家族が認知症を発症したら、どのような事態を招くのだろう―。
そんな疑問から、かつて患者の家族、患者を預かる施設を訪ねた。介護保険制度が始まったころで、認知症はまだ「痴ほう」と呼ばれていた。
「くらし面」で取り上げる機会が多いアルツハイマー病は、認知症の中でも最もポピュラーな病気だ。進行を遅らせる薬はあるものの、本格的な治療法はまだ確立されていない。
物忘れや深夜徘徊(はいかい)、妄想。多くの現場を目にし、家族からは介護に苦悩する声とともに、「笑顔は昔のまんま」「いろいろ思い出すからね、やっぱりそばにいてあげたい」と、温かみのある言葉を聞いた。
一方の認知症向け施設サービスは当時、一人一人の生活を尊重するケアが始まりつつあった。様子を知りたく、泊めてもらったことがある。
そこでは、施設を女学校と思い込んでいたり、自分を施設スタッフと信じ、他の認知症の人を世話する入所者に驚かされた。それでも、みな表情は穏やか。スタッフのケアは介護というより、高齢者をいたわる普通の情景に思えた。にこやかなお年寄りに囲まれていると、こんな過ごし方もあるのか、とこちらが癒やされた。
今月二十一日は「世界アルツハイマーデー」。病気に対する理解が深まり、患者や家族を支援する輪が広がることを願っている。
(文化家庭部・赤井康浩)