水曜、夜、店が終わってケイにメールを送ったけど返信なし。
今日も忙しいと言っていたので、まだ仕事をしているのだろう。
途中駅で「今、事務所を出ました」と、ようやく届く返信。
私は一足先に最寄り駅に着いた。
あっかい日だったので、駅ビルのベンチに腰掛、今、読んでいる「プラハの春」を開きケイを待った。
10数分後「お待たせー」と、ケイが到着。
生ビールが飲みたいと言うので焼き鳥屋に向かった。
「先生に届いたFAX送ってもらったの?」
「電話で読んでもらったから、送ってもらってないよ」と、言いながら、バッグから向こうのFAXに対して、ケイから聞いた話を金さん(弁護士)がまとめて、金さんが思った常識的な事を書いて向こうにFAXした紙を取り出した。
『それには、まず、ケイさんが息子さんに送ったメールを転送してもらい読みましたが、過剰反応を起こすような物ではなく父親として当然のことしか書かれていませんでしたよ。
過剰反応を起こすとしたら、ヨウコ(母親)さんの方に問題(何かを吹き込むなど)が、あるのではないでしょうか?
ケイさんと息子さんが争っているわけではなく、息子さんはすでに成人した男性であり、親子関係と裁判とは無関係のことなので連絡を取らないよう私からは強く言えません。
息子さんの事を思って学費を送金しているケイさんの思いを慮って、そちらが息子君に促すべきではないでしょうか?在学証明をケイさんに送ってあげるようにそちらから助言されては如何ですか』
と、いうようなことが書かれていた。
さすが、金さん!
ケイは息子君と争っているのではない。
「この通りだよね!?しっかし、息子君情けない子だね」
「ホントにケイの中では、もう死んだも同然だよ」
「ケイからのメールがイヤなら、どうして自分でメールするなりしないんだろうね?今は話す気はないのでメールも電話もやめて下さいって」
「そうだよ!本人が何も言って来ないから、息子は死んでてヤツが携帯持ってるんじゃないか?と、今日本気で思ったよ」
そんなことはないと思うけど、すべて彼女からの言い分で息子君から何か言って来てるわけではないので、ケイがそう思ったとしても不思議ではない。
「私が思ったのはね、息子君母親にキレたんじゃないのかな?
息子君名義の口座に送金してるけど、それを息子君が管理してるとは思えないし、就職したかどうかは分からないけど、院には 行ってなくてケイのメールで母親がまだ学費を受け取っているって知ってキレたのかも?って思ったよ。
息子君も、もう子供じゃないからキレた息子に彼女は手を付けられなかったんじゃないかな?
それで、ケイにメールされると息子の耳に入れたくないことが入るから、連絡を取らないよう言ってきたような気がするわ」
「それは、ありえるけど、そんなことよりケイからのメールをヤツに見せたっていうのが許せないよ。母親の言いなりになって生きるんだったら、生きている意味なんてないよ。死ねばいいのに」
「そんなこと言わないの!今はこんな状態でも何年か先に変わるかもしれないでしょ?」
「いいや、無理だろうね」
「う~ん?で、院には行っているかどうか?は、書いてたの?」
「行っているようなことは書いてたけど、そんなの信用できないよ」
「そうだよねぇ」
「でも、ヤツはどうしてわざわざ弁護士を通して大事にするんだろう?息子に二度とメールも電話もするな!って、メールさせればそれで済んだのに。そんなこと言われたらケイは二度としないのに」
「今までだってそうじゃない。どうでもいい事や、それがどうした?だから?何の意味があるの?なんてことを鬼の首を取ったみたいに声高に主張したこと数え切れないぐらいあったじゃん。
今回もケイはこんな酷いことする父親だってことを言いたいんじゃないの?誰が見ても酷いことなんてないのにね。
少しでもケイを悪者にして自分が優位に立ちたいだけなんだよ。それが、墓穴を掘ることになるなんて気付いてないおバカさんなのよ」
「ホントにバカだね。ケイの中では今日息子は死にました」
「今はケイがそう思うのもしょうがないね。息子君がいつの日か改心してくれば受け入れてあげればいいね」
「まず、ないだろうね。ヤツから離れなければ。まぁ、メアドも携帯番号も削除したしケイから連絡することは二度とないね」
どうして、彼女は息子君を平気で巻き込まなくてはならないんだろう?
「ついにケイには跡取りがいなくなったね。継がす気もなかったけど。ミルっちが継いでくれない限り家はケイとるみかで終わりだね」
「そんなことないよ!ミルが継ぐって言うかもしれないし、カヨ(ケイの姪)ちゃんの旦那さんは田舎が好きなんだから、要るって言えば元気な内に遺言状書いて私達が死んだらあげればいいじゃない。
年に一度は行くだろうから、その時にお墓掃除だけはしてねって」
「そうだね。それでいいよね」
「うん」
そして、時間も遅くなったので、うちに帰った。。