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雪渡し編(ゆきわたしへん)



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「うおーっ!おんのれえええええええい」

 学校の校庭は雪遊びでめちゃくちゃになっていた。盛大に遊びつくしたせいで、泥と雪の混じったような壮絶な光景が広がっている。むしろここまで徹底的にやったとなると逆に誇らしくなってしまうような風景だ。
 そんな場所で、悲痛な叫びが響いていた。
 私達は校庭の中心に作られた特大の雪ダルマを取り囲んで立っている。かなり出来が良く、青く塗れば某猫型ロボットに似ていなくもない。
 私は背伸びをしてそれの頭を愛しむように撫でている。お決まりの台詞で。
「かぁいそかぁいそなのです☆」 
「ぐぐう……」
 そんなご満悦な私の表情を見て、雪だるまの頭部がため息を漏らす。
 雪だるま上段、つまり顔の部分には、我らが部長・園崎魅音が情けない顔をして埋まっていた。彼女は先ほどの叫びで力尽きてしまったらしく、ぐったりしているようだった。
 それでも私は執拗に頭を撫でて慰め続ける。この瞬間にいつまでも浸っていたくなるのだ。これだけは譲れない私だけの特権だった。ちなみに、さすがに素手で撫でるには冷たいので、毛糸の手袋を着用している。沙都子とお揃いのものだ。
「うー、皆ひどいよー」
 顔が動かないので、魅音は口だけを尖らせて喋った。その様がなんだか笑える。
「はぅー、みーちゃんまんまるだよだよっ☆ まんまるだよっ☆」
 さすがはレナ。まったく冷たさを感じないのか雪だるまの腹部を頬ですりすりしている。
「うーむ、今日の雪だるまは実にいい出来だな。我ながら惚れ惚れするフォルムだぜ」
「もはや芸術の域に達しているのです☆ 今年最高の出来ですよ」
 圭一の満足げな言葉に私は相槌を打つ。その間も私はレナに負けじと頭を撫でることをやめてはいない。
「をーほっほ、内部の設計は私がいたしましたので、長時間放置されても大丈夫な仕様ですわよー」
 沙都子が自慢げに高笑いしている。
 たしかにこの雪だるまは、中の人が長時間の放置で凍えないように細工がしてあるだけでは無く、身動きもまったくできないように作られた沙都子の最高傑作だ。それはまさに雪の拘束具といってもいいほどに良くできているので、長い間鑑賞できる優れものだった。そして、おまけにとても可愛い容姿に仕上がっていると思う。レナの鼻息が荒い。
「ぐぐぐぐ、納得いかなーい」
「まあ。これが敗者の義務ですのよ、存分にお苦しみなさいませー」
 愚痴る魅音に沙都子が嬉々として言う。
 今日は、ここ数日間続いた雪合戦サバイバルマッチの最終日。喰らった雪玉の数が多いものが罰ゲームというとてもシンプルなゲームが行われた。そして敗者に選ばれたのは天下無敵の部長であるはずの魅音だった。
「前回は沙都子が雪だるまで、レナにゴロゴロにゃーにゃーだったのです☆」
「はうー……あの時の沙都子ちゃんかあいかったよぅ」
「あれは凄かったよなー、暴走したレナと一緒に坂を転げ落ちていったんだっけ」
「思い出したくもありませんわ……それに圭一さんもレナさんも梨花も、同じようなものではありませんの?」
 沙都子のその言葉に一同感慨深そうにうんうんと肯く。
「そうだね、だから屈辱が晴らせて感動もひとしおだよぅ」
「みー☆ついに憎き仇を討ったのです」
「ああ、その通りだぜ。魅音討ち取ったりぃ」
 ぱあん、と私達四人は手を打ち合った。とても息のあったチームのように。
「うー、皆卑怯だー……私以外全員結託してるなんてっ」
 連日行われていた雪合戦は常に魅音の圧勝だった。だが、それを良しとしない圭一が、得意の話術で残りのメンバーと結託し、見事に魅音を打ち破ったのだ。
 そのやり方が、かなりえげつないものだった。私がオトリになって魅音をひきつけて、沙都子の落とし穴に落とす。そこを大量に雪玉を生産し続ける圭一と鬼と化したレナのすさまじい高速投球による猛攻撃☆。
 哀れ魅音は約一万発の雪玉を浴びせられ、あえなくビリ決定となったのだった。
「卑怯じゃねえだろ。魅音が決めたんだぞ、会則第二条! 勝つためには最善の努力を!」
「ぐっ」
 それを言われてしまうと、魅音も反論が出来なくなってしまう。それを見て皆が笑う。
「そういえば、これで皆が仲良く罰ゲームを受けたことになるのかなっ、かな」
 レナが私だけにそっとそんなことを言う。
「みー。そうなのです。皆仲良しなのです」
「そうだよね」
 レナが心からの笑顔を私に向ける。
 レナってこんな笑い方今までしていたかしら、とふと思った。どちらかといえば幾らか作られたぎこちない笑顔だったような。しかし、今はそんなものは微塵と感じさせない良い笑顔だと思った。
「えっとぉ……おじさんをそろそろ解放してくれても……いいよね?」
 さすがに長時間同じ姿勢なのはきつくなってきたのだろうか、魅音は上目遣いで懇願する。
「だめだよぅ、みーちゃんはレナがお持ち帰りするんだよぅ。……だめかな?……かな?」
「よし、超法規的にお持ち帰りを許可するッ!」
「お、おおおおおお持ち帰りー☆」
「ぎゃあああああ、圭ちゃん、覚えてろよー」
 魅音もレナの餌食となった。
 が、それだけでは終わらない。
「おはろー。いやー今日も賑やかですね。ん……おや? お姉はどこです?」
 ちょうどいいタイミングで、詩音がやってきた。魅音の顔色がさっと青ざめる。
「みー☆ トドメが来たのです☆」
 雪が降ろうとも、部活メンバーは今日も絶好調。
 毎日は平和で楽しくて刺激的だった。


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