5月11日、横浜市港北区内の「スペース・オルタ」で、ダライ・ラマ法王日本代表部事務所ラクパ・ツォコ代表が講演。ビデオ上映とともに、中国によるチベット侵略以降の経緯、中国側の主張とそれに対するダライ･ラマ14世の考えなどを解説し、「チベット問題は中国の国内問題ではなく、国際問題」と語った。
3月10日は、例年通りの平和的デモだった

　「自由への道　─映像と講演で知るチベットの現在─」（主催：チベット交流会）と題する講演会は、87席の会場が8割がた埋まる盛況ぶり。前半、ダライ・ラマ法王日本代表部事務所のラクパ・ツォコ代表は、約40分にわたって、チベット問題の経緯などを語った。

　ラクパ代表は、1951年に中国政府がチベット政府の代表団に「17ケ条協定」への調印を迫った際、チベットの印璽（いんじ）を持たない代表団に偽造印璽による調印を迫ったことなどを解説。59年の民族蜂起とダライ・ラマのインド亡命にちなんで、毎年3月10日にデモが行われており、中国政府による大規模な鎮圧の発端となった2008年3月10日のデモも例年通りの平和的なものだったとした。

　「お坊さんたちがデモを始め、それを中国の警察が逮捕して、非常にひどく彼らを殴った。それから次々ほかのお寺のお坊さんもデモに参加してout of controlな状態になり、中国政府はラサの街を閉めることを指示したんです。中国人は、お坊さんたちを中国人が逮捕して殴り、『こんなにひどいことしないでほしい。とめてほしい』とお願いをしたおばあさんまで逮捕した」（ラクパ代表）

チベット人はスナイパーに狙撃された

　「中国政府は民間人を殺し、死体を夜中にトラックの中に積んでラサの近くで燃やし、何の証拠も残らないようにしている。80人のお坊さんたちをいっぺんに殺したという情報もあります。中国政府は、いままで死者の数は20人くらいと言っていますが、亡命政府が慎重に身元を確認できただけでも死者は153人です（チベット亡命政府の4月29日発表の死者数は203名）。中国政府が逮捕者数を4000人と言っていますが、実際はこの倍と考えてもおかしくない」（ラクパ代表）

　「チベットで殺された人たちは、建物の屋根からスナイパーの銃で殺されたケースが多い。中国政府は最初からよく計画していて、（短い距離での発砲ではなく）見えないところに隠れて（チベット人を）狙撃したケースが多いんです」（ラクパ代表）

　一方で、ダライ・ラマの姿勢については、1974年以降「独立は要求しない」という態度をとり、外交と防衛の権限は中国に、宗教・文化・教育などはチベット人に任せる「中道の道」を提唱しているとした。チベット紛争の歴史やダライ・ラマの講演を収めたビデオ上映と休憩を挟んでの後半は、「チベットを解放する」という中国側の論理に言及。一瞬、語気を荒げる場面もあった。

　「（中国政府は）『チベットを解放しに行きました』と言うけども、もし本当に解放しに、あるいはチベットをサポートしに来てるんだったら、解放した後さっさと帰ればいいでしょ。今日まで49年も、他人の家のオーナーを追い出して自分たちは中にいて、そして偉そうなことを言うんですけれども、これは本当に余計なお世話でした」（ラクパ代表）

中国の目当ては資源と土地？

　ラクパ代表は、中国がチベットにこだわる理由は、チベットの天然資源にあるのではないかという。

　「チベットは中国語で『西蔵』。中国の西にある蔵という意味です。何の蔵かというと、まずは天然資源。チベットには70種類の非常に貴重な天然資源がある。もうひとつは森の蔵。北京の5つ星ホテルの中に、チベットの木が入っていないホテルはほとんどないと言われる。日本の割りばしの8割はチベットの木が日本に入っていると見ている人もいます。3番目は水の蔵。アジア全体の47％の水の源はチベットにあるんです」（ラクパ代表）

　中国によるチベット開発はインドやバングラデシュの水資源にも影響を及ぼしかねず、中国政府にとってチベットの山岳地帯に軍事戦略上の重要さももっているという。

　「チベットの問題はチベットだけの問題ではないんです。最終的には、われわれみんなにつながってくる。時間の問題なんです。チベットの問題は中国の国内問題ではなく、国際問題です。この中には人権問題ももちろん含んでいます。人権問題よりもっと大きい問題もからんでいます」（ラクパ代表）

　ダライ・ラマ法王日本代表部事務所によれば、ラクパ代表は今後、6月13日の北海学園大学（北海道・札幌市）など、国内各地で講演活動などを行う予定とのこと。

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