福田康夫首相の後継を選ぶ自民党総裁選(10日告示、22日投開票)の顔ぶれがそろいつつある。麻生太郎、与謝野馨、小池百合子、石原伸晃各氏に加え、石破茂氏らも名乗りをあげるなど、当初の予想から一転して、乱立気味の様相だ。
ここまでは、この時期に退陣表明した福田首相の狙い通りなのかもしれない。
自らが衆院を解散し、総選挙をしても自民党は勝てそうもない。そこで党総裁選をにぎやかに行い、国民の関心を自民党に引きつけて総選挙につなげる--。そんなシナリオだ。実際、民主党内には自民党総裁選だけが注目され、埋没するとの焦りがあるという。
しかし、既に指摘しているように、「戦いの演出」だけで福田首相が言うような「わくわくする総裁選」になると考えるのは早計だ。やはり、国民が期待しているのは、まじめに政策を論じることだ。
その点、麻生氏に加え、与謝野氏らが出馬することで、特に経済政策は争点が鮮明にはなってきている。
麻生氏は当面の景気対策を重視。与謝野氏は財政再建優先で消費税率引き上げの必要性を主張してきた。小池、石原両氏は小泉改革の継承・推進を強調。高い経済成長率を維持して増税を抑える「上げ潮」派だ。
これまで自民党にはこれらのさまざまな考え方が混在してきたが、安倍、福田両内閣では決着を先送りしてきた。それが「どんな国を目指すのか分からない」と批判される一因ともなってきたのだ。総裁選はそれを整理し、党の考えをまとめる、いい機会だ。
気になる動きがある。例えば麻生氏は年金改革について、基礎年金を全額税方式とし、消費税率を10%に引き上げるというのが持論だ。だが、周辺によると「党内で同意されない政策は意味がない」と政権構想には具体的には盛り込まない可能性があるという。
これでは論戦にならない。今回はだれが総裁になり、首相に就任しようと早急に衆院解散・総選挙に臨むことになる。消費税をどうするかなど総裁選での論争結果を、衆院選での自民党マニフェストに反映させ、きちんと有権者に提示することが、政権党としての最低限の責務だ。
それを再びあいまいにして「だれが国民に人気があるか」といった観点のみで総裁選が進むとすれば、かえって有権者の信用を失うだろう。
視線が内向きになっているのも気がかりだ。「新冷戦」とも言われる米露対立の中で、日米関係は必ずしも良好ではなく、北朝鮮の拉致問題や核問題の行方も不透明だ。日中、日韓関係や、アフガニスタンやイラク情勢への取り組みも大きな課題であり、いずれ衆院選でもテーマとなる。これらについても候補者は具体的に言及する必要がある。
毎日新聞 2008年9月6日 東京朝刊