【北京・堤浩一郎】北京五輪選手村のオープンが27日に迫り、選手村で提供するための食材出荷が本格化している。「食の安全性」に対する不安が消し去れぬなか、中国当局は電子タグなどによる食品の管理システム導入をアピールする。北京五輪組織委員会と契約し、有機栽培の野菜を選手村、競技会場などに出荷する農場経営会社を訪れた。
北京市北部の昌平区にある「北京天安農業」は、いわゆる「五輪専用農場」の一つ。キュウリ、大根、トマト、トウガラシ、マッシュルーム、香菜、ゴマ菜と、7種類の野菜を「五輪用野菜」として出荷する。香菜やゴマ菜は洋食用の添え物として、組織委から特別に増産を要望された。五輪期間中には計約65トンを搬出する予定で、尤麗娟・経理(支配人)は「五輪用野菜の約10分の1をまかなう」と話す。
生産の大半は、さらに北部の延慶県にある農場が中心。安全性確保のため、この農場の所在地は明らかにされていない。84年から有機栽培を始めた同社では、これまでホテルなどに納める高級野菜を取り扱ってきた。このため、尤経理は「五輪用といって、特に検査項目が増えたわけではない。これまでと同じ栽培法の野菜を出荷している」と説明する。
ただ、「抜き打ちでの検査があり、チェックの厳しさは増している」と苦笑する。五輪用食材に関しては、国の威信を懸けた当局の緊張感が伝わってくる。出荷時に張られる電子タグなどによって生産地、生産方法、加工地、搬送ルートなどが追跡できるシステムになっているという。
一方で一般市場に出回る野菜は、なお残留農薬の問題が指摘される。国内向け食品の安全性強化も打ち出した中国。五輪開催を機に、一般市民も「安全な食品」を享受できるかが、今後の課題となる。
毎日新聞 2008年7月25日 13時41分(最終更新 7月25日 14時14分)