」
 いつの間にか耳を塞ぐのをやめて、梨花の言葉に耳を傾けていた。
「圭一やレナが言ってた。悩んでいる時はまず仲間に相談しろって。それを前の世界であなたも学んだはずよ。そうよね?」
「……黙れなのです!」
「私はあなたが相談してくれるまで絶対黙らない!」
 梨花の言葉は僕の心に無理やり入ってくる。僕の悩みなんかお構いなしに……。
 打ち明けたくたくなってしまう。助けを求めたくなってしまう。だから、これ以上は言わないで欲しい。
 でも梨花は話をやめようとしなかった。
「私は何日でもここにいる。あなたが出てくるまで、あなたが相談してくれるまで、絶対ここを動かない」
「うるさいうるさいうるさいのです! 僕だって相談したいです!」
 梨花の言葉をかき消すように僕は叫ぶ。それに合わせて梨花も叫んだ。
「馬鹿ね! だったら相談しなさいよ!」
「それは分かってます……。けど、今回は事情が違うのですよぉ!」
「だからその事情を教えなさいって言ってるのよぉ!」
 ここまで来ると自棄になっていた。
「分かりました。教えてあげますですよ……僕は――!」
 祭具殿から出て梨花を見ると、彼女に当たるように言葉を叩きつける。
 雛見沢症候群が消える時に自分が消えることを、自分がいると梨花は一生雛見沢症候群という奇病を背負って生きなければいけないことを……皮肉を交ぜて話した。
 それを梨花は嫌な顔せず聞いていた。
 話が終わると再び梨花は口を開いた。
「馬鹿ね……。あなたが消えたらそれはもう私にとって幸せな世界じゃないわよ。誰が欠けても嫌、私は前に言ったよね。それを忘れたとは言わせないわ」
 たしかに言っていた。僕を鷹野の銃弾から守った時に、敗者なんかこの世界にいらないと奇跡を起こして。
「例え、私の中の雛見沢症候群がなくならなくても今まで普通に生活してこれた。だから大丈夫。あなたとずっと一緒にいられるなら安いものよ。ね? だから打ち明けて」
 フッと心が軽くなった気がした。
 梨花の表情が間違いなく笑顔だったから。
 梨花の表情が想像していたような落胆したそれではなかったから。
 けれど、特効薬の接種は国が決めたこと。どうにもならない。
「わかりました……」
 話せば梨花も諦めてくれるだろうと思いながら、梨花に打ち明ける。
 自分は一週間後、必ず消されると。
 本当はここにいたいのだけど、いることができないと。
 だから、何も言わずにさよならしようと思っていたと。
 梨花の顔が見れなかった。
 だって……諦めたというのに、せっかく覚悟したのに、ここにいたいと思っているのだから。
 僕の頭にそっと温かい何かが乗る。顔を上げると梨花の手だと分かった。
「つらかったよね。苦しかったよね……。でも、もう平気よ。私はあなたを死なせなんかしない」
「でも、どうするというのですか……無理なのです。だから僕は諦めました」
 梨花が僕の目をまっすぐ見つめて問いかける。
「羽入は生きたくないの?」
「生きたいのです……。皆とまだ遊んでいたいのです、けど……」
 僕の頭を撫でていた梨花は僕の身体を優しく包み込んでくれた。そして一言だけ耳元で優しくささやいた。
「私はあなたの本当の言葉が聞きたい。言って?」
 梨花の問いかけに涙がこぼれ落ちる。いっぱい流れる。梨花の顔が涙でぼやけた。
 感情が爆発し、気づいたら助けを求めた。
 もう耐え切れなかった。拭っても拭っても出てくる涙が僕の心を素直にした。
 そんな僕を梨花は力強く抱きしめてくれた。
「大丈夫、まず皆に相談しましょ。そうすればきっとよりよい未来へ進めるから。今度は私があなたを助ける! きっと必ず!」
 締め付けがきつくて痛いけど、温かくて心地よかった。
 鼻水をたらしながら、僕は梨花に何度も何度も頷いた。
 梨花がハンカチで鼻水を拭いてくれる。それが本当に嬉しくて涙は一向に止まる気配をみせなかった。 
<1>
 昭和59年初夏――まだ太陽光が猛威を振るっていない頃、梨花が惨劇を打ち破ってから一年ほど経ったある日。
 僕は梨花たち皆と教室にて、放課後の部活を楽しんでいた。今回の部活のゲームはトランプの大貧民だ。
 日はまだ高く、外は明るい。まだ十分遊んでいられる時間帯だ。
 教室には部活メンバーしかいない。隅のほうで机を囲み、圭一から時計回りにレナ・沙都子・梨花・僕がいた。
 圭一がカードを切って皆に配る。部長らしくキレのある素早いカードさばきだった。
 そういえば、圭一が部活のリーダーになってからという意味でも一年ぐらい経つことになる。
 部長が変わったのは魅音と詩音が卒業して高校に行ってしまった時。
 最初は正直、せっかく一緒に学校に通えるようになったのに……と二人が分校を去ってしまったことに寂しさや不満があった。でもたまに放課後に来ては一緒に部活をやるので、僕も皆も寂しくはなかった。
 だから、僕は今の生活に十分満足していた。
 終わらない昭和58年を抜け出したことが、皆が笑顔でいられる世界を迎えたことが、本当に嬉しかった。
「羽入、どうしたの? いつになく間抜けな顔して」
 梨花がトランプで口元を隠しながら小声で言ってくる。
 いつの間にか笑っていたらしい。でも人の顔を指して間抜けとは梨花も酷いやつである。
「あぅ失礼なのですよ梨花っ」
「それで、どうしたのよ?」
 僕が怒っても梨花は気にしない。
 まったく昔はこんな子じゃなかった。どこでどう間違ったのか。
 まあ、聖人のような梨花なんていたら怖いのだけど。
「なんでもないのですよ。平和だなって思っただけです」 
「そうね、平和っていいわね」
 お互いに顔を見合わせ、微笑んだ。

 部活は圭一の連敗が続く。Jバックをすれば途端に3で流され、取って置きのAは誰かの持つ2に蹂躙され、渾身の力で革命をしては他の皆に革命返しをされる始末。
 ついていないといえばその通りなのだが、運も実力のうちとされる部活の部長に弱音は許されない。
 とはいえ、最近では不慣れだった部活の進行も圭一は余裕でこなしており、部長としてはよくやっている。
 部長時の圭一は本当にかっこいい。
「な、なぜだぁぁあああ!」
 ……ま、負けているときは心底見苦しいのですが。
 負けた圭一に皆で罰ゲームを執行していると、魅音と詩音が教室にやってくる。
「「圭ちゃん何それ! あっはっはっはっはっはっは!」」
 魅音と詩音も圭一の姿を見て笑っている。
 圭一の罰ゲームはいつものコスプレ。
 連敗のため今の圭一はスク水の上からメイド服を着て、猫耳・首輪・しっぽ装備+αという凶悪なスペックを誇っていた。
「うわ、魅音! 詩音も! 後生だ、見ないでくれぇ!」
「そんなこと言われても…ねぇ詩音?」
 魅音が詩音に同意を求める。
「ですよねお姉、ぷっくっく」
「「あっはっはっはっは!」」
 皆の笑い声が教室に響き渡った。
 幸せだった。この幸せがいつまでも続くことを願った。
 けれど……幸せは長くは続かないものだと、楽しいパーティーもいつかは終わってしまうものだと、僕は再び知ることとなった。
 
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<5>
 僕が落ち着いてから梨花はすぐに皆を集めてくれた。
 レナ、圭一、沙都子はすぐに来てくれた。
 魅音と詩音は梨花が高校に電話し呼び出すと、高校の授業中なのにも関わらず無理して雛見沢に戻ってきてくれた。
 とうとう古手神社の本殿前に皆が集結した。
 梨花にした話をもう一度する。皆が信じてくれるかどうかが怖かった。それも梨花が味わってきた恐怖の一つであったが、当の彼女は今、『大丈夫よ』と僕を後押ししてくれている。
 鷹野の件もあり、皆は僕の話をすぐに信じてくれた。
 圭一がまず口を開く。
「なるほど。たまに羽入が消えたり、いきなり現れたりするのは羽入がオヤシロさまだったからか」
「なのですよ圭一。それで、羽入を助ける方法はないのですか?」
「今は……ない。でも皆で考えれば必ずいい方法が見つかる。そう信じるんだ」
「そうだよ、だよ。皆で考えよう! レナも考える」
「梨花ちゃんを皆で助けた時のように私も当然協力するよ」
 レナと魅音が助けてくれると約束してくれた。
「羽入さんはえらいですわ。仲間に相談するという選択をとれたんですから」
 レナの横から沙都子にそう言われ、僕は恥ずかしくなる。
「沙都子、違うのです。打ち明けられたのは梨花が後押ししてくれたからで、僕はそんなんじゃないのです」
 そうなのです、僕は全然偉くないのですよ。むしろ弱虫だったのです。
「いや、羽入は梨花ちゃんに、仲間に相談したじゃないか。相談するというのはとても勇気のいることだ。だから沙都子は羽入を偉いと言ったんだ」
 彼の言葉に沙都子は頷いている。
 圭一が僕の頭を撫でてくれた。荒々しいけど優しくて心地よかった。
 レナや、魅音、詩音も彼の言葉に頷く。
「羽入ちゃん、レナもそう思う。何も、最初から全員に話さなくてもいいと思う。一人でもいいから誰かに相談することが大切なんだよ」
「そうそう。一人に相談して、整理をしてから私たちに相談しても遅くはないよ。羽入は正しい選択をした、それはここにいる皆が分かってる。最初の相談相手が私じゃないのは悔しいけどね」
「まあまあ、お姉。梨花ちゃまじゃしょうがないですよ。ずっと一緒にいた親友ですしね」
「私としましては親友の座を取られたようで複雑ですけど、羽入さんのことは好きでしてよ。だから相談してくれたことがとても嬉しいんでございますわ」
「あぅあぅ、梨花、皆ありがとうなのです」
 僕がお礼を言うと梨花が首を横に振った。
「お礼を言うのは私のほうよ。私は沙都子と羽入どちらも親友だと思ってる、どちらが欠けても私は幸せじゃなかった。羽入、相談して、助けを求めてくれて、本当にありがとう。古手梨花の幸せを壊さないでくれてありがとう」
「だったら俺も。前原圭一の幸せを壊さないでくれてありがとう」
「レナも。レナの幸せな日常を壊さないでくれてありがと!」
「同じく。園崎魅音の幸せを、ありがとね」
「私も梨花の沈んだ顔は見たくない。北条沙都子の幸せを、ありがとうですわ!」
「そして沙都子の幸せは私の幸せ。園崎詩音の幸せを壊さないでくれてありがとです☆」
 相談してよかった、そう思った。
 皆が助けてくれることよりも、僕が皆の幸せの一部であることが何より嬉しかった。
 もし一週間後消えることになろうとも、僕はもう後悔しない。それが仲間に相談した結果であるのなら受け入れよう。諦めずに戦って、それでも駄目だったのならその運命に従おう。
 でも僕は彼らを信じてる。昭和58年の梨花の時のように絶対助けてくれるって信じてる。
 僕は何もやっていない。だから諦めるのはまだ早い。仲間と共に僕は運命に抗ってみせる。
「皆、一緒に戦ってください。僕を助けてください!」
「ああ当然だ。皆、やってやろうぜ!」
「「おー!」」
 運命を打ち破る、皆と。
 
続く・・・・
 
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※今回の大賞の一般選考は3社連動でおこなっております。このページにある作品は、最終選考候補作の1/3となります。
ジャンルに関係なく、1作品、これだ!と思う作品にご投稿いただければと思います。

※投稿してくださった方には壁紙を差し上げます。

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(C)竜騎士07/07th Expantion