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我ら雛見沢護衛隊(われらひなみざわごえいたい)



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aksk
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島田圭司
DADA SEIDEN
チェルヲ
遠野江河
フジノン
惑居狼
夕輝秋葉
藤本和明

2 宗平

「さて、どうしたものかな」
 園崎一等兵こと園崎宗平が集まった十数人に問いかける。
 そこにいるのは戦場に来る前から見知った顔……公由一等兵、古手一等兵、牧野伍長、その他、一言で言えば雛見沢村出身の男達である。
 高野による雛見沢症候群の研究のために集められた者たちであるが、そのことをはっきりと知っているのは最初に呼び出された園崎・公由・古手の三人くらいなものだろう。むろん、その三人も「雛見沢症候群」などという言葉は聞いていない。ただ、「蛆涌き」とも言われる雛見沢の風土病の研究と治療を行って貰っていたという事くらいである。そして、その後集められた人々は何らかの体調不良を起こしていた者が多く、その治療と療養ということで通常の医療行為としか考えられていなかったし、健常者は警備班に組み込まれて普通に兵士として軍務に就いていた。
「安全という事を言うなら、今更北方へ向かう護衛任務に就くよりも皆と一緒に上海を目指す方が固いだろうな。敵との交戦にしても人数が多い方が当然有利だ」
 どちらかと言えば理論派の公由が最初に口火を切った。その細身の体が示すように、彼は普段からカミソリのように冷徹で切れる言動で知られている。まだ若手故に遠慮もない。
「しかし、少佐殿には我々雛見沢の住人はいろいろと世話になっている。ろくな護衛も付けずに放り出すというのはいささか恩義に欠けると思うが」
 こちらは普段から温厚な人柄で知られる古手である。彼は自慢の口ひげをしごきながら、いつ開いているのか分からないと言われる目を細めている。
「そうは言っても本国への帰還命令が出たということは、戦況が逼迫しとるということだ。義理人情で片づけられては」
「そう言うな、公由の。この戦場で義理人情を欠いたら人としての大事な物を無くすぞ」
「…………」
 園崎はと言えば、議長然として黙って各自の顔を眺めている。
 しかし、村を束ねる御三家のうちの二人が正反対の意見を出したとあっては、他の住民はなかなか口を開きづらい。
 場が静まりかえる。
 うつむいてしまった村人を前にして園崎が口を開こうとした時。
「何を迷うちょるね。儂らが病気になったり、気鬱になったりして部隊のお荷物になりかけちょった時に助けてくれたのは高野少佐殿じゃろが。今、儂らが助けなかったらどうするっちゅうんじゃ」
 荒々しい声を上げたのは北条二等兵。その声の通りに大柄で強面の彼は、最前線での戦闘が続いた後、興奮引かずに味方陣地内で暴れて憲兵に拘束されていたところを引き抜かれたのである。降格させられて二等兵になったものの、あのまま拘束されていたら、この混乱の時期どうなっていたか定かではない。
「まぁ、村じゃあ悪さばかりしていた北条の悪たれが、こんな立派なことを言うようになったんじゃ。鬼ヶ淵村としちゃあ、二三日、地獄に付き合ってやるくらいの根性見せてもいいんじゃないのかのぅ」
 一同の中で最高齢であり、また、階級的にも最も上である牧野が同調する。最も、この集団の中では階級よりも村の有力者、御三家の立場の方が物を言うのであるが。
「牧野の爺様もこう言っていることだし、どうかね、公由の。オヤシロさまも人の縁を大事にするよういわれているし」
 実家が神社である古手が村の守り神である“オヤシロさま”を持ち出すのはいつものことであるが、信仰厚い村人が多いだけにこれは結構なパンチになる。
「あー、わかったわかった。儂も頭っから反対しちょったわけではないからな。牧野の爺様にオヤシロさままで出てきたんじゃあ、どうこう言うことはなかね。それに、ここが地獄というのなら儂らは地獄の鬼と親戚だしな」
 公由は凄みをきかせた表情でニヤリと笑う。
「では、御三家としての方針は決まったな」
 園崎は感情を表に出さずに話し出した。
「雛見沢村としては第二班の高野少佐殿の護衛任務に志願する。ただし、ここから先の保障はできん。第一班に加わりたいものは各自の判断に任せる」
 一度言葉を切って各人の顔を見渡す。
「志願するものは私に続け」
 そう言って立ち上がると、集まった男達全員がそれに続いた。
 御三家が決めたからというだけではない。
 雛見沢の男達は義理堅く、結束力もあった。自分たちを、仲間を助けてくれた高野に恩を返すことに反対のものはいなかった。
「よし、いくぞ」
 園崎宗平は後ろを振り返らずに歩き始めた。
 皆がついてくることを確信して……。


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