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【社説】

米共和党大会 奇策か歴史的決断か

2008年9月6日

 米共和党大会がマケイン氏を大統領候補に指名し閉幕した。最大のサプライズは副大統領候補に無名の女性知事ペイリン氏を起用したことだ。奇策か、歴史的決断か。本選を左右する判断となろう。

 サラ・ペイリン・アラスカ州知事(44)の副大統領候補指名は全米を驚かせた。「オバマ、フー?(オバマって誰?)」の上を行く「ペイリン、フー?」。党の大物候補名を予測していた米国メディアも完全に意表を突かれた選択だった。

 狙いは幾つもあろう。反中絶、反銃規制、そして宗教右派に属する保守色の強いペイリン氏を選ぶことで保守派の支持につなげる。同時に「初の女性副大統領」への重責を託すことで、「変革」のイメージを発信できる。女性候補を立てることで民主党を揺さぶり、クリントン氏に投じられた女性票の取り込みが見込めることも大きい。

 大会三日目に行われたペイリン演説が、保守色濃厚で民主党オバマ候補への攻撃性が強かったのに比べ、最終日のマケイン演説はむしろ「一匹狼(おおかみ)」を強調し、党派を超えた幅広い層への呼び掛けを意識した内容だった。保守派をつなぎ留めつつ、無党派層に支持を広げる戦術が見て取れる。ブッシュ大統領への直接の言及は一度もなかった。

 「私は捕虜になって国と恋に落ちた」「国が私を救った。生涯国のために闘う」。マケイン氏はベトナム戦争従軍時の捕虜時代の体験談をあらためて振り返り、本来の国家威信回復のために「ともに闘おう」と繰り返し訴えた。

 副大統領の人選はケネディ後のジョンソン、ニクソン後のフォードという過去の大統領を想起するだけでも選択の重みが測れる。マケイン候補は、最も重視する最高司令官の継承順位一位の職に国政手腕が未知数の「一主婦」(ペイリン氏)を置く判断を下した。

 マケイン候補の著書に、歴史上の人物が直面した困難な決断をテーマにした「ハード・コール」がある。リンカーンが奴隷解放で、チャーチルが英海軍戦略で発揮した指導力などを例に、指導者の資質として「注意力」「先見性」「タイミング」「自信」「謙遜(けんそん)」そして「インスピレーション」の六つをあげている。

 マケイン候補の判断が戦術上の「奇策」ではなく自著に言う歴史的判断に匹敵するものか否か。

 今後のハイライトとなる大統領候補、副大統領候補のディベートでも問われることになる。

 

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