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今日は沙都子の診察の日だったので、教室での話を早めに切り上げてすぐに解散した。途中でいなくなっていた私に誰もが何か言いたいことがありそうだったが、私は始終笑顔でやり過ごした。
その後、沙都子と一緒に診療所までやってきた。
今日も入江診療所は賑わっている。通院している老人達が話に花を咲かせている、一種の溜り場だ。明らかに怪我や病気をしていない老人達も付き添いで来ているようだ。診療所としては用もない客は迷惑なだけかもしれないが、雛見沢から愛されている活気あふれる診療所であるともいえる。
「いやあ、皆さん高齢なのに張り切りすぎなんですよ。雪下ろしで屋根から落ちちゃったとか、氷で滑って転んじゃったとか、元気なのはいいんですけど」
入江は苦笑しながら、目の前に座る私に話す。彼が入れてくれたお茶を飲みながら、私はまったりしていた。診療所内は暖房が適度に効いていて暖かいので、本当に居心地が良い。
離れたところで、沙都子の検査が行われている。対応している看護師は、新しく配属されてきた人のようで、鷹野ではなかった。鷹野は今きっとどこかに行っているのだ。それほど会いたいとも思わなかったので、あえてそのことを聞かなかった。
「梨花も最近良く転ぶんですのよ、前のめりにズサーっと」
遠くから話を聞いていたのか、沙都子がこちらの話に割り込んできた。
「ははは、それは可愛いですね、ですけど気をつけないとだめですよぅ」
「みー。そんなことより、沙都子なんて、この前お風呂から……」
「り、梨花ぁ。それ以上言ったら怒りましてよ」
仕返しにそう言ったら、沙都子が慌てふためいて、こっちに駆けてこようとする。もちろん、看護師に止められた。慌てふためくさまが可愛かった。
「ははは、お二人とも今日も仲がよろしいですね」
しばらくして検査が終わり、沙都子がこちらに戻ってくる。用事も済んだことだし、それに用事があったのですぐに帰り支度を始めようとする。それを入江に止められた。
「梨花さん、ちょっと顔色が悪くありませんか? 軽い健康診断やりませんか?」
そんなに私は具合が悪そうに見えるのだろうか、ずっと笑顔でいるはずなのだが。
「梨花、お医者様がそういうのですから、お受けになった方がいいんじゃありませんこと?」
沙都子もなんだか心配そうに私のことを見ている。私はいっそう明るく言うことにする。
「みー、大丈夫ですよ、ボクは元気なのです」
「梨花、本当ですの?」
私は元気に肯いてみせる。それでも沙都子はどこか納得がいかないようだった。
「ははは、そうですか。でも、具合が悪くなったらこの入江の下に来てくださいね〜診察診察ぅ☆」
入り江は残念そうに言う。これ以上ここにいれば、沙都子に無理やりでも健康診断をやれと言い出すかもしれない。
「わかったのです、そのときは頼みますですよ。じゃ、沙都子。そろそろ」
「……ん。そうでしたわね」
私が沙都子に目配せをすると、彼女はすぐに帰り支度を始める。急がなければならないことを思い出したようだ。彼女は入り江に挨拶すると、そそくさと診察室を出て行く。
私もそれに続こうとしたところに入江から声が掛かった。
「ああ、梨花さん。今日帰ったら沙都子さんのお注射忘れずにお願いしますね」
「みー☆ 了解なのです。では、さようなら、入江」
私は沙都子を急かされながら、診察室を出た。
診療所の外はちらちらと雪が降り始めていた。
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