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ノミネート

作品詳細

02.肝試し編 (PN:たちゃ)
 
肝試し編
「ふわぁぁああああ……」
「あれれ? 圭一くん、寝不足かな……かな?」
 前原圭一の大欠伸。
 普段なら下校時間になるや、部活をやろうと魅音を捲し立てる彼の意外な様子にレナが瞳をきょとんとさせる。
「いや、そういう訳じゃないんだけどちょっと今日は何だか早く起きすぎちゃってな」
「早朝に目が覚めるなんてもはや立派なおじさんだねぇ、圭ちゃん」
「お前に言われたくない、お前に。で……することもなくてさ、早朝から散歩してたんだよ。雛見沢の自然ってすげーなぁって感心してたり、同じく散歩してるじいさん達にも声を掛けられてる内に、どうやらかなり歩いちまってたみたいで疲れちゃってな……」
「早朝からお散歩なんて、やっぱり圭一は立派なおじさんなのです」
「圭ちゃんはもっと若い趣味を持つべきだと思いますよ」
「うぐぐ、悪かったな」
魅音だけでなく、梨花と詩音にまで指摘されて圭一はもはや何も言えなくなってしまった。
「まったく、いつもきちんとした生活リズムで過ごせてないからそんな事になるんですわ」
「うっせーな。俺はお前みたいなお子ちゃまと違って、夜にも朝にもいろいろやる事があんだよ」
 しかし、沙都子には悪態をついておく事にしたらしい。
「くっくっく! 圭ちゃんの生活リズムが崩れるのは仕方ないよねー。夜や朝一番なんていつも大変なんだから。ね、圭ちゃん?」
「はぅはぅっ! や、やる事って何かな!? かな!?」
 レナの鼻息と魅音の話から沙都子の教育上よくない流れに発展する事を察して、梨花がすぐさま話を変えた。
「それはそうと、圭一は何処までお散歩に行きましたですか?」
「何処まで行ったかなぁ。確か、廃村の入り口まで行ったけど、もういい時間だったからそこで来た道を戻って帰ったんだったな」
「廃村って……ああ、谷河内の廃村ですか? 随分遠くまで行ったんですね」
「まぁ、散歩も悪くないなって思ったよ。今度は夜にでもまた同じ道を散歩してみようと思う」
「夜ですか……。夜は、あまりそっちの方は行かない方がいいですよ。あそこの廃村、昔は結構人が亡くなったり、突然居なくなったって聞きますからね。『出る』っていう話ですよ」
 詩音が悪戯っぽく微笑みながら圭一に言った。何だかからかわれている気がした圭一は始めこそ複雑な表情を浮かべたものの、すぐににやり、と笑みを返していた。話の流れから、詩音が『出る』という言葉を使った意図は考えるまでもない。眠気でくっつきそうだった目蓋もぱっちりと開き、むしろ彼は目を輝かせていた。
「何だ、俺を怖がらせようってのか? ともあれ、面白そうじゃねえか。どういう事なんだ?」
「うーん。圭ちゃんももう雛見沢に慣れて来ただろうし、ちょっと涼しくなる話って事で話してもいっか。まず先に断っておくけど、これはだいぶ昔の話だし本当かどうかさえわからない話なんだからね?」 
 魅音が人差し指をぴんと立てて、圭一に目配せをして確認を取った。冗談半分で聞いておけ、という事なのだろう。圭一も魅音に向かって首を縦に振ってひとつ頷くと、魅音はゆっくりと話を始めた。
「何でも、あの廃村には時々おかしくなった住人が出てね。一番有名なのは仲の良かった四人家族の亭主が、遺書を遺して突然夜中に包丁を持って、年端もいかない自分の子供を含めた家族全員を滅多刺しにして一家心中を図った、なんて話があるの。その後は自分も自害をしたって話だけど……。刺された家族も死んだ亭主も合わさって物凄い出血量だったみたいで、今でも時々その家からは血が流れる音がするらしいよ。ぴちゃ、ぴちゃって……」
 滅多刺し。その言葉が圭一の胸に引っかかった。
 一家心中とは、死を思い立った人物の都合で家族を道連れに自分も死んで行く行為を指す。
 だとしたら……。圭一は胸の中に浮かび上がる単純な疑問をそのまま口にしていた。
「おいおい。一家心中なのに、滅多刺しなんかにする必要はないだろ。仲の良かった家族なんだろ? だったら少しでも苦しめずに心中させるはずだよ。怖がらせようとしてるのが見え見えだっつーの」
「確かに圭ちゃんの言うように、滅多刺しなんて相当憎たらしい相手ならともかく、普通はやりません。でも、だからこそ怖いんじゃないですか? 心中する理由もその一家には考えられないんです。今まで順風満帆に家庭円満で過ごしていたっていう話なんですから」
「つまり、突然亭主の気が狂ってそんな凄惨な事件が起きたって事か? そうだ、遺書には何て書いてあったんだよ? 一家心中に踏み切った動機はそこから見えてくるはずだろ?」
「……動機を解明しようにも頼みの遺書も、亭主が胸元に持っていたせいか血で汚れてしまってほとんど読めないらしいですよ。かろうじて、『足』と『音』の二文字だけは読めたって話みたいですけど」
「足……音……?」
「繋げて読むのか、切り離して読むのかはわかんないけどね」
 詩音の言った遺書の文字。圭一が不意に呟いたように単純に繋げると熟語になるのだが、魅音の言う通りに繋げても切り離しても状況的に不可解な事に変わりはなかった。
「動機は結局わからないけど、包丁の指紋は勿論、死体の傷痕と亭主が手に持っていた包丁の刃が一致しているらしいし、人を刺す時って柄が血で滑って自分の手も刃で傷つくんです。滅多刺しなんてした場合は特に、ね。亭主の手にも当然その傷はあったそうです。状況から考えて、亭主が家族を刺した後に自分も失血死したとしか思えないっていう話ですよ」
「お前、やけに詳しいな。実際に誰かを滅多刺しとかにした事あるんじゃねーのか?」
「圭ちゃん、乙女のヒミツに踏み込んじゃ駄目ですよ」
「……おいおい、冗談に決まってんだろ」
 ぴん、と詩音にデコピンされてあしらわれる圭一。そんな茶々を入れつつ、彼は最後の疑問を口にした。
「亭主は自殺したっていうけど、実際はどんな死に方だったんだ?」
「うん、これが完全に怖がらせる為の作り話としか思えなくてさ。何でも、自分で喉元に何度も何度も包丁を突き刺したって話だよ」
 魅音の言葉を聞いて、この話を初めて聞く圭一も確信した。
 単純に自殺をするのなら、そんな苦しい死に方をわざわざ選ぶとは考え難いからだ。圭一はもし実際に自分が一家心中をするとしたら……と、状況を自分なりに想定して考えていた。結果、やはり不可解な事が多すぎて、もはや怖がらせる為のキーワードを盛り込んだ作り話としか思えなかったようだ。
「レナが転校して来た時もその話、魅ぃちゃんが話してくれたよね。今じゃその事件があったっていう家で写真を撮ると『写る』、なんて言われてるんだっけ。……ちょっと怖いかな、かな」
「写真に写りこむ『それ』は、そこで殺された人の怨念なのか……。はたまた、絶えずそこは血の滴る音がするっていうくらいです。あまりの出血に殺された被害者達が苦しくて足りなくなった血でも補充しにくるのか、血の匂いにでも惹かれて別の幽霊でもやってくるのか――? そんな噂が一時期有名になったんですよ。興宮にまで広まったくらいですから」
 レナの言葉を皮切りに、心霊写真だの、怨霊だの不可解な事件の話は完全に普通の怪談話へと変化していた。もっとも、今でも血の流れる音がすると魅音が最初に言った時点で、話がそこに着地するのは何もおかしくはないのだが。
「写真については今度富竹さんに実証してもらおう。写れば話題になってフリーのカメラマンから脱却出来るんじゃないか?」
 圭一の言葉に皆がくすくすと笑った。皆の笑顔の中で、一人だけどこか浮かない表情をしている少女が居た。
「珍しいな、梨花ちゃん。怖いのか?」
「みー、何でもないのですよ。にぱー☆」
 圭一の言葉に、さっきまで暗い表情を浮かべていた梨花は満面の笑みを返した。圭一には必死に恐れを隠そうとしている健気な少女として映ったことだろう。だから圭一はそれ以上、梨花に追求はしなかった。何より、彼にはこの輪の中でもう一人の少女の高笑いもかしましい声も聞こえてこない事が気になっていた。沙都子が普段よりも大人しい。
「っておい、沙都子?」
「……固まっているのです」
 圭一が沙都子の方を見ると、沙都子は目を見開いたまま固まってしまっているようで、目の前で手を振ってみても全く反応がない。
「もう、圭一くん。違うよ、こういう時はね……えいっ!」
 得意気にレナが沙都子の前に立つと、次の瞬間に、ごすっ! という鈍い音が響いた。
 これが斜め45度チョップか……、と圭一が感心していると、沙都子の首が変な方向に曲がり、頭からは煙が出て口からは泡が……。
「は、はぅ!? 沙、沙都子ちゃぁん!?」
「お、おい! 沙都子! しっかりしろ!」
 すぐさま圭一がごきっ、と首を正常な位置に戻してやる。何やら不穏な音が教室に響き渡ったが、沙都子が元に戻ったようなので皆も聞かなかった事にしたようだ。
「ひ……ひどい目に遭いましたわ。でもでも、その話って、その……ほ、本当だとしたらっ……」
「沙都子、ずっと昔の話ですよ? それに、本当かどうかなんて今となってはわからないですし」
「まーね、よくある怪談話だと私は思ってるよ」
「昔からの話だとしたら、きっと今じゃ尾ひれもいっぱいくっついてると思うな、思うな」
 そんな皆の会話の中で、とある少女の顔は再び曇りがちで。その様子を見た圭一はやっぱり怖いんじゃないのかと思うも、彼の目には怖がっている沙都子や塞ぎ込んでいる梨花の様子が新鮮で面白く映っていた。それ故だろうか、彼は意地悪にもこんな提案をする。
「……なるほどなぁ。よし、魅音! 今日の部活はそこで肝試しにしようぜ!」
「それはいいねえ……って」
「「「「ええええええええええ!!」」」」
 ……圭一にとっては全くの予想外の反響。梨花以外の四人が素っ頓狂な声を上げる。
「何だよ? まさかお前ら、怖いんじゃねーだろーなぁ?」
「な、何をおっしゃってますの!? 逆に私が震える圭一さんを嘲笑ってさしあげますわー!」
「そ、そうだよ! そんなわけないじゃん! この天下御免の園崎魅音がたかが肝試しなんかで…」
「ちょっと圭ちゃん。ヘタレなお姉と一緒になんかしないでください」
「はぅ……、レナは圭一くんが一緒に行ってくれるなら怖くないかな、かな……」
「……ボクはがたがたぶるぶるにゃーにゃーする皆を見れればそれでいいのです」
「ははは……。ったく、負けず嫌いどもめ。特に、さっきの怪談話で失神しかけたヤツが何を言ってやがる」
「してませんですわよー!!」
「誰も沙都子の事なんて言っていないのです」
「梨、梨花ぁ!」
 沙都子の頭を撫でる梨花にも、今は笑顔が戻っていた。
 少し発破をかけただけで個性ある反応で了承してくれた皆を見て、圭一もふっと笑みをこぼした。単純に好奇心旺盛な彼にとっては、何よりもこの賑やかな仲間達と夏の風物詩でもある「肝試し」が出来る事にわくわくしていたのである。
「よし、決まりだな。じゃあ今日の夜にその廃村に集合でいいか?」
「はぅ〜! 何だかドキドキしてきたよ。かぁいいお化けさんだったら大歓迎なんだけどなぁ」
「で、でも、あそこの廃村は夜になると野犬が出てくるって話でしてよ」
 沙都子の言葉には、引くに引けないが何だかんだと理由をつけてお流れにしようという意図さえ見える。 
「それなら大丈夫。実はちょっと前に農作物への被害が目立ったんで、青年団を動員して結構な数の野犬を捕獲したんだよ」
「万が一があるならこれで沙都子を守ってあげちゃいます」
「……なぁ、スタンガンってそんなに火花が出るものなのか?」
 詩音がスカートのポケットから物騒なものを取り出して沙都子に見せつけた。
「じゃあ懐中電灯を各自持って今日の夜に谷河内の入り口に集合だね。トイレは前もって行っとくんだよ〜沙・都・子?」
「沙都子ちゃんはお漏らししないように気をつけるんでちゅよー? だぁーっはっはっはっ、こいつは楽しみだぜ!」
「ふ……ふわあああああん! レナさ〜ん、圭一さんと魅音さんが……」
 ずびしっ! どすっ! ばごぉっ!
 沙都子に涙。レナの拳。圭一と魅音に煙。そして、笑い合う。
 そんないつもの時間を過ごしながら、彼らは今日の夜を待ち遠しく感じるのだった。
 
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 各自現地集合とは言っても、圭一とレナと魅音はいつもの水車小屋の前で待ち合わせをして一緒に行く事になっていた。圭一が待ち合わせ場所に到着した時には、既にレナと魅音は着いていたようだ。遅いぞー圭ちゃん、などと魅音は口を尖らせてぶーぶー言っている。まぁまぁ、とレナはそれを諌めてから、
「じゃ、行こっか」
 と、笑顔で合図をした。各々が自転車のペダルに力を込める。普段なら三人で学校や興宮に遊びに行く時のように、流れる汗を拭いながら必死に競争している所だが、彼らは涼やかな夜風の中でゆったりと自転車を漕ぐ趣を感じているようだ。風に揺れる木々のざわめきがなんとも耳に心地よさそうである。
「散歩もいいが、夜のサイクリングってのも悪くないよなぁ」
「そうだね。やっぱり日中に比べると涼しいし、風が気持ちいい……」
「月も綺麗だしねえ」
 涼風を切って、他愛もない話をしながら夜空を見て自転車を漕ぐ。それがたまらなく気持ちいいからなのか、これからの部活にやっぱり気乗りしなくなったからなのか、レナの口が開いた。
「……ねぇ、魅ぃちゃん。やっぱり今日の部活はサイクリング大会にしないかな、かな?」
「ちょっとぉ。なーに言っちゃってんのさ」
「そうだぜ、レナ。これはぶるぶる震えて怖がる沙都子と梨花ちゃんをお持ち帰り出来るチャンスだぞ? きっと二人は怯える小動物のように瞳を潤ませながら、『レ、レナさーん。その、べ、別に怖くもなんともありませんけど、手を繋いでもよろしくって?』『みぃ……暗いところは怖いのです。ぶるぶる、にゃーにゃーなのです。レナは……ボクを守ってくれますですか?』って感じでだな……」
「は、はぅ〜〜〜〜!! べ、べべべ別に、レナは怖がる圭一くんでも魅ぃちゃんでも詩ぃちゃんでもいいんだよ!? で、でもでも、お、お、おも、お持ち帰りぃいいい!!」
「わー、馬鹿馬鹿っ! 自転車漕いだまま鼻血なんか出すな!! 慣性の法則で自分に鼻血がかかるぞ……って」
 圭一の言葉にトンデモ妄想をしたのか、止め処なく大量にどばどばと噴出するレナの鼻血。だが、決して彼女のトレードマークである純白のワンピースを血に染める事はない。
 それどころか……。
「な、何で器用に自分を避けて両サイドに鼻血が噴出するわけー!? もー、信じらんない!」
「ああ……俺達、かなり浴びてるよな。って、レナ! 真ん中を走ってるんじゃねえッ!! 鼻血を出し続けるなら俺達の後ろに行けよ!!」
 レナの位置は圭一と魅音に挟まれる形であったため、鮮血のシャワーが圭一と魅音の顔面に絶え間なく降り注ぐ。ようやくレナの鼻血が収まりかけた頃、圭一達は目的地である谷河内の廃村に着いたのだった。
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「圭一さん達が来ましたわ!」
 先に到着していた沙都子が圭一達に気付いて、手で持っていた懐中電灯を目印代わりに振っている。そのまま彼らが来るのを待たず、少しでも早く合流しようと圭一達の元へと駆け寄っていた。
「まったくもう、遅いから皆さん怖気づいてしまったのかと思いましてよー……」
 いつも通り強がりをぺらぺらと話しながら沙都子が圭一達を懐中電灯で照らすと、その饒舌な口は息を呑み、小さな体はかちんと固まってしまった。
「? どうした、沙都子?」
「い……いやぁあああぁあああぁああああああああああああっ!!!」
 耳を劈く沙都子の悲鳴が聞こえると、次の瞬間には沙都子は力なくその場に倒れてしまった。倒れた沙都子の手から落ちた懐中電灯が圭一達の顔を明るく照らし、初めて彼らは自分達の姿を光の中で確認する。
 ……沙都子が倒れるのも無理はない。圭一と魅音はお互いの姿を見合い、絶句した。
「って、おい! 魅音! お前っ……!!」
「け、圭ちゃんこそおおおっ! 血、血まみれじゃあん!」
 金属バットで1500秒ほど人を殴打し続けても、ここまで血を浴びないのではないか? そんな疑問さえ浮かんでくる程、彼らの顔は血に塗れていたのだ。
 圭一と魅音がお互いの惨状に目を向けた後に行き着く視線の先にはもちろん――。
「あ、あははは、これはね。肝試しの前哨戦としてみんなを驚かせようと思ったレナのアイデアなんだよ、はぅ!」
「はぅ! じゃねえ! アイデアで鼻血が出るかぁあああ!!」
 視線の先に居たかぁいいモードで誤魔化そうとするレナを圭一が一喝すると、レナは突然の突っ込みにびくりと肩を上げると共に、はぅっと舌を噛んだようだ。 
「レナぁ……だったら、あんたのその白くてかぁいいワンピースも真っ赤に染めないとねぇ……」
 わきわき、と圭一と魅音の手が動き、レナを捕食せんとする。
「け、圭一くん、魅ぃちゃん、ちょ、ちょっとやだぁ、追っかけてこないでよぅ! ごめん、ごめんってばぁ! はぅ〜〜〜〜!」
 彼等は部活が始まる前からどたどたと駆けずり回る。結局やっている事は場所を変えても普段と変わっていない。そんな三人の様子を、倒れている沙都子の傍で、既に沙都子と一緒に来ていた詩音と梨花が見守っていた。
「……人間ってあんなに血が流れてるもんなんですかねぇ」
「まして全部鼻からなのです」
「ちょっと梨花ちゃま! 泡吹いてる沙都子を棒で突っつかないで下さい!」
「みぃ……詩ぃがボクの楽しみを奪うのですよ。がお〜」
 詩音がバシッと梨花の手からどこからか拾ってきた木の棒を取り上げた。楽しみを奪われた梨花が頬を膨らませながら詩音を見ていると、やがて思い立ったように彼女はスカートのポケットから何かを取り出した。
「どうせやるならこのくらいしないと☆」
「それはマジック……なのですか?」
 詩音曰く、魅音に風邪を引いて寝ている間に落書きされた時に取り上げたらしい。
 きゅぽ。きゅっ、きゅっ……。
 やがて沙都子の左頬から右頬、つまり顔全面にかけて数文字が書かれると、詩音は再びマジックのキャップを閉めて書かれた文字を見て満足そうに噴き出していた。
「あっははははは! 出来た、全部出来たっ! 私の書きたかった文字はこれで全部ッ!!! ぐげげごがぎぎゃぎゃぎゃ!!!」
「詩ぃには後でお注射を打ってあげますですよ。にぱー☆」
 血みどろ追いかけっこをしている圭一達とはまた別の盛り上がり方をしていたのだった。
 
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 圭一と魅音とようやく目を覚まして落書きされている事に気付いた沙都子は、近くにあった水道で顔を洗っていた。沙都子の顔に盛大に書いてあった「好き好き☆ねーねー」の文字に大笑いした圭一の頭には、今も何処からか落ちてきたタライにより出来たタンコブが残っている。
 じゃばじゃばと流れる冷たい水が彼らの顔にこびり付いていた血液とインクの汚れを落としていく。だが、圭一のベストと魅音の黄色いシャツには、おびただしく乾いた血のりが今も付着していた。
「あはは、いやーそれにしてもすごいね、この鼻血」
「はぅ……ごめんね、圭一くん、魅ぃちゃん」
「いいよ。わざわざ着替えに帰るのも面倒だし、このままやろうぜ。魅音もいいよな?」
「沙都子がひっくり返らないならね」
「鼻血だって初めからわかっているのでしたら大丈夫ですわ、まったく……」
 圭一が申し訳なさそうにうな垂れるレナの頭を撫でながら、魅音に確認を取った。魅音も苦笑しながら頬を膨らませる沙都子を見てから、それに頷く。
 そんな準備と前哨戦を終えて、ようやく部活が始まろうとしていた。再び圭一達部活メンバーは廃村の入り口までやってきた。改めて見るとこれから部活の戦場となるこの暗い世界は、皆でじゃれあっていた時には誰も気付かなかったが、夜の闇の深さも手伝って非常に不気味だ。この入り口のアーチ状の門を潜ってしまえば、そこは今立っているこの場所とは切り離された異世界。当然、街灯なんて物も誰も住んでいないこの地にあるはずもない。ここに来るまでですら、見かけなくなっていたのだから。各々の手に持たれた懐中電灯だけが頼りだった。
「みぃ。やっぱりあまり来たくはない所なのです」
「梨、梨花ぁ。手を離さないでくださいまし」
「沙都子、大丈夫です。何が来ようと私が守ってあげますから」
「はぅ〜。やっぱり夜に来るとちょっと怖いかな、かな……」
 圭一が懐中電灯でこれから歩みを進める世界を照らしてみる。壊れた納屋、瓦礫、腐った木材、ガラスもない格子だけの窓、伸び放題の草。蔓が家の周りに伸びて見えなくなってしまった家屋さえもあるようだ。ここに来るまでは心地よかった風と木々のざわめきも、今となってはただ背筋を冷やし、耳障りな音でしかない。
「しかしこうして見ると……。いかにもって感じのとこだな」
「あっれ〜? 圭ちゃん、まさか……怖いの?」
「は、はぁ? 何言ってんだよ! それより、どうやって部活するんだ?」
 否定しようにも情けない事に声が裏返りかねなかった圭一が、苦肉の策として話の向きを変えた。その言葉に魅音はうーん、と首を傾げて考える。これも部活という名の下の活動なのだから、勝敗を決める必要がある。
「よし、シンプルに行こうか。二人一組のチームになって、この廃村を一周する。道なりに回ればここまで戻ってこれる筈だから、まず迷子になるって事はないと思う。で、一組が戻ってくるまで他の4人はここで待ってよう。当然、あのいわくつきの家もそのコースには入っているからね」
 いわくつきの家とは、今日学校で話題になった怪談話。血の音がするとか、しないとか……。そんな内容が今、全員の頭の中によぎっていることだろう。魅音の話によるとその家屋は、今は無造作にガラスが割れていて玄関も壊されており、さらには大きな井戸が家の前にあるらしい。つまり一目で分かるという事だ。
 魅音は部活の説明をしながら、道端に生えているそれぞれ色の違う花を三本摘んでいた。
「魅ぃちゃん、何をしてるのかな? かな? 赤、青、黄色のお花を持ってるみたいだけど……」
「にっひっひ。ただ回るだけじゃつまらないからねぇ。その家の中に仏壇があるらしいんだけど、それぞれのチームはその仏壇にこのお花を捧げてくること」
「そ、そんな、本気ですの?」
「道端でお花を捨てて、お供えしたと嘘を言ってもすぐにバレてしまうのですよ、沙都子」
「梨ぃ花ぁ! どうして私に言うんですのよー!!」
「なるほどな。どのチームが花を捧げたか捧げてないかは、色や本数で分かるってわけか」
「最後のチームは捧げてあった本数や色を答えて、前のチームと答え合わせすれば、自分達も家の中まで行った事が証明出来ますね」
「当然、一番怖がった組の負け。怖がってるか怖がってないかの判断は、ここに戻ってきた時の様子が基準になるかな。道中で叫び声なんかあげちゃったり、お花をあげてない事が分かったら大幅減点は免れないね。くっくっく!」
「わ、私、本当に帰りたいですわ……ふわ〜ん……」
「はぅ〜! 怖がる沙都子ちゃんかぁいいよぉ〜! だいじょうぶだよ! レナが沙都子ちゃんを守ってあげるからね!」
 沙都子の首を絞めながら、ぶんぶんと手を力強く振り回すレナ。あぁ、間違いなく何が来ても守りきれるだろうなと、圭一はその様子を遠い目をしながら見ていた。
「ちょっとレナさん。沙都子はねーねーの私が守るんですから」
「レナも詩ぃも、ボクの楽しみをとらないでほしいのです。ボクはがたがたぶるぶるな沙都子をあの手この手でもっと怖がらせて、今日は遊ぶ予定だったのですよ」
 レナと詩音と梨花と沙都子のやりとりを見て、圭一は溜息を漏らしていた。
「ったく、沙都子のヤツ大人気だな」
「あ〜、圭ちゃんったら羨ましいんだ」
「誰がんな事言った!」
 沙都子愛好会から一人外れていた魅音は、圭一でからかう事にしたらしい。
「まあ、女の子とペアで肝試しなんておいしいシチュエーションだもんね! 男の見せ所って感じでさぁ」
「今のみんなの逞しい様子を見ていると、沙都子以外には男の見せ所の出番はなさそうだけどな」
「ほうほう。じゃあ圭ちゃんも沙都子狙いってワケかぁ」
「そーいう意味じゃないっつの。ほら、さっさと組分けしようぜ」
 何やら突っかかってくる魅音を尻目に、圭一がジャンケンの合図を出した。それぞれグー、チョキ、パーを出した二人ずつがペアになるという寸法だ。

 全員のジャンケンの掛け声が響き渡った後、肝試しが始まった。
 
続く・・・・
 
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※今回の大賞の一般選考は3社連動でおこなっております。このページにある作品は、最終選考候補作の1/3となります。
ジャンルに関係なく、1作品、これだ!と思う作品にご投稿いただければと思います。

※投稿してくださった方には壁紙を差し上げます。

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