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社説

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力士大麻汚染―大相撲自体がカド番だ

 新弟子のリンチ死事件、横綱朝青龍の巡業すっぽかし問題……。不祥事続きの大相撲に、とんでもない汚点が加わった。今度は大麻汚染である。

 8月、間垣部屋の若ノ鵬が大麻を持っていたとして逮捕されたのがきっかけだ。2週間後、抜き打ちの簡易検査で、大嶽部屋の露鵬と北の湖部屋の白露山にも大麻の陽性反応が出た。専門機関の再検査も陽性だった。

 2人は大麻を持ったことも吸ったこともないと反論していた。周囲に吸う人がいる場所にもいなかったという。再検査の結果後も、露鵬は「やっていない」と否定した。しかし、再検査したのは世界的にも認められた専門施設だ。疑惑は深まったというしかない。

 今回の抜き打ち検査は、幕内と十両が対象だった。若ノ鵬の事件が彼一人の問題であることを明らかにするのが狙いだったが、結果は逆になった。早急に幕下以下全員の検査が必要だ。

 リンチ死事件を契機に、「師匠への指導と、力士の土俵内外の生活改善が必要だ」という指摘を受け、角界は対策に動き始めたばかりだった。それにもかかわらず、強い危機意識が感じられない。

 なかでも日本相撲協会の最高責任者である北の湖理事長の言動は、とても理解できるものではない。

 過去の問題では「弟子の教育は師匠の責任」と繰り返してきた。今回、自ら師匠としての責任があるにもかかわらず、「本人がやっていないといっている」の一点ばりだ。客観的、科学的な検査の結果を真剣に受け止め、協会自ら真相の解明に当たろうという積極的な姿勢がみえない。

 北の湖理事長ら幹部を除く親方たちが急きょ集まり、早急な対策を求めたのも当然だ。もはや現体制の下で改革は望めない。人心を一新すべきだ。

 理事長はもっぱら横綱や大関経験者から選ばれてきたが、スポーツの才能と組織運営能力とは同じではない。責任感と柔軟な思考を持つ人材を広く探すべきだ。相撲協会の外にこそ求めた方がいい。

 トラブル続きの背景には、旧態依然とした部屋制度と師弟関係もある。

 大麻問題の3人はロシア・北オセチア出身の幼なじみだ。外国出身力士は体格や運動神経に恵まれている半面、多くは日本社会の基本的なルールや習慣さえ身につける間もなく出世してしまう。

 日本人の力士も、育つ環境やその気質は昔と大きく変わった。

 形式化した相撲教習所での半年間の新弟子研修期間を大幅に延ばし、プログラムを一新させるといった大胆な改革が待ったなしだ。

 このままでは、秋場所はしらけたものになりかねない。角界は両足が徳俵まで追い込まれている。

NHK改革―公共放送の根本の議論を

 NHKが来年度から3年間の経営計画案を公表し、ホームページなどで視聴者の意見を求めている。それを踏まえて10月上旬に最終案をまとめる。

 計画案は、NHKの放送を週5分間以上見聞きする人を現状の77%から80%に増やすことと、昨年度末に71%だった受信料支払率を5年後に80%まで上げることを目標にする。

 NHKでは昨年9月、経営委員会が当時の執行部の計画案を構造改革への踏み込みが不十分だとして突き返した。だが、今回の案は大筋では承認される見通しだ。

 現執行部を率いる福地茂雄会長は、経営委員会の古森重隆委員長が強く推して任命され、この1月に就任した。経営委員会と執行部との関係は、この1年でずいぶん変わった。

 経営委と執行部がむやみに対立するのがいいとはいえない。だが、ここ数年活発になっていた「NHKはどうあるべきか」という議論が、協調路線の中で、しぼんでいるのは気になる。

 計画案は公共放送の使命として次のような例を挙げている。

 世界と日本の課題に向き合う報道。安全のための緊急報道。多様な番組の制作。海外への日本の情報発信。地域社会の広場としての機能。インターネットや携帯端末への情報提供……。

 世界や地域の報道から娯楽まであらゆることに手を広げるのが公共放送の使命であり、8チャンネルあるテレビ・ラジオのうちBSハイビジョン以外のチャンネルは減らすわけにはいかない。そう言っているように見える。

 果たしてそうだろうか。

 民放に任せればいい番組や、そもそも必要でない番組はないのか。逆にもっと力を入れるべきことは何か。

 そうした検討を重ねたうえで、公共放送としてこれだけはNHKがやらねばということを積み上げ、それに必要なテレビ・ラジオのチャンネル数と組織、予算を考えるべきだ。

 そこから割り出した受信料なら、視聴者の理解も得やすくなる。現状のままで100円単位の値下げの是非を議論するよりも、ずっと意味がある。子会社を含めて肥大化しているという批判にも応えることができるだろう。

 こうした議論をNHKの内部だけに任せれば、現状肯定に傾いた結論になりかねない。かといって政府が主導して議論が始まれば、放送の独立性が危うくなる心配がある。

 NHKは公共放送のあり方を考える独立した組織を設けたらどうか。そこに外部の有識者や視聴者の様々な意見と知恵を集める。NHKの若手職員が描く自分たちの将来像も議論に反映させる。そこから新しいNHKの姿を導き、実行に移していけばいい。

 そうした開かれた議論こそがNHKへの信頼を高める道でもある。

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