2008/02/12設置 黒猫上人語灯録
定期警護に行ってる会社のことなんだけど、聞いて。
ある夏の暑い日、その日の茶飲み話はケイの少し怒りを含んだ前置きからはじまった。
各々好みの飲み物を手に所員詰め所に集まっている。外は暑いが室内は快適な温度だ。
「ケイには珍しく語気が荒いね。どした」
椅子の背に両腕を凭せ掛けて、温かい珈琲を手にカナン。
先程帰ってきたばかりのシツダイは汗を丁寧に拭いながら、ケイの入れた冷たい麦茶を一気に飲み干した。
詰め所のあちこちに置かれた椅子やソファ。ケイの横の空いている席に座る。たまたま空いていたのが小振りの一人掛けソファなので長身のシツダイは少し窮屈そうだ。
「会社で嫌がらせでもされたのか」
「そう、それよ!」
豪華な髪がシツダイの方に振り向いたケイの動きにそって綺麗になびいた。
「そこの事務のヒトが私が行くたびにお茶とか用意してくれるんだけど」
「気が利くんだな」
うかつに合いの手を入れてしまったキーヨウにケイの鋭い視線が向く。射すくめられるキーヨウ。そこに事務所の稼ぎ頭の威厳はなかった。
「・・・キーヨウ、今はダメだ」
キーヨウの一番近くに座するオウシがそっとささやく。
「ケイははき出してしまわないと収まらん」
周りを見ろ、というように視線を促すとユッカもカナンも、微かに頷いている。ケイに顔を見られているシツダイは動かないが内心同じだろう。
「気が利きすぎて悪意を感じるわ。私のだけ多いのよ。私も最初は私がお客扱いされているからかと思ったけどアレは違うわ」
いつも華やかな雰囲気で見るものを魅了し、事務所の華と依頼者からも言われているケイだが、今日はえらく虫の居所が悪いらしい。でも憤慨していても美人は美人だ。
「ねえ、何が多いの」
ユッカが少しなだめるような声でケイに問うた。
「おやつよ、カロリーよ!」
握り拳を胸の前で握り、ケイが力説する。
一同勢いに押されてぐうの音もでない。
「・・・・・・おやつ」
ユッカがケイの言葉をオウム返しに返した。
「かろりー・・・?」
何か異次元の言葉でも聞いたかのようなカナン。
「熱量の事だな。1カロリーは純粋の水1グラムの温度を1気圧のもとで」
解説を始めたシツダイにケイから突っ込みが飛ぶ。クワァンサイ地方の芸人も真っ青の鋭いそれは綺麗に鳩尾に命中した。ソファに沈むシツダイ。
ケイは通常の仕事では補助系統を主に遣い、徒手空拳は得手ではなかったが今の一撃、そう一撃だ、は、事務所一接近戦に秀でたキーヨウが万全の体勢で対峙していたとしても避けられなかっただろう。
そのキーヨウはさっきの一瞥に懲りたのか、微動だにせずつぶやきも何も漏らさなかった。
「ケイ、後でシツダイを治療」
オウシが冷静に一言。唯一の救いは任務帰りのシツダイがまだ防護衣を背広の内に着込んでいた事だ。多少は衝撃が緩和された事だろう。
「分かってるわ。今のはちょっと突っ込みが強すぎたみたい。ごめんね、シツダイ」
いつものケイの優しさや気遣いが霞むくらいに、人格まで変わっているようだ。無事な所員は皆、別人を見ている錯覚に襲われていた。
それほどまでにケイを変貌させている理由が「おやつ」と「カロリー」。話が見えない。
「それで本題だけど、そこの事務のヒトとお茶をしてから帰ってるの。お疲れでしょうっていつも甘い物を出してくれるのだけど、その量が半端じゃない上に私だけなのよ」
「ええっと、それって事務のヒトがホントに気を利かせて出してるんじゃないの。っていうか、えーっと、悪意と感じる理由は」
途中で射貫かれるような視線を受け、カナンが発言を変更した。
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