御厨貴・東大教授にお願いし、「権力の館を歩く」というシリーズを始めて約1年半になる(東京本社版。「毎日jp」掲載)。政治ドラマの舞台になった歴代首相の私邸などを教授と訪ね、建築物を通して日本政治をとらえ直すという月1回の文化面の寄稿で、知られざる政治家の内面や原点がうかがえ興味深い。
自宅と並び面白いのは生地や選挙区とのかかわりだ。
例えば、この夏訪ねた竹下登元首相の郷里・島根県の掛合(かけや)町。生家裏の丘にある元首相の墓所に立ち目の前に広がる緑の山野をながめると、竹下政治とは消費税でも平成改元でもなく、「ふるさと創生」に集約されると実感する。
日の出山荘の取材で中曽根康弘元首相から話を聞いた時には、奥多摩の野中の一軒家と幼少期に見た「浅間山の肩に夕日が落ちてゆく数刻」がつながることが見て取れた。そこには、現代人が失いつつある土のにおいや人としての根っこが確かにあると思う。
それでは福田康夫首相の父赳夫元首相はどうか。かつて東京都世田谷区野沢にあった私邸は政治家の家とは思えぬ木造2階建ての安普請だったと教授は書いている。だが、その質実さは高度成長や列島改造に浮かれる社会を「昭和元禄」と批判した赳夫元首相の反時代性に見事に重なる。
邸宅はその後マンションに建て替わり、公邸に引っ越す前には康夫首相が入居していた。アジア外交や低支持率などに父子の共通点を感じないわけではない。しかし無機質な建物へと変わった今どきの権力の館では、人間の輪郭がぼんやりして政治家のすごみも業も伝わってこない。
毎日新聞 2008年9月6日 0時06分
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