[入江診療所 9月23日 午後12:34]
「こんにちはなのです、鷹野」
「お久しぶりでございますわ、鷹野さん」
「あぅ、元気そうでなによりなのです」
突如現れた来客達はそう言って、唖然としている私をよそに各々で椅子を用意して座り始めた。
確かに今日来客がある事は入江から聞かされていた。私はてっきり東京の者が視察にでも来るものだと思っていたのだが、まさか・・・
「どうかしたのですか?鷹野」
「まさかあなた達だったとは、ね・・・」
忘れようはずもない。一度は命まで奪おうとした存在なのだから。
「あなた達、よくここに来れたわね。私が憎くはないのかしら?くすくす」
「はいなのです。ボク達は、もう鷹野の事は怒っていないのです」
と、羽入が笑顔で返事をしてきた。まったく予想もしていなかった反応に、思わず顔が強張ってしまう。
「・・・へえ。それは、意外ね。でも他のお友達はどこにいるのかしら?やっぱり何人かは、私の事が許せないんじゃなくて?」
ここに三人だけしかいないという事は、恐らくそういう事なのだろう。
しかし、またしても、
「いえ、みんなは違う用事があったりとかで来れないのでございますが、鷹野さんを許しているという点では、みんなの見識は一致して__
「ふざけないで」
思わず言ってしまった。その一言で、場が静まりかえる。
こいつらは何を言っているんだ?許す?この私を?一体どう間違ったらあんな事件の後にそんな事が言えるのだろうか。
「・・・ごめんなさいね、話を途中で切ってしまって。でも私はもうあなたたちと仲良くする気なんてないのよ」
「そんな権利なんてない、ということですか?」
梨花が私の強い口調にも押されずに、平然とした様子で答えてくる。なんだか腹の底まで見透かされているようで気味が悪い。
「・・・そうよ。あなた達にだって分かるでしょう?あれは戦争だった。戦争にしては規模が小さいけれど、命を賭けた戦いだった事に変わりはない。そんな争いの後に敵同士が仲良くするなんておかしいでしょう?敗者に権利なんてない。ましてどんな手を使ってでも、あなた達を殺そうとした私には特に。・・・それとも、あれはあなた達にとってはお遊びのつもりだったのかしら?」
「・・・そうかもしれないのです」
「なっ・・・!」
予想だにしない言葉に、思わず顔が歪む。
反論しようと口を開こうとするが、羽入がそれを阻み、言葉を連ねる。
「誤解しないでほしいのです。確かに戦っている最中はみんな必死で、遊んでいる余裕なんてほとんどなかったのです。・・・でも結果だけ見れば、死人は無し。最後は少し危なかったかもですが、なんとかみんなのおかげで敗者のいない世界にすることができたのです。だから、あれは結果的には部活実践編〜死闘!雛見沢に舞い降りた凶鳥達、その悲しみの果てに〜なのです」
「酷いセンスなのです・・・。でも、ボクもそう思いますです。ボクはみんなが生きているだけで満足なのです。これ以上鷹野をどうこうしようなんて、興味無いのです」
「をーっほっほっほっほ!あのおかげでわたくしのトラップの改良すべき点が見つけられた事には感謝していますわ!もっとも、わたくしのトラップが古今東西無敵だということを証明しただけかもしれませんけれど!」
・・・・・・・。開いた口がふさがらない。まさにこの言葉通りぽかんと口を開けたままにしている私は、相当間抜けな表情をしているだろう。鏡を見て確認する気なんてさらさらないが。
なんという子供達なのだろう。少し大人びすぎてやしないか。いや、逆に子供の純粋さゆえに素直に相手を評価できるのだろうか。
だが驚く事に、彼女達に親しみを感じ始めている自分もいるのだった。
そういえば沙都子の治療はまだ終わっていないのではなかったか。入江は一人できちんと治療薬の研究をできているのだろうか。そう考えると、自分が何か決定的にやり残していることがある気がしてきた。
しかし、それでもやはり彼女達に応えるわけにはいかなかった。何故なら__
「ごめんなさいね。私には、あなた達に応える術なんてないのよ。私は鷹野三四・・・かつてこの村を滅ぼそうとした者の亡霊でしかないのだから」
そう。私はもう死んでいる。亡霊は今を生きる者と交わることは出来ない。
だが、そんな否定的な言葉にもかかわらず、梨花は確信に満ちた表情で言う。
「大丈夫なのです、鷹野。ボク達におまかせなのです」
彼女はそう、力強く返した。
「・・・どういうことかしら?あなたたちに、なにが出来るというの?」
そう疑問に思わざるを得なかった。というより、そもそも彼女達がここに来た理由をまだ聞いていない。何が目的でこんな辺鄙な(と言ったら入江に失礼か)診療所に来たのか。
そうして戸惑っていると、羽入が見ているだけで優しくなれるような笑顔を見せてこう言った。
「鷹野、ボクたちと部活をしましょうなのです」
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