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変わる日本史の常識

受験勉強のころお世話になった参考書が、10年ぶりに改訂された。いろいろ話題になっているが、古代史がかなり大幅に書き換えられている:
  • 「魏志倭人伝」は存在しない:三国志の一書である魏書に「倭人の条」があるだけで、「倭人伝」という書物はない。その内容も後代になって書かれた伝聞や推測で、信頼性は低い。
  • 「任那日本府」は存在しなかった:4世紀ごろ、朝鮮半島の南部に加耶と呼ばれる小国の連合があったが、任那という統一国家はなく、日本の植民地でもなかった。これは『日本書紀』の誤った記述。
  • 世界最大の墓は「仁徳天皇陵」ではない:堺市にある大仙陵古墳は、つくられた時期が仁徳天皇の在位期間と違うので、彼の墓ではありえない。被葬者が大王(おおきみ)であることは確実だが、内部調査が許されないので誰かわからない。
  • 「聖徳太子」は架空の人物:厩戸王という推古天皇の甥が、氏寺として斑鳩寺(のちの法隆寺)を建立したことは事実だが、彼は「皇太子」でも「摂政」でもなかった(そういう地位は当時まだなかった)。十七条の憲法をつくり、『三経義疏』を著して仏教を日本に導入した聖徳太子というのは、厩戸王の死後に成立した「太子信仰」の一種で、『日本書紀』が複数の人の業績を合成してつくった架空の理想的知識人である。紙幣に使われた有名な肖像画も、彼の肖像かどうかわからないので本書には出ていない。
  • 「大化の改新」は存在しなかった:645年に、中大兄皇子らが蘇我入鹿(厩戸王の家系)を謀殺する政変(乙巳の変)が起こった。しかし「改新の詔」というのは『日本書紀』に書かれているだけで、そういう改革が行なわれた証拠はない。「万世一系」というのは神話で、このように古代には複数の王家が権力抗争を繰り返していた。
  • 天武天皇以前に「天皇」はいなかった:私的な家長の名称である大王が「天皇」と呼ばれるようになったのは、従来は推古朝(6世紀末)とされていたが、その根拠は疑わしい。唐をまねて天皇という称号を使うようになった最古の記録は677年、天武天皇の時代の木簡である。
このほかにも、最古の貨幣は和銅開珎ではないとか、鎌倉幕府が成立したのは1192年ではないとか、「踏み絵」ではなく「絵踏み」が正しいとか、「天領」は俗称だとか、いろいろ細かいトリビアが散りばめられている。

近代では、南京事件の死者は「数千人から30万人という説(中国政府の公式見解)まであって、概数は定かでない」、慰安婦については「慰安施設で働かされた女性もいた(いわゆる従軍慰安婦)」、沖縄戦については「激戦のなかで集団自決に追い込まれた住民もあった」と書かれているだけ。別に本書は文科省が検定したわけではないので、これが歴史学の通説ということだろう。
コメント ( 17 ) | Trackback ( 5 )
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コメント
 
 
 
こんばんは (秦智紀)
2008-09-01 01:31:25
日テレの世界一受けたい授業でこういう内容をやっていたことがありましたね。
まぁ当然ですが、近代史は一切触れてませんが。
 
 
 
Unknown (misasa)
2008-09-01 02:59:18
池田先生のブログで和銅開珎とかという単語をみて、これからの通貨や資産の価値は変っていくのではないか・・・フッとそんな妄想の世界に浸ってしまいました。
これからのインターネット時代は、金やダイヤモンド、そしてどんな通貨や債権よりも価値のある、技術を基盤に信用を裏打ちする資産が登場するのではないか、そんな妄想で初秋の夜がふけていきます。
・・・酔っ払っているんで、変なこと言ってたら消去してください(笑)
 
 
 
史料偏重主義 (昏君)
2008-09-01 07:59:38
日本の歴史研究は史料偏重過ぎですから、記紀に書いてあることは絶対だ的なところがありました。
でも、物的証拠が発見され研究が進んだことで、矛盾点が出たきたのでしょうね。
客観的な研究が進んで正しい日本史が見えてくれば、自本の将来の役に立つかもことが有るかも知れないですね。
 
 
 
日本史史 (江戸川アダモ)
2008-09-01 08:26:07
歴史教科書の内容が変わると、「何を信じて良いかわからない」とか「現場の教師が混乱する」といった声が一部に聞かれますが、これは的外れですね。知識を詰め込む側も、詰め込まれる側も楽をしたいだけです。むしろ、歴史は変わるということが重要です。新たな発見によっても変わるし、歴史書を編さんする人間の立場や政治的状況によっても変わります。

「日本書紀」なんて入鹿を暗殺した側が書いたんですから、そりゃ政変の正当性を主張するでしょう。そもそも「大化の改新」を重要事項として取り上げたのは幕末かららしいですね。その後の軍国主義時代の歴史教科書は神話みたいになっていきますし、現在でも、どこかの圧力団体が騒いだら教科書は書き換えられます。

そういう意味では、歴史教科書が時代によっていかに変遷したかという「日本史の歴史」を研究する学科があると面白いと思います。その方が、鎌倉幕府が「いい国」だと暗記するより余程面白いしためになるでしょう。
 
 
 
歴史の学び方 (壮麻 陣)
2008-09-01 08:51:54
日本史上の異説を取り上げる番組が、TV東京で放映されています。ゲストの芸能人達が異説を真実だと信じて行く様を見ていると、単なるバラエティー番組と看過してていいのだろうか?のような不安を覚えます。

文献間の矛盾を突き合わせて、片方だけが真実とするより、これからは異説並記の形式を取る方が健全だと考えるのは私だけでしょうか。

教科書、参考書として成立するかどうか、難しいところでしょうが…

 
 
 
アクセスレポート (池田信夫)
2008-09-01 09:14:22
先月は、ついに200万PVになりました。これは太田事件の30万PVという「特異日」がきいてますが、その後も連日7〜8万PVが続いています。もうそろそろブログから足を抜いて本業に専念したいんだけど・・・
 
 
 
Unknown (x-accountant)
2008-09-01 10:24:50
ケインズ曰く「経済学者の本業はパンフレットを書くこと」であり、池田先生自身も「当ブログのような「パンフレット」こそ経済学者の本業かもしれない」と仰っていたはずですが。
無理をしない程度に、更新頻度を落としても、継続していただけると有り難いです。
 
 
 
歴史のトリビアなんかより (てんてけ)
2008-09-01 10:29:51
「日本」という国号がいつ決まったのか、有力な説をいくつか書いて欲しいです。
 
 
 
お体ご自愛ください (長井利尚)
2008-09-01 20:26:09
気温の変化が激しい昨今、体調を崩されている方も少なくないようです。池田先生も、無理をなさらず、ご自愛ください。blogは、「細く長く」続けられたら良いと思います。

先日、「ハイエク」を拝読しました。大学では全く勉強しなかった内容なので、非常に刺激を受けました。ありがとうございます。
 
 
 
う〜ん、およそ30年前 (Unknown)
2008-09-01 23:28:53
私が中学高校と勉強していた「日本史」というか「教科書」っていったいなんだったんでしょう・・ その時々の政治とか経済のムードに都合の良い内容に偏向してたってことなんでしょうかね。
 
 
 
小学校では (卑弥呼)
2008-09-02 01:37:51
姪が中学を受験するので夏休みに勉強を見てやっていました。

今でも、中学受験の歴史では、40年前の私のころと同じように、聖徳太子の十七条憲法や、大化の改新などの事項を必要とするようです。さすがに仁徳天皇陵は大仙古墳となっていましたが。どこまで正確に新しい情報を教えればよいのか迷ってしまうこともしばしばありました。

「学校ではどう習ったの?」と聞いても、どうもあいまいにうまくごまかして教えられているようです。
教員もそれほど知識を持っていないのだと推測しています。ただ、「踏み絵」はちゃんと「絵踏み」と習ったといっていました。

天皇陵(大王墓)は、いつまでも昔の間違った比定に固執している宮内庁書陵部が管理しているので学者の調査すらできない状況です。文久年間の修復(という名の改築・造成)までは結構誰でも入れたと聞きますし、少なくとも学者の研究には協力してもらいたいものです。
 
 
 
青春の浪費か・・・ (free_programer)
2008-09-02 02:15:58
貴重な青春を割いて勉強した内容が違っていたとは・・・

まあ、山川の教科書も3−400Pageもあるわりには、無味乾燥な知識の羅列で、真の教養として現代人が思考する基礎にはなってないと思います。なぜ戦前の日本が無謀な戦争へ突き進み、止められなかったのか?というような日本人にとって重要な課題は学べなかった

そもそも、世界史と日本史の教科書の厚みが同じなのも変な気がするが。もっとも無味乾燥な知識の羅列という点では、どっちも同じだが。

世界史を身近に感じられるようになったのは、塩野七生氏の小説によってでした。塩野さんにぜひ世界史の教科書を書いてもらいたいです。(多分、ローマ時代に偏ったものになるでしょうが・・・)

ギリシャ・ローマに始まる西欧の古典・教養をもっときちんと高校時代に、教えてくれてたらなあ、と思います。リカードの比較優位の考えさえほとんどの日本人は知らないのでは・・・話にならないですよ

日本人は、大学まで出たとしても、教養という点では、薄いのではないでしょうか。
 
 
 
これは歴史の改竄では? (まいまい)
2008-09-03 06:21:18
この本、滅茶苦茶ですね。

すべて「『日本書紀』の誤った記述」という仮定による断定をしているのですから。

聖徳太子にしても、著者による「仮定」で日本書紀を否定し、著者のよる「想像」で新解釈をしています。
また、「任那日本府」は存在しなかったーなんていうのは韓国が聞いたら大喜びしそうです(笑) 

最近の教科書は、日本の偉人を採り上げず、韓国の偉人にページが多数割かれたり、秀吉の朝鮮出兵が侵略で、元寇が遠征になってたりして、これまた無茶苦茶です。
この山川の本もこうした偏向の延長線状にあると思います。

教育界は日教組を筆頭に左翼が多いですが、特に歴史関係でその傾向が表れ物議をかもします。山川も左がかっており例外ではありません。ちなみに、この聖徳太子の新説は朝日、毎日が嬉々として紹介しておりました。

大昔の歴史書の信憑性が薄いからといって、現在の人間がそれを全否定し、確固たる歴史の記録も無いのに、解釈によって歴史を大幅に書き換えるのならば。歴史学など成り立たないのではないでしょうか? フィクションの分野になってしまいます。

常に客観的な視点を心がけていらっしゃると思われる池田さんが、無条件でこの本を受け入れているご様子なのが、ちょっと意外でした。


(2重投稿になってたら、削除して下さい)
 
 
 
レトリックの問題 (安野)
2008-09-04 07:51:40
任那「日本府」は存在しなかったと言ってもよいでしょうけど、「聖徳太子」や「大化の改新」については「なかった」は言い過ぎで、諸国漫遊しなかったから水戸黄門はいなかった、名誉でないから名誉革命はなかったと言っているような感じがします。レトリックの問題ではないでしょうか。

業績についての言い伝えが一人の人物に集中してしまうことは良くあり(「ルカの法則」と言うらしいですが)、まったくの寄せ集めで人物が特定できないなら「いなかった」と言って良いでしょうが(過去の聖徳太子非実在説にはそう言うのもあった)、山川が準拠しているらしい大山説ではそうではないですね。
 
 
 
隠れた名著 (tanakac)
2008-09-04 12:46:02
やたらぶ厚くて愛国心を強要する外国の教科書や参考書より山川の高校の教科書やこの参考書の方が良くできていると思います。(明治維新のところでは講座派や労農派もきちんと批判しています)
山川の参考書は世界史も良くできていてこの二冊を日本の首相が精読していればそれだけで一目置かれるとおもいます。他の国で出版されている歴史教科書や参考書と比較してみると良いかもしれませんがレベルは低くない。ひょっとしたらこういう基礎があるから塩野さんはローマの歴史を書けたとのかも知れません。山川の日本史と世界史。英訳してみると案外評判になるかも知れません。

 
 
 
Unknown (りょーま)
2008-09-05 10:25:10
えーっ?聖徳太子は架空の人物になったんですか?
まだ定説になってないと思うんですが・・・。
いまだ議論されてるものをはっきり架空って
断言しちゃうんですね。
大山ってそんなに影響力があるんですかね?
 
 
 
隠れた名著2 (tanakac)
2008-09-05 17:01:19
読めばわかりますがこの本は全体を通して自虐でも愛国でもなく淡々と書かれています。スペースが限られているのでよけいなことは記述できなかったのでしょう。自慢話(愛国史観)や悪口批判(自虐史観)はどうしても長くなるものです。
それにしてもこの1冊の中に辞書なみの情報が、政治・経済・社会・文化それぞれ絶妙の配分で編集され、史料や図版も効果的に配分されています。広辞苑など買うよりかなりお買い得だと思います。(聖徳太子の件でコメントが多いようですが太子伝説などの疑惑ありと推論の域はこえていません。このへんにも好感が持てます)
 
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