「寝たきりにさせない救急医療へ」長崎の救急調査システム
日本臨床救急医学会の地域救急医療体制検討委員会は9月5日、長崎市などで行われている救急隊が疑った傷病名と医療側の診断とをマッチングさせることで、地域の医療提供体制の向上につなげている「長崎救急実態調査システム」について、長崎リハビリテーション病院の栗原正紀理事長の発表を聞いた。栗原氏は「寝たきりにさせない救急医療体制にしていくため、『地域脳卒中センター構想』などを考えている。今後はリハビリテーション体制を確立し、救急医療と『協業』していくことが課題」と述べた。救急搬送の検証が、医療提供体制の構築につながっている国内でも珍しい例だ。
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栗原氏は、救急隊が救急搬送時に使用する「救急活動記録票」について、長崎県では「救急活動記録票兼出場報告書」で運用していることを説明した。
記録票の様式は消防本部によって違うが、長崎県の様式は4枚複写。1枚目は「救急隊用」、2枚目は「検証用」、3枚目は「医療機関用」、4枚目は医療機関から消防機関への「返信用」だ。上段に患者情報欄があり、下段は、返信用以外はバイタルサインを含む観察事項欄。返信用には実態調査票が設けられており、搬送1週間目の転帰(外来のみ、入院中、退院、転院など)や確定した診断名、独自に使用している診断コード、救急隊が現場で行った判断や処置、病院選定に対する意見などについての記入欄がある。
救急隊は傷病者を医療機関に搬送した際、患者情報や観察事項などを4枚複写で記入。救急隊用に医療機関から初診時の病名を記入してもらい、検証用と共に持ち帰る。医療機関用と返信用は医療機関に渡す。返信用は、消防機関が1か月に1度、医療機関を回って回収し、長崎市がコンピューターに入力する。CPAや重症外傷などは消防機関内で検証する。その後、医療機関も検証用で検証する。
こうした作業により、救急隊が現場で疑った傷病名や選定した搬送先、処置などが適切だったかが医療機関と消防機関の双方にフィードバックされ、データが蓄積される仕組みになっている。同学会の有賀徹担当理事によれば、国内でこうした救急搬送のマッチングを実施しているのは長崎地域と千葉県船橋市のみだという。
栗原氏は、長崎地域では1997年からこうした仕組みを採用しており、データを活用した「長崎救急実態調査システム」を実施しているとした。
この調査によると、長崎地域(人口55万人)の救急搬送は98年の1万2841件から2002年には1万6206件に増加。栗原氏は「内因性疾患の増加が原因。特に70歳以上の高齢者の搬送が増えている」と説明した。
また、1998−2002年の救急搬送で上位を占めた傷病は、脳卒中、肺炎、大腿骨頚部骨折の順だった。脳卒中については、救急搬送された患者の6割を脳梗塞が占めており、脳内出血が3割弱、クモ膜下出血が1割強だった。栗原氏は「肺炎が多かったのは意外だった。また、これらは死亡率が低く、寝たきりになりやすいので、集中的なリハビリが必要。寝たきりにさせない救急体制にしなければならない」と述べた。
このほか、脳神経外科医でもある栗原氏は、「脳卒中の救急患者は自分が診ていると思っていたが、内科医が多くを診ていたことが分かった。内科医への教育も大事なため、大学の教官にも結果を伝えていかなければ」とも述べた。 栗原氏は、調査結果を基に、「地域脳卒中センター構想」を考えており、▽救急システムの整備▽地域住民の啓発▽かかりつけ医や救急隊に対する教育▽脳卒中ケアユニットや専門スタッフを備えた脳卒中センターの整備▽リハビリテーションシステムの構築−などが地域の脳卒中診療の課題にあるとした。その上で、脳卒中患者を、「地域脳卒中センター」「高次脳卒中センター」「脳卒中支援病院」などから成る急性期の体制と、リハビリテーション体制や在宅医療サービスなどとのチーム医療で支えるとした。同構想の内容は、3月に策定された「長崎県保健医療計画」に盛り込まれている。
また、「回復期リハビリテーションがしっかりしなければ、救急医療体制がつぶれてしまう」と指摘。救急医療とリハビリテーション医療を連携させ、各職種が「協業」して医療提供していくことが不可欠だとした。
■行政は地域ネットワークに支援を
栗原氏はキャリアブレインに対し、「救急医療とリハビリテーション医療は表裏一体で、チーム医療を提供するにはコメディカルの役割も重要。行政も交えてこうしたことを議論する場が必要だ。行政はこれまでハードに対する支援をしてきたが、こうした地域医療のネットワークなどのソフトに対する支援をするべき。これによって人材が育っていくことになる」と述べた。長崎地域では年に1回、約200人の医療従事者が集まる研修会で、調査結果を基に脳卒中のデータなどについて情報交換や勉強をしていると語り、最近はPTなどのリハビリスタッフも増えてきたとした。
一方、東京都は脳卒中の救急搬送体制を来年3月から都内全域でスタートさせる予定。これについて検討している「脳卒中医療連携協議会」で、委員から救急搬送についての「マッチング」を提案する意見が出ていたことなどから、都や東京消防庁の担当者、同協議会の委員も来場していた。
更新:2008/09/05 22:53 キャリアブレイン
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