殺虫剤やカビで汚染された非食用の米が食用として転売され、焼酎などの原料に使われていたことが明らかになった。食の安全への関心が高まる中で、国民生活にもっとも密接な米までが「偽装」の対象となっていたことは、極めて衝撃の大きい事実である。
問題の米はウルグアイ・ラウンド合意に基づいて国が中国などから輸入した米の一部だ。日本の安全基準に満たないものが「事故米」として、用途を工業原料に限定して業者に売り渡されている。
大阪市の「三笠フーズ」は、03年度以降だけで事故米約1800トンを購入し、うち約300トンを焼酎メーカーや仲介業者に転売したことがわかった。
この米は中国製の「毒ギョーザ事件」で検出された殺虫剤「メタミドホス」や発がん性の強いカビ「アフラトキシンB1」に汚染されていた。それだけでおぞましさが募る。
三笠フーズ側は「外部での検査やカビの除去で安全を確認した」と弁明している。だが、とても消費者が安心できる説明にはなっていない。
転売は社長自身が指示して、不正が発覚しないよう二重の伝票や帳簿まで作っていたという。利益に走った企業モラルの欠如は徹底的に指弾されて当然だ。
農林水産省は食品衛生法違反で刑事告発する方針を示している。捜査当局によって厳しく責任を追及することが不可欠である。
農水省のこれまでの対応も、無責任のそしりを免れない。
喫緊の課題は、転売された事故米の流通ルートの把握と消費者の健康に影響が出ないかの確認である。なのに、農水省は「健康被害はない可能性が大きい」として、転売先を明らかにしていない。それでは焼酎などの業界全体の風評被害が防げないし、消費者の不安も一向に解消しない。
農水省自体、三笠フーズの工業用加工に立ち会いながら、偽の伝票でごまかされた不手際を認めているではないか。三笠フーズの言い分をうのみにした「安全確認」に信を置くわけにはいかない。元々の取引の当事者でもある農水省は、みずから完ぺきに安全を証明する義務がある。
転売先のメーカーなども自発的に名乗り出て、出荷状況などを説明することを望みたい。それが、食にかかわる企業の社会責任を果たすことでもある。
今回の事件は匿名の通報で発覚した。国民全体の意識は確実に高まっている。だが、いくら法令順守を呼びかけても、必ずばれる偽装行為が繰り返されることに無力感すら覚える。
福田康夫首相の肝いりだった消費者庁創設は、突然の辞任表明で不透明になっている。この機会に、より強力な監視機能、権限を持つ仕組みを構築することが必要ではないか。
毎日新聞 2008年9月7日 東京朝刊