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「ちょ、ちょっと待って!」
私は力の限り叫んでいた。
だが、世界は様変わりしていて、私は我に帰る。暗く、静かで、そして声の響きからすると、あまり広くは無い部屋のようだ。
それにしても寒い。急激な温度変化に私は身震いする。
ここはどこだ? と思った刹那、ぱっと明かりが付いて眼がくらんだ。
「ちょっと、梨花ぁ、うるさくて眠れないじゃありませんの」
すぐ隣から沙都子の声が聞こえた。沙都子?
眠っていたのだろうか、私の声で起こされて少し不機嫌そうだったが、私の呆けた顔を見て、心配そうに覗き込んでくる。
「どうしたんですの? 梨花、怖い夢での見たんですの?」
ふぁーと、沙都子は欠伸を一つした。いつも見ている彼女だ。大きな口から八重歯が見えている。
私は混乱してしまって、自分でもベタなことを言ってしまう。
「沙都子、ここはどこですか?」
「はぁ? 梨花寝ぼけてますの?」
そう言われて、私は辺りを見回してみた。聞くまでもなかった。いつも通りの沙都子と私の部屋。目の前には怪訝そうな眼をした沙都子。
またこの世界だ。諦めたはずの世界。
何故またここに? 先程の出来事は全て夢だったのか? いや、私自身この世界に嫌気が差していて、すぐにでも逃げ出したいのは本当だ。実感できる。
なら、とそこでこの部屋に違和感を感じた。
今まで見た世界とは違いがある。部屋の中が微妙に様変わりしているのだ。今まで在ったものが無く、今まで無かったものがある。古いものがいくつか無くなっているが、それ以上に私好みの小物とか、買った覚えが無いものが多く存在している。どうせ繰り返される世界ならば、買う必要が無いと思って諦めたものが大量に存在している。
何だ? この世界は?
私は寒気を感じ、身震いした。それにしても、やけに寒い。今は何月なのだろうか。ふと、壁にかけてある日めくりカレンダーに目を向ける。
「12月……えっ!?」
そこで私は驚愕し、カレンダーを凝視したまま動けなくなってしまった。
恐る恐る沙都子に問いかける。
「沙都子……今はいつですか? 昭和何年の何月?」
「もー、さっきから何なんですのよー。カレンダーに書いてあるじゃありませんの」
まだ寝ぼけているのか、といった目で沙都子はこちらを見ている。
「いいからっ」
私の真剣な声にたじろいだ沙都子が、渋々答えてくれた。
「昭和五十八年の十二月ですのよ」
私は咄嗟に窓に駆け寄った。
カーテンを開き、その向こうの世界を見た。
窓の外で雪がちらついている。
あの運命の袋小路を超えた雛見沢は白一色の雪の世界に様変わりしていた。
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