骨髄腫の基礎

清水一之先生(名古屋市立東市民病院)


皆さん、お早うございます。名古屋から来ました、清水と申します。

「骨髄腫の基礎」についてお話しします。基礎と言いましても皆さんに骨髄腫という病気を 分かって頂くために、色んなお話をさせて頂きます。出来るだけ分かりやすくお話するつもりですが、どうしても専門的なスライドが多くて、お分かりにならない所があるかも知れませんが、その都度「これは分からない」と言う事があれば、ご質問ください。


まず、骨髄腫とはどんな病気かと申しますと、発症率は10万人に2人くらいの頻度でありまして、悪性リンパ腫が10万人に5人くらいという事ですから、少々少ない病気ではあるかと思われます。全悪性腫瘍の1%程度、白血病や悪性リンパ腫のようないわゆる造血器腫瘍のおよそ10%、あるいはもう少し多いかも知れませんが、そのような頻度であります。

これが、ある骨髄腫の患者さんの骨髄から取ってきた標本ですが、ここにこういう細胞があります。これら全て腫瘍細胞でありまして、形質細胞が腫瘍化した、いわゆる骨髄腫細胞と称するものであります。


これらはほとんどが同じクローンに由来する腫瘍細胞でありまして、個々の細胞から出てくる免疫グロブリンはたった1種類でありますので、電気泳動という検査をしますと、このように非常にとがった、「スパイク」と称する、山がみられます。単クローン性を意味する「monoclonal」のMをとって「Mスパイク」と呼んでいます。そうでない場合はこういうなだらかな放物線を描くのですが、単クローン性であるという証拠に、こういうようなスパイクを示すというのが特徴であります。 そのようなことから、多発性骨髄腫というのは悪性腫瘍が単クローン性の細胞増殖によりなることを認識させたプロトタイプ、原型であると言うふうに考えられております。


今、申し上げたように、骨髄腫の腫瘍細胞は形質細胞と言う細胞ですが、この形質細胞と言うのがBリンパ球、リンパ球にはBとTがありまして、Bリンパ球がどんどん分化して最終的に形質細胞になった、Bリンパ球から言えばいわゆる終末細胞と言うことになるわけです。Bリンパ球は、骨髄の中でこの様な免疫グロブリンの重鎖(ヘビーチェーン)の再構成、或いは軽鎖(ライトチェーン)の再構成を経て表面抗原にIgMを産生し、次にDも産生して、末梢血を経てリンパ節へ移動し、リンパ節の胚中心の中で免疫グロブリンのヘビーチェーンの体変異、あるいはIgG、IgAというような他の免疫グロブリンへのクラススイッチをおこす再構成を経て形質細胞になります。そして、形質細胞そのものは骨髄へ里帰りしまして、そこで骨髄のストローマ細胞と呼ばれる間質細胞との総合作用で、非常に長生きをする形質細胞になっていくわけです。これが正常な形質細胞の分化過程を示したわけですが、骨髄腫におきましては、このクラススイッチの再構成の段階で何らかのエラー、異常が起こり、どうも腫瘍化に結び付くようであるというふうに考えられております。


今、申し上げたように形質細胞は、Bリンパ球の終末細胞ですから、染色体で分析しようとしましても分裂像が得られにくいと言う特色がありまして、基礎的な研究がなかなか進歩しなかったのですが、最近FISH(fluorescence in situ hybridization)法とか、SKY (spectral karyotyping) 法と言う新しいテクニックが開発されまして、骨髄腫細胞における細胞遺伝学の研究が長足に進歩してきました。


その結果判ったことは、骨髄腫の患者さんで最も多く認められる変化と言うのは、免疫グロブリンのヘビーチェーンの座、14番染色体の所にある座で起こる再構成であります。再構成が起こった時に、オンコジーンと呼ばれるがん遺伝子、がん原遺伝子(プロトオンコジーン)、がんの元となるような遺伝子が、その場所の所へ転座を起こしまして、転座を起こした結果、脱制御を受けてそのがん遺伝子が活性化されることにより、骨髄腫が発症してくるのではないかというふうに考えられております。
転座の場所ですが、いわゆる「切断点」と言いまして、切断点の違いによって2種類の免疫グロブリンの転座が見つかっております。初期の転座と2次的な転座と2つありまして、そのブレイクポイント、切断点の違いと言いますのは、初期の転座に関しては、免疫グロブリンのスイッチ領域、あるいはJHと言う場所での転座が起こるということ、2次的なものに関しては、スイッチ、あるいはJHリージョンのもっと外の所で切断点が見つかるという違いがあります。
初期の免疫グロブリンの転座の時の相手方の遺伝子、がん遺伝子としましてはCyclin D1やCyclin D2などが見つかっております。 初期の免疫グロブリンの転座は、診断時だいたい4割の患者さんに見つかり、このような初期の転座が骨髄腫という病気を規定する出来事であるだろうと考えられております。 また、2次的な転座は診断時だいたい2割の人に見付かるのですが、これは恐らく腫瘍の進行に関わる変化であろうと考えられております。


その他に見付かっていますのが、様々ながん遺伝子、あるいはがん抑制遺伝子というのがあります。例えば、Rasと言うがん遺伝子は、診断時まだ病気が進行してないような段階では27%の患者さんに見つかる程度ですが、病気が非常に進んだ段階になると75%という具合に増えてくるとか、p53というがん抑制遺伝子に関しては、病気が末期になってくると4割の患者さんにも見つかります。
このようにがん遺伝子、あるいはがん抑制遺伝子の変異が起こってきますと、最終的に骨髄腫細胞がドンドン増殖するようになってきます。したがって、多発性骨髄腫の発がんのメカニズムというのは多段階、マルチステップであろうと考えられております。すなわち、正常な形質細胞がプライマリー、一次的なトランスロケーション、転座を起こしてMGUSと言う病態になり、続いてセカンダリー、二次的な免疫グロブリンの転座を起こして多発性骨髄腫になるということです。そして、もちろんこの時には骨髄の間質細胞との共同作用と言いますか、相互作用が必要になろうということです。さらに、がん遺伝子、あるいはがん抑制遺伝子の変異が起こってきますと、非常に治療に抵抗するような骨髄腫であるとか形質細胞性白血病のような病態、非常に厄介な病態になるのではないか、このような多くの段階を経て、骨髄腫が進行していくというメカニズムが考えられております。


これは昨年、アメリカのIMFが世界11,171例の患者さんのデータを集めて、予後因子の検討をしたものです。日本骨髄腫研究会の先生方から1,383例の患者さんのデータを提供していただきましたので、日本の患者さんももちろん含まれています。
その中で、染色体、あるいは細胞遺伝学的な異常を判った部分だけでもまとめたものです。 G-バンディングという方法でみたところ、染色体異常が1つであると46ヶ月、そうでない人は67ヶ月という生存期間です。どうも染色体異常があると予後が悪いということです。また、2つ以上の異常がありますと更に予後が悪くなるという結果がでています。 それから、皆さんよく御存知だと思いますが、染色体分析で13番の遺伝子の欠損がありますと予後が悪いこと、これはFISH法を使ってやっても同じ様にやはり予後が良くないです。 逆に、リンパ腫の一つMantle cell lymphomaでよくある11番染色体に存在するcyclinD1との転座になりますと、これはむしろ逆に予後が比較的よろしいと言われています。それから、4番の染色体との転座がありますと非常に予後が悪い。それからtrisomy17と言うのはp53と言うがん抑制遺伝子ですが、これがあれば同じく予後が悪いというようなことが判っております。


この様にして腫瘍化した骨髄腫細胞があるわけで、骨髄腫細胞の胞体内、細胞の中ではproteasome(プロテアソーム)と言うorganelle(オルガネラ)が非常に活性化しておりましてこのようなコンプレックスを消化しまして、NF-κBという細胞の増殖、アポトーシスを制御する因子がここで遊離されて、骨髄腫細胞の核内に移動しましてここで転写、情報を読み取り、IL6やVEGFのようなサイトカインやVCAM1などの接着分子を発現するようになります。そうしますとIL6は骨髄腫の間質細胞、ストローマ細胞から出てくるサイトカインですけれど、骨髄腫細胞を刺激しますし、骨髄腫細胞から出て来るVEGFというサイトカインは間質細胞を刺激します。また、VCAM1という接着分子を介してお互いにくっ付くことによって、骨髄腫細胞をアポトーシスから防ぐ、守ってやる、このように総合的なメカニズムが成立します。

その他に注目されるサイトカインとしましては、TNF-αと言うものがありまして、それは骨髄腫細胞から分泌され、関連の細胞に作用するparacrine(パラクライン)、あるいは骨髄腫細胞自身にも作用するautocrine(オートクライン) サイトカインであります。骨髄腫細胞自身に作用してNF-κBを刺激し、細胞増殖あるいは接着分子の発現ということを起こし、間質細胞の方にこのTNF-αが作用しますとこのNF-κBを通じてIL6と言う骨髄腫細胞を刺激するサイトカインが産生され、あるいはこのVCAM、ICAMというような接着分子の発現をup-regulateするという双方向的なメカニズムが考えられております。


その他、骨髄腫細胞から出てくるVascular Endothelial Growth Factor、VEGFという血管内皮の成長因子は、様々なターゲットオルガン、標的があります。例えば、骨髄の中の血管には、その血管新生を促すような作用があります。骨髄の間質細胞に関しては、骨髄腫細胞を刺激させるIL6の分泌を増加させる、あるいは骨髄腫細胞自らにも効いて骨髄腫細胞の増殖や骨髄腫細胞の遊走ということを刺激します。
また、骨髄腫に特徴的な骨病変の一番の原因である破骨細胞 osteoclastへの分化を促進ということもあります。それから、局所の免疫をつかさどる樹状細胞というのがありまして、この樹状細胞の成熟を逆に抑えるというような、骨髄腫にとって都合の良い環境をこのVEGFは作るわけです。これは骨髄腫細胞ですが、その表面の所にはこのVEGFに対するレセプター、受容体がありまして、そこへ自ら産生したVEGFがくっ付きますと、このような経路をたどって骨髄腫細胞の増殖、あるいは骨髄腫細胞の遊走という結果に繋がるわけです。


骨髄腫では重要な病態として骨破壊があります。骨がドンドン溶けてしまったり、折れてしまったりするのですが、その時のメカニズムとしましては、先ほど申し上げた様なTNF-αやVEGF、macrophage inflammatory protein-1α MIP-1α、このようなサイトカインが破骨細胞を活性化する因子(osteoclast activating factor, OAF)です。
メカニズムについてですが、破骨細胞は最初から成熟した状態であるわけではなくて、骨髄の中に前駆細胞のような状態で存在しております。その破骨細胞の前駆細胞を活性化するためのNF-κBが核内にあるわけですが、それの活性化のためのレセプター、受容体が表面に発現しています。そのレセプターに対するリガンド、結合する分子の発現は、骨髄腫細胞と間質細胞がくっ付くことで分泌される先ほどお話したようなサイトカインによってup-regulateされます。そして、そのリガンドとレセプターがくっ付くことによって前駆細胞から破骨細胞への分化が進み、骨を破壊する機能を持つに至るというメカニズムであります。


昨年、日本骨髄腫研究会の先生方が非常に努力して、1383例の骨髄腫の患者さんのデータを集めました。それによりますと、患者さんの男女比は少々男性に多くて、年齢中央値は66歳とかなり年齢がいった方に多い病気であるということです。70歳までは、男性の方が多いです。70歳を超えると女性の比率の方が多くなるようです。

それから免疫グロブリンのM蛋白のタイプによって、IgG型骨髄腫だとかベンスジョーンズタイプの骨髄腫と呼ぶのですが、一番多いのは、IgG型の骨髄腫であって、次に多いのがIgA型、そしてベンスジョーンズタイプの順になります。それから、後でもお話ししますが、Durie&Salmonのいわゆる病期診断では、6割以上の患者さんがVAとかVB、病期V以上でありました。


次に症状です。症状を生み出すその病態としましては、骨髄腫細胞は骨髄の中でドンドン、ドンドン、増殖するわけです。骨髄は、赤血球、白血球、血小板という正常な造血細胞、正常な血液細胞を作る場所ですから、骨髄腫細胞が骨髄の中で増えてしまいますと、場所が減ってきて、正常な造血が起こらなくなります。そうすると汎血球減少と言いまして、貧血がおこったり、白血球減少がおこったり、血小板減少がおこったりするということがあります。特に白血球減少がおこりますと感染症にかかり易くなります。さらに骨髄腫細胞はM蛋白を産生するわけですが、このM蛋白というのは免疫グロブリンとしては抗体としての機能が無くて、これがあるためにむしろ正常な免疫グロブリンの濃度が減少してくることになります。免疫グロブリンは抗体として感染防御には重要な役割がありますから、これが下がればやはり感染症はおきやすくなります。白血球減少と抗体としての機能を有する免疫グロブリンが少ないと言う二つの要因で、非常に感染症が起きやすくなるということです。それから、このM蛋白中のライトチェーン、ベンスジョーンズ蛋白と言うのですが、これが腎臓の糸球体の中の遠位尿細管に沈着することによって、遠位尿細管は閉塞してしまい、腎不全になることがあります。更に、腎臓からは赤血球を作る為のサイトカイン、エリスロポエチンと言うのが出ている訳ですが、腎臓がおかされるとそのエリスロポエチンが下がって来ますので、貧血にも影響します。
それから、先ほど申上げた様なサイトカインの作用によって破骨細胞が活性化され、骨が破壊されます。骨が破壊されますと、カルシウムがドンドン血中に溶け出して来ますから高カルシウム血症が起こります。高カルシウム血症が起これば、これがまた腎臓に詰まり、更に腎臓を悪くします。このように、病気を次々形成するようなネットワークが出来ていると言うわけです。
症状としましては今言った骨に関すること、腎臓に関すること、それから感染症に関することが3つの大きな症状であるわけですが、骨の痛みに関しては腰痛が最も多くて、だいたい8割の患者さんのレントゲン写真で溶骨性の変化が見つかります。 それから、時々貧血があったりとか、白血球が少ない、或いは血小板が少ないというような血液の異常もあります。
腎臓が悪くなって蛋白尿、腎障害、オシッコが全然出なくなると言う様な状況で見つかる場合もあります。 頻度は1割か2割程度ですが、先ほども言いましたが、高カルシウム血症、血液中のカルシウムが非常に高くなる状態になりますと喉が渇く、脱水、その結果便秘、それから食欲不振、気持ちが悪くて吐く、更にひどくなると傾眠傾向など意識障害、意識レベルも悪くなるということが起こります。
神経症状としては、骨病変として脊椎骨が圧迫骨折をお越しますとそこで脊髄が圧迫されて様々な症状が出てきます。 頻度としては少ないかも知れませんが、免疫グロブリンの濃度が非常に高くなると、過粘稠度症候群と言いまして、血液の流れが非常に悪くなって、目が見えにくくなるとか、ひどい時には意識消失発作が起ったりすることもあります。


次に、どのように診断するかという事ですが、診断の為には今お話した様な症状が何によるかと言うことで検査をする必要があります。すなわち、末梢血、赤血球やヘモグロビン、白血球数、血小板数、これら全て必要です。重要なことは、骨髄腫細胞は骨髄の中で増殖するわけですから骨髄を調べないといけません。特に診断の為に必要なパーセンテージと言うのがありまして、骨髄の中には色んな細胞があるわけですが、その細胞の中の特に10%を超えるほど形質細胞、骨髄腫細胞があるということが重要であります。
それから、骨髄腫細胞からはM蛋白が分泌されますので、このM蛋白を血清中、あるいは尿中にあるかどうかと言うことを電気泳動で調べることが必要です。最初にお話したようにスパイクが出てきたら、「この免疫グロブリンはIgGなのかAなのかDなのか」と言うことを調べる、いわゆるクラスを調べるということと、κあるいはλの2つのタイプがあるわけですが、そのどちらのタイプかということを免疫電気泳動で調べるということも必要です。 その他、血液生化学ではアルブミンとかクレアチニン、これは腎機能障害を調べるものです。それからカルシウムの濃度、β2ミクログロブリン、LDH、CRPも重要です。こういうものが最近特に注目されているのは、骨髄腫の患者さんの予後をある程度推定する為の材料として使われておりますので、これらは必ずやらなければならない検査であります。


それから、もちろん骨が侵されるわけですから、骨の検査を行います。単純全身骨X線、あるいは脊椎骨の病変をもう少し細かく見ると言う事で、最近はCTとかMRIを使って検査されます。
その他、鑑別の為に免疫表現型を調べるとか、最初の頃にお話しした染色体や遺伝子の検査は予後との関わりにおいて非常に重要であります。

診断によく使われている1つは、アメリカのSWOG(Southwest Oncology Group)の提唱した、これはかなり以前に提唱された診断基準ですが、SWOGの診断基準が日本でもよく使われておりますし、欧米でも非常によく使われております。これはどういう人に当てはめるかと言いますと、「症状があり、病気が進行する患者において次の基準を満たすと骨髄腫と診断できますよ」という基準であります。大基準と小基準と2つに分かれておりまして、大基準のどれか1つと小基準のどれか1つの組み合わせ、あるいは小基準の3つの組み合わせによってそれが満足されれば、骨髄腫と診断されます。


一方、今年のBritish Journal of Haematologyという血液専門誌で、アメリカのMayoクリニックのKyle先生が提唱された新しい骨髄腫の診断基準、あるいは病型分類を紹介しますと、いわゆるMGUSは、「M蛋白はあるが骨髄の中の腫瘍細胞の比率は少なく、臓器障害が無い」、くすぶり型の骨髄腫は、「M蛋白がMGUSより少し多くなるし形質細胞の比率も多くなるが、やはり臓器障害が無い」、この2つの疾患はとにかく治療しないということで骨髄腫と鑑別する必要があるとなっています。
それに対していわゆる症状のある骨髄腫、治療を必要とする様な骨髄腫は、特にM蛋白の濃度など規定しておりませんし、骨髄の腫瘍細胞におけるパーセンテージも特に規定していませんが、臓器障害が非常に重要であると言うわけです。骨髄腫の中で非常に珍しいのがありまして、M蛋白を分泌しないタイプがあります。しかし、それは骨髄腫であることには変わりはありませんので臓器障害はあります。その他、たった1箇所の骨だけ侵される、骨の孤立性形質細胞腫というのがありまして、この場合臓器障害はありません。それから、骨髄腫が外へ出てくる、例えば気道や消化管の所にボコッと腫瘍の格好で出てきまして、まるでリンパ腫の様になるものがあります。それが髄外形質細胞腫というのですが、これも局所だけの病変ですので臓器障害はありません。
臓器障害とはどういうものかと言うと、アメリカの方では覚え易い様にということで高カルシウム血症はC、腎機能障害は腎臓renalのR、それから貧血anemiaのAと骨boneが侵されますから骨のB。あわせて「CRAB」、カニと言いますかがんにかけてCRABと覚えておけば、臓器障害も覚えやすいと言われています。その他に過粘稠症候群とかアミロイドーシスとかあるいは、年2回以上の細菌感染があるというようなことも臓器障害に含まれています。


この様にして骨髄腫と診断されますと、次に病期診断、ステージを確認しなければなりません。病期分類で有名なのは、1975年にCancerで発表された「Durie&Salmonの分類」です。これはステージT〜Vまで分かれております。ステージTは貧血が無い、カルシウム値が正常、骨は殆ど異常が無い、M蛋白の濃度も大して多くない、これら全て満足するとステージTになります。ステージVは、今述べたどれか1つでも該当すればステージVになります。貧血がある、高カルシウム血症がある、それから骨が沢山壊れている、M蛋白濃度が多いなど、これらのうちどれか1つでもあれば、ステージVになるということです。ステージUは、TでもないしVでもないという一種のゴミ箱みたいな場所になります。
他に亜分類がありまして、AとBに分かれ、Aは腎機能が正常、Bは腎機能が血清のクレアチニン値が2.0以上の場合です。
この方法で分類しますと、非常に腫瘍量が少ない場合にはステージTのAとなりますし、たくさん腫瘍がある時にはステージVのBとなります。
このようなステージで分けて患者さんの生存曲線を描いてみますと、T、U、Vと悪くなっていきます。ステージTですと中間生存期間が4.5年、Uは4.1年、Vですと非常に悪くなって2.9年です。


Durie&Salmonの病期分類に対して、この度、国際骨髄腫作業グループ(International Myeloma Working Group, IMWG) がInternational Staging System(ISS)という新しい病期分類を提唱しました。Durie&Salmonは非常に覚えにくい分類になっていますが、新しい病期分類は医師の使いやすい様に、分かりやすい分類になっております。Criteria(判定基準) は、β2ミクログロブリンとアルブミンの2つだけです。数字も覚え易いように「3.5」で分けておりまして、ステージTはβ2ミクログロブリンが3.5未満および、血清アルブミンが3.5以上、要するに、栄養状態も非常に良いと言う場合です。ステージVは、β2ミクログロブリンが5.5を超える場合、ステージUはその間です。


Durie&Salmonで、かねてからいくつか問題となっていましたのは、ステージTとステージUがかなりの所で重なり、分離がよくないこと、ステージVの予後が比較的良いこと、ステージVの中間生存期間が39ヶ月という風になるのですが、そういうような問題がありました。新しいInternational Staging System(ISS)で患者さんを分けてみますと、T、U、Vの分離が非常に良好であるということ、ステージVの予後がもう少し悪くなること、要するに39ヶ月であったのが29ヶ月であるということ、Durie&SalmonのステージVと言われていた患者さんの2,299例がISSのステージT、あるいはUに分類されたということで、ステージVがもう少し厳密になり、分類が上手くいくようになったことが特徴であるとうたっております。


次に治療についてお話しします。
骨髄腫の治療では、化学療法、造血幹細胞移植を伴う大量療法、放射線治療、維持療法、補助療法と皆さんよくご存知の新しい治療法というオプションがあります。先ほどお話しました1、383例の日本骨髄腫研究会で集めた患者さんに、初期治療、診断されて最初の治療にどの様な治療法が選択されたかを調べますと、84.4%の患者さんに化学療法が選択されておりました。中身を調べてみますと、化学療法は大きく3つ分かれるのですが、1つはメルファランとプレドニンのMP療法、このいわゆる標準療法と称するものが34%の患者に選択されていました。また、アルキル化剤を中心とする多剤併用療法、VMCPやROAD-INなどが57%の患者さんに選択されていました。一方、腎臓が悪い時によく使われるVAD療法、これが9%に選択されていました。
どういう患者さんにこれらの治療が選択されていたかと言いますと、年齢の分布ですが、MP療法は明らかに年齢のいった患者さんに選択されております。ステージから言いますと、ステージの若い、余り進行病期でないような人に選択されております。すなわち、MP療法は優しい治療だという認識の下でどうも選択されていたようであります。それに対して、VAD療法はステージVの人が他の2群に比べると圧倒的に多いです。年齢的にはMP療法より若い年齢の患者さんに選択されたという点で多剤併用療法とよく似ていますが、VAD療法はかなり進行病期の患者さんに選択されてきたようです。


この様な化学療法を行った時に治療効果判定をする必要があります。治療が効いているか、効いていないかを確認するわけです。判定する基準として古くからChronic Leukemia-Myeloma Task Force (MTF) で決めていた、M蛋白が50%以上減少すれば有効であるというかなり曖昧と言いますか、大雑把な定義だったのですが、この基準で化学療法の効果の比較がされておりました。また、日本では日本骨髄腫研究会の創立者であります今村先生がComplete Remission(CR)著効、Partial Remission(PR)有効、Minor Response(MR) やや有効、No Change (NC) 不変、Progressive Disease(PD) 進行、といった基準を作っておられております。


このほど、EBMT(European Group for Blood and Marrow Transplantation)と呼ばれるヨーロッパの末梢血骨髄移植グループが新基準を提案しています。最近、造血幹細胞移植によってCR、完全寛解の比率が非常に増えてきたものですからCRの定義をもっと厳しくしようということで免疫固定法、日本では未だ余り一般的ではありませんが、この検査法を取り入れたCRというのを作りました。これは、電気泳動ではなくて、免疫固定法でM蛋白が全く無くなったことを確認するということで、その状態をCRと定義しています。あとは今村先生の分類とよく似ていて、PR、MR、NC、PDとなります。
これが移植の患者さんばかりでなく、化学療法の効果判定、あるいは新しいお薬の効果判定にもこれから使われていく傾向にあるだろうと思われます。スペインのサラマンカのJoan Blade先生が指導して作ったものなので、通称「Blade のCriteria」ブラデーの判定基準と呼ばれています。


今村先生の判定基準を使った報告ですが、MP、多剤併用療法、VADの治療法によってどのような奏効率があったかと言いますと、最も反応が良いのが多剤併用療法です。次に良いのがVADです。MPはこれでみると余り奏効率はよろしくないのです。ところが、生存曲線を描いてみますとMP療法と多剤併用療法は殆ど重なります。これは世界でも随分以前から言われておるのですが、様々な治療法で色んな奏効率をうたっても、結果的に生存曲線を描いてみると、生存率には全然インパクトが無い、影響しないという結果がでます。奏効率がいくら良くなっても生存曲線は全然改善しないというのが学会で一致した認識であります。 また、何故かわかりませんが、今回の検討ではVADが非常に悪いです。これはステージVの患者さんが多い、腎不全の患者さんに行っているなど、厳しい状況があったからではないかと思われるのですが、VADだけはちょっと悪かったという結果になっています。


化学療法だけで治療された患者さんの生存曲線はこういう風で、中間生存期間はだいたい3.1年です。このデータをアメリカでも見せたのですが、アメリカだと4.4年というデータになっていて「どうして日本はこんなに悪いのだ」とよく言われています。
その理由を、日本の患者さんの年齢中央値が66歳であるということ、欧米では61歳と若いのですが、日本は少し高い。年齢的に若いということは予後がよいというようになっていますので、「日本は、比較的年齢がいっている患者さんが多いせいではないか」とか、圧倒的にステージVの患者さんが多かったものですから、「ステージVが多いことが要因として考えられる」、このような説明をしてきたのですが、欧米と比べると少し悪いデータになっております。
初期治療としての化学療法は先程申し上げたように標準療法とアルキル化剤を中心とする多剤併用療法、VAD及び関連レジメンの3つに大別されます。その中で標準療法であるMPか多剤併用療法のどちらを選ぼうかという時には、多剤併用療法は奏効率に優れるけれども、生存期間延長効果は無いというのは先ほど示した通りであります。
しかし、年齢の高い患者さんあるいはステージT、Uのいわゆる非進行病期の患者さんには、この標準療法が選ばれる傾向にあります。逆に、非常に病気が進んでいて過粘稠度症候群や腎機能がドンドン悪くなるなど、急速にM蛋白、悪い蛋白を下げる必要のある患者さんやその他のpoor-risk、悪い予後因子があるような患者さんには、多剤併用療法が選択される傾向にあります。また、腎不全とか、急速にM蛋白を下げる必要のある患者さん、やはり同じようにM蛋白がドッと下がれば腎臓がそれ以上悪くなるのを防げられるわけですから、そういう方にはVADが選択されるということです。


化学療法では奏効率が大体50%、PR(有効)以上が50%〜60%位です。しかし、M蛋白が消えてしまうようなCR(著効)はきわめて稀であります。もし、ここの段階で免疫固定法によって調べてみると、M蛋白が0になってしまうという状態は稀だということです。 そして、一旦化学療法によって軽快しても必ず再発するということです。そうすると、完全寛解を目指す白血病のような治療とは違うわけですから、何を最終目標にするかというと、「プラトーに到達すること」ということになります。プラトーに到達後は治療継続の意味が無いということで一応、治療を中止するというのがコンセンサス、大勢になっております。 では、プラトーとは何かと言いますと、治療によってM蛋白が減り止まり、状態が安定し、貧血や骨病変等の臓器障害の進行を認めない状態が3ヶ月以上持続すると言うのをプラトーフェーズと言い、「プラトー」と呼んでいます。プラトーというのは治療に対して抵抗性となったのではありません。もし、抵抗性になったのなら、M蛋白は再び上がるわけですので、抵抗になったのではなくて骨髄腫が沈静化した状態と考えられ、いわゆる治療前のMGUSだとか、くすぶり型の骨髄腫の状態と同じと考えられております。


次に造血幹細胞移植をともなう大量療法についてお話しします。
初期治療として8.2%の患者さんに造血幹細胞移植を伴う大量療法が選択されました。中身は圧倒的に自家の末梢血造血幹細胞移植が選ばれております。造血幹細胞移植に関しては一応、一番よく使われている自家の移植、autoといいますが、それの良い点というのは65歳くらいまでの患者さん、あるいは場合によっては、70歳くらいまでの患者さんに実施できますので、非常に応用範囲、適用範囲が広いということです。また、同種、他人から造血幹細胞をもらう移植と違い、移植が原因で亡くなってしまう率が非常に少ない、5%以下といわれております。ただ自家移植の悪いのは、自分の細胞を使うものですから、その中には腫瘍細胞、あるいは腫瘍細胞の前駆細胞が混じっているわけです。その為に再発が避けられないというのが悪い点であります。選択肢としましては、autoのBMT 自家骨髄移植、autoのPBSCT 自家末梢血幹細胞移植、それからCD-34陽性細胞移植、これは要するに自己の造血幹細胞を純化する、腫瘍細胞を除去することを目的に純化する方法ですが、様々な研究で、結果的に感染症の頻度が高いということが分かりましたので余り行われませんが、このような3つのオプションがあります。


造血幹細胞移植を伴う大量療法がどういうふうになってきているかと言いますと、近年、増加傾向にあります。施行時の患者さんの年齢は、自家ですと65歳までということですが、70歳までの人が非常に多いです。ただ、非常にお元気な患者さんであれば70歳を超えても出来ることはあります。施行時の病期は、圧倒的にステージVという進行病期の方です。そのような傾向で、初期治療として選択される化学療法が少しずつ減ってきまして、造血幹細胞移植が増えてきているわけです。
奏効率は、非常に刮目すべきことでありまして、これは化学療法の成績ですがCRが、せいぜい8%です。ところが、造血幹細胞移植を伴う大量療法をやりますと、CRが41%になるというわけです。連続、あるいは再発してからもう一度、要するに2度目の移植がこの患者さん達に行われますと、更にCRが56%にまで増加するというわけです。そこで現在、autoのPBSCTを1回やるのか2回やるのかということを議論されておるわけです。
その結果、造血幹細胞移植を伴う大量化学療法をしますと、中間生存期間が4.4年で、明らかに化学療法よりはよろしいという結果がでています。ただこれは、無作為比較試験の結果ではなく、振り返ってみた試験ですので、学術的にどれだけ意味があるかどうかというのは別にしまして、単純には一応中間生存期間は4.4年でありました。


このように大量療法、造血幹細胞移植を伴う大量療法と通常の化学療法の比較というのが世界レベル、日本では未だ余り行われていませんけども世界では行われておりまして、フランスのHarousseauやAttalたちのグループであるIFM (Inter Groupe Francais du Myelome) 90の比較が有名です。この度、英国のMRC ( Medical Research Counsil )でメタアナリスという複雑な統計処理をしまして、どちらの治療法が優れているかというのを調べました。IFM90とイギリスのMRC7というのとスペインのPETHEMAというグループのスタディで明らかに大量療法の方がよろしいという事が判り、骨髄腫の専門家の間では、大量療法が通常の化学療法より優れているということがコンセンサスとなっております。


大量療法を1度か、2度かということに関する研究も最近ドンドン進んできまして、観察期間が延びればもっとよい結果が出るだろうと言われています。フランスのIFM94、先ほどのは90で、その後別のトライアルを組みました。それによると、再発が無くて長生きする(progression-free survival) 人、あるいは全体の生存期間(overall survival) がダブル、2度やった方がよろしいとの結果をだしています。オランダのグループも似たような結果で、イタリアのBolognaグループも大体似たような結果であります。ただ、フランスのMAG(French Myelome Auto Grafte)95のスタディでは、どうも「それは効果が無い」と言っているのですが、大勢としましては、自家造血幹細胞移植は1回よりも2回やった方が良い結果に繋がるのではないかという印象であります。


自家造血幹細胞移植は、65歳未満で重篤な合併症が無い全ての患者さんに初期治療とすべきかどうかというのが現在の検討課題であります。それよりも、予後因子に基づいて、非常に悪い予後因子を持っている患者さんだけにはやった方が良いのではないかなど、そういうような検討が今後されていくだろうと思います。 1回やるのか2回やるのかということに関しては、1回やりますと1回やった後の結果、奏効率がもう1度やることによって更に良くなるということ。それから、1回後の反応がCR、very-good PRに到達するということが良い結果につながることが判っています。 しかし、1回目の移植によってCR、或いはvery-good PRになった患者には本当にもう1度やらなきゃならないのかということが問題としてはあります。これは、ロンドンのRoyal Marsden 病院のBhawna Sirohiという先生が言っている事です。
それから、1回目にやった時の成績の悪い患者にダブルを行えばいいのではないかということ、あるいはシングル後に例えば6ヵ月後に次の2回目をやるのか、あるいはシングルをやって、再発をしてからやった方が良いのではないかなどという点が今後検討されていくことになります。ただ、Little RockのBarlogieは「3回やれ」と言っています。2回ではなく3回やった方が良いのだ、というふうなことを言っております。
これらは今後検討されていくことになります。


次に、他人から造血幹細胞をもらう同種移植についてお話しします。同種造血幹細胞移植の良い点は、他人から細胞の供給を受けるわけですから、もらった細胞には腫瘍細胞、及びその前駆細胞の混入がありません。それから、移植片対骨髄腫細胞 Graft versus Myeloma, GvM 反応によって残存している腫瘍細胞を、免疫反応によってやっつけてくれる可能性があるものですから、現時点では同種移植が唯一、治癒の期待できる手段であります。 ただし、同種移植は患者さんの年齢が50才未満という条件になっておりますので、適応となる患者さんの頻度はきわめて低いです。日本の骨髄腫患者さんの発症年齢の中央値は66歳ですから、同種移植が出来るような患者さんの数は非常に少ないということです。 また、他人のリンパ球を含む造血組織を入れてくるものですから、免疫反応に伴う移植関連死が非常に高くなります。早期死亡、それから慢性の移植片対宿主GvH( Graft versus Host ) 反応というのが非常に厄介な問題としてあります。少し前までは、移植関連死が40%と非常に高く、10人のうち4人が移植をしたことによって亡くなってしまうというようなことがありました。


内容としては、alloのBMT 同種骨髄移植とalloのPBSCT 同種末梢血幹細胞移植、それから最近、非常に注目されているミニallo、骨髄非破壊的同種移植、この3つのオプションがあります。ところが、スウェーデンのGahrton先生から頂いたものを少し手直ししたEBMT(ヨーロッパ末梢血骨髄移植)のグループのデータですけども、1994年を境界としまして、それ以前とそれ以降では明らかに移植関連死(transplant-related mortality, TRM)の減少が実現し、しかも生存期間(overall survival, OS) が延長しているという結果が出ております。自家の移植に比べると、同種の場合は再発率が低く、自家の移植に比べて分子的寛解( molecular remission )、分子的に調べてみても骨髄腫細胞が証明出来ないような分子寛解のような頻度が非常に高いという良い点があります。要するに、治癒の可能性があるという訳です。


ヨーロッパのデータでは、ドナーとレシピエント両方共女性である組み合わせ、これは姉妹のデータだったのですが、ドナーもレシピエントも女性の組み合わせの場合が最も良い結果に繋がったとなっています。由来については、末梢血幹細胞、あるいは骨髄の造血細胞のどちらが良いかというと、骨髄由来、骨髄移植の成績が良い傾向にあったようです。


次に最近流行のミニ同種移植、骨髄非破壊的同種移植(Nom-myeloablative allo-SCT, Mini-allo) についてお話しします。
このMini-alloというのは、非常に問題点がありまして、施行時に患者さんに沢山の腫瘍が残っている時には全然効かない場合が多いということが言われています。それから、同種にどうしても起こってくるGvHがしばしば非常に重篤であって、その為に亡くなってしまうことがあり、これが大きな問題点であります。 Mini-alloは一般的な同種骨髄移植よりも優れているかというのも問題でありますし、ドナーリンパ球を輸注するDLIで、これは免疫反応を誘導する訳ですが、これを一体いつやったら良いのかということもあります。
方針としては、ドナーがいない場合は自家移植を2回やる、ドナーがいる場合は最初、自家移植をやって腫瘍量を減らしておいてからMini-alloをやる「tandem auto/ mini-allo」という組み合わせでどうだろうかなど、検討されています。もしくは、13番遺伝子の染色体が欠損しているような予後因子の悪い患者さんには、こういう強力な治療tandem auto/ mini-alloをやったらどうか、あるいはもっと腫瘍量の多い患者、あるいは染色体異常を有するようなpoorリスクの患者にはMini-alloの強度がちょっと弱い訳なんですけれども、もっと強めた治療をやったらどうか。ただ、TBI、放射線の全身照射はせずに、腫瘍を減らすための努力を続けるべきであるというようなことが検討されています。


その他GvHとGvM、これは同じ事なんですが、GvHは要するに普通のレシピエントの色んな組織をやっつける方ですし、GvMはレシピエントの中にある様な腫瘍細胞をやっつける事で、これは殆ど同じメカニズムで起こっている訳ですが、これを何とか分離できないかというような事も考えられております。

その他の治療方法としては、放射線治療があります。放射線治療は、治癒に結びつく治療で はなくて、痛みをとるためということで、対症療法で使われることが多いです。ただ、病型のところでお話ししました「骨の孤立性形質細胞腫」だとか、「髄外形質細胞腫」のような病型に対しては、治癒を目的として使われる場合があります。
それから、維持療法としてのインターフェロンですが、今のところ認められているのは化学療法後あるいは移植療法後の寛解時、調子のよい時期にその期間を延ばそうという目的で使われることが多いのですが、しばしば重篤な副作用があり、それによって患者さんのQOLが悪くなります。医療費の問題もあります。このような様々な点から、必ずしも推奨できる治療法ではないというところです。


補助療法として、ビスフォスフォネート、高カルシウム血症治療薬ですが、これは未だ骨髄腫では保険適用になっていないのですが、ビスフォスフォネートには痛みを軽くすること、あるいは骨折など骨関連事象を減らす効果が一応認められています。
ビスフォスフォネートの抗腫瘍効果については、昨年のオックスフォードで行われたメタアナリスでは、生存期間延長効果は認められてないという事が分かっております。

次に新しい治療法です。
サリドマイド療法ですが、これはこの間上甲さんにいただいたデータで、2002年、去年1年間で骨髄腫患者の会が手配して輸入されたサリドマイドは9万錠、それから「レメディ アンド ヘルスコーポレーション」という会社を通じて輸入された数が20万錠。去年1年間でおよそ30万錠近いサリドマイドが日本で供給されておりました。


慶應大学のデータによりますと、この中には以前に大量療法とか、同種骨髄移植を既に受けている方11例を含む、全24例のステージVの患者さん、要するに治療抵抗性になってしまった患者さんにサリドマイドを100mgから400mg投与したところどういう結果であったかといいますと、これはブラデーの判定基準で言いますと、M蛋白が50%以上減少したPRが33%、MRはM蛋白が25%〜49%減少した場合を指しますが、そのMRが8%ということでPR、MRあわせて4割近い結果になっています。欧米でも同じようなデータで、治療抵抗性でも4割近い患者さんに、それなりの反応が得られるという事であります。

現在、特にアメリカでセルジーン社というサリドマイドを作っている会社が、サリドマイドのアナログ「Revimid」を作りました。少し前まではCC-5013とかIMiD3という名前で呼ばれていたものです。Revimidはサリドマイドと同じ様に経口のお薬です。Revimidの非常に良い点は、30mg投与しますと先ほど出てきました、新しい治療効果判定基準 ブラデーのクライテリアでCRが9%もあり、15mgのグループと30mgのグループで平均しますと、しかもこれはみんな治療抵抗性の患者さん、治療法がもう無くなった患者さんに投与しているわけですが、奏功率が54%です。ただ、RevimidはまだアメリカのFDAの認可も受けていませんし、日本での治験の実施などは少し先の話だと思います。


次にPS-341と呼ばれていたVelcadeについてですが、これは今年FDAから認可されて「ジョンソン&ジョンソン」という会社がミレニアム社から特許を買いまして、日本では「ヤンセンファーマー」という会社がこれから治験をして販売をするのですが、この程フェーズTトライアル、いわゆる毒性試験などが始まることになっています。このお薬は点滴です。Velcadeは、ブラデーのクライテリアでCRが4%ということで、免疫電気泳動でM蛋白が消えたという風な結果になったものが4%ということです。奏功率はRevimidより少々悪くて35%ということです。

次に治療選択のポイントとしまして考慮すべき要素は、いつから治療を開始すべきかという点です。病型及び病期が非常に重要なポイントとなります。最初の頃にお話しましたようにMGUSやくすぶり型の骨髄腫は治療せずに経過観察をするというのが正しい態度だと考えられております。それから、症状のある骨髄腫でも、ステージTの患者さんに関しては進行しないで長い間生きていくことの出来る患者さんと、ドンドン、ドンドン悪くなってしまう患者さんがどうも混じり合っているようなデータですので、現時点では直ちに治療開始する必要性は無いと考えられております。進行を認めてから治療を開始し、進行するまでは3ヶ月毎の経過観察にするべきであるというふうに考えられております。
ステージU、Vはもちろん治療対象になります。


化学療法を選ぶのか、あるいは造血幹細胞移植を選ぶのかということに関しては、1つは年齢です。現時点では一応、造血幹細胞移植は65歳以下の人にやろうというふうなコンセンサスですので、まず年齢が重要です。それから、寝たきりや非常に状態の悪い方にはやらないような傾向にあります。それから、非常に重篤な合併症がある場合、腎不全があったり、感染症があったりすれば大量療法は出来ませんので、合併症があるということも大量療法を否定することになってしまいます。
逆に悪い予後因子がある場合、13番の染色体の欠損だとか、β2ミクログロブリンが高いというような悪い予後因子を持っていらっしゃる患者さんには、造血幹細胞移植で積極的に治療しようと考えます。しかし、もちろん患者さんとその家族の意向というのも非常に重要であります。


初期治療としては化学療法や造血幹細胞移植がそれぞれの比率で選ばれたのですが、7.4%に治療をせずに、経過観察だけの患者さんがあります。その中身を見てみますと、先ほどから言っているMGUSの方が35例ありました。それからステージTの方が19例であります。また、ステージU以上でも病勢の進行が無い患者さんが9例あり、その他に治療して欲しくないという患者さんももちろんいらっしゃいますし、重篤な合併症で治療が出来なかったという例もあります。それでみてみますと、治療しなかった方たち、MGUSとかステージTとか、それから進行が無いという患者さんに関しては、11年の生存率が80%です。ところが治療を望まなかったという方はこういうふうですし、合併症のため治療ができなかった方は、非常に悪いという事であります。


このアルゴリズムは、骨髄腫研究会が作ったガイドラインから紹介するものですが、どのようなのかと言いますと、1つは先程から申し上げているように、治療対象となるのはステージU、Vの患者さんで、年齢が重要でありますから65歳以下の方には積極的に大量療法の方にいこうと。しかし、移植条件を満たさない、例えばPS(Performance Status) 全身状態が悪い、重篤な合併症がある、あるいは希望されないという方にはMP又は多剤併用療法を行い、化学療法の方はプラトーに入ったら休薬あるいは維持療法を行うということです。維持療法にはインターフェロンを使っても良いのかも知れません。再発したら最終的にはサルベージ治療しかないという事になります。ここら辺ちょっとまだ考える必要があるかも知れません。移植療法の方は有効であれば維持療法をするとか経過観察をして再発・進行したら考える。こういうアルゴリズムをこのたび骨髄腫研究会で作りまして多発性骨髄腫の診療指針の中に出ております。この診療指針は今後更に検討して、より完成したものにするつもりです。

以上であります。どうも御静聴ありがとうございました。