システムのドローダウンについて
稲葉：あと、システムの評価と分散についてお聞きしたいことがあります。いいシステムと悪いシステムをどう判断しているかという話を聞きたいと思いまして、システムトレードで定番の勝率とか、プロフィットファクターとか、最大ドローダウン以外の指標で何か見ているものはありますか。
斉藤：最大ドローダウンなんかももちろん重要ですけども、基本的にはまず資産曲線の滑らかさを重視しています。極端にでこぼこした曲線、要は、負けるときはすごく負けて、勝つときはすごく勝つというのはちょっと使いづらい面があるので、できるだけ資産曲線が滑らかであること。
あとは、どんな相場でも勝てる手法というのは存在しないので、逆張りは比較的有効ですけども、基本的には存在しないので、得意とする相場ではシグナルが多くて、苦手な相場ではシグナルが少ないものがいい手法だろうというふうに判断します。
稲葉：なるほど。わかりました。どんな優秀なシステムでも、ドローダウンを食らう時期があるのは避けられないと思うんですね。斉藤さんが実際に行っている、ドローダウンを緩和するためのアイデアみたいなのがあれば教えていただけないでしょうか。
斉藤：ドローダウンというのは昔からつきまとって難しい問題で、例えば、アメリカなんかではシステムトレードのヘッジファンドも多くありますけども、どのファンドも大抵４割以上のドローダウンを経験しているんです。そう考えると、どんなことをやっても４割のドローダウンというのは絶対覚悟しなければいけないものだと思っています。
そうはいってもできるだけ緩和したいわけで、ドローダウンをできるだけなくすためには、相関性の低い複数の商品か――
商品というのは、株以外に、225だったり為替だったりを一緒に運用する、もしくは同じ商品で運用するんだったら、複数の相関性の低い手法を時期ごとに、例えば保ち合いが得意な手法と、トレンドが出ている時期の得意な手法を組み合わせることによってドローダウンを減らすというのが、現実的な方法だと思います。
ただ、ドローダウンというのはあながち否定的ではなくて、一番もうかるシステムというのはドローダウンが大きいシステムかもしれないなとも思うんです。要は、大きいドローダウンを許容するほど利益が多いわけで、トレンドフォローなんかでも、極端な話、空売りなんて入れないほうがもうかるんですよ。
ただ、空売りを入れてヘッジしないとドローダウンが大きくなり過ぎるので、ヘッジの意味で空売りを入れたりすることはあると思うんですね。だから、どんなにドローダウンを受けても精神的に耐えられるのであれば、ドローダウンは気にしなくてもいいという見方もできることはできると思っています。
稲葉：なるほど、わかりました。システムを分散させるというのが、（ドローダウンを）緩和させることを最優先にするのが一番いいのかなという話を、聞いている限りは感じました。
『システムトレード実践マニュアル』のように個別株全般でのシステムトレードだと、あまり気にする問題ではないのかもしれないんですけど、例えば225の先物とか為替のように銘柄数が少ないものについて特に言えると思うんですけど、いわゆるカーブフィッティングを回避する手段として気をつけていることというのは何かありますか。
斉藤：正直言って、個別株の場合は、ある程度多くの銘柄で検証して、それを長期で検証した結果なので、カーブフィッティングは基本的に全く心配しないんですけども、例えば225なんかはカーブフィッティングというのは判断が非常に難しいと思うんです。幾つかの判断要素としては、まず、先ほど言ったように資産曲線が滑らかかどうかということが一つ。
もう一つは、これが結構重要だと思うんですけど、得意な相場と苦手な相場の傾向性が明らかかどうかです。どんな相場でもかっちり当てはまるのは結構怪しいと思うんですね。基本的には、こういう相場は得意だけど、こういう相場は苦手とはっきり傾向があらわれていれば、それはカーブフィッティングではないだろうというふうに判断します。
もう一つは、十分な期間です。上昇相場も、下落相場も、保ち合い相場も全部含んだ、十分な期間のデータで検証しているかということですね。それでも、完全にカーブフィッティングではないという断言は絶対できないと思うんですけども、少なくともこの条件には当てはまっていないと心配で、実践では運用できないなと思っています。
稲葉：なるほど。わかりました。
（続く）斉藤正章インタビュー 第二部 目次