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西方見聞録

【西方見聞録】

ギャンブル依存症 一人で悩まないで

2008年09月05日

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県内で初めて開かれたアディクション(依存症)フォーラム。若い人たちの姿も目立った=諫早市新道町の市社会福祉会館

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使い込まれたGAのハンドブック。回復のために必要な言葉が書かれており、ミーティングの冒頭に全員で読み上げる

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 茶の間のテレビにパチンコのCMが流れると、急におびえてチャンネルを変えたり消したりする。全国で急増している「ギャンブル依存症(強迫的賭博)」の人たちだ。病気なのに、社会の理解が進んでいないために不幸が重なる。実態を見た。(加藤勝利)

 ■繰り返した借金・うそ
《心身疲れ果て家族も巻き添え》

 ギャンブル依存の回復をめざす自助グループ、GA(ギャンブラーズ・アノニマス)に3年前から通う男性(54)は「生きていられてよかった」と、この30年を振り返る。

 車の販売やホテルのフロント係など職を転々とした。23歳で結婚して2児をもうけたが、6年後に離婚。「家庭を満足に持てなかったダメな男」という罪悪感や寂しさを酒で紛らわせ、飲み代を稼ぐためパチンコにのめり込んだ。

 500円の元手で6万円勝ったことがある。当たれば「オレがやれば必ず勝てるんだ」と万能感がみなぎる。球のぎっしり詰まった箱を店内に積み上げると、優越感が頭の中を支配し、現実を忘れさせてくれた。

 給料を使い果たしても、消費者金融が簡単に貸してくれた。家族に内緒でトイチ(利息が10日で1割)のヤミ金融にも手を出した。返済に追われるようになるのに時間はかからなかった。「だまされて保証人になった」「給料袋を落とした」と、次々にうそをついては家族に尻ぬぐいをしてもらった。会社の金にも手を出した。一発逆転を狙い、返済の一部をパチンコにつぎ込んでは、また借金を増やした。

 05年、息子に借金を申し込んでぶん殴られた。家族会議は修羅場となったが、「周囲がなぜ怒っているのかすらわからなかった」。疲れ果て、感情さえもすり切れていた。

 ヤミ金の取り立てから逃れようと、死に場所を探して車上生活を4カ月間続けた。家族に助け出されて入院。借金は自己破産して整理した。つぎ込んだ給料や借金の総額は7千万円を超えていた。

 今は生活保護などで月10万円ちょっとの一人暮らし。夜の街には絶対に出ない。パチンコ店が視界に入れば別の道を通る。GAの夜間ミーティングにだけは欠かさず出席し、自分を見つめ直す日々を続けている。「GAの仲間とつながっていると、自分一人ではないと安らげる」

 ギャンブル依存症では、家族も巻き込まれて病む例が多い。「育て方が悪かった」と自分を責め、「家庭を壊したくない」と夫の借金を肩代わりする。家族だからと、本人のトラブルを自らの問題と思い込み、自分を見失う「共依存」の状態に陥るのだ。

 県内の70代女性は、息子がパチンコやスロットマシンで作った計2千万円近い借金を、家を担保に入れてまで尻ぬぐいした。「立ち直ってほしかったし、世間体もある」。病気だとは知らず、親子心中の言葉が頭をよぎった。「苦しくても本人が自分で責任を取らないと、息子のためにならないとは、当時は思いもしなかった」と話した。

 ◆民間・行政、支援に力
《病気と認識し回復図る》

 GAが諫早市に誕生したのは8年前。長崎、佐世保市に広がっている。夜間ミーティングでは毎回、回復のための12の言葉などをまとめたハンドブックを読み上げ、体験や思いを打ち明け合う。本名を名のる必要はない。言い放し、聞き放しで秘密厳守。

 県長崎こども・女性・障害者支援センターは5月、相談窓口に立つ保健師や精神保健福祉士、消費生活センター相談員らを対象にした初の研修会を開いた。

 講師を務めた民間団体ホープヒル(横浜市)の町田政明さんは、相談を受ける際の心得として(1)借金問題から表面化する例が多いが、家族に借金の立て替えを勧めてはいけない(2)本人より家族の支援が先決。病気と知らずに頑張ってきた家族をねぎらう(3)解決すべき問題は借金ではなく病気の回復(4)相談窓口同士の連携が欠かせないと説いた。

 センターは6月から、依存症に悩む人の家族を対象にした無料教室を開いている。15人前後が通っている。

 パチンコ店でつくる全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)は03年、「ぱちんこ依存問題研究会」を発足させた。当初は売り上げに影響するとの声も業界内に出たが、注意を呼びかけるポスターを加盟店に張り出し、毎日来る客に社員が声をかけることもある。

 06年4月には全日遊連の支援で、依存症対策の専門家らによる第三者機関「リカバリーサポート・ネットワーク」が設立され、電話相談を受け付けている。

 ◇「自治団体への参加や病院の治療欠かせぬ」
   精神科医・西脇さんに聞く

 長崎市の西脇病院は、アルコールやギャンブルの依存症、うつ病などのためのストレスケア専門病棟(60床)を持つ。精神科医の西脇健三郎院長(61)にギャンブル依存症の症状や治療法について聞いた。

 ギャンブル依存症は「強迫性障害」の一種で、「強迫的ギャンブル(賭博)」との病名で呼ばれる。

 国内に150万〜200万人いると推測されているが、なぜこの病気が起きるのかはまだ解明されていない。周囲にも深刻な影響を及ぼす重い病気なのに、精神医療や行政からも軽く見られている。

 主な症状は、やり出したら止まらないコントロール不全と強迫行為(過度のこだわり)。いったん勝つと快感を覚え、ギャンブルへのこだわりや執着が増し、ブレーキが利かない状態を脳内につくってしまう。

 資金繰りのためのうそと、多額の借金を背負い込む。家族が借金を肩代わりするたび病状は悪くなる。家族や友人の信頼、社会的な地位など、すべての関係性を損なう。

 だれでもかかる可能性はある。最もなりやすいのは、几帳面で生真面目、対人関係で気配りがあり、戦後の日本が復興を成し遂げる模範になってきた「執着性気質」の人たちだ。リストラなどで行き場をなくし、ゆとりを失う。ストレスを抱え込んで心が悲鳴を上げるうつ病になりたくない人が、無意識に依存症に向かうのではないか。

 この病気は意志の力や自覚だけでは決して治らない。有効な薬物もない現状で、最も効果のある治療法は、専門の病院の治療プログラムと週数回の自助・相互援助グループへの参加だ。

 私たちの病院でもストレスケア病棟を備え、本人や家族らを対象にした夜間学習会を開いている。「病気だ」と認めず、自分が見えなくなっている人に、同じ病気の人たちと体験を語り合ってもらうことで回復につなげている。

 ▽主な連絡先
●県長崎こども・女性・障害者支援センター
          =095・846・5115
●西脇病院
          =095・827・1187
●GA長崎地区代表・山さん
          =080・5250・7460
●リカバリーサポート・ネットワーク
          =050・3541・6420 

  ※   ※   ※   ※   ※

 ギャンブル依存症の行き着く先は「自殺か、刑務所」という言葉を何度も聞いた。「やめるのは簡単だが、やめ続けるのが地獄」とも。

 きらびやかな店舗や消費者金融の誘惑はどこにもある。趣味との線引きが外見からはわかりにくい。表面化した頃には身も心もぼろぼろ。家族らの尻ぬぐいで悪化する。あなたも周りの人たちも、もしやと思ったら相談・医療機関に駆け込んで。意志が弱いのではない。重病にかかっているかもしれないのだから。
 

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