◎教員養成に特化 時代に合った「教える力」重視
金大大学院教育学研究科(修士課程)が来年度から高度な教員養成に特化した組織に改
組される見通しとなった。同研究科のような研究者養成が目的とされる一般的な大学院が、いわば途中から今年四月に発足した「教職大学院」のように教員育成に特化するのは全国初である。
それだけに関係者から注目されている改組である。今、教員に求められている「教える
力」の養成を重視し、子どもたちを生き生きさせ、彼らの可能性を引き出す人材を世に送り出してほしい。
戦後の日本の教員養成は大学(短大を含む)などの教員養成機関を中心に行われてきた
。が、学級崩壊や学力低下など学校教育が直面している深刻な問題に対処するには教員の質向上が必要だとする中央教育審議会の求めに応じて文部科学省が新たにスタートさせたのが教職大学院である。
四月に設置されたのは全国で国公私立合わせて十九校で、北信越地方では上越教育大と
福井大の二校である。金大は出遅れた格好だが、数年前から文科省に改組の意向を示し、教職大学院とは違う大学院のあり方を模索してきた。
その結果が教員養成への特化であり、「教科指導や学級経営、生活指導など学校現場の
教育課題に対応できる優れた教員を地域に送り出す」という金大の理念の展開だとしている。
これまでの修了生のうち教員になったのは約六割だそうだが、全員を教員にする方向で
改組する。そのために入学者を教員免許取得者に限定し、講義と実習でさらに深い知識を身につけさせる。
さらに国語や理科、障害児教育などに細分化されている現在の十二専攻を廃止し、「教
育実践高度化専攻」(修士課程)に一本化する。新たな専攻として三つのコースが設けられるが、選択外のコースの授業も受講できるようにし、地域の学校へ出向いての教育実習も導入する。
金大の人的資源である研究者が総掛かりで指導に当たるが、東大でも特待生制度を導入
して優れた学生を入学させようとする時代であり、優秀な学生をどう集めるかも大きな課題である。
◎節目の日米関係 あぐらかかず人脈作りを
二〇〇八年版の防衛白書は、近代化が進む中国の軍事力と、核・ミサイル開発をやめな
い北朝鮮に強い懸念と警戒感を示す一方、日本周辺でロシア軍の訓練活動が再び活発化の傾向にあることを指摘している。この現状認識に立てば相対的に日米同盟の重要性が増すことになるが、日米安保体制に関する白書の記述は「日本の防衛、地域の安定、国際的な安全保障環境改善に重要」といった通り一ぺんの内容であり、物足りなさを覚える。
日米同盟は双方の指導者交代による節目を迎えている。かつての冷戦をほうふつさせる
国際情勢の変化も生じているが、このところの政府・与党は日米同盟を堅持す真剣な努力が足りないのではないか。例えば、政府間合意から十年以上経っても普天間飛行場の移設を実現できない日本は「優柔不断で実行力のない国」と映り、米政府を失望させている。実際の外交の鍵を握るのは、条約や制度などより人間関係であり、次の内閣は同盟関係の再構築を目指してまず、米大統領候補を支えるスタッフや議会との人脈作りに全力を上げてもらいたい。
ライス米国務長官は今年、日米同盟の将来に影響を及ぼさずにはおかない提言を発表し
ている。現在の六カ国協議を基に「北東アジア平和安全保障機構」を創設しようというものだ。構想が次期政権に引き継がれるかどうか分からないが、その可能性について中国側と協議している事実は重い。
当面、実現性のない話だとしても、北東アジアの安全保障に関する多国間の枠組み協議
は、日米同盟の地位の低下につながる。安保条約があるから同盟関係は安泰だなどと、のんびりあぐらをかいてはいられないことを、政府・与党はあらためて認識してほしい。
米側の知日派と言われた政府要人のほとんどは既に政権を離れている。一方、米国から
信頼され、影響力を持つ日本側の有力政治家もかつてほどいなくなったようだ。安全保障分野に限らず、日米間の新たなパイプ作りは急務であり、新大統領の決定を待たずに取りかかる必要がある。