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ノミネート

作品詳細

01.あの日の思い、今の思い (PN:羽王)
 
あの日の思い、今の思い
 私は澄んだ空を見上げた。昭和58年6月のあのとても長い袋小路からようやく抜け出せたのだ。きっとこれから楽しい日々が続いてくのだろう……。私はそう願う。
 いや……、願うじゃない。絶対にこの楽しい日々を続けていくんだ……。

「「「「「「「授業参観!?」」」」」」」
 皆の声が教室中に響き渡る。突然のその発表に皆驚きが隠せないようだった。
「はい、そうです。普段皆さんがどのようにして過ごし、学んでいるかを親御さんに見ていただこうと思い企画しました」
 知恵のその言葉を呆然と聞いているしかなかった。いきなりの発表に頭が理解するまで時間がかかっているのだ。
「日時は今週の土曜を予定しています。帰ったらプリントをしっかりと親御さんに渡しておいてくださいね。それでは委員長号令を」
「…………………」
「委員長?」
「え?! あ! きりーつ、きょーつけ、れい」
 二度目の知恵の呼びかけで魅音が気づき号令をかけるのだった。

「それにしても授業参観とはいきなりだよな〜」
 放課後、圭一がぼやくようにそういった。
「あはは、そうだね。いきなりだよね」
 レナもそれに頷いてみせる。確かにいきなりすぎだろう。しかも今週の土曜日だ。
「はぅ〜、お父さん仕事入ってないかな? かな?」
「俺は親に見られながらってのは気が滅入るな」
「まぁ、確かにそれはあるね〜。変なところ見せて後でお説教なんてゴメンだね」
 レナは父親が仕事でこれるかの心配を、圭一と魅音は親に授業を見られる状況がいやらしい。
(それにしても授業参観なんてね………)
 私はプリントを見ながら軽くため息をついた。だって私の親は……。
「う〜ん、う〜ん……」
「みぃ?」
 隣から呻き声が聞こえてくる。そういえば沙都子が圭一たちの輪に加わっていない。どうしたのだろうか?
(沙都子………)
 どうしたのだろうかなんて決まっている。沙都子も私と同じなのだ……。
 沙都子の両親も他界している。そして最愛の兄である悟史は雛見沢症候群を発症させ、今は入江診療所の地下区画で眠り続けている。そしてそのことを沙都子は知らない………。
「沙都子……」
 呼びかけようと沙都子の名前を言う。その時、沙都子が何かをぶつぶつ言っていることに気がついた。
「ああ……、じゅ…授業参観があるなんて、詩音さんに知られようものなら……。
 そう、間違いありませんわ。絶対に間違えたら、かぼちゃ弁当とか言ってかぼちゃを私に食べさせるつもりに決まっていますことよ。ああ………、どうすれ…、どうすれば……」
 そっか……、沙都子には最愛の兄だけじゃない。最愛の姉もいるのだ……。
(まぁ、その姉の愛情表現は過激だけどね)
 私がそんなことを思いながら沙都子を見ていると沙都子が急に立ち上がった。椅子が倒れ教室中に物音を響かせる。
「な、なんだ!?」
 圭一たちもその物音にビックリしてこちらを見ていた。
 そして、その中心となっている沙都子はそんな皆の様子も気にせずに大声を出す。
「そうですわ! そうですわよ!! それなら知られる前にこのプリントを処分してしまえばいいんですわ!!!」
 沙都子のその言葉に皆が苦笑いを浮かべている。もちろんそれは私もだ。
「みぃ〜、沙都子?」
「なんですの、梨花? 私はこれからこのプリントを排除しなくてはなりませんの。そう、授業参観のことが詩音さんに知られる前に!!」
 そう拳を振り上げる沙都子に私はそっと言う。
「もう、手遅れなのですよ。にぱ〜☆」
「え?」
 私がそう言うと同時に沙都子の肩に誰かの手が置かれた。
「ま……、まさか………」
 沙都子が恐る恐る後ろを向く。ぎこちなく動くその首からギギギという音が聞こえてきそうだ。
「は〜ろろん、沙都子? 何か面白そうなことを言ってましたけどなんですか?」
 最愛の姉……、いや今の沙都子にとっては悪魔だろうか? 魅音の双子の妹である園崎詩音が不適に笑っていた。
「あ…、あの……、その……、こ、これはなんでもありませんのよ」
 しどろもどろになりながら沙都子が手に持っているプリントを机に隠そうとする。
「なるほど〜、授業参観ですか〜。沙都子のねーねーとして恥ずかしくない格好でこないといけませんね」
 だが、沙都子のそんな努力も空しく、いつの間にか詩音が沙都子の持っていたプリントを眺めていた。
「せっかく来ましたが、こんなことを知ってしまったらいろいろと準備が必要ですね。当日を楽しみにしていてくださいね〜、沙都子〜♪」
 詩音はそう言うとプリントを持ったまま、もの凄いスピードで走り去ってしまった。
「ああああ〜〜〜〜、もうお終いですわ〜〜〜〜!!!」
「み〜、かわいそ、かわいそなのですよ。にぱ〜☆」
 私は机に突っ伏して動かなくなる沙都子の頭を思う存分なでるのだった。

 それから意気消沈する沙都子を中心に授業参観のことを少し話してから本日の部活に入ることとなった。
「え〜、本日の部活は〜、羽入が用があるそうなので保留!」
 やる気を出していた圭一がこける。レナが心配そうにそれを起こしていた。
「ど、どういうことだよ?」
「そういえば羽入ちゃんいないね?」
 さっきまでの騒ぎで気づかなかったけどいつの間にか羽入の姿が消えていた。いつ頃からいなくなったのだろうか?
「なんか用があるから部活に参加できないって言われてね。その後すぐに教室を飛び出していったよ」
 魅音のその言葉に疑問を抱く。私はそんなことは一言も聞いてはいない。
「それ、本当なのですか?」
 私は魅音に近づきそう聞いた。
「あれ? 梨花ちゃん聞いてないの?」
「みぃ〜、ボクは知らないのですよ………」
 いったいどうしたのだろうか? 答えのでないままその場は解散となった。

「あぁ〜〜〜」
 隣で沙都子が頭を抱えて悩んでいる。詩音にばれてしまったためか、それとも詩音が持ってくるであろう、かぼちゃ弁当に対する苦悩なのかはわからない。
「み〜、沙都子。元気をだすのですよ。今日の夕飯の食材を買いにいきましょうです」
「そうでございますわね。今更悩んでいてもしかたありませんわね」
 沙都子は両手でパンッと頬を1回叩いた。
「では梨花。お買い物にいきますわよ」
「み〜、やっぱり沙都子は笑顔が一番なのですよ♪」
 私は沙都子と手を繋いで買い物に向かうのだった。
 
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 一方、用事があるといって教室を飛び出した羽入はとある場所にいた。
「梨花は……、梨花は元気なのですよ。たくさんの友人に囲まれて、日々を楽しく過ごしていますです」
 羽入は一言一言に想いを込めて喋りかけていた。
「そういえば、今度授業参観があるそうなのです。ふふ、大丈夫ですよ……。だって………」
 羽入は空を見上げながら最後の一言を言った。強い風が吹き、囁くように放たれたその言葉をかき消した。

「み〜、たくさん買ったのですよ」
「ええ、まさかあそこであんなに安く買えるとは思いませんでしたわ」
 私と沙都子は両手に買い物袋を提げて帰り道を歩いていた。私、沙都子、羽入の三人分なので量もかさばる。
「まったく。羽入のやつはどこで何をしているのですか」
 私が少し怒った風に言うと、隣で沙都子がくすくすと笑い始めた。
「み〜? 沙都子どうしたのですか?」
「何でもありませんわ。きっと、とても大切な用事だったのでございましょう」
 沙都子はそう言うと私の前に出て指を指した。
「ほら、梨花。夕日があんなにも綺麗ですわよ」
 沙都子に指された方角を見る。そこには丸くて綺麗な夕日が浮かんでいる。
「み〜、綺麗なのですよ」
 夕日を見てこんな風に綺麗に思えるのも皆と力を合わせて昭和58年6月を乗り越えることができたからだろう。
(大変だったけど。その中からたくさんのものを学べたな……)
 私は夕日を見ながらループしてきた世界に思いを馳せる。確かに辛いことが多かった、でもいろいろな世界を見てきたからこそ私は今のささやかな幸せを尊く思えるのだ。
「……っ!?」
 一瞬何かが脳裏によぎった。その風景は今見ている風景と同じ光景。綺麗な夕日が浮かんでおり、隣で誰かが微笑んでいてくれた。
(今のは?)
 本当に一瞬だったその光景が頭から焼きついて離れない。まるで何か大切なことを忘れているような気さえしてしまう。
「梨花? どうしましたの?」
 呆然と立ち尽くす私を見て沙都子が声をかけてくる。私はそこで正気に戻り、再び歩き始めた。
「み〜、ちょっと考え事をしていたのですよ」
「考え事ですの? いったい何を考えていましたの?」
「み〜、内緒なのですよ。にぱ〜☆」
 私はそう笑って駆け出した。
「あ、待ってくださいまし梨花!」
「み〜☆ 捕まらないのですよ〜」
 そんなやり取りをしながらも私は空を見上げ、夕日を見ながら記憶を掘り起こすのだった。

「ただいまなのです」
「ただいま帰りましたわ」
 二人して帰宅し部屋に向かって帰りの挨拶をした。
「あ、お帰りなのですよ。二人とも」
 そこには羽入がいて返事を返してくれた。
「みぃ? 羽入、帰っていたのですか?」
「あぅ。用事も終わりましたから先に帰ってきたのですよ」
 羽入が笑顔でそう答えた。それにしても羽入の用とはなんだったのだろうか?
「羽入? あんたどこに行ってたの?」
 沙都子が料理をしに台所に向かっていったのを確認すると小声で羽入へと聞いた。
「あぅ? ちょっと……、行きたいところがあったので……」
 羽入はそこで言葉を切るのだった。その後追及してもあぅあぅと言って誤魔化された。

「すー、すー」
「あぅ〜、すー」
 私は起きると両脇にいる二人を見た。二人ともすやすやと眠っていることを確認すると私は布団を抜け出した外に出た。
 私は祭具殿の前にやってくると鍵を取り出し祭具殿の扉についてる南京錠を外し中へと入った。祭具殿は二重扉になっているためさらにもう一つの扉を押し開け中へと入る。
「えっと、確か………」
 私は記憶を頼りに祭具殿の中を歩く。そしてさまざまな荷物が積まれている場所までやってきた。
「確か、ここら変に……」
 私は荷物をどかし、目的のものを探した。
「わぷっ!」
 途中でどかした荷物が倒れ積もっていた埃が舞い上がる。私はそれを吸い込んでしまいゴホゴホと咳き込むのだった。
「う〜、今度掃除しよ………」
 私はぼやきながら次々と荷物をどかし目的のものを探した。
「あった!」
 それから数分後に私は目的のものを見つけ出した。私はその小さな箱を手に持ち上に被さっている埃を払い落とした。
「懐かしいわね……」
 私はその箱を見ながら感慨に耽る。あまり遅くなってもいけないので私は手早く箱の紐を解いて中のものを取り出した。
「どれぐらい経ったのかしらね。まぁ、この世界では2年だけど、私自身の時間から考えれば……」
 私は箱から取り出したそれを掲げてみる。それは形紙とリボンで作られた手作りのペンダントだった。
「ふふ、今思えば恥ずかしいものよね。まぁ、それだけ私も若かったということかしら」
 私は自分の言葉にさらに苦笑してしまう。それじゃあ、私がまるで若くないようじゃないか。
「まぁ、百年も生きてきたんだもん。身体は若くても中身はね?」
 私はそのペンダントを持ってゆっくりと眼を閉じる。そうすると目蓋の裏に懐かしい光景が甦ってきた。

「うわぁぁぁぁぁぁん、うっ、うっ……」
 これはいつの頃だろう? ループ何年目のことだろうか? 
 ううん、判る。今見ているこの光景は一番最初、私が昭和58年の袋小路に囚われる前のころだ……。
「うっ、うっ……」
 幼き日の私が泣いている。それは父と母……、両親が死んでしまったことからの悲しさだった。
「お母さん……、お父さん……」
 あの頃から私は親と距離をとっていた。それは大切な友達である羽入のことを認めてくれないことからの親にたいする反発だった。認めてほしい、そして私の言葉を信じてほしい……、そう思っていた。
「梨花? 梨花、どうしたのですか?」
 私の目の前に羽入が現れる。それはまだ実体化していない。私にしか見えないときの羽入……。
「はにゅー、はにゅー、お母さんが……! お父さんが……!」
 羽入はその言葉を聞いて表情を曇らせる。親に反発していたとはいえそれでも私は子供なのだ。親が死に一人ぼっちになるのはとても辛いことだった。
「梨花……、僕が…僕が……、二人の分まで一緒にいますですよ? それではいけませんか?」
 羽入が優しく微笑んでそう言ってくれた。
「本当に?」
「ええ、本当ですよ」
 羽入のその言葉を聞いて安心した私はその後すぐに眠ってしまった。眠ってしまったわけだからその後羽入がどうしていたかは分からない。でも、そのままずっと側にいてくれたのだろう……。
「ふふ、こんなこともあったわね」
 私は次々と思い出されていく記憶に懐かしさがこみ上げてくる。この素直さは一番最初の私だからこそだ。
「そういえば、このペンダントっていつ作ったんだっけ?」
 考え、そして思い出す。
「授業参観………」
 そう、そうだ。思い出した。このペンダントは授業参観のときに作ったのだ。それは今から2年前……、私の両親が3年目の祟りで死んだ後のことだ……。
 当時、授業参観が行われるのが決まったのは私の両親が死ぬ少し前の日、そして行われたのはその次の週だった。
 最初は私のことも考慮し中止しようかという話になっていたが、楽しみにしている親が多く中止にすることができなかったらしい。

「来週なんてこなくていい………」
 私は顔を伏せながら部屋の隅にいた。来週に来る参観日は私にとっては親を思い出す辛いものでしかない。その上、親に囲まれ楽しく過ごす他の子の姿を見ることはどれだけ辛いことだろう……。
「梨花? どうしたのですか?」
 顔を伏せている私の前に羽入が現れる。
「授業参観なんてこなくていい……。だって、だって…、お母さんたちがいないのに……」「あぅあぅ」
 羽入があぅあぅと慌てはじめた。
「り、梨花……。そんなに辛いのなら休んでもいいと思いますよ?」
 羽入の言葉に私は顔を上げ羽入の顔を見つめた。
「ううん……、やっぱり行く……。一人でいるほうがお母さん達のこと思い出して、辛いから……」
 私のその言葉を聞いて羽入がにっこりと微笑む。
「じゃあ、それが終わるまでの間……、いえ、それが終わっても、僕が側にいてあげますですよ」
 私は羽入のその言葉に「うん……」と微かに頷いた。
 それにしてもあの頃は辛かったと思う。今の私自身がこんなんだから実感はあまり湧かないけど、それでもあの時の羽入の言葉は嬉しくて授業参観の日が来るまでずっと一緒にいた気がする。
(姿が見えないと探し回ったような気も……)
 このことを羽入に言うと調子に乗りそうなので言わない…、というかあいつは覚えているのだろうか?
(あの頃は本当に一人だったわよね……、魅音には両親がいたし、沙都子には悟史がいた……。あの時期はレナと圭一は転校してきてないし、本当に寂しかった……。
「と…、そろそろ寝ないと」
 私は手に持っているペンダントを箱の中へとしまった。このまま持っていって羽入があの時のことを思い出しても面倒だし。沙都子に何か聞かれても面倒だ。それに……。
(それに、ペンダントに書いてある文字が恥ずかしすぎて表になんて持ち出せるはずないじゃない)
 私はペンダントを箱の中に入れなおし紐でしっかりと縛りなおして元の場所へと戻す。
「でも、次取り出すとき大変ね……」
 私はそう思い。少し手前のほうへと移動させる。ここに来るのなんて私か羽入だけだ。位置を移動させたところで問題ない。
 私は祭具殿を出て南京錠を再び掛けなおした。
(今の私はどうなんだろう? 前みたいに辛いとは思わない)
 それは自分が百年間旅してきたからなのだろう。確かに少し鬱になるが親がいないことなどもう慣れてしまっていた。
 私は星空を見上げた。星が夜空を彩り私を明るく照らしてくれていた……。
 
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 次の日、学校へとやってくると同時に沙都子が机について何かを始めた。
「み〜? 沙都子どうしたのですか?」
「決まってますわ! 当日どうやってあの、かぼちゃ弁当を始末するかを考えていますの!」
 どうやらまだ諦めていなかったらしい、悩んで行き着いた結果が脅威の排除になったようだ。一心不乱に計画を立てており、圭一に対するトラップはしばらくお休みかもしれない。
「あぅ? 沙都子どうしたのですか?」
 そんな沙都子の様子を見て羽入が首をかしげていた。
「ああ、そういえばあんたはすぐに出て行ったから知らなかったわよね」
 私はあの後会ったことを羽入に説明した。
「あはは……。沙都子、災難なのですよ」
「まぁね。ああなった詩音を止めることはできないから」
「あぅ、何もお弁当だけであんなに必死にならなくても……」
 まぁ、これが普通の見解だけど。本人にとってはそんなものではないのだろう。そんなことを話していると教室の扉が開いて圭一たちが入ってきた。
「何だ? 今日はトラップは無しか」
「み〜、沙都子は授業参観当日に持ってくるかもしれない詩ぃのかぼちゃ弁当排除計画を立てているのですよ」
 私の言葉に圭一がなるほどと頷いた。
「それなら授業参観までは平和そうだな。俺にとってはありがたいことだ」
 圭一がうんうんと頷きながらそういう、でも少し寂しそうにも見えたので私は圭一にこう言っておいた。
「み〜☆ 圭一は立派なマゾなのですよ〜。にぱ〜☆」
「なっ! ち、違うぞ! 梨花ちゃん!」
 圭一が必死に否定する。その後ろでレナがその姿を想像していた。
「はぅ〜、沙都子ちゃんのトラップにかかって悶える圭一くんかぁいいよ〜、おっ持ち帰り〜〜〜〜!!!」
「レナ! 何想像してやがる!」
 お持ち帰りモードと化したレナに圭一が突っ込む。そういえばこの騒ぎに魅音が介入してこないがどうしたのだろうか?
「魅ぃ?」
 そう思い魅音の方へと振り返る。するとそこには抜け殻のような魅音が立っていた。
「み、魅ぃ? どうしたのですか?」
「あ〜、梨花ちゃん……、うん……、ちょっとね………」
「ああ、魅音のやつ授業参観の時に魅音の婆さん直々に来るんだってよ」
 言葉を濁す魅音の代わりに圭一が答えてくれた。なるほど、園崎天皇であるお魎自らが見に来るのだ。失敗などできないだろう。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! 無理無理無理無理! 婆っちゃが見ている中で授業なんて受けられるわけないよ〜〜〜〜」
 魅音が頭を抱えて転げまわる。沙都子は沙都子でまだ詩音の弁当阻止計画を立てており、圭一はいつの間にかレナパンで気絶していた。レナはレナで床を転げ回る魅音をお持ち帰りしようとしている。
「あぅ、ある種地獄絵図なのですよ」
「まぁ、平和でいいんじゃない?」
 私と羽入はそんな皆の様子を眺めているのだった。
 
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 放課後になった。今日の部活は魅音がバイトのため無しとなった。圭一とレナと別れ家路につく。
「はぁ……、それにしても……」
 沙都子は「トラップの道具を揃えてきますわ!」といってすぐに教室を飛び出してしまった。羽入は羽入で今日も用事があるといってどこかに行ってしまった。
「…………………………」
 それにしても黙々と一人で歩いているのも暇だ。別に寂しいわけじゃないわよ? そう退屈なだけ、だっていつも沙都子と羽入と話ながら帰っているんだもん。話し相手がいなくて退屈なだけで寂しいわけじゃないわよ? わかった?
「はぁ………」
 誰に聞かせるわけでもなく心の中でそう呟く自分に半ばあきれてしまう。
(やめやめ、考えていても仕方ないわ。早く帰って掃除でもしながら待ってましょ)
 私はそう決めると早足で道を歩く。
「まったく、いつもならうるさい奴が隣にいるのにね……」
 私が寂しいときも嬉しいときも、鬱陶しいと思う時だっていつも隣にいて騒いでいるのに……。
 そういえば昔からだっけ、私が産まれてからずっと彼女は側にいてくれた。だからこの百年の間で本当に一人きりでいたことはないような気もする。
「はぁ、あの時もずっと一緒にいてくれたのにね……」
 私は昨日のペンダントのことを思い出していた。いつも俯いて泣いていた私の側に彼女はいてくれた。時には騒がしく励まそうと、時には母のように優しい微笑みで包み込んでくれた。
(そういえばあの時も……)
 昔のことが脳裏によぎる。それは授業参観が近づいてきた日のことだった。

「………………」
 私は暗い中で電気も点けずに俯いていた。一日一日進むごとに気分が沈んでいくのを感じていた。
「………うっ……」
 古手家の本宅は広くて一人でいるととても静かで…、その静寂が私の心を苛んでいた。静寂が両親のことを思い出させてしまう。この家は両親との思い出が多すぎる……。
「梨花?」
 羽入が私のところへ現れてこちらに近づいてきた。
「辛いのですか、梨花?」
「ううん、大丈夫だよ、大丈夫………」
 私は学校では明るく振舞っていた。皆に心配をかけないように明るく…、笑顔という仮面で自分の心を隠していた。
「梨花……、大丈夫なのですよ。僕には分かりますから。隠さなくていいのですよ……。寂しいのですよね梨花?」
「寂しくなんか……」
 私はそこで言葉を切る……「寂しくなんかない」その一言がどうしても言うことができなかった。
「寂しいのなら、寂しいと言っていいのですよ。誰も責めたりなんかしないのです」
 羽入が私の身体を抱きしめてくれる。でもこのときには実態がないから抱きしめているフリだ。
「はにゅー………」
 確かに触れ合えないかもしれない。でも……、でもそのときの私にはとても温かく感じた。羽入の温かな笑顔が私の心の隙間を埋めてくれているようだった。
(ふふ、今だったら鬱陶しいだけなんだけどね)
 今の自分とループを始める前の自分……、そんな自分のギャップに笑ってしまう。
「本当にあの時とは違って………なんだから……」
 風が私の囁きをかき消すように吹くのだった。
 
続く・・・・
 
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※今回の大賞の一般選考は3社連動でおこなっております。このページにある作品は、最終選考候補作の1/3となります。
ジャンルに関係なく、1作品、これだ!と思う作品にご投稿いただければと思います。

※投稿してくださった方には壁紙を差し上げます。

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(C)竜騎士07/07th Expantion