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ノミネート

作品詳細

04.圭一の告白タイム編 (PN:磯貝波帆)
 
1:【夜の集会所・お泊り会にて】
「……なあ、梨花ちゃん。『ループしていた百年の間』でさ、『俺に恋人がいた世界』ってあった──?」
「……みー、ほんの数回ですが、『圭一が女性と付き合っていた世界』も確かにありましたですよ、にぱ〜☆」
「「「えええぇ!? だ、誰とぉ……!?」」」

 鷹野三四との最後の戦いも全てクリアし、梨花ちゃんが皆と一緒に『初めての新しい夏』を迎えられた、幸せな8月のある夜。
 俺、前原圭一の発案により、期待の新人・羽入も含めたフルメンバー7名は、夏休みの部活として、村の集会所にて「お泊り会」を開いていた。
 その中でも、和室に皆で布団を敷き、枕を並べての布団談話が、やっぱり一番に盛り上がるメインイベントだ。
 当然、話題の中心は梨花ちゃんで、羽入と一緒に『百年間のループ世界』を全て語ってくれた。
 その小さな身体からは信じられないような体験談は、同時に初めて聞く『異世界のもう一人の自分の冒険談』でもあり、俺達は真剣に耳を傾けていた。
 そうして話が一段落した頃、この後の『ある決意』もあり、俺は少し話題を変えてみようと『恋愛ネタ』を振ってみたんだ。
 やっぱり女子達も、この手の話題は大好きみたいで、えらく食い付きがいい。全員がハモって同じセリフを叫んだ。
 後はもう、俺という男子の存在を無視して、女子同士のキワドイ会話が始まった──。

「あらあら、それじゃあ、私が圭ちゃんの恋人っていう世界もありました?」
 こういう話に一番抵抗なく入ってくる詩音が、まず自身のことを聞いてくる。
「みー、それがなかったのです。意外と詩音は固くて、やっぱり一番は悟史なのですね、にぱ〜☆」
「さっすが私! 悟史君一筋だもんね!」
 入院中の悟史へ純愛一路の詩音は、沙都子に対し自慢げに胸を張った。
 逆にレナは、自分では切り出せないのだろう。真っ赤な顔をして、はうはうしている。
「じゃ、じゃあ、レナと付き合ってた世界はあったかい?」
「は、はうー! 魅ぃちゃん?!」
 チラリとレナを牽制するように見ながら、代わりに魅音が聞いてくる。
「そうですねぇ、……ありましたです。ね、羽入?」
「あうあう、はい、4回ありましたです」
「ふーん……、二人はどんな感じだった? ね、ね、おじさんに教えて!」
「──言っておきますけど、これはオヤシロサマのマジネタなのですよ。まだ羽入が実体化していなかったので、すぐ真横で聞いたリアル会話にドキドキのニヤニヤものなのです。にぱ〜☆」
 皆に全てを受け入れてもらえ、すこぶる機嫌のいい梨花ちゃんが、初めての新しい夏に煽られるように饒舌に語ろうとする。羽入も止めるどころかノリノリだ。
 異世界の事とはいえ俺は恥ずかしかったが、自分で話題を振った手前もあるし、何より正直興味があったので、とりあえず大人しく聞いてみることにした。
「みー、そうですね。あれは──…」
 
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2:【恋人・竜宮レナといる風景】
「いやぁ、すごい雨だなぁ……」
「ホントだね、圭一くん。レナもびしょ濡れだよ」
 ゴミ山にある『レナの秘密基地』の中。廃車のワンボックスで、二人は肩を寄せ合っていた。
 ──そう、いつものように圭一とレナは、ダム建設工事跡地のゴミ山で『宝探しデート』を楽しんでいた。
 そこに突然のにわか雨。『秘密基地』は雨宿りに、ピッタリの空間だった。
「圭一くん、──はい、タオル」
 さすがはレナの秘密基地なだけあって、ちゃんとタオルも装備済みだ。
「おっ、サンキュー」
 礼を言って受け取ると、まずは自分の頭を簡単に拭き、すぐに隣に座っているレナの顔や髪を丁寧に拭いて上げる。
「……圭一くん、ありがとう」
 レナがちょっと照れながら礼を言うが、それを圭一は上の空で聞いていた。
「──ブッ、ら……!?」
 レナのブラウスが雨に濡れたせいで、透けて下着が丸見えなのだ。
 ドキドキして思わず唾を飲み込む圭一。 そんな圭一の視線の先で、レナもようやく事態に気付く。
「はうぅ! け、圭一くん、見ちゃらめえぇ……!」
 互いの異性を意識し合った、真っ赤な顔が初々しい二人。
「……でも、本当にレナなんかでいいのかな、かな。圭一くんの『恋人』だなんて……」
 赤い顔を隠すため、窓の外を眺めるフリをするレナが、ぽつりとつぶやく。
「あ、当り前だろ。俺が好きなのはレナなんだから」
「──ホントに? 圭ちゃんが一番好きなのは、てっきり魅ぃちゃんだと思ってたよ……」
「よ、よせよ、魅音なんて関係ないさ」
「……ふーん、関係、ない──?」
「ああ、関係ないさ──」
 圭一がそう言った途端、レナが突然叫ぶ。
「──嘘だっ!!」
 その表情からさっきまでの初々しさは消え、禍々しいまでの豹変ぶりに、圭一は心底びびる。
「あれれぇ〜? 隠し事するのは仲間じゃないって、圭一くんは言ってたよね?」
 急に人格が変わったように語り出す恋人に、正直恐怖すら感じていた。
「仲間以上の恋人のはずなのに、どういうことなのかな? かな?」
「お、おい、レナ、急にどうしたんだよ……」
「圭一くん、ちゃんとレナの目を見て話してくれないかな? かなぁ?」
「わ、わかったから……、俺に悪いところがあったのなら、とにかく謝るからさ、な?」
「いきなり謝るってどういうことなのかな? かなあぁ? これじゃレナが圭一くんを苛めてるみたいだよね」
「いや、だからさ、何がなんだか、はははは……」
「それをさっさと白状しろって言ってるのがまだわからないのかなぁ? かなあぁぁ?  圭一くん、すごくイライラするよ!」
 そう言いながら乱暴に車のダッシュボードを開けると、中から何やら大きな書類封筒を取り出す。
 そして無造作にその中身を引き出すと、あくまでとぼけようとする圭一に突きつけた。
「……レナが何も知らないと思って……?」
 それは大きく引き伸ばされた写真。そこには魅音と腕を組んで笑っている圭一の姿がバッチリ写っていた。
「──ううっ……!」
「富竹さんに撮ってもらった写真だよ」 
 さらにレナが手動で車の窓を開けると、外には傘を差した富竹の姿があった。
「どもー、富竹です。いやー、前原君、ごめんねぇ。野鳥を撮影してたら偶然撮れちゃってさ、ははは」
 富竹はすまなそうに謝ると、そそくさと立ち去っていく。
「可哀想!! 可哀想な圭一くん!! うまくレナを出し抜けるとでも思ったの!? くくく……あははは!!」
 真っ青な顔をして、圭一は懸命に言い訳を考えるが、レナの迫力の前には全ては無駄だ。
「悪い子にはオヤシロさまのお仕置きだよ……」
 ゆっくりとにじり寄るレナ。狭い車内には逃げ場はない──。
「圭一くん、後で『転校』させてあげるからね……」
 レナの右手がゆっくりと振り上げられた。その時初めて、その手の先にある物が鉈であることに気付く圭一であった。
 遠くで、ひぐらしのなく声がした──…。

「圭ちゃん、ひどぉーい!」
「見損ないましたわよ! 圭一さん!」
 梨花ちゃんの話を聞き終わると、魅音と沙都子が非難の声を上げる。
「はうぅ、圭一くんに浮気されちゃったよお……」
 異世界での話なのに感情移入してしまい、しくしく泣き出すレナ。
「誰もが予想した通りの、お約束的要素満載の展開でしたねぇ」
「これはもはや様式美なのですよ。にぱ〜☆」
 詩音の解説に、梨花ちゃんがコメントを添える。
「おーい! レナが鉈持ってるんだぞ。突っ込むならまずソコだろ!?」
 しかし、そんな俺の意見などスルーして、レナが顔をキッと上げて迫ってくる。
「──いいえ、二股の方が大問題です! どういうことなのか説明してもらえないかな? かな?」
「え、ええ……っ!?」
 反射的に『異世界での責任まで俺に求めるな』と正論を唱えそうになったが、慌てて押し止まる。
 本当は理不尽なんだけど、ここで強気に突っぱねて、好感度悪くしても『後でマズイ』しなぁ……。
 ここはグッと我慢して、意識して出来るだけ爽やかな笑顔を作る。
「……異世界の事だから関係ない──なんて逃げる気はないよ。でも、『同じ俺』だから言えることなんだけど……」
 耳元で甘くささやく。
「──そんなヤキモチ焼くレナを、俺はカワイイと思うぜ……」
 効果は抜群で、はううとレナの顔が真っ赤になる。
 ──よし、これでレナ的にはオーケーだな……。
 そうなのだ。この後の『ある決意』を考えると、好感度維持は絶対条件だった。
 うまくまとめて一応セーフと安心していると、羽入が横から妙にからんでくる。
「でも、圭一もがんばったのですよ。『傷ついた女性は見たくない。ましてや自分が原因で』と、実に心の優しい男子なのです」
 何だよ、それって気をつかったフォローのつもり──?
「そんな圭一ですが、『浮気は男の甲斐性だ』と、常日頃から岡村君と富田君に熱く語っていたのはナイショです」
 あわわわ、羽入ってそういうキャラだったの!? オヤシロサマが自ら火種まくのは掟破りだろぉ……!
「……ふーん、男の甲斐性ぉ、ねぇ。それってどういう意味なのかな、かなぁ……」
 ゆっくりと背中越しにレナが近づいてくるのが、後頭部に当たる熱気でわかった。
「え、ええっと、それはだなぁって……ひでぶっ!」
 振り返って言い訳しようとした俺に、躊躇なくパンチを腹に叩き込むレナ。ぐったりとダウンする俺。
「ご、ごめんなさぁいぃ……」
 く、くそおぉ……、俺はただ、好きな子に『告白』がしたいだけなのに……。


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3:【圭一の密かな決意・1】
 ──そう、俺はある『重大な決意』をもって、この「お泊り会」に参加していた。
 それは今夜のチャンスに『あの子に告白する』こと──。
 彼女のことばかりが気になった。授業中も目で追ってしまう。『彼女が好きだから』という至極単純な理由だ。
 鷹野三四との死闘を乗り越えた今なら、彼女への好意がはっきりと自覚できる。
 ただ、告白にはやっぱり勇気が必要だ。『二人きりになれる静かな場所』も必須だし。
 しかし、そんな都合のいいチャンスがそうそう訪れるはずもなく、一人でモンモンと悩んでいた夏休み前──。
 そんな俺の様子に気付いてくれたのは、担任の知恵先生だった。
「前原君、なにか悩み事でもあるんじゃない? 先生でよければ相談に乗るわよ」
 恥ずかしがったが、ここは度胸付けとばかりに、俺は先生に全てを打ち明けてみた。
 言葉にして相談してみると、その過程で自分の進むべき道が見えてきたような気がした。
 鷹野三四を看病するため東京から通ってくる富竹さんの姿を見ていると、『百年の間に渡って、殺し殺され続けてきた』という二人だけの絆が確かにあって、そこにはもう『恋人』の一言では片付けられないような、特別な何かを感じるんだよなぁ……。
 それは俺と彼女の間にも言えることで、今この世界で感じているこの思いを、きちんと言葉に、そして形にすべきだと素直に思えた。
 ──告白するぞ。そう決意した。
 ならばと、この舞台を用意してくれたのは先生だった。
「集会所を貸りての『お泊り会』なんてどうかしら。女の子って、そういう舞台設定がポイントなのよ」
 そして俺は今夜というチャンスを迎えた。
 ──なのに……。
 照れ隠しと告白の前振りにと、梨花ちゃんへ恋愛ネタを振ったのがマズかったかなぁ……。
 純粋に俺はただ、好きなあの子に告白がしたいだけなのに……。
 しかも、それなりに全員の好感度も維持しておかないと、後で何かと邪魔されそうで怖いからな……。
 ましてや、こんな自分の知らない世界での出来事なんかで、意中の彼女の好感度が下がったら、成功するものも失敗だよ。
 ここは何としてでも、俺のイメージをフォローしきらなければ──!!

「じゃ、じゃあサ、おじさんと付き合ってた世界も、やっぱりあったワケ?」
 倒れた俺の復活を待たず、女子同士の会話はサクサクと進んでいく。
「はい、魅ぃと付き合ってた世界も、5回ありましたです」
「よっしゃぁ、レナより1回勝ってるね!」
「お姉ぇ、そういう勝負じゃないでしょ?」
「はう〜、二人はどんな感じだったのかな? かな?」
「みー、そうですねぇ──…」
 
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4:【恋人・園崎魅音といる風景】
「──あら、おデコをくっ付け合うのが『正しい恋人同士の熱の測り方』よ。……な〜んて、お姉ぇに悪いかな、うふふ」
「か、からかうなよな……。でも詩音、見舞いサンキューな」 
 布団に潜った圭一の顔が赤いのは、風邪のせいか、それともおデコをくっ付け合ったせいか。
「どういたしまして。圭ちゃん、風邪の具合はどう? まだ顔、赤いけど、うふふふ」
 『詩音』と呼ばれた彼女は、うれしそうに答える。
 しかし、圭一は知らなかった。彼女こそ『詩音に変装した魅音』であるということを──。
 ──圭一が学校を風邪で休んだ。
 『恋人の魅音』と些細なことでケンカして、怒った彼女に川へ突き落とされたのが原因だった。
 翌日圭一の欠席を知った魅音は、やり過ぎた、謝りたいと思ったし、風邪の具合も心配だったが、形式的には『ケンカ中』なので、見舞いへ行きずらかった。
 そこでさんざん悩んだ末の結論が、『詩音に変装して見舞いに行く』になるのが、なんとも魅音らしい行動力だった。
「外来が終わり次第、監督が往診に来てくれるらしいから、こんなのすぐに治るさ」
「お姉ぇに川へ突き落とされたのが、風邪の原因なのでしょ? ……ごめんなさいね……」
「おいおい、なに詩音が謝ってんのさ。いいんだよ、俺も悪かったんだし……な」
 正体を知らない圭一は、謝る魅音に不思議がる。でも、すぐに自分なりに納得する解答を見つけたようだ。
「……なあ、本当は魅音に頼まれて、見舞いに来てくれたんだろ?」
 『頼まれて』ではなく、『本人そのもの』だが、そこは合わせておく魅音。
「あ、ははは、バレてた……?」
「魅音の奴……。謝りに来るなら自分で来いって。──でも、詩音って、優しいよな……」
 しみじみと『詩音』を誉める圭一に、ちょっと魅音もムカついた様子。
 じーっと睨みつけていると、なぜか圭一の頬が赤く染まる。熱く見詰められていると勘違いしたようだ。
 勝手に勘違いし、なぜか『詩音と』いいムードになっているつもりの圭一に、そりゃあ面白いはずもない。
「圭ちゃんにはお姉ぇという『恋人』がいるだから、そういうことは思っても言っちゃダメよ、うふふ……」
 本箱に立て掛けられた金属バットを眺めながら、ちょっと釘をさす意味でも、あえて自分の名を出してきた。
 そもそも、こうして入れ替わりがバレないこと自体、身勝手ではあるが、内心面白くないのだろう。
 『恋人なら双子だって違いがわかるはず』
 おでこをくっ付けアピールしたり、ヒントだって出しまくりなのに……。
 いつしか『いかに圭一に正体を気付かせるか』へと目標が変わっていったのが、また彼女らしかった。
「──そうだ、リンゴ剥いてあげるっ……!」
 見舞いに持参したリンゴを掴むと、椅子の上に突然立ち上がり、スルスルと5ミリ幅で皮を剥き始める魅音。
「どーお!? この包丁捌きを見てぇ!」
 詩音は全寮制学校にいたから、料理は不得意だ。だからこんな風にリンゴを剥くなんてことは、詩音には絶対出来ない芸当だ。
「おおお、すっげぇ! すげえよ、詩音! リンゴの皮が途中途切れることなく、一本の真っ赤な毛糸のようだぜっ!」
 それでも、鈍感な圭一は気が付かない。
「詩音って、料理もうまいし、優しいし、すごいよな……」
 それどころか、さらに詩音の評価がうなぎ上り中だ。
 作戦失敗……。ガックリ座り込む魅音。
「ふふふ、なら、お姉ぇから私に乗り換えます?」
 自虐的な冗談のつもりだったが、圭一が急に真顔になる。
「そ、それ、本気にしてもいいのな……?」
「──え……?」
「──俺、実は詩音だと思って、魅音に告白しちゃったんだ。だから……!」
 突然の爆弾発言に真っ青になる魅音。
「ダ、ダメだよ、圭ちゃん……、私は詩音。お姉ぇに悪いよ……」
 信じたくない恋人の言葉に困惑する。声が震えていた。
 さらに間が悪いことに、このタイミングで誰かがペタペタと階段を上ってくる気配がした。やがて襖がカラリと開けられる。
「いやあ、お待たせしました。玄関開いていたので、勝手に上がらせて頂きましたよ。具合はどうですか、前原君」
 約束通りに医師の入江監督が、往診に来てくれたのだ。
「おや、魅音さんもお見舞いですか……?」
 先にいた『詩音の格好をしている魅音』に気付くと、あっさり正体を言い当てる入江。
「な、何言ってるんですか。詩音ですよ、私は詩音……!」
 慌てて否定する魅音。ここで入れ替わりがバレたらもう最悪だ。
 しかし、その努力も空しく、入江の背後から現れたのは本物の詩音だった。
「はろろん、圭ちゃん、風邪の具合はどう……って、アレ? お姉ぇも来てたんですか?」
「……はろろんって、え? ええっ!?」
 『二人目の詩音』の登場に、心底驚く圭一。
 全てがバレたと判断した魅音は、もう頭の中がパニック状態だ。
「あわわっわわっわあぁ……!!」
 頭の中が真っ白になった魅音は、すぐ側にあった金属バットを反射的に手に取る。
「けけっけ、圭ちゃんのバッカァー!!」
 叫びながら目をつぶって、手の中の物を振り回す──!
「あわわ! 危ないから、み、魅音、や、やめてって、ボギャワッ! ぐぎゃああぁ……!!」
「くけけけけえぇ!!」
 ガシャン! バタン! 「うぎゃぁ!!」 グシャ! 「ぐぎゃえぇ!!」 びちゃ!
 何やら変な音や感触がしたが、泣きながら金属バットを振り回し続ける魅音であった。
 遠くで、ひぐらしのなく声がした──…。

「圭ちゃん、ひどぉーいぃ!」
「見損ないましたわよ! 圭一さん!」
「はうぅ、魅ぃちゃん、かわいそう……」
 またも感情移入してしまい、しくしく泣き出すレナ。
「ま、待ってくれよ、今度は確実に俺死んだぞ。なあ、被害者は俺の方だろっ!?」
 しかし、そんな俺の意見などスルーして、魅音がキッと顔を上げて迫ってくる。
「──それ以前に、詩音と間違えたってのは、圭ちゃん、一体どーいうことぉ……!?」
 またこのパターンか。でも、ここで好感度を下げるわけにはいかないからな。
 意識して出来るだけ爽やかな笑顔を作りながら、耳元で甘くささやいてみせる。
「──魅音と一緒の時間はすっごく楽しかったよ。これだけは真実だぜ……」
 効果は抜群で、でへへと魅音の顔が真っ赤になる。
 すると羽入がよかれと思い、また変なフォローを入れてくる。
「でも、圭一もがんばったのですよ。魅音と詩音、どちらがより素敵か、亀田君達とエンジェルモートでもよく語り合っていました」
 いらないから! そんなプチ情報はいらないから! 天然だからって何でも可愛いで済むワケじゃないからなぁ……!
「そんな圭一ですが、『二人を日替わりで入れ替えて、交互に付き合えれば最高なのになあ』と、よく言っていたのはナイショです」
 ──これだもんなぁ、もおぉ! 天然のフリしてワザとだろ、これ絶対ワザとだよなぁ……!?
「……ふーん、日替わりで入れ替えって、どんな妄想よぉ……」
 ゆっくりと背中越しに誰かが近づいてくるのがわかった。えーと、これはどっちかな……?
「……死をアピールする必要がないなら、死は速やかでかつ、死体は存在しない方が好ましい──」
「え、ええっと、このセリフはぁ……びぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
 全身に電撃が走る──! 
「ご、ごめんなさぁいぃ……」
 この『スタンガン』は確かに詩音だな……と思いながら、ぐったりとダウンする俺。

「沙都子も他人のこと笑ってなんかいられないのですよ、にぱ〜☆」
「ええっ? じゃ、じゃあ、私と付き合っていた世界もありましたの?」
 痺れて動けないでいる俺を無視し、どうやら次の主役は沙都子のようだ。
「もっとも、付き合うといっても『にーにーの代わり』という形──ではあったけど、確実にそれ以上の感情が感じられたことが、6回はありましたのです」
「ちょっとお、何で沙都子の方が多いのよぉ!? まあ、レナには1回勝ってるけどっ」
「お姉ぇは、回数にこだわりますねぇ……」
「それで? 二人はどんな感じだったのかな? かな?」
「みー、そうですねぇ──…」
 
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5:【恋人・北条沙都子といる風景】
「北条家の者に売る物は何にもないよ、さっさとあっちに行っとくれ」
 冷たい雨が降る中、商店街で夕飯の買い物をする『嫌われ者』沙都子。その店の接客も、また冷たいものだった。
 清算の順番を後回しにされたり、お釣りをわざと忘れたり。露骨に売ってもらえないことすら珍しくなかった。
 そんな毎日の扱いにもめげることない沙都子だったが、その日は後ろから押され、小銭を地面にばらまいてしまう。
 小銭を拾おうとしゃがみ込み、涙ぐむ沙都子。傘も風に飛ばされ、ずぶ濡れだ。
 嘆いても無駄と分かっているが、願わずにはいられないフレーズを唱えた。
 こんな時『にーにー』がいてくれたら……。
 ──ふと、雨がかかっていないことに気付く沙都子。誰かが傘に入れてくれていたようだ。
「──ほら、小銭、拾おうぜ。手伝うよ」
「にーにー……?」
 期待を込めて、顔を上げる。しかし、そこにいたのは圭一だった。
 妹をかばう優しかった兄・悟史の姿を、一瞬でも期待した自分が恥ずかしく、必要以上に刺々しい対応をしてしまう。
「……あ、ありがとうございましてよっ」
 素直になれないのも哀しかったが、せめて気丈に振舞うことが、彼女の精一杯の意地でもあった。
「いやー、親が急に仕事で東京に行くことになってさぁ、しかたなくカップ麺……ってね」
 一緒に小銭を拾いながら、偶然居合わせた理由を嘆いてみせる圭一。借りを作りたくない沙都子は、恩着せがましく申し出る。
「あら、ならば、拾ってくれたお礼に、私が野菜炒めを作って差し上げてもよろしくてよ」
「お、ありがとうな。よし、だったら俺は一緒にお風呂に入って頭を洗ってやろう。もちろんシャンプーハット付きだ」
「ふふふ、お風呂上がりにドライヤーもかけてくださいます?」
「リクエストとあらば」
 もちろんお風呂の件は冗談だろうが、それをわかった上で話を合わせられるのが沙都子のいいところだ。
「──あらら、本当の『にーにー』みたいですわね」
「そうだな。なら、いっそ本当に『にーにー』になるか。ほっぺをプニプニしたり、お腹ポンポンしてやるよ」
「……なんです、それは。ほほほ、セクハラですわよ」
 呆れたように、圭一を見上げる。
 しかし、それに近いことが悟史と以前あったのだろうか。嫌がるどころか、いつもの明るい表情を取り戻す。
「ふふ、それでしたれば、私も毎朝にーにーの布団にのしかかって起こして差し上げますわ」
「おっ、いいねぇ、それ。たまに布団の中に潜り込んできて、そのまま寝ちゃったりしてサ。寝顔にキスでもしようとしたところで沙都子が起きて……」
 いつ終わると知れない妄想話が逆におかしくて、ついには沙都子自身もセリフ付きで参加する。
「に、にーにー! 今、何をしようと?」
「あ……、悪い。いや、あんまり可愛くてサ、つい……」
「そそそんなことより早く起きてくださいますこと! 洗濯機を回したいので、パジャマも脱いで籠に入れて下さいませ!」
「──サイコー!! 妹萌えバンザイ!!」
 テンション最高潮の圭一に相乗りし、さらなるストーリー案を沙都子が重ねてくる。
「……でも、そんなかわいい妹も、いつしか兄の下を旅立つ日がくるのですわ……」
「……そうだな。いつの間にか美しくなった妹を、「お嫁さんに下さい」とかぬかす野郎が現れるんだろうな……」
「──そして、私が嫁いだ一人ぼっちの夜、今まで一緒に暮らした日々が走馬灯のように思い出されて、その時初めて圭一さんは気付くのですわ。いつしか妹としてではなく、『血の繋がらない一人の女性』として、私を見ていたということを……」
「──安い昼ドラみたいな展開だな……」
「おほほ、そうですわね……」
 ちょっと乗りすぎたかなと、恥ずかしくなり頬を赤らめる沙都子。
「とっくに気付いてるよ……」
 ボソリつぶやく圭一の顔は、沙都子のそれが伝染したように真っ赤だ。
「──最初は『にーにー』からでもいいからさ……」
 そして改めてハッキリとした声で、その思いを伝える。
「なあ、本当に、俺と暮らさないか……?」
「え……!?」
 突然の提案に、驚く沙都子──。
 映画ならここで主題歌が流れ、怒涛のニヤニヤ展開が始まる──というまさにその時、突然後ろから声をかけられる。
「おおう! 沙都子やないか、ちょうどえぇとこで会えたなぁ……!」
 振り返った二人は、雨の中に北条鉄平の姿を見ることになる。
 硬直する沙都子。面識のない圭一ではあったが、沙都子の態度から直感的に敵と認識する。
 しかし、そのあまりに凶悪なオーラが滲み出る形相に、圭一も本能的に恐怖し、当り前の反応として動けなくなっていた。
「──なぁんや、坊主。ワシの沙都子になぁん用か?」
 直接声をかけられても、暴力の臭いにびびって、声すら出せなかった。 
「オイコラ、沙都子ぉ! さあ、帰るぞぅ──」
 反応のない圭一に興味を無くし、目標を切り替えた鉄平が、濁声で沙都子の手を強引に引く。
 『二度も』にーにーに捨てられた沙都子は、痛々しいほどの絶望の表情を浮かべる。これが現実なのだと……。
 そんな『妹』が連れ去られるのを、ただ黙って見ているしかない圭一であった。
 遠くで、ひぐらしのなく声がした──…。

「圭ちゃん、ひどぉーいぃ!」
「みー、ヘタレ圭一なのです」
「綺麗事で誤魔化す偽善者め! 私だったら1500秒で片付けてやるわ!」
「はうぅ、沙都子ちゃんかわいそう……」
 非難轟々、詩音は本気で怖いし、例によってレナはしくしく泣き出す始末。
 いくら異世界の事とはいえ、さすがに俺でもへこむこの展開では、どうにもフォローできない。
 今回はむしろ素直に謝罪して、少しでもダメージを減らす方が得策のようだ。
「──沙都子、ごめんな……。ただ、お前の『にーにー』になりたいという気持ちには嘘はなかったよ……」
 真面目な顔で謝罪する俺に、羽入もフォローしようと一言付け加えてくれる。
「あうあう、でも、圭一もがんばったのですよ。両親へ真剣に相談し、同居の了承を得ていたことは本当のことです」
 意外な真実に『ちょっといい話』的な感じになりかけるが、その後が余計なんだよねぇ、羽入のヤツ……。
「そんな圭一ですが、バス用品売り場で『シャンプーハット』を見詰めていた目に、入江と同じ臭いがしていたことはナイショです」
 俺はロリコン犯罪者かっ! おーい、そんな冷たい目で俺を見ないでくれ、沙都子よ……。
「──途中まで感動していただけに、ガクブル圭一にショックでしたわ……」
 沙都子は俺に背を向け、壁におデコを付けながら言った。
 さすがにすまない気持ちでいると、唐突に沙都子がその壁を強く叩く。
 すると連動して、グワワンと俺の頭に突然の衝撃が走った──! 
 ──足元に転がる巨大なタライを見て、やっと頭に物が落ちてきたこと、そして落ちてきた物体の正体を理解する。
 トラップをまともに食らい、そのままぐったりとダウンする俺。
「ご、ごめんなさぁいぃ……」
 ベタなお約束とはいえ、いつの間に……。沙都子、恐るべし……!

「ねえ、梨花と付き合ってた世界もありましたの?」
 俺が潰れたのを見て機嫌が直ったらしく、沙都子が梨花ちゃんに直球な質問をする。
「いいえ、それはさすがにありませんでした。ボクもそんな心境になれなかったですよ」
「ふーん……、では、このメンバー以外の女子と付き合ってた世界は?」
「みー、そうですね……、1.5人ほどいましたです」
「うはー、圭ちゃん手ぇはやすぎっ! ……でも、その『.5』ってなにさ」
「うーん、ホラ、正式に付き合ってはいないけど、ちょこっと摘み食い……って感じ? なのですよ。にぱ〜☆」
 魅音の素朴な疑問に答える梨花ちゃん。何気にすごいこと言っちゃってるね……。
「えーと、聞くの怖いけど、それ、誰かな? かな?」
 気絶したフリして聞き耳を立てる俺。
 
続く・・・・
 
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※今回の大賞の一般選考は3社連動でおこなっております。このページにある作品は、最終選考候補作の1/3となります。
ジャンルに関係なく、1作品、これだ!と思う作品にご投稿いただければと思います。

※投稿してくださった方には壁紙を差し上げます。

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(C)竜騎士07/07th Expantion